7・8月に東京・帝国劇場で上演されるミュージカル『ミス・サイゴン』。
1992年の日本初演以来再演を重ねているメガヒットミュージカルであり、2012年には"新演出版"として登場、日本各地で絶賛を浴びました。
今年5月には本場・ロンドンで新演出版が開幕。
これを受け、"新演出版"からさらにブラッシュアップされた最新バージョンが、帝劇にやってきます!
6月19日、都内にて現在の稽古場の様子が披露されるとともに、エンジニア役の市村正親と駒田一、キム役の笹本玲奈、知念里奈、昆夏美、日本版演出補のダレン・ヤップが出席し合同取材会が開かれました。
日本版演出補のダレン・ヤップさんは、2012年版でも演出補をされていました。
元トゥイ役でもあります。
「『ミス・サイゴン』の世界の素晴らしいところは、どんどん引き継がれていく、受け継がれていく素晴らしい役者の皆さんの伝統。その中に、今回新しい赤ちゃんたちが参加して、その赤ちゃんたちがまもなく生まれようとしているプロセスを経ている段階です。2014年版の今回、帝国劇場及びその他ツアー公演でまったく新しいフレッシュな『ミス・サイゴン』をご覧いただけるのではないかと思っています」と挨拶。
さらに「『ミス・サイゴン』というのは出演者の皆さんのエネルギーに頼っているところがある作品。そしてそれぞれの俳優の人生の中での変化などに頼っている作品です。
今回エンジニアはふたりいらっしゃいます。市村さんは非常に豊かな経験を持って役を演じてくださる。駒田さんは新しく、ワクワクするようなエネルギーでエンジニアを演じてくださる。そしてそのおふたりの異なるエネルギーが2014年の『ミス・サイゴン』に大きな影響を与えていくと思います」と今回のカンパニーの見どころを語ります。
さらに「ローレンスとキャメロン筆頭にクリエイティブチームは常に話し合いするのですが、その国の文化においてこの作品をうまく成立させるためにはどういったところが必要なんだろうということをよく話しています」と、世界各国で上演されている『サイゴン』が、その上演される国によって変化していることを説明するとともに、
「ウエストエンドではまさに開幕したばかりなんですが、帝国劇場ではヘリコプターがまた登場します。これはとてもワクワクするところではないかと思います。さらに『アメリカン・ドリーム』では今回は自由の女神が登場します。観客の皆さんもヘリコプターがまた戻ってくる(オリジナル演出版では実物大のヘリコプターが登場したが、新演出版では映像が使用された)というところを本当に楽しみにしてくださっているんじゃないかなと思うのですが、そのヘリコプター以上に色々なサプライズがあります。例えばクリスがヘリコプターにのりこみ、飛び立っていくというようなこともご覧いただける」と、2014年版で刷新される部分なども話し、期待感を煽りました。
エンジニア役は、市村正親と駒田一のWキャスト。
市村さんはまず「22年前からこの役をやっております。ずっとやらせてもらっていて『ミス・サイゴン』じゃなく『ミスター・サイゴン』です。...と、いつものおなじみの冗談でご挨拶にかえさせていただきます」と笑いを取り、
「2年前の新演出版も出演しましたが、そこからさらに細かい部分で演出が変わってます。歌詞も変わっています。22年間同じ歌詞で歌ってる人間にとって新しい歌詞を入れるのは大変なんですが、そのことにより(同じシーンでも)新しいシチュエーションになっている。ヘリコプターが復活するとか自由の女神が出るとかだけでなく、もっと演劇的に、『ミス・サイゴン』というドラマをより濃く出すための細かい演出が、2年前に比べるとかなり足されています。2年前に出演している我々も、もう一度新鮮な気持ちでやっています。そういう意味でもまったく前回と違うものになるのではないかと思います」と新演出版よりさらに今回、ブラッシュアップされたポイントをアピール。
さらに5月に開幕したロンドン版の初日を観劇したという市村さん、「やっぱりどこが感動したかというと、『キムの悪夢』のシーンや『モーニング・オブ・ドラゴン』などアンサンブルたちの活躍ぶりに『ミス・サイゴン』の魅力を感じた。でもよく考えてみたら日本のカンパニーのアンサンブルたちもそれに負けず劣らず張り切っていますので、ロンドンに負けないくらいのものが出来るのではないかと思いました。
と同時に初日に(ロンドン・オリジナル版でエンジニアを演じた)ジョナサン・プライスと24年ぶりに会いました。彼は昔から頭が薄かったんですが(笑)、髪が真っ白になって、歩き方も...。もうエンジニアはできないのかな、ああいう形でエンジニアをやってもいいだろうと思いながら久しぶりに会話をしたのですが、「22年たってもまだエンジニアをやってるお前は化け物だ」と言われました(笑)。でもそうじゃない、『サイゴン』が僕を呼んでいるんです。若いカンパニーの中に僕がいるというのは年齢的には大変かもしれないけれど、一生懸命ジムにいって鍛えて、エネルギッシュなアンサンブルに負けないくらいのエンジニアをお見せしたい」とエピソードを披露。
一方で今回、エンジニアに初挑戦の駒田さんは、市村さんの挨拶に乗っかって
「私も22年前からずっと...<観続けて>いました(笑)。やっとこのエンジニアという役をいただき、いま稽古の中ですごく苦しんでもがいて、エンジニアという役を深めていっている最中です。頑張っていきますのでよろしくお願いします」と意気込みを話していました。
ヒロイン・キムは、笹本玲奈、知念里奈、昆夏美のトリプルキャスト。
「私は4度目の挑戦。いつもこの役は私にとって大きな試練だなと感じています。今もみなさんといっしょにお稽古に励んでいますが、今年も素晴らしいカンパニーで素晴らしい作品になるんじゃないかなというのを毎日実感しているところです。どうぞご期待ください」と笹本さん。
知念さんも「キムをやらせてもらうようになって10年がたちました。市村さんに比べたらまだまだ...もっと出来るんじゃないかなんて思ってしまうんですが、17歳の役なので、今回本当に思いっきり思いをこめて大切に演じられたら」と意気込み。
知念さん、製作発表の場で「これが最後のキムだと思って」と話していらっしゃいました。
そして今回初めてキムを演じる昆さん。
「今回初めての参加になりますが、『ミス・サイゴン』はずっとずっと大好きで、ずっと見ていた作品。そして今回稽古場に入って『ミス・サイゴン』の世界に触れて、本当に素晴らしい作品だなと実感しています。これからもっと稽古にはげんで本番までに自分の中でキムを作っていきたい」と話しました。
最後にパワーの源を尋ねられた市村さん。
「やっぱり役(から)ですね。たかだか2・3時間の間で激しい人生を演じられる舞台というものの魅力に取り付かれて、去年(俳優生活)40周年を迎えました。40年たったからといっても役者は常にゼロからのスタート。今回はWキャストなので前回より身体がラクになるとは思いますが、その分、もっとお客さんに進歩した円熟味のあるエンジニアを届けたい。日々汗をかいて、とにかく健康に頑張っています。しかしすべてはふたりの子どもの力だと思っています。...こういう風に答えると、マスコミ的にはタイトルに使いやすいのかな!(笑)」
と、記者の都合まで考慮したコメントでした!!
稽古場披露では4シーンを披露。
『火がついたサイゴン』~『我が心の夢』
サイゴンのキャバレー。
自らを売る女たちと、その女を買いにきたGIたち。
欲望渦巻く、猥雑な熱気。
エンジニア役、市村さん。
誰よりもパワフルで、誰よりも軽妙に人波を渡り歩きます。
キム、知念さん。
家族を失い、サイゴンに出てきた彼女が初めて店に出ます。
クリス=上野哲也さん、ジョン=岡幸二郎さん。
キムとクリスはこのキャバレーの中で買う側/買われる側の関係として出会います。
店内の騒然とした熱気と、ふたりの間の静謐な空気が混じる瞬間。
女たちは自分を売りながらも、この場所から脱出することを夢見ています。
この日、"ミス・サイゴン"になったジジ(池谷祐子さん)もまた...。
『この金は君のもの』~『サン・アンド・ムーン』
一夜をともにしたキム(昆夏美さん)とクリス(原田優一さん)は、お互い恋に落ちていたことに気付きます。
『世界が終わる夜のように』
キム(笹本玲奈さん)、クリス(上野哲也さん)の結婚式のあと歌われる美しいナンバー。
セット転換は手動!
大きなセットが人力で動くダイナミズムも、作品の熱気に繋がるのが新演出版ならでは。
『生き延びたけりゃ』
1幕ラスト近くのシーンです。
切れ切れのシーンの披露だったため、「僕、死んでるために出てきたなあ...」とボヤいていた(笑)、トゥイ役の神田恭兵さん。
どんな手段も汚い手も厭わない、といった野心むき出しのエンジニアを、駒田一さんが熱演!
アンサンブルさんたちのダイナミックな動きも、熱を秘めたサイゴンの空気を作り上げています。
スペースいっぱいいっぱい舞台セットが入っているため、演技エリアと取材スペースの距離、ほぼ、ゼロ!!
『ミス・サイゴン』のど迫力な世界を間近で感じ、まさに戦時下のサイゴンに放りこまれたかのような感覚を味わいました。
が、その迫力は、単に距離が近いから感じたワケではありません。
新演出版、とにかく"リアル"。
すべてのセリフ、動きが、人対人の関係性の中で生まれていると思わせるリアルさ。
舞台作品に対する形容としてあまり相応しくないかもしれませんが..."肉感的"な舞台になっているのです。
メインキャストのみならずアンサンブルに至るまで、いや、小道具にいたるまで、戦時下のサイゴンに息づいているかのようです。
公演は帝国劇場にて、7月21日(月・祝)にプレビュー開幕。
東京公演は8月26日(火)まで。
その後新潟、愛知、大阪、福岡、神奈川でも上演されます。