そして、劇団あおきりみかんが新作を引っさげての東京公演を行う。今作のテーマは「集団」。天国の東側に集められた11人。そんな見ず知らずの彼らは、全員鎖につながれている。地上に戻るためには、全員が協力して「集合」から「集団」になること。彼らは地上に戻るために協力しようとするが...。
今回のインタビューでは鹿目と長年に渡り劇団を支えてきた看板俳優の松井真人に、新作への思いや自身の劇団について語ってもらった。
♪ 松井真人インタビュー ♪
――「天国の東側」、まずは名古屋公演を終えた感想はどうですか。
6月末に名古屋公演を行って、作品が1つの完成した形になりました。ただ今やっているツアーの稽古では、作品を一度解体して最初のシーンから作り直しているので、仙台と東京はまた少し違うものになる印象です。主役である僕の役を中心にストーリーが展開していくんですけど、周りからの働きかけがより強くなって集団色の濃い感じになりそうです。名古屋から期間が開くので、良い変化を少し加えてみようと思ったんです。――演出などちょっとずつ変わるんですね。
変化はありますね。それでも伝えたいことの本質は変わらないです。人は生きている限り、家族や会社、学校という何かしらの集団に属さなければならないですよね。それこそ、一対一の友人関係も1つの集団だと思います。それはすごく自分を縛るものでもあるけど、他者との関係を繋いだり、自分を守ってくれているものでもあると思うんです。そういった人と人との繋がりを描きたいです。――同じ作品のツアーでも、作品の表現が変わるというのは面白いですね。名古屋で来たお客さんにも、是非東京で観てほしいですね。
そうですね。特に東京は100人程度の小さな劇場なので、雰囲気もだいぶ変わって面白いと思います。――松井さんが「天国の東側」の台本を読んだ時はどんな印象を受けたんですか?
今作の台本を最初に読んだとき、鹿目由紀(劇団の主宰で劇作家・演出)は冒険したなと思いました。ドラマは別として、俳優の仕事で演劇に限って言うと、舞台に5人以上出ている演技は2~3人の時よりも会話のコントロールが難しいと感じています。それが今回は11人がずっと舞台に出ているので、なおさら難易度の高い作品になるぞと感じました。それに加えて、先日劇団の第7期のオーディションが終わったところなんですけど、第6期までのメンバーで11人がキャスティングされて、各人に当てて作られています。それは前回のオーディションからこの3~4年であおきりみかんが作り上げてきたものを舞台上ですべて表現しようとしているんだと思いました。これはある意味冒険だし、覚悟だと思うんですよね。今回は台本で今までと違う試みをしようと"挑戦"したなと思いました。なので、実験作ともいえる面白い作品になりましたね。――松井さんはどういう役を演じられているんですか?
11人集められ集団を作らなければならなくなった中で、集団になりたくないと思っています。過去に集団にいることで失敗した経験があって、自分が集団に属することで誰かを不幸にしてしまうんじゃないかと思っている役です。他の役の人に、『じゃあ、なんで集団になりたくないんですか?』って言われた時に、どうなるかっていうところですね。――役を演じてみて、彼の魅力はどういったところにありますか?
彼のいいところは人のことを自分のことのように捉えるところですね。ある登場人物がいて悩みを相談するシーンがあるんです。そこである人は「それは自分の甘えじゃないか」と言うんですけど、彼は違うんです。自分の目線ではなくて、相手の立場にたって話を聞いて受け答えをするんです。そして指摘した人のことも否定はしません。皆の存在を肯定して、共存していけるようにしていきます。彼は過去の出来事で傷ついてる分、人の痛みがすごく分かるので、それが魅力だと思いますね。――今回の作品はどのような演出があるのか、ネタバレにならない範囲で教えてください。
普段の芝居では、役者の立ち位置が非常に重要なんです。でも今回は全員が鎖につながれているので、立ち位置が固定されたまま物語が進んでいきます。その不自由な中での演技と、無理やり立ち位置を動かそうとする場面はこだわって作っています。あとは最初から鎖につながれていることで、鎖がマイナスのイメージであるんですけど、少しずつ意味合いが変化していく所にも注目してほしいですね。人と人とのコミュニケーションを鎖というものに可視化していて、登場人物の関係性の変化だったり、コミュニケーションのあり方の変化について見てもらえたらと。――なるほど。
あと役のキャラクターが被っていると全く面白くなくなるので、それぞれの個性がはっきり出るように演技する11人もよく観察してもらえたらなと思います。それと11人の会話には注目です! 11人の会話ってすごく難しいんですよ(笑)。 11人出ずっぱりで作品が進んでいくのも見所です。――登場人物11人の性格や思いを汲み取りながら見ていくとより楽しそうですね。
役者ひとりひとりが自分のキャラクターや設定を綿密に作っているので、2回、3回と観るならある一人に特定して見ても楽しいと思います。色んな意味で、2回見るとより面白い作品になっていますね。登場人物や物語にしても、新しい発見がたくさんあると思います。それこそ、あの出来事はこういう企みだったのかと(笑)。――今作は先ほど言っていた集団や協力がテーマですよね。現代は人間関係が希薄になっていると言われているからこそ大事なテーマだと思いました。
鹿目が福島の出身なんです。だから東北に行きたいということで、去年から仙台で公演をしています。東北で初めて公演をした時の作品が、家族をテーマにした『サーカス家族』でした。そして今回、"集団"をテーマにした作品をやりたいという話になりました。人と人がコミュニケーションの世界の中でどうやって生きていくのかについて、常に劇団としては考えていたんです。僕は演劇とは何かと聞かれたら、コミュニケーションだと思っています。だから集団というのは大切にしていますね。――そうすると劇団あおきりみかんの大きなテーマがギュッと凝縮されている作品でもあるんですか?
劇団という集団を15年続けてきたことが、鹿目にとって集団をテーマにした台本を書くきっかけでもあったんです。様々な人が集まる劇団という場所は人種の坩堝だと思うんです。自然に"変わった人"が寄ってくる場なんですよね(笑)。僕がうちの劇団の良いところだと思っている所があって、それが鹿目はどんな人にも肯定的な部分を見つけるところです。うちは数年に1回行うオーディションで新しい劇団員を入れているんですけど、その時に僕だったら絶対とらないと思う人を、ちょっとこの人がはいったら問題なんじゃないかっていう人を、鹿目は採用するんです。で、そういう問題児的な人に向けても一生懸命台本を書くんです。きっと1人では周りとぎくしゃくするような人が、不思議なことに一緒に稽古をして集団で演劇をしていくと歯車がうまく回り出すんです。そして本番では舞台の上ですごく輝いている。そういう集団の舵取りが鹿目はすごくうまいです。――鹿目さんの懐の深い人間性が出ていますね。
鹿目は他人の悪いところがあったとしても、それより良いところを見た方がいいんじゃない?と言っていて。僕はその姿を見てきて、芝居は皆が一緒じゃない方がおもしろいんじゃないかと思ったんです。そういう考え方だと、人生が豊かになるというか。例えば100m走があったとしても、劇団員全員が10秒で走ることを目標にしていません。それぞれの良さを光らせてほしいから、"俺は走るお前の絵描いてるわ"とか、"お前が走ってるのを写真撮ってるよ"とか、"私はトレーナーとしてあなたの栄養を管理します"というそれぞれの役割があって集団が成り立っていると感じているんです。そしてその中で自分を磨こうと。あおきりみかんは、"そのままのあなたでいて"というスタンスではなくて、"そのままのあなたを磨いて"という集団だと思っています。――では最後に作品に対する思いやお客さんにメッセージをお願いします。
集団や社会というものに目を向けて、劇団としても悪戦苦闘しながら作った作品です。集団の中で生きていかなければならないからこその悩みや苦しみを持った経験は、誰しもが抱えていると思うんです。けれどその経験を否定するのか、肯定するのか、それとも共存していくのかは人それぞれなんですよね。だからこの物語をどう捉えるのかもお客さん次第なんですけど、それに向き合ったり、乗り越えるための何かきっかけになればいいなと思います。うちは喜劇を目指しているのでお客さんが笑ったり楽しんだりしている中で、何かを感じる作品にはなっているので、是非劇場に遊びにいらしてください。劇団あおきりみかん
『天国の東側』
■脚本・演出 鹿目由紀
■出演 松井真人 篠原タイヨウ カズ祥 花村広大 椎葉星亜(劇団んいい) 木下佑一郎
近藤彰吾 近藤絵里 鹿目由紀 川本麻里那 みちこ フタヲカルリ 平林ももこ 真崎鈴子 山口眞梨
■公演日程・会場
【東京公演】 7月25日(金)~7月27日(日)/シアターグリーン BOX in BOX THEATER
■料金
【東京公演】一般 2,800円