■新演出!『レ・ミゼラブル』2013■
去る2月25日、アン・ハサウェイが『レ・ミゼラブル』でアカデミー賞助演女優賞を獲りました。
『レ・ミゼラブル』映画、本当に大ヒットしていますね。
私の周りでも、舞台を観たことがないけれどレミゼ映画を見てファンになったという人がどんどん増えていってます。
この『レミゼ』熱を、舞台開幕まで保ちたい!
と思い、ぴあ社内レミゼファン&レミゼ関係者を集めて座談会を開催いたしました。
映画版と舞台版の違いから感動ポイント、自分のベストキャストまで。
...皆、好き勝手話しているだけではありますが(笑)
たまにはこんな更新も、いかがでしょうか?
★ご注意★
※ストーリーに触れています。ネタばれを気にする方はご注意ください。
※文中、俳優さんの敬称有無が入り乱れていますが、トークレポということでご了承ください。
※ぴあスタッフの勘違い・思い込みがありましたら、ごめんなさい...。
【出席者】
戸塚...社内の演劇ご意見番のような存在。『ぴあ』編集部副編集長、チケット営業の演劇班グループリーダーなどを経て、現在は落語「柳家三三で北村薫。」シリーズや、「地獄のオルフェウス」など、ぴあ主催興行のプロデュースをしている。
坂...『レ・ミゼラブル』を初演から見ているツワモノ。ブロードウェイなどにもよく観劇に行く。現在は会員サービスを担当している。
中島...『レ・ミゼラブル』の2011年公演時、チケット営業の演劇チームで東宝案件を担当。
廣瀬...今回の『レ・ミゼラブル』の最初の販売まで、チケット営業の演劇チームで東宝案件を担当。最近ミュージカルに目覚め、東宝担当だった間にもっとミュージカルを見ておけば良かったと悔やんでいる。
小倉...現在、チケット営業の演劇チームで東宝を担当、『レ・ミゼラブル』でも奮闘中。
平野...販売促進媒体の編集担当。ミュージカル好き。当連載も担当しています。
◆まずは、映画の感想から。
平野「映画は皆さんご覧になったんですよね」
廣瀬「はい。でも私、舞台で『レ・ミゼラブル』を観たことないんです」
小倉「私もです」
戸塚「それは大変幸せなことです。これから観ることができるんだから」
廣瀬「でも映画を観て、ほんとに舞台が楽しみになりました。音楽がいいですよね。国際フォーラムの、映画版の来日のイベントに伺って、あのときに初めて曲を聴いたと言っても過言ではないくらいだったんですが、すごく印象に残って。映画で観ると、同じ曲が何回も繰り返し出てくるんですよね。帰りは口ずさみながら帰りました。すごく印象に残ります。歌唱力もすごいし」
中島「私も本当に楽曲が素晴らしいと思う。ストーリーも普遍性があるし。私はちょうど3.11大震災の直後に開幕した年に初見したけど、ふといろいろなことに重ねて観ることができる懐の深さがありました。独特の感慨・感動があったという意味でも忘れられないかな」
小倉「私も、何が良いってひと言で言いにくいんですが、もし少女漫画だったらエポニーヌはもっと嫌なやつに描かれますよね。そんなエポニーヌはじめ、誰もがいろんな背景があって、そういう人生を選んだってちゃんと描かれているのがすごいなって思いました」
平野「そうそう、テナルディエですら悪者じゃない...というか、あの時代にはしょうがないというか。私、テナルディエというキャラクターがすごいと思うんですよ。虐げる権力者側と虐げられる民衆、という話だと、民衆側を美しく悲劇的に描きがちだけど、虐げられる市井の中にも悪いやつがいてしたたかに生きている、というのはリアルですよね」
坂「あぁ、そうだよね。テナルディエってスパイスとしてきいてるんですよね。彼がその時代の人間の生活を表してる」
戸塚「最後まで死なないのって、コゼットとマリウスと、テナルディエ夫妻だけだもんね」
坂「僕は小学生の頃に初演を観て、それから10数年『レ・ミゼラブル』を見ていなかったんですが、『民衆の歌』と、リトルコゼットの曲(『幼いコゼット(Castle on a Cloud)』)はずっと頭に残ってた。大きくなってようやくCDを聴いたり、実際観るようになって、ようやく繋がったんだけど、それだけ残ってたのってすごいなって」
平野「やっぱりミュージカルは曲がいいのが一番ですよね。大前提ですよね」
中島「スーザン・ボイルが歌ったのも曲が良かったからですよね」
戸塚「『I dream a dream(夢やぶれて)』ね。映画版に限った話じゃないんだけど、『I dream a dream』問題というのがあって...」
◆『I dream a dream』問題
戸塚「日本のレミゼファンの心理からすると、『I dream a dream』より『オン・マイ・オウン』の方が"待ってました"的気持ちは高い。日本では女性役で一番人気なのはエポニーヌだと思う。でもそれは、島田歌穂という人がエポニーヌの役をあまりに日本で大きくしてしまったんだよね。でももういちどシンプルに戻ってみると、あきらかにファンテーヌが全然ウェイトが上で、大きな役。だからスーザン・ボイルも『オン・マイ・オウン』を歌うんじゃなくて、『I dream a dream』を歌うし、アン・ハサウェイもファンテーヌになるわけで。それは逆に、いかにエポニーヌという役が日本ですごく大きくなったかということを実感できる瞬間だったよね、映画を観ていて」
平野「あと、映画版、『I dream a dream』の入り方、素晴らしくなかったですか!?」
坂「素晴らしかった!」
廣瀬・小倉「どのあたりがですか?」
平野「あれ舞台では、ファンテーヌが工場を追い出されてその流れで歌うのね」
戸塚「髪は長いし、帽子もかぶってるし、まだ綺麗な状態で♪夢を見ていたわー♪って歌うの」
平野「映画では、落ちぶれてボロボロになったあとに歌うの」
廣瀬「あれ印象的ですよね!思い出すだけで泣ける。CMでも使われてるところですね」
平野「私、あの歌はあそこで歌うべき歌だと思った!」
坂「あそこまで堕ちてからね~」
戸塚「でも私はその問題は根深いと思っていて。そのあと、あのメロディはどのように使われるかを考えると、マリウスとコゼットが初めて出会うところ(パリのシーン)、ふたりがぶつかって♪ごめん 気付かなくて♪、あれ『I dream a dream』のメロディだからね。要は、あれは恋心がある、ほのかに人を思う気持ちがないと出てきてはいけないメロディだから、やっぱり工場を追い出された直後、自分を捨てた男にも思いが残っているところで歌う曲だと思う。映画の、髪を切って歯を抜いて、初めてのお客さんをとってお金を投げられる音がして..."あの人はいないけど私は待ち続けてる"という歌は、実はリアリティあるのかなって思うよ。そのあとさらにドン底があって、まだほのかに恋心、青春、夢を見ていた自分を甘く回顧するニュアンスじゃないと、あと同じメロディが出てきたときに、微妙なつながり具合に違和感が出てきちゃう。...だけど映画はあれはもう、アン・ハサウェイのためにあそこにしましたってもんだよね。ワンカットの撮影で、鼻水もたれてすごいことになって。アン・ハサウェイという人をフィーチャーするんなら、あの場面に入れるよね。髪は短い状態で歌わなきゃ、髪を切った意味がない。地毛で切ったのよ、それ映してくれないと!ってね(笑)。それはもう、アカデミー狙ってきて!って感じだよね」
廣瀬「その通りに、獲りましたからねぇ」
◆ミュージカルファンの習性?
戸塚「今の話でもあったけど、『レ・ミゼラブル』は、どの曲とどの曲が同じメロディが使われているか、というのは誰でもやるよね」
平野「探しますね~。レミゼに限らず、ミュージカルはたいてい。ミュージカルファンの習性ですよね」
戸塚「レミゼは大事なメロディが多い。特に、『Who Am I?』は、ジャン・バルジャンが仮出獄許可証を破ったあと、『At the End of the Day(一日の終わりに)』になるところもだし、日本版ではカットされているけどロンドンオリジナル版とかのCDを聴くと、最初の『Look down』の前にもそのメロディが入ってるし、『ワン・デイ・モア』もあの曲がベースになってメロディが乗っかる。要するにジャン・バルジャンの自分探しの話なのよ、全部。バルジャンという人が自分は誰だ、俺は何なんだ、囚人の24653なのか、いや市長だ、ジャン・バルジャンだ...いろいろあって、最後に自分は信仰に生きる人間であると、そこに至っていく自己発見の旅なの。生涯をかけての。だから私は誰だ...『Who Am I?』という曲が要所要所に音楽で必ず入ってくる。そういう骨格が一本貫いている」
小倉・廣瀬「(ちょっとあっけにとられる)」
戸塚「あと、ナンバーではなくて、オーケストラで流れているメロディというのもすごくドラマを補足している。ジャベールが死んで、『Stars(星よ)』がかかるわけですよ。『Stars』って、刑事たちの真実を探す足取りを星たちは照らし出すって歌じゃない。自分では高らかに歌うのに、そこに『Stars』が流れると、その星の光はジャベールの死を悲しく見つめる冷たい光だったってことになるじゃない。...誰が考えるんだろうね、よく出来てる。構成がすごい。それにジャベールの自殺とバルジャンが改心するところの曲は同じだし」
平野「私は、そこは〈ジャン・バルジャンという世界〉から逃れた、という風に解釈してるんですけど。バルジャンは自分の名前を捨て、ジャベールの場合は、バルジャンを追い続けた、つまりバルジャンという存在に囚われ続けた自分の人生にそこで決別した、という」
戸塚「私は自分の人生の価値観を根底から変えてしまうことを言われた人が直後に歌う歌だと思っています。ジャベールは、バルジャンが自分を助けてくれて、自分も信念を曲げてバルジャンを見逃す。今まで人生で大切にしてきたものが全部変わってしまったあとにあれを歌う。でも、バルジャンはそのあとで『Who Am I?』がかかって、"誰なんだ私は"と、もうひとつの新しい物語が始まる。ジャベールは、『Stars』がかかるわけですね。...あと、アンジョルラスがバリケードで撃たれて、盆がまわってバリケードの裏が見えると、アンジョルラスが逆さづりになって死んでいるシーンがあるんですが、そこで拍手するのが舞台のお約束なんだけど、ここで『Bring Him Home(彼を帰して)』がかかるわけですよ、オーケストラで。それは、そこを書いた人も、アンジョルラスにだって、うちに帰らせてあげたかったさ、という母心だよね!」
平野「映画では、ガブローシュの亡骸にジャベールが勲章を置くシーンで流れましたね」
戸塚「うんうん、あれもまさにガブローシュもうちに...まあ、彼には家はないから、どこかへ...帰してあげたかったさ~、っていう、誰かの心の声だよね...」
◆新曲『Suddnly』と、司教の声問題?
廣瀬「映画版は新曲が入ってたんですよね。どれですか?」
戸塚「コゼットをひきとったバルジャンが馬車の中で、小さいコゼットを見つめながら歌う曲ね」
平野「これも皆さんに訊きたかったんですが...新曲のインパクト、弱くなかったですか?」
坂「うん」
戸塚「映画版にするにあたってボーナストラックを入れるみたいなお約束があるからね」
平野「でもそのインパクトの薄さで、逆に『レ・ミゼラブル』って名曲揃いなんだなって改めて思いました」
坂「それに、あとから知ったんだけど司教役、コルム・ウィルキンソンだった」
平野「私も全然知らなかった!イベント取材に行ったりしてるんだから、リリースをちゃんと読んどけって話なんですが、見ながら「...あれ?」と」
廣瀬「誰ですか?」
坂「ウェストエンドと、ブロードウェイの初演のバルジャン。『Bring Him Home』というのは彼のためにかかれた曲。超大物なの」
戸塚「でも司教の出番も増えてたよね。映画はバルジャンが召されるところにも出てた。......司教の声問題というのもあってね。映画ではかなりざらついた声だった。日本の司教様は、ビブラートのかからない、まっすぐキレイな、教会のコーラスみたいな声質の人ばっかりなのよ。日本人的な耳でいうと、あの司教の声は違うと思うよね」
平野「違うと思うけど、コルムだー!という感動はありますよね、単純に」
◆映画版の物足りないポイント
平野「話は変わって、映画版が素晴らしかったのはもちろんなんですが、その中で物足りないポイントも訊こうかと思って。わたしは絶対、学生たちの描かれ方が弱すぎると思う。グランテールはまあ、彼がグランテールってわかるけど、それでもガブローシュが飛び出していくのを止めたりするのもイマイチだったし。学生たちの中には舞台ファンとしては結構なメンツがいるんですよ。ウェストエンドのアンジョルラスとか、どこそこで何々を演じていた人、みたいに。それなのに、誰が誰?と」
戸塚「グランテールというのは、バリケードの中に酒飲みがひとりいるんですよ。やる気がなくて怯えていて、酒を飲んでごまかしていて。マジメに革命に参加してないから、アンジョルラスはもうひとつ彼には距離を置いている。彼が乾杯を差し出しても、彼の杯を受けなかったりしてるんですが、最後総攻撃でみんなで死んでいくときに、アンジョルラスが死んじゃうと、狂ったようにバリケードのところにたって、最後にはじめて戦いに参加して、撃たれて死んじゃうのね。...でもちょっと映画は、ぜんぜんあっさりでしたよね」
廣瀬「ほんとは名前がひとりひとりあって、見せ場があるんですね」
平野「そうなの。今日はクールフェラックを見ようとか、コンブフェールを見ようとか、できるの。それが映画では全然不満でした」
坂「まあその分、ガブローシュに焦点がかなり当たったよね、映画版」
戸塚「ジャベールがガブローシュの死体の上に勲章を置くシーンは、舞台ではないですよ」
廣瀬「ないんですか!?」
平野「そう、そこでジャベールがすでにちょっといい人...というと違うかもしれないけど、そういう顔を見せちゃったから、最後の、バルジャンを助けたことで、自分の信念を曲げてしまった、自分の人生はなんだったのか...だから自殺する、という心情の流れがちょっとぼやけちゃって」
坂「あれれ、って思っちゃいましたよね」
平野「もちろん、泣いたけど。あのシーン、号泣したけど」
戸塚「これは私の勝手な想像だけど、ラッセル・クロウがそうしたい気持ちが入ってあのシーンを作ったというようなことがあるんじゃないかな。じゃないとジャベールけっこうしんどい役だから。舞台は、バルジャンとジャベールが手をつないで笑顔でカーテンコールに出てくるわけでしょ。あれが救われるんですよ」
小倉「へぇ...でも、すごくガブローシュが印象的でした!」
廣瀬「私にもわかりやすくて、良かったです」
平野「というところで、ガブローシュ問題も、ありますよね」
戸塚「ガブローシュ問題もすごく大きいね~」
...長くなってしまったので、いったんこれまで。
まさかの<次回へ続く!>です。
公演は5月3日(金・祝)から7月10日(水)まで東京・帝国劇場(4月23日(火)よりプレビュー公演あり)にて。
チケットは発売中!
その後福岡、大阪、愛知でも上演されます。