昨年のTVアニメ化を経て、ファンを更に拡大している『有頂天家族』。
現在、第二部を執筆中という森見登美彦と、森見作品は今回が二作目の挑戦となる松村武。
演劇ならではの手法で見せた青春音楽活劇『詭弁・走れメロス』から約1年。
舞台版となる七変化音楽劇『有頂天家族』初日を目前に控え、森見登美彦・松村武の対談が久しぶりに実現した。
――1年前に上演された「詭弁・走れメロス」をご覧になった時のご感想はいかがでしたか?
森見 ホントにびっくりしましたね。脚本の段階では、原作の文章がそのまま、組み替えて並べられてて...という感じだったので、これがどんな舞台になるのか全く想像がつかなかったんですが、観て「なるほど」と。
松村 メロスはもう、ほとんど原文そのままというか。森見さんの小説は地の文章が面白いと思うので、それを会話体に書きかえても全然ニュアンスが出ないなと思っていまして、極力、原文を放り込むという形で(笑)
森見 終盤の方なんか、役者さんたちが舞台の上で、ワーッと力入れて畳み掛けるように演じてて、僕の方も観ていて力が入っちゃって、終わったら身体がバリバリになってて。
松村 千穐楽を観て頂いたんですよね。役者たちも何度も演じてきて、一番スピードが上がっている時だったんじゃないですかねぇ。
森見 小説では、太宰治の文章のリズムやエネルギーを僕なりにどう描くかということを考えて書いていたんですけど、それが舞台になるとこんな大変なものになるのかと。疾走感というか、物理的にも皆さん走ってはるし(笑)。最後のブリーフで踊るところなんて、普通ならすごくバカバカしいシーンじゃないですか。でも高みに高められた状態の時にあれをぶつけられるので、なんだか妙に感動するんですよ。感極まった感じになって、グッときてしまって。なんでこんなところでグッと来てるんだっていう(笑)。あれは面白かったですねぇ。
――森見先生の小説を演劇に立ち上げた時に、台詞の言葉とての面白さもありますよね。
松村 僕も難しい言葉が好きで、よく台詞に書くんですが、時代劇的な言葉とか、古めかしい言い回しとか、森見さんの文章にもそういう言葉が多いじゃないですか。あれをダーッと喋ると気持ちいいんですよ。難しい言葉って、やっぱり発声し難いからだんだん使われなくなっていったんだと思うんですけど、そういう言葉を言える快感というか。「天網恢恢にして漏らさず」とかね。別に意味は伝わらなくていいっていう(笑)
森見 そんな言葉を言う機会、普通ないですよね(笑)。僕は、音読して読むということを想定しないで、字面で見た印象で分かるように書いているので、音読して意味が通じるような文章にはなっていないんじゃないかと思うんですが...
――でも、台詞として声に出していくと、役者さんたちがどんどん高まっていくような印象を受けますね。
松村 やっぱり難しい、古めかしい言葉ってテンションが高いんですよね。それが発せられる時、テンションが低いとなかなか言えない言葉なんですよ。それに引きずられて、役者もこう...カッコよくなっていくというか。
森見 なんだか強制的に背筋を伸ばされているような。その感覚は、書いていてもありますね。
――森見先生がそもそも「有頂天家族」という作品を書こうと思ったきっかけはどんなことだったんですか?
森見 それまで「太陽の塔」とか「四畳半神話大系」とか、変則的なものばかり書いていたので、いかにも王道的な、物語的な展開のものも、一度書いておきたいという思いがあったんです。物語が分かりやすくうねっていって、ベタなんだけど泣いてしまう、みたいな。僕の小説は、そういう王道的なものをいっぺん壊したようなところから始まっているので。
松村 「有頂天家族」は劇的な瞬間が満載で、見せ場の連続なので、すごく演劇向きというか...ありすぎるくらいにあるので、作るのは大変ですけど(笑)。メロスの時、森見さんの作品をまとめて読んだんですが、僕は「有頂天家族」がいちばんおもしろくて。これは演劇に向いてるな、と思っていたんです。それで、なんやかんやで次は「有頂天家族」をやろうって話になって、でもやっぱりよく考えてみるとこれ...ホントに出来るのかって(笑)。
――具体的に「このシーンをやりたい」と思ったところなどはあったのでしょうか。
松村 狸になったり人間になったり、化けていくというのが、演劇で表現していくと面白いだろうなって。色んな手があるなって思ってまして、で、今回実際にいろんな手を使っているんですけど、でもそれだけだったんです(笑)。いざ作り始めると、納涼船どうしようか、どう戦おうかとか。後半になると人が一気に登場するし、もう難所の連続で。稽古場で毎日考え込んでますね。
森見 それと、今度はメロスよりずっと長いですよね。
松村 そうですね、二幕になっていますから。納涼船のところで一幕が終わるんですけど、その時点でかなりお腹いっぱいになっていて、でもそこからさらにもっと長いメインディッシュが来るっていう(笑)
――やはり今回はメロスの時と違って、削ったりまとめたりという部分でご苦労されていたと思いますが、他に違いはありましたか?
松村 メロスの原作は、基本的に全て一人語りで書かれてるじゃないですか。なので、一人語りの分身みたいな事で台詞に振り分けて構成していったんです。でも有頂天は会話がいっぱいあるので、一人称でしゃべっていた人の台詞が急に三人称になったり、人称がめまぐるしく変わっていく、というような事をやっていまして、例えば赤玉先生が急に地の文をしゃべりだしたりだとか。そこが作業していても面白かったところですね。
森見 今回は、セットはどんなものなんですか?
松村 今回はわりと大きい建物というか...3階建てになっていて、いろんなパターンの出口がいっぱいあって、2階に出たり3階に出たり、神出鬼没なセットですね。ブロックを動かしてすべてを表していくっていう、メロスの時とは、また違うアイディアで。階段が多くて上下の移動が多いから、役者の運動量はさらに増してますね。
森見 メロスのときは平面でしたからね。
松村 それであの3人が...
森見 あ~、あの3人の方が!
松村 こっちで通行人、こっちでタクシーの運転手、で、次は銀閣、とか。岩とか、生き物じゃないものもやってもらってる(笑)。裏で走りまわってるんですけど、迷路みたいなセットなので、間違えて曲がっちゃうと違うブロックに行っちゃって、帰ってこれなくなったり。もう稽古でもいっぱい出トチってますからね(笑)。
森見 あの方々は、メロスでもホントにすごかったですよね。『有頂天家族』も楽しみにしています。
アトリエ・ダンカンプロデュース 七変化音楽劇「有頂天家族」
2014/1/16(木) ~ 2014/1/26(日)
本多劇場