「『ミス・サイゴン』を守り続ける」...エンジニア役・駒田一インタビュー

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現在、東京・帝国劇場で上演中のミュージカル『ミス・サイゴン』
1992年に日本初演、2012年には新演出版として全国各地で好評を得た舞台が、今年5月に開幕した本場・ロンドン公演を経てさらにブラッシュアップ。
"最新"演出版として、聖地・帝国劇場で上演されています。

今回は、日本初演からエンジニア役として出演している市村正親さんの休演という残念なニュースがありました。
その市村さんに「頼むね」と託され、「いい芝居をして、『サイゴン』の評判を良くしていくことが市村さんの特効薬になる」という気持ちで日々舞台に立っているのが、もうひとりのエンジニア、駒田一さん
(現在は、さらに筧利夫さんがエンジニア役に加わっています)


駒田さんに現在の心境や、『ミス・サイゴン』への思いを伺ってきました。


● 駒田一 INTERVIEW ●


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――駒田さんは今回『ミス・サイゴン』初参加ですが、オーディションへは3回目の挑戦だったそうですね。それだけこの作品に惹かれてたということだと思うのですが、どこにその魅力を感じていたんでしょう。

「正直、『ミス・サイゴン』という作品に...というより、"エンジニア"に惹かれていました。彼は非常に嘘つきで、生き延びるためには悪いこともでもなんでもやる。人を傷つけても、嘘をついてでも生き延びたいという欲望に対して、正直。"THE・人間"です。たまらなくそこが魅力でした。実は『レ・ミゼラブル』のテナルディエにも同じようなことを感じたのですが、このふたつの役は、いつかやりたいと思っていました。また、『ミス・サイゴン』の楽曲って、とてもいい曲じゃないですか。ああいう歌を歌ってみたい...それはエンジニアだけではなく、クリスの歌でもジョンの歌でもそうなのですが、それも理由のひとつ。それで受けてみよう、と思ったのが40歳を超えたころ。そして3回目・50歳にしてやっと、掴むことができました」


――合格の知らせを受けた時はどんなお気持ちでしたか?

「「やった、ついにきた」で半分、「さぁどうしよう」が半分(笑)。(2013年の)『レ・ミゼラブル』の名古屋公演中にそのお知らせをいただいたのですが、ワーイ!という感覚ではなく、「さぁこのエンジニアに対してどう向き合っていくか...」という始まりでした。『レミゼ』のみんなが祝杯をあげてくれたんですが、僕、酔えなかったですもん(笑)」

――その時点で市村正親さんとWキャストで、とわかっていたんですか?

「いえ、具体的にはまだ。ただ(地方公演から)家に帰ってから市村さんにメールをしました。共演も多いですし、プライベートでも仲良くさせて頂いていましたので、報告をしたらすごく喜んでいただきました。お前はお前のエンジニアを作ればいいよ、でもよかったなあって」


――その市村さんが休演ということになってしまいましたが、その知らせは...

「みんなの前で市村さんご自身が話をしてくれました。もちろん驚きましたし、色々考えてしまいましたが、その時に市村さんから「コマ、頼むね」という一言をいただいて、頑張ろう、と思いました。筧さんも仰っていましたが、『ミス・サイゴン』を守り続ける、いい芝居をして『サイゴン』の評判を良くしていくということが市村さんの特効薬になる。だから一日も早い回復をと思いながら、こちらは頑張るしかない。...無事退院なされて、いい方向に向かっているとお聞きしました。良かったなという思いです」


――筧さんが加わる前、しばらくおひとりでエンジニア役を務めていらっしゃいました。体力的にも大変だったのでは?

「楽か楽じゃないかと言えば、楽じゃなかったですけれど(笑)。でも、なんていうんでしょうか...まわりの方が、スタッフさん、劇場の方、もちろんキャスト含めすべての方がバックアップしてくださいました。それをありがたく受け取りながらも、役者って変なところでヤラしくて、一回でも多く舞台に立ちたいという思いは絶対あるんです。思う存分甘えさせてもらいながら、舞台に立てたという思いで今はいます」


――お話を伺う限りでは、意外と冷静でいらっしゃる印象です。

「冷静でした。落ち込んでいてもしょうがないし、つらいと思っても現実にやらなきゃいけないので。それに劇団時代(劇団フォーリーズ)を考えると、週に10回くらいやったこともあるな、なんて(笑)。規模も比重も違いますが、それを思えば、やってやれないことはない。そういう思いであの時はやっていました。市村さんはミスター・サイゴンで、ミスター・エンジニアなんです。それは間違いないんです。でも、駒田は駒田なりのエンジニアを作るしかないし、筧さんは筧さんのエンジニアを作っていく。市村さんが築いてきた『ミス・サイゴン』の歴史を引き継いでいくということを、僕たちがひとりひとりが思って演じていかなければならない。それはキャストだけでなく全員がそうなんです。このカンパニーは嘘なく本当に素敵なカンパニー。まとまって、ひとつになっている。みんなが同じ方向を見ています。なかなかこういうカンパニーはない。いつも開演前にみんなで手を繋いで、円陣を組んで、「よし行こう」ってやっています。今回、中に入って初めてわかったことがたくさんあるんですよ。作品の内容的なこと以外にも、裏側にある"思い"というものも。テーマが非常に重くて、最悪な戦争の話じゃないですか。こういうことを繰り返しちゃいけない、このメッセージを僕たちがちゃんと舞台を通して送っていかなきゃいけないということは本当にみんな、ひとりひとりが考えているんです」
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――ちなみにずっと観客として観ていた作品に実際出演し、さらに新演出版でもありますが、演じる前と実際やってみてからと印象が変わった部分などはありますか?

「根本的な印象とかは大きくは変わっていないのですが、幅が本当に拡がった。幅じゃなくて円になっちゃたくらい(笑)。素晴らしい演出補のダレン(・ヤップ)がいて、ひと月半みっちり稽古をして、毎日のように話をいっぱいさせていただいた。彼は絶対に僕の考え方もNOとは言わない。その意見もあるね、じゃあそういうことを膨らませていこうとか、今日はこっちいってみよう、今日はあっちにいってみようという考え方だったので、とてもありがたかったです。さらに新演出になって、とてもリアルになりましたが、最初は音楽をこの音で、このリズムで...とすごくきっちり稽古するんです。そのうち音楽班がだんだん、ここはもうすこし喋っていいよ、お芝居にしていいよって崩していくんです。それも面白い。もとの音楽があってからこその崩し方という作業。それがすごく僕は楽しかった」


――駒田さんのエンジニアは、拝見して、正直というか、ストレートなイメージを受けました。
(※このあたりから、作品のポイントとなる内容に触れています)

「そういう作り方をしています。「嘘をついていることを正直にやっている」という考え方でしょうか。エンジニアって大きな人間ではなく、ベトナムの一市民で、この時代こんなヤツはごろごろしている。そういったヤツらの代表だと思っています。鋭くて、頭が良いとは思うんですが...ただ、もうちょっといい方法でアメリカに行けている気はするんですよね。難民船に乗ってまでバンコクにたどり着いた人はいっぱいいた。でも結局は難民船、密航者なんですよ。もっとアタマ良かったら違う形で行っている。そういうことを考えると、馬鹿正直な人間でいいんじゃないかなっていうことが、ちょっと僕の中であるんですよ」
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舞台より(写真提供:東宝演劇部)

――それに、生き延びたい、のし上がりたい、という気持ちが強い。

「そうですね、俺は生きるよ、生き延びるためにはどうすんだよ、絶対アメリカにいく。アメリカに行くためにはどうすりゃいいんだ、ビザないじゃないか、どうすんだよ...そういう思考回路ですね。そこにキムの息子、アメリカ兵の血が混じっているタムというキーが現れるんです。でもまともなルートで直接アメリカには行けないので、キムと一緒に難民船に乗って、とりあえずバンコク。一番アメリカに近いのはベトナムではなく、カンボジアでもなく、タイのバンコク。ちょっとずつ近づいてはいるんです(笑)。でもバンコクが長いんですよ。なかなかアメリカに行けない。しかもベトナムではドリームランドでオーナーをやってたのが、他人に使われてへいこらへいこらして。オーナーより僕の方がへたすりゃ年上なんですが、僕はペーペー。しかも僕ひとりだけベトナム人で、同僚には「国に帰れ」って言われてるんです。...セリフではないですが。ベトナムにいた頃より生活はレベルダウンしている、でも一生懸命やってるんですよ...(笑)」


――そもそも彼はなんで"エンジニア"と呼ばれているんですか?

「なんででしょうね!? 本名はトランヴァンディンなんですよ。通称、エンジニア。どういう意味かは具体的には答えはなくそれぞれの解釈なのですが、なんでだろうねって話をしたことはあります。本当に機械工、何かの機械を操るエンジニアなのか、誰かを操るという意味でエンジニアなのか。僕は(人を)操る方のエンジニア、と解釈しています。ただそれだけでなく、トランヴァンディンという名前に対してはとてもイヤな思いを抱いている。やっぱり混血で(※エンジニアはフランス系ベトナム人)コンプレックスがあるんです。まあ混血ということより、アメリカ人になりたいんですよね、彼は。「ヤツらは馬鹿だけど、あんな自由な国はないぜ。それに比べなんだこのベトナムは...」そういう憧れとコンプレックスがある。だから自分の名前をトランヴァンディンと言いたくない、そういう気持ちもあるのでは、と」


――あと、駒田さんのエンジニアは根は優しいのかな、とも思いました。特に最初の登場、キムに手を差し伸べるところ。利用するというより助けるように見えたんです。

「どうなんでしょうか(笑)。助けるのも利用するのもありますから。あの瞬間は「宝石の原石を見つけた」んです。演出家も言っているのですが、キムに対しては、1幕は宝石の原石を大事に大事に扱うように接している。それが2幕になると脅したりもする。それは、キムよりタムが重要になるからなんです。でも、優しいといえば、ジジに対してもあるんですよ。今回、『アメリカン・ドリーム』でキャデラックに乗って登場する女性がミス・チャイナタウンからミス・アメリカになり、さらにジジ役の人がやるようになった。ロンドンでそれを見て、あれはいいよね、エンジニアの妄想の中でジジに対する何かがそういう形になったんじゃないかと演出家に言ったら、「たまたまだ」って言われたんです(笑)。たまたまジジ役の人がミス・アメリカをやってるだけだ、って! なんじゃそれ、って思ったんですが、でも僕らが見てそう思えたということは、日本版はそういう解釈をしてもいいんじゃないかと話をして、それでOKだということになって。だからジジのことはあくまでも利用していたんだけど、ひょっとしたら昔は何か男女の関係があったかもしれない。セリフには何もないんですが、別れ際に一瞬見つめあってすっと去っていく、あのシーンは大事にしています。それが最後『アメリカン・ドリーム』のシーンでキャデラックに乗った彼女に「ジジ」って言いながら葉巻を渡す。何かふたりにあったのかなという裏のストーリーとしては面白いかなと思います。...そういう裏を読むというのが日本の文化の面白いところでもありますよね」


――最後の最後も、ジョンと何か話していますね。あそこは?

「セリフではないのですが、僕からジョンに話しかけにいっています。(岡)幸二郎と(上原)理生とでは違うやり取りをしていますが、要はタムに対してが、僕のキーポイントなわけじゃないですか。あのシーンでエレンがタムを自ら抱きにいくというのは今回初めての演出なのですが、それはつまり彼らが僕からタムを奪い取っているんですよ。おいちょっと待てよ、話が違うんじゃないのか...と。そこから「さあどうするんだよ」と考えています。タムを奪い取ってここから脱走するか...それはできない、でもそういう衝動にも駆られるし...。エンジニアは次のことを考えてます」


――なるほど、幕が下りたそのあとにもちゃんと彼の物語があるんですね!

「あります。あそこで完結だとは僕は思っていない。でも続くにしても、いろんな続き方がある。それはお客さんに対するメッセージの投げかけでもあります。僕はあそこで「あぁどうしよう...」という気持ちではないです。「ちっ...次を考えよう、さあどうする」。ひょっとして第3幕が上がったら、うまいこと言ってエレンからタムを奪って逃げているかもしれないし、うまくジョンと交渉して一緒に行っているかもしれないです。その先のことを考えていますね。ただあのシーンに限らず、微妙な解釈の違いというのが役者によってあるので、それは僕と幸二郎と理生と、もちろん演出家と交えて話し、こういう解釈があればそういう解釈もあると。だから人が変われば芝居も変わる。当たり前ですが。だからこそ芝居って面白いなって思います」


――そういうことをディスカッションする時間も、稽古中はたくさんあったんでしょうか。

「たくさんありました。ワンシーン、ワンシーンを話したし、少しでもクエスチョンが出たらそれを試してみる。(演出補の)ダレンがそう導いてくれて。彼はもともと役者で、トゥイもやってましたし、『ミス・サイゴン』に対する思いがものすごくある。それに演出家として、パズルをうまく合わせるように、役者のいいところといいところを合わせてくれる、それが上手いんです。だから稽古は大変で苦しい反面、面白かった。やりがいがあるというか、「話がしたい」と思わせてくれましたね」


――セリフにない部分の心情をたくさん話していただきました、ありがとうございました。...最後に、駒田さんは「『ミス・サイゴン』が愛され続ける理由」はどこにあると思うかを教えてください。

「なんでしょう...。今まで何十万人の方が観ていて、何十万とおりの理由があると思うんですが、とにかく一番はストーリーもそうですが、音楽でしょうか。この作品の音楽の素晴らしさは、ミュージカルの中でトップレベルだと思うんです。重い話......悲惨な、でも目を背けちゃいけない話を、音楽の力によって感動に変えた。あとは登場人物ひとりひとりに観客が自分を投影するんじゃないでしょうか。キムに対して、クリスに対して、エンジニアに対して...。それに、新演出になって芝居がいろいろクリアになりましたね。共感できるポイントも増えていると思う。それに、理解していこうとするお客さまのパワー、というのもあると思うし、それをさせるパワーが作品にある。エレンは22年前と性格が、キャラクターが違ってきている。それはひとつの作品としてのバランスだと思うんです。(この作品をクリエイトしている)ロンドンのスタッフのすごいところって、初演から、それを延々と繰り返しているんじゃないんです。こうすれば良くなる、こうすれば良くなるという変更が、22年続いている。5月にロンドンの初日が開いたばかりなのに、そこから日本に至るまでもまたいろいろ変わってるんです。2・3ヵ月にこの進化って...すごいですよ。日本に合わせての変更ではなく、作品としてロンドンの同じスタッフが「あれよりもっとこうした方がいいんだ」ってどんどん変えているんです。そんな、いつでも新鮮にしていこうという考え方を持っている人たちが作った作品。それが魅力なんじゃないかと思います。だから僕たちも同じことをやっていてはダメだと思うし、昨日よりは今日、今日よりは明日、もっともっとよくしようって思うし、そう思わせてくれる作品。それがお客さまにも感じていただけているんじゃないかと思っています」

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●『ミス・サイゴン』ストーリー●
ベトナム戦争末期のサイゴン。村を焼かれ両親を失った少女キムは、フランス系ベトナム人のエンジニアに拾われ、彼が経営するキャバレーで働くことに。そこでアメリカ兵クリスと出会い、恋に落ちるものの、サイゴン陥落の混乱の中、ふたりは引き裂かれてしまう。
3年後、アメリカでクリスはエレンと結婚していたが、戦友・ジョンからキムが生きていること、そしてふたりの息子タムがいることを知らされる。戦禍のサイゴンからバンコクに逃れたキムもまた、タムを育てながらいつかクリスが迎えに来てくれることを夢見ていた。
一方で"アメリカン・ドリーム"を追い求め、したたかに生きるエンジニアは、アメリカ兵の息子であるタムに目をつける。様々な人々の思いは交錯して......。


【公演情報】
・上演中~8月26日(火) 帝国劇場(東京)
・8月30日(土)・31日(日) 新潟県民会館
・9月4日(木)~7(日)愛知県芸術劇場 大ホール
・9月11日(木)~18日(木) フェスティバルホール(大阪)
・10月4日(土)・5日(日) よこすか芸術劇場(神奈川)


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