『ミス・サイゴン』パーカッショニスト長谷川友紀さんインタビュー

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2012年の新演出版を経て、いよいよ帝国劇場に登場した"最新"演出版『ミス・サイゴン』
市村正親さんの休演という残念なニュースもありますが、劇場では連日連夜、熱いステージが繰り広げられているとか。

そんな劇場から、「今回のオーケストラ、特にパーカッションが凄いことになっている!」というお知らせをいただいて、さっそく見学に行ってまいりました!

通常ミュージカルのオーケストラは、皆さまご存知のとおり舞台と客席の間の"オーケストラピット"で演奏をしています(例外は多々ありますが)。
すでにご観劇された方は「あれ?普通にオケピにオーケストラいたよ?」と思うかもしれません。
はい、『ミス・サイゴン』、指揮者の方もオーケストラも、オケピで演奏しています。
しかしパーカッションはそこにはいないのです。

どこにいるかと言うと...

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奈落(舞台の下)です。
しかも本格的にパーカッション用の小屋が作られています(空調ダクトまでちゃんとある!)。


中はこんなです。
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すごい楽器の数!!
オケピに入りきらないからこんな離れ小部屋になっているんでしょうか。
そのあたりを含め、パーカッショニスト・長谷川友紀さんにお話を伺ってきました。



パーカッショニスト・長谷川友紀さん INTERVIEW

saigon14073003.JPG――隔離されていますね(笑)。寂しくないですか?

「寂しいです!(笑)」


――そうですよね(笑)。こういう形で、奈落に演奏場所が設置されるというのはよくあることなのでしょうか?

「珍しいです。オーケストラ全員が舞台上や舞台袖といったピット以外の場所で...という事はままありますし、パーカッションだけ皆さんとの間に少しスペースをあけて、離れて演奏をしたということは今までにもありましたが、ここまで隔離されているのは『ミス・サイゴン』が初めて。前回(2012年)のめぐろパーシモンホール公演の時はパーカッションだけリハーサルルームで演奏していたのですが、今回の帝劇では、奈落に"大きなお家"を建てられてしまいました(笑)」

――それだけ楽器数が多い、オケピに入りきらないということなんでしょうか。

「そういう理由もあると思いますが、これだけの楽器があるとかなりの数のマイクが立つので、そこに他の音がかぶってしまったり、逆にこちらの音が他の楽器にかぶったりしてしまうとサウンドが作りにくい...という音響プラン上の理由が一番ですね。分離することで、きちんとそれぞれの楽器の音をうまく立ち上げることが出来る。それにパーカッションは音が大きいので、ピットに入ると生の音が客席に出てしまい、それを防ぎたいというのもあるようです。前々回(2008年)の時はピットに入っていたのですが、パーカッションのところだけ蓋をされたのを覚えていますか? それだけ音を外にもらさないでミキシングをしたいということなんですね」


――それでパーカッションだけ隔離となったんですね。...少し作品から離れて、長谷川さんご自身のことを伺わせてください。ミュージカルのオケピにいらっしゃるのをよく拝見しますが、ミュージカルのオーケストラ専門なのでしょうか?

「フリーで活動していますので、ミュージカル専門かどうか...というのは難しいのですが。もともと舞台や映画の音楽が好きだったので、音大を卒業して、音楽とお芝居が結びついている音楽をやってみたいなと思って、この仕事をさせて頂いているうちに、ほぼ一年を通しミュージカルの現場で叩いている事が多くなりました。パーカッショニストにとって、ちょっとミュージカルの現場は独特なんですよ。普通、クラシックのオーケストラだと、ティンパニストがいて、小太鼓、トライアングル...とそれぞれの楽器の担当がある。オペラでも、一度にひとりが担当するのは楽器3つくらいです。それをミュージカルではひとりで全てを叩かなければならない。そういう環境って、他にはあまりないと思いますので、"ミュージカルパーカッショニスト"という肩書きがあるかわからないけれど、そうなりたいなと思ってずっとやってきました」


――それは長谷川さんにとって楽しいことですか?

「すごく楽しいですねぇ。ひとつを極めるのも大事だと思うのですが、沢山の楽器を何でも演奏出来る!っていうのも良いんじゃないかと思うんです。もちろんちゃんと一個一個極めるつもりではやっていますけど。特に『サイゴン』は360度楽器に囲まれているので、なんとも幸せです。...大変ですけど(笑)。叩いた瞬間、次はぜんぜん違うアプローチの楽器を叩かなきゃならなかったりするので」


――『ミス・サイゴン』ではいくつくらいの楽器を叩いているんでしょうか。

「さっきからずっと数えていたんですが、途中でわからなくなっちゃうんです(笑)。どれをひとつと数えるのか、というのもあるのですが。今回パーカッションはふたりでやっているのですが、35種類以上の50個以上をひとりが使っているので、ふたりで100個...くらいかな?」


――それは他の作品と比べて多い方?

「楽器の数としては1・2を争うと思います。ひとつのミュージカル作品でここまで多いのは、『サイゴン』と...あとは新演出版の『レ・ミゼラブル』や『イーストウィックの魔女たち』も多かったですね。『イーストウィック』は、多さのタイプがちょっと違っていて、ヴィブラフォンやチャイムといった生の鍵盤楽器が多くて広さを取っていました。『サイゴン』は細かくて珍しいものが多いです」


――その、種類の多い『ミス・サイゴン』で使う楽器ですが、長谷川さんのキャリアの中でも初めて出会う楽器とかあるんでしょうか?

「大学のときに、パーカッションは種類が多い分、色んなものを体験するので、楽器自体は知っているのですが。初めて使ったものとしては「クリケット」という楽器があります。日本名では「コオロギ」って言うみたいなんですけど。コオロギの鳴き声のような音っていう意味なんでしょうけど、私にはそうは聞こえないような...(笑)」

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↑こちらの楽器です

「『アメリカン・ドリーム』のホントの最後の最後に使います。
あとは、"仏壇で使う系"は和物で使うことはあっても、西洋のミュージカルで使うのはめったにないですね」

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↑このあたりが和物シリーズ。
長谷川さんが鳴らしているのが"キン"。仏具です(リン、とも言います)。


――作品中、1回しか使わない、鳴らさない楽器というのはありますか?

「ありますよ!今言った、コオロギもキンも1回しか使いません。こちらも1回しか使わない"コインクラッパー"。コインのジャラジャラしたような音です」

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↑赤で囲ったものがコインクラッパー。
奥にある円盤状のものは"アンティークシンバル"。「グロッケンより音が伸びて、とても綺麗な音がするんですよ」と長谷川さん。


――ちなみにオリジナル演出から新演出の間で、音楽的な変化ってあったんでしょうか。

「大きくは変わってはいませんが、多少はあります。例えばガンダンス(1幕中盤、銃を持ってのダンス)などは、振りに合わせて太鼓を叩いたりと効果音が今年バージョンとして変更になったりしています。ほかにも『Maybe』が新曲として入ったりしていますので少しずつ変わっています」


――最後に、長谷川さんが思う『ミス・サイゴン』の音楽的魅力を教えてください。

「やっぱり音楽が壮大で名曲が多いと思います。パーカッションとしては、アジアが舞台なのでアジア系の楽器が多く使われています。それも外国人が思うアジアの楽器。お寺にあるような楽器の使い方とかも、外国人が思うアジアの音ってこういうものなんだなっていうのは感じます。...私、『ウエストサイド物語』と『ミス・サイゴン』をやりたくてミュージカルの世界に入ったんです。やっぱりこれだけの数の楽器を操れるというのがまず一番の醍醐味。それに先ほども挙げたガンダンスのシーンが本当に素晴らしいんですよ。あの曲が好きで...良く出来ているし、パーカッショニスト冥利に尽きる。初演の振付の方がこのシーンで叩いている私の姿を見て「躍動感があって、まるで踊ってるみたいね」と仰ってくださって。それくらいパーカッションが大活躍する曲。『ミス・サイゴン』は「この曲やってみたい!」と思うナンバーばかりで、パーカッションとして面白いところがいっぱいあるんです。最初、2004年に初めて『サイゴン』のオーケストラに入った時は、初日の本番中に嬉しくて泣いてしまいました。願いが叶ったなって。ぜひ、パーカッションの音にも注目して聴いていただきたいです」


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演奏中の長谷川さんはこんな感じ。
モニターも四方八方に。「360度使うので(どこにいても指揮者が見えるように)」とのこと。


演奏ポジションに入るには、こちらの大きなドラを外して出入りするそうです。
そして中に入ると本当に360度楽器に囲まれることになります...!

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さらに360度楽器に囲まれる=くるくる色んな方向を向くため、ヘッドホンを普通に装着していたらコードが身体に巻きついてしまう、ということで、こんな形を思いついたそうです。
「私、充電されてるロボットみたいでしょ」と長谷川さん。
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最近はヘッドホンから進化してイヤホンバージョンもあるそうです。
ちなみにヘッドホン&イヤホンは「ピットにいればみんなの音もこえるけど、ここでは全く聞こえないのでヘッドホンからピットの音や役者さんの声を聞くんです」とのこと。


以上、大作ミュージカルの裏側をほんの少しご紹介でした!


【公演情報】
・上演中~8月26日(火) 帝国劇場(東京)
・8月30日(土)・31日(日) 新潟県民会館
・9月4日(木)~7(日)愛知県芸術劇場 大ホール
・9月11日(木)~18日(木) フェスティバルホール(大阪)
・10月4日(土)・5日(日) よこすか芸術劇場(神奈川)

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