『王家の紋章』で知られる、少女漫画界の大御所・細川智栄子あんど芙~みん氏。その代表作のひとつである『伯爵令嬢』が、100周年を迎えている宝塚歌劇団で初めて舞台化されます。
19世紀のフランスを舞台に、新聞王として名をはせる公爵家の子息アラン、孤児院で育ち海難事故で記憶を失った少女コリンヌ、アランに復讐を企むフランソワ、かつてコリンヌと愛を誓い合った盲目の青年リシャール、女スリのアンナなど、個性豊かな登場人物たちが織り成すロマンチックで波乱万丈な物語。
この公演より雪組トップスターに就任する早霧せいなと、同じく雪組トップ娘役に就任する咲妃みゆのお披露目公演ということもあり、話題満載の本作の制作発表が7月22日、都内にて行われました。
脚本・演出は生田大和。
「100周年の記念すべき年の、久々の日生劇場公演。そして次世代の雪組の門出となる公演を担当するにあたり、わたし自身の憧れの原点である細川先生の原作をお借りして『伯爵令嬢』を演出することは私にとっても感慨ひとしお」と語ります。
また、この名作漫画を舞台化するに至った経緯としては「まず日生劇場であるということ、早霧せいな・咲妃みゆの主演であることが前提としてあり、それとともに100周年を迎えている宝塚歌劇でやるということを考えたところ、"宝塚歌劇団でしか上演できない演目"を作り出していくことが重要になると思いました。幅広い方に宝塚歌劇団は支えられて100周年を迎えました。子どもからお母さま、おばあさま、3世代ないしは4世代にわたるお客さまに支えていただいています。そのすべての世代に受け入れられるキーワードがないかなと思ったところ、誰もが一度はかつては子どもだった、その子ども時代の"憧れ"という言葉をテーマにしたいと考えました」と説明。
さらに舞台化のポイントとしては
「主人公が外国人で、外国が舞台である、というのは一種、少女漫画というジャンルの特徴。ヨーロッパが舞台であるというのが憧れの要素としてあると思うので"パリの風"を大事に作っていきたいと思います。
そしてもうひとつは宝塚歌劇がこうして外国のミュージカルを上演することになっていく段階で、白井(鐵造)先生たちが一本ものの物語、『虞美人』などを作ってきた歴史があります。ただ『虞美人』の初演のポスター等を見ると「ミュージカル」とは書いていないんです。「グランドレビュー」と書いています。かつてパリ・レビューを源流として『モン・パリ』などを作ってこられた先生が『虞美人』を創るのに「グランドレビュー」と銘打った、その感覚をなんとか再現したい。ひとつの華やかなレビューとして物語を紡いでいく、そんな作品になればいいなと考えています」と話し、意欲を見せていました。
会見には原作の細川智栄子あんど芙~みん氏も登壇。
姉妹で漫画を作っていらっしゃいます。
まずは細川智栄子氏が「私たちは少女の皆さんに、夢と愛と憧れ、そして優しい心などを伝えられる物語を贈りたいと生涯を懸けてまいりました。この宝塚歌劇100周年の記念すべき年に、ミュージカル化してくださることを、大変嬉しく、楽しみにしております。
『伯爵令嬢』を描くきっかけとしては、私は父が新聞社にいたものですから報道関係に子どもの時から興味がありました。12歳のときにピューリツァーの晩年を一緒に過ごした方の手記を読み、「彼は目が見えなくなっても、病気になっても、そして体が動かなくなっても、自分の燃えるような情熱で世の中の人に出来事を伝えたい、報道したいと思っていた」というその情熱に打たれました。いつかそういった物語を書きたいと思って描いたのが『伯爵令嬢』です。
私は関西生まれなので、宝塚は夢の殿堂。どんなミュージカルになるか、一ファンとしてワクワクしながら待っております」と話します。
芙~みん氏も「姉(細川智栄子)と一緒に、漫画の仕事に携わって頑張ってきましたが、漫画は本からきれいな音楽が流れたり、せりふを喋ってくれるということはありません。読者の方にどのように楽しんでいただけるのか、続きを読みたいと思っていただけるか、姉と毎号毎号、必死で四苦八苦しております。ミュージカルは音楽が流れますし、美しい方たちが歌ったり踊ったりしていただけるし、観客の方へ語りかけていただけますので、どのように素晴らしい舞台になるかということをとても楽しみにしております。19世紀末のフランスの素敵なファッションもとても気になりますし、私も宝塚歌劇の一ファンとしてドキドキしながら10月の公演を待っています」と期待を語っていらっしゃいました。
そしてこの公演より雪組トップスターに就任する早霧せいなは「細川両先生の描かれた大人気漫画『伯爵令嬢』の初の舞台化で、お披露目公演として日生劇場にて公演させていただくことが、とても光栄であり嬉しく思っています。お客さまに楽しんでいただける公演をめざして心を込めてお稽古にはげんでいきたいと思います」とご挨拶。
自身が感じる作品の魅力や、アランの役作りに関しては「細川先生の描かれる漫画は本当に宝塚にぴったり。多分皆さんがこの舞台化を「待ってました!」と思ってくださっているんじゃないかな。私も漫画を読んでいると次の展開が気になって仕方がなかったので、舞台を観てくださるお客さまもそういう気持ちで結末まで観ていただければと思います。
アラン像に関しては、漫画ファンの気持ちを絶対に裏切りたくない。読者ひとりひとりがアラン像を思い描いていると思うので、そのアラン像に少しでも近づけるような役作りをしていきたいです。同時に、あまりこれまでに私自身がやってこなかった役柄。大人であり、地位も名誉も手に入れているアランだけど、コリンヌに会い、彼が失っていた、持っていなかったものを彼女からの愛で埋めていくという過程をきちんと描きたいです。大人の男性でありながら子どもの心を忘れていないアランであるという面を出していきたい」と話しました。
ヒロイン、コリンヌを演じるのは咲妃みゆ。
「細川先生の代表作の初の舞台化に、このような形で携わることができて本当に光栄。先生の作り出されたすばらしい世界に少しでも近づけますよう、生田先生や早霧さんに一生懸命ついていって頑張りたいと思います。コリンヌはたくさんの人から愛される、とても魅力的な女の子。愛らしさや溌剌さを丁寧に演じていきたいです」と話していました。
そしてこの舞台化の見どころを問われた生田さんは「残念ながらペガサスは飛びません...(笑)」と言いつつ、
「ひとつにはフィナーレナンバーは作ろうと思っています。そしてそれがパリレビューの源流、原点に立ち返れるようなものを作れたら。つまり、ムーランルージュとか、その空気を作っていきたい。また基本的にはお芝居として、ミュージカルナンバーで進めていくことになりますが、できる限りダイナミックに、全体的にパリ・レビュー的な構成でみせていきたい」と話し、
さらに主演を務める早霧・咲妃コンビに関しては
「私が思うふたりの特徴としては、「稽古場が楽しい」というのがあります。ふたりとも型にはまらないものを持っていて、自由に、自分の意思で、どのように演じるかということを考えていく。自分も決め付けて稽古場にいくのではなく、稽古をしていく中で役を深めていければと思います」と話していました。
会見では早霧さん・咲妃さんによるパフォーマンスもありました。
本当に少女漫画から抜け出したようなカップルです!
パフォーマンス後、袖に引っ込む際に顔を見合わせ浮かべた笑顔もキュートでした。
取材・文・撮影:平野祥恵
【公演情報】
10月11日(土)~31日(金) 日生劇場(東京)
一般発売:8/30(土)10:00~