「はぐれさらばが"じゃあね"といった」福原充則さんインタビュー

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ピチチ5+三鷹市芸術文化センターpresents 太宰治作品をモチーフにした演劇第10回
「はぐれさらばが"じゃあね"といった」~老ハイデルベルヒと7つの太宰作品~


昭和16年から23年に没するまで、太宰治が晩年を過ごした東京・三鷹。そんな縁もあって、三鷹市芸術文化センターでは2004年より"太宰治作品をモチーフにした演劇"を行っています。
今年は第1回から数えて10回目。

過去には、ポツドールの三浦大輔さんや、サンプルの松井周さん、ままごとの柴幸男さんなど、現代演劇の旗手が作・演出を手がけ、昭和を代表する文豪・太宰の作品を演劇的に味付け、舞台化してきました。

今回、10回目という節目に登場するのはピチチ5の福原充則さん。

近年では舞台のみならず、TV・映画でも数多くの脚本を手掛け、活躍の場を広げています。そんな福原さんがこの企画にどう挑むのか。

稽古も中盤に差し掛かった某日、お話を伺いました。

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福原充則インタビュー


 
――最初にこの企画のオファーを受けた時の印象をお聞かせください。

「この企画はもともと知っていました。いつかやらせてもらえないかなと思っていたんで、やっと呼んでもらえて嬉しいなぁと。僕がやったら合うんじゃないかと思ってましたね」

――合うというとどんなところが?

「もともとピチチは、卑屈な男の人に逆ギレするとか言い訳とか、それを自嘲気味に語るというような作風でやってきたんで、太宰治作品の全てではないですけど、あるテイストの魅力のあるものと非常に似ているというか、共鳴する部分があるような気がして。それで、うまくいくんじゃないかなと思って。今回もお話いただいて、あらためて何の作品やろうかなと思ったときに、"太宰治作品をモチーフにした演劇"という企画だし、一本だけ原作を選んで演劇化しなくてもいいんじゃないかと思って。たとえば、いっさい太宰に関係のない昔のピチチ作品を再演しても、"太宰をモチーフにした演劇"の企画に沿うんじゃないかって思ったぐらい、作品を構成している感情とか、動機になった感情をどういう形にして見せるかという共通点があるんじゃないかと思いました」

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――そう思われた中で『老(アルト)ハイデルベルヒ』を主軸にされた理由はどこにあるのでしょうか?

大学までは高校時代とか大学時代って区切りがあったんです。その後、大学卒業してから35歳ぐらいまでの12年間くらいは同じ時代だったんですよ。それが、ここ数年で急に変わった気がして、卒業してからの12年が過去になったんです。それで"現在と過去"みたいな"時"に興味を持つようになって。この『アルト~』という作品も、ずっと静岡県の三島で、太宰がたわいもないことをしてるってだけの話なんですけど、最後の最後でそれが過去になる。現在進行形で読んでいたのが、現代の太宰が出てきてそれまでの日々が一気に過去にされて、急に色あせる感じが面白いなって。今の自分の心情と合う感じですね。大昔じゃなくて、つい最近の過去の話っていうんですかね。

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ここ3、4年会ってない人が急に過去の人みたいに思えたんですけど、たまたま連絡取り合ってないだけでその人はちゃんと生きているじゃないですか。同じ東京に住んでたりする距離感なのに、急に過去に思えたり。僕が勝手に過去扱いしている人って、相手はどう思うんだろうとか。逆もそうですよね。最近会ってないアイツにあのタイミングで自分は過去にされたなとか。好きとか嫌いではなくて、単純にその人の中で自分史に区切りがついて、違う枠の中に入ったんだなと。嫌われたわけじゃないけど、でもそうなると死んだのと一緒だなとか。そういうことはモチーフになっていますね。タイトルの"じゃあね"も喧嘩した人に"じゃあね"っていうことではなく、いつの間にかついていた区切りの別れみたいなものですかね」

――急に過去に思えるようになった時期とピチチ5の活動がお休みしていた期間が重なりますね。

「ありのままに受け入れようと思ってるんです。芝居も全部そういう構成になっているんで。仮に劇団員に対して過去を感じるとして、でも売れてる人には未来を感じるし、そういう状態を一緒にして、現代にボンと置いたときにいろんな時代が入り混じってて面白いんじゃないかなって。そこに一緒にいても、相手は同じ時間軸にいないんじゃないかなって。久しぶりに集まった稽古場でそういう話になったんですよ。昔話をするやつ、今稽古しているこの芝居のことを話すやつ、この先こうなりたいと未来を話すやつ。ちょうど僕が38歳という年齢だからそう思うのか......。もっと年齢が上の人からしたら"当たり前でしょ"って言われちゃうかもしれない。だから50歳くらいの人たちでも、80歳にみえる人もいれば35歳くらいにみえる人もいる。生きてる体感時間の感覚が変わっていくんですかね」

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――そこが『アルト~』で太宰が感じたことと繋がる?

「太宰が何をやっていたかというと、当時の文壇が小さな世界で、それこそブログの発表のし合いのような、ブログの代わりに小説があったみたいな。太宰は、身の回りのことをちょっとした味付けでフィクションにして作品にしてると思ってるんです。僕がいま思っていることをちょっとフィクションの形で出せば"太宰に対するオマージュです"ってことになるのかなと。もちろんそこに、ある種の照れ隠しと純粋さがあります。そのわりには最終的にはびっくりするぐらいまっすぐ言う、みたいな、どっちだよっていう作品のバランスはあると思うんですけど(笑)。僕はそこだと思っています。小説に限らず、映画だろうが芝居だろうが、どこまで照れ隠しするかの差で、そのバランスを間違えなければいい。太宰マニアの観客から"これ、太宰じゃない"って言われても、そこに関してだけは堂々と反論できますね」

――公演の紹介文にあるとおり「太宰が嫌いな人でも楽しめる」作品になりそうですね。現在、稽古も中盤に差し掛かっています。稽古を通して感じたことはありますか?

「劇団の作風は、結局は役者が創っているものだと思ってます。作家とか演出家を中心に構築されているように見えますけど、やっぱり役者なんですよ。今回、昔のピチチの台本に比べるとちょっと書き方を変えたので、どうなるかなと思ってたんですけど、結局劇団のにおいというか、自分の作品のにおいになるんだなっていう発見とか驚きがありましたね。自分のやりたいことはこの人たち(劇団員)がいると結構簡単に階段上れるんだなって。信頼感というか......良くも悪くもですけど」

――ところで、チラシに"残酷物語"と書いてあるのが気になっています。

「最近、バラバラになっていくことは悲しいなって、当たり前のことを思うんです。20代後半から30歳になったあたりで、芝居辞める、辞めないみたいなブームがあるわけですよ。
でも、そのときはそれ程悲しいと思わなかったのに、40歳目前になって、芝居の世界から離れていく友人をみていると、魅力もあってお客さんからも支持されているのに......これはかなり悲しいなと思ったんですね。あと2、3年もすれば周りはそんな話ばっかりで慣れるかもしれないけど、今の僕にとっては残酷物語なんですよ。もうちょっと年上の人からは当たり前のことかもしれないし、若くて勢いのある人たちからしたら、ただウジウジしているだけに見えるかも。勢いって自分で確認できるんですよ。自分の勢いと見る側の勢いってマッチしてるんですよね。若い頃って、自分ではびっくりするぐらい勢いをキープしてるつもりでも、気がついたら別の勢いのある人や演劇以外のジャンルにお客さんが行ってたり。いまは、面白いとnetで評判になってパッと見に行ってすぐ飽きるみたいな。1、2年で飽きられたら諦められるじゃないですか、あっ何だ、一瞬の夢だったと。昔はそれが5、6年続いちゃうんで気がついたときにはもう手遅れっていうことになりますよね」

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――演劇を取り巻く環境が難しい状況の中、ピチチ5は結成10周年を迎えられましたね。未来については今、どんなことを思われていますか?今回のお芝居でも"己の未来を知っている文豪"というフレーズがありますが。

「それが、未来についての話が全然盛り込まれてない。その要素がズバッと抜けてるんですよ(笑)。この書き方だと(未来を見通せる)エスパーみたいじゃないですか。でも、自分も過去にされてる感はあるんで、そういう立場から見ると、今現在進行形の人が未来人に見えるんですよ。過去と現在の視点で未来が書けちゃったというか、それでその先のことを書かなかったんですね」

――この4年間、福原さんの中ではいろいろな変化があったのですね。震災を挟んでいますが、作品にも影響はありましたか?

「震災が起きてから書いた作品は、打ち出し方の分かり易さ、分かりにくさの違いはあれど、全部震災のことを考えてますね。ことさらそれを言わなくても明らかに自分の中では変わった部分があります。震災で思うこともひとつじゃないですし。今回もちょっと考えてます。災害とか辛い出来事に対しての解決方法として神話とかが生まれたとして、大げさな話でいうと神話的なものを書かなきゃいけないのかなって考えています。とはいえ、宗教的な作品というわけじゃない。今の女子高生に必要な神話とは何だろう? もしかしたらツイッターの140文字でRTされまくってるいい話とか。個人的には嫌いですけど、「RTいい話」、それで救われることもあるじゃないですか。昔は、芝居を見に来るお客さんは楽しみに来てると思ってたんですけど、中にはつらい気持ちの人もいるかもしれない。どういう人が観に来てるんだろうって、観客への想像力が広まりましたね。くだらないコントとかでもいいと思うんですけど、物語は必要だと思ってます」

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――最後に読者へのメッセージをお願いします。

「このタイトルだと文学で硬いという印象を持たれるかもしれない。僕は本を読むのが好きなので、普通に本を読めばそっちのほうが面白いから、芝居でしか見られない見せ方をしていこうと思ってます。太宰作品が嫌いでも楽しめます。あと原作は読まないほうがいい。芝居を見てから原作を読んで騙されたと思うかも(笑)」


取材・文:金子珠美(ぴあ)


【公演情報】

ピチチ5+三鷹市芸術文化センターpresents 太宰治作品をモチーフにした演劇第10回
「はぐれさらばが"じゃあね"といった」~老ハイデルベルヒと7つの太宰作品~
6/28(金) ~ 7/7(日)
三鷹市芸術文化センター 星のホール(小ホール)
[作・演出]福原充則
[出演]菅原永二 / 今野浩喜 / 野間口徹 / 植田裕一 / 三土幸敏 / 碓井清喜 / 三浦竜一 / 広澤草 / 仁後亜由美 / 吉牟田眞奈 / 久ヶ沢徹

※未就学児童は入場不可。
※全席指定学生と全席指定高校生以下券は公演当日要学生証。

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