■新演出!『レ・ミゼラブル』2013■
前回に続き、ぴあ社内レミゼファン&レミゼ関係者が集まっての座談会です。
レミゼ好きが好き勝手を言っているだけ!?
お楽しみいただければ、幸いです。
part1はコチラ。
★ご注意★
※ストーリーに触れています。ネタばれを気にする方はご注意ください。
※文中、俳優さんの敬称有無が入り乱れていますが、トークレポということでご了承ください。
※ぴあスタッフの勘違い・思い込みがありましたら、ごめんなさい...。
◆ガブローシュ・エポニーヌ問題
平野「マリウスの手紙があるでしょ、コゼット宛ての。あれを映画ではガブローシュが届けてますが、舞台版はエポニーヌが届けるの」
戸塚「エポニーヌが男の子の格好をして届ける。それがガブローシュになってしまって」
坂「あれ、なんでだろうね!だって、好きな男のラブレターを自分が届けなければいけないって、すごく切なくていいシーンなのに、ねえ...」
平野「そこで、バルジャンとエポニーヌが出会うわけです。コゼット宛ての手紙をバルジャンが受け取る。映画版ではそれがガブローシュにスライドされたから、バルジャンとエポニーヌが出会っていないんです」
坂「だからラストシーン、迎えに来ないんだよね」
平野「そう。一番最後、バルジャンが死ぬとき、舞台ではファンテーヌとエポニーヌがお迎えにくる。そこがファンテーヌだけだったじゃないですか。あ、あと司教様がちらりと登場しましたが」
廣瀬・小倉「エポニーヌ、バルジャンと接点ないからかー」
戸塚「バルジャンの前にエポニーヌが幽霊で出てきても「あなた誰?」ってなっちゃうからね」
平野「でもそこで迎えにくるところの女声二重唱がすごくキレイなんですよね」
戸塚「そうそう、♪行きましょう~♪ってね。女性のふたりの綺麗なハーモニーになって、両側からバルジャンの手をそれぞれが持って連れていく。あれが目の幅で涙がだーって出るところなんだけど」
平野「そこがソロになっちゃった。まあアン・ハサウェイとサマンサ・バークスを並列に並べるわけにはいかないんでしょうけど」
戸塚「アン・ハサウェイ対策かねぇ。最後、女性ふたりが来てほしいけどね、その甲斐あって、ぜんぶアカデミーに着地してるから。あれは彼女に獲りにいかせたなってかんじだよね。確かにアン・ハサウェイのファンテーヌは演技も歌も本当に素晴らしかったし、彼女の生涯の中でも『レ・ミゼラブル』はエポックになる作品だろうと思う。こういう言い方が正しいかわからないけれど、アイドル的な括りで見られていた人が女優魂をみせ、開花したすごい瞬間を僕たちは目撃したのかもしれない。...という面はありつつも、最近、実は〈ガブローシュ・エポニーヌ問題〉はもっと奥が深いのかも、と思い始めているんだけど」
平野「ほほぉー!...と、言いますと?」
◆『レミゼ』研究がはかどる最大のポイント
戸塚「実は、〈休憩の有り無し問題〉というのがあるのかもしれないと思いまして。『I dream a dream』の入る場所が違うというのはさっき話題に出たけど、映画では、曲順の変更がけっこうあって、特に1幕半ばから2幕あたまにかけ、作品的にものすごく重要な曲の順序が激しく入れ替わってるよね」
平野「はい。大きなところだと、『オン・マイ・オウン』がものすごく早く歌われてました。本来2幕で歌われる歌が、1幕の幕切れである『ワン・デイ・モア』より先に登場してびっくりした。あと個人的に「え!」と思ったのは、『Red and Black』と『民衆の歌』が分断されてたこと。あそこはワンセットだと思ってたので、ちょっと違和感すら覚えてしまいました。それに伴い、舞台では『民衆の歌』→『ワン・デイ・モア』だけど、映画では、『ワン・デイ・モア』→『民衆の歌』の順で登場してましたね」
戸塚「それはね、映画では〈バリケードを作る強い理由付け〉が必要だったのかなと思ったの。舞台だと、休憩を挟んで、2幕の最初に、「バリケードを作ろう」となるわけじゃない。休憩という実際の時間の流れが入ることで、学生たちがそこへ至ったドラマを観客が想像する余地ができる。でも映画は休憩がないから、繋がったドラマとしてみると、舞台のままだと学生たちがバリケードを作る動機が弱いんだよね」
平野「たしかに、舞台ではラマルク将軍の死は、セリフで語られるだけですもんね。それがきっかけだったんだってわかりますけど、映画版はがっつりラマルク将軍の葬儀が描かれていました」
戸塚「うん。ラマルクの葬儀から、偶発的ながらもあそこで学生たちと体制側との衝突が起こる。その勢いでバリケードが作られる。合理的なドラマが作られたよね。だからこそ、『民衆の歌』は、対立前のピリピリした空気の中で歌われる必要があったんだよ。その、〈合理的なドラマ〉を生み出すために、いろいろな玉突きが起こってるんじゃないかなと思ったの。その効果というか、それが映画側の意図なのかもしれないけど、結果、映画は〈希望〉といったものが舞台より少なくなっている。ヒリヒリしたものになったよね」
平野「なるほど。たしかに『民衆の歌』ひとつをとっても、映画は一触即発の、まさに〈戦い〉といった空気で歌われていました。舞台は、明日を信じ、希望を持って立ち上がろう!という歌われ方ですもんね」
戸塚「ほかにも理由はあるのかもしれないけど。これ、玉突きの1個目の理由がわかったら、全部解明しそうだね。いやあ、『レミゼ』研究が捗っちゃうね~。本当は、製作者に訊いてみたいよね!」
◆その他、映画版の雑感あれこれ
平野「戸塚さんの深すぎる考察が飛び出しましたが、もう少しライトな質問に戻します。では印象的だったシーンをお伺いします。私、ガブローシュの歌が昔のバージョンだったのにぐっときた。オールドファンとしては」
戸塚「字幕も、僕らが慣れ親しんでいる岩谷時子訳へのトリビュートがいっぱい入っているよね。あとね、俺はいじわるな女工さん、よかった」
平野「ウェストエンドの有名な舞台女優さんらしいです。あと、『裁き』のシーンのあとでバルジャンが教会に逃げるところ、いいですよね。昔助けた人が、助けてくれるっていうのは。ベタですが」
戸塚「原作にもあるよね。馬車を起こすシーンなんかは、舞台の方がいいかな。映画だと頑張って隙間をあけて引きずり出すけど、舞台は超人ハルクみたいに持ち上げるもんね!」
中島「あと最初のガレー船のシーンも。そんな力持ちキャラなんだ!って思いました」
戸塚「あの船はデカすぎるよね(笑)。人が動かせるサイズじゃないよね、俺、はじめ笑ったもん」
平野「ところで、男の子たちはどうでした? 私、トレーラーとかを見た段階では地味だなって思ったんですが、実際映画を観たら、マリウスとアンジョルラスにキュンキュンしました」
中島「うん、もうちょっと観ていたいと思った。映画は意外とあっさりすぎちゃったかんじ。そもそも学生が全般に薄いというか。パンフをみても学生の役って役者の名前も出してないし、比重が違うんだなって」
坂「アンジョルラスもだけど、学生全般に...なんて言えばいいのかな。舞台版だと"バリケードに殉じる"というのにぐっとくるんだけど、映画ではメインのキャストが民家でダンと撃たれて死んじゃう。バリケードじゃないんだ...って思っちゃった。こっちの思惑とちょっと違うよね」
戸塚「敵の軍勢もちょっとしょぼかった。バリケードも、エピローグのシーンはものすごいけど、実際のシーンではバリケードもしょぼいよね」
平野「まあ、その程度の戦いだったんだろうなって思うんですけど。歴史に名前すら残ってない戦いですから。その名もなき戦いに命を散らす、というのもまた物悲しい。...ちょっと話を戻しますが、アンジョルラス、日本のイメージじゃないですよね」
坂「イメージじゃないねー」
平野「でも、そう思って過去のキャストを思い起こすと、女性キャストはなんとなく"らしい"キャスティングがされているんだけど、男性キャストって日本版も結構いろんなタイプの俳優さんがキャスティングされてるなって感じたんです。...という流れで、マイベストキャストをお伺いします」
◆抜粋ですが、マイ・ベスト・キャスト
戸塚「俺ね、史上最強テナルディエは三遊亭亜郎。♪ねずみもチップをねだる「チュー」♪が好きだった。ほかの人は「チュー」がないから」
平野「テナルディエからいきますか。私は安崎(求)さんがベストです。すごく怖いテナルディエで、三枚目要素が薄くて、こういうテナルディエもあるのかって思った」
坂「俺はオリジナル(斉藤晴彦)がまず出てくるな...あとは今回の萬谷さんが気になる。すごく気になる。『ミス・サイゴン』でいろいろと評判を聞いていて...それは自分は実際観ていない部分の評判なんだけど、今回のプリンシパル昇格はその評判を裏付けているのかなと思って、注目しています」
平野「ではエポニーヌは...」
戸塚「俺は新妻聖子」
平野「私は笹本玲奈です!」
戸塚「いや、新妻聖子!」
平野「笹本玲奈です!...坂さんは昔、ANZAを褒めてましたよね」
坂「うん、ANZAも良かった。今回だと『ロミオ&ジュリエット』でジュリエットを好演していた昆夏美さんに期待しています。あと確かに島田歌穂はやっぱりいいんだよな~」
平野「確かにいいですよね。前回(2011年)のスペシャルキャストバージョンでも観ましたが、16・7歳にみえたもん。...ではファンテーヌは」
坂「俺は和音美桜さんに期待しています!歌唱力抜群だよね~」
平野「私も和音さん大好きです。歌唱力抜群の上、美声なんですよね~!」
戸塚「俺、(初演の)岩崎宏美を観ていないんだよ。でもYoutubeで岩崎宏美が自分のコンサートで『I dream a dream』を歌ってるの見ると、めっちゃめちゃ!いいんだよね~。...実際に観た中では、シルビア・グラブかな。マルシアも良かった。マルシア、すごいシーンがあって。平野も同じ時に観ていたけど、マルシアが『I dream a dream』を歌うところでマイクトラブルがおきて、マイクが通らなくなった」
平野「しかも彼女の初日とかだった気がします」
戸塚「今から『I dream a dream』なのに、って客席全員の緊張感が走ります。そのときにマルシアの上に大きく"このまま歌うから静かにきいてください"って心の文字がみえたよね!」
平野「見えました(笑)。瞬時にオーケストラも音量を下げて...」
戸塚「全員固唾をのむ中で、マイクなしで歌いきって、どわー!って拍手になった。あれはナイスな判断だったよね、あの曲ならできるもん。あの曲だから生声で逆に沁みた。これから死んでいく人とは思えない迫力だったけど(笑)感心したし、たまにはいいかもと思った。名シーンだったよね」
平野「はい」
中島・小倉「へぇ~!」
平野「...ではマリウス・アンジョルラスは」
戸塚「マリウスは岡田浩暉ですね。もう断トツ岡田浩暉です。彼は青くてウブで、未熟な青年の感じがすごくあって、みていて危なっかしい男なんだけど、でも女の子ふたりに好かれるリアリティがあった。危うい、ほっとくと何するかわからない一途なバカさがあって。女性はそういう男に弱いから。俺、男からみてもキュンときたもん」
平野「私は山本耕史です。山本マリウスは、とにかくメロメロに優しいマリウスで、女子としてはもうキュンキュンでした。あと♪僕はマリウス・ポンメルシー♪がちゃんと貴族に見えたんですよ」
坂「僕は泉見洋平かな」
平野「私も好きです!おバカなマリウスでしたよねー。これ、褒めてますよ」
坂「あと、『ミス・サイゴン』で「Why god why」が鳥肌もんだった原田優一さんの「カフェソング」も期待してます」
戸塚「私は岡田浩暉と坂元健児のマリウス・アンジョルラスのふたりにメロメロでした。ということで、アンジョルラスはサカケン」
坂「うーん、僕は岡(幸二郎)さんかなー。岡さんのアンジョルラスは本当に素晴らしかった」
平野「岡さんを出したら、マリウスは石井(一孝)さんですよねえ。...アンジョルラスは、私も坂元さんかな」
戸塚「声量がすごいからね」
平野「あの『民衆の歌』をデフォルトにしちゃうと、ほかの人はちょっと分が悪いですよね」
戸塚「隊長感があるよね。リーダー!って」
平野「でも私、本当はサカケンさんは『ミス・サイゴン』のジョンの方が好きなんです。...あと、今やってる上原(理生)君。彼は歴代の中でも、アンジョルラスらしい、アンジョルラスですよ。と言いながら、前回公演では私、阿部(よしつぐ)さんに号泣しました。さっきの学生たち問題に戻りますが、阿部さんはグランテールの比重があがるアンジョルラスだったんです。結構そこって、重要じゃないですか?私はバリケードでは基本、グランテールを見てるんで」
戸塚「なるほど、グランテールの比重か~。面白いねそれ。...コゼットは、宮本裕子が良かったな~」
平野「...この話題、尽きませんねえ...。バルジャン・ジャベールに到達しませんでしたが、残念ながらそろそろお時間です」
◆まとめ
戸塚「何にせよ、映画を観て、俺は新演出バージョンの『レ・ミゼラブル』を観にいくモチベーションが数倍にもはねあがった」
全員「はい!」
平野「『レ・ミゼラブル』は本当に研究がはかどりますよね(笑)。それだけ、奥深い作品だってことだと思います。ちなみに新演出版、先日稽古場に行って来ましたが、すごく良いかんじでした!」
戸塚「新演出も、きっと一度や二度観たくらいじゃ研究が追いつかないよ。今日話したことで新たな見方もでてきたし、これは新演出ではどこがどうなったか、誰がどうなったか、また語りたいよね!」
公演は5月3日(金・祝)から7月10日(水)まで東京・帝国劇場(4月23日(火)よりプレビュー公演あり)にて。
東京公演のチケットは、現在発売中です!
その後福岡、大阪、愛知でも上演されます。