『うかうか三十、ちょろちょろ四十』演出・鵜山仁×藤井隆×鈴木裕樹インタビュー&稽古場レポート

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1983年の創立以来、井上ひさしの戯曲を専門に上演してきたこまつ座。 99回目を数える公演に選ばれたのは、作家・井上ひさしの原点である『うかうか三十、ちょろちょろ四十』。 昭和33年(1958年)に雑誌「悲劇喜劇」で初めて活字になった戯曲にもかかわらず、これまでこまつ座で上演されたことがなかった幻のデビュー作。
満開の桜の下で展開される二十年あまりの物語。 その長い年月の変化がぎゅっと凝縮されたこの作品が、井上作品の演出を手掛けたら右に出る者はない鵜山仁によって上演される。
主人公のとのさまを演じるのは近年舞台での活躍も目覚ましく、一昨年『イロアセル』で鵜山とタッグを組んだ藤井隆。 鵜山さん、藤井さん、そして鵜山演出作品初参加のD-BOYS鈴木裕樹さんの3人に作品の見どころを語ってもらいました。
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――『うかうか三十、ちょろちょろ四十』は一見シンプルなストーリーですが、深い魅力を持った作品ですね。

藤井 「読んでみて、東北のお国言葉がすごく楽しかったですね。短いお話ではありますが、その間に年数もあっという間に経ちますし、とても濃厚な物語だと思いましたね。でも堅苦しくないから、そこが面白いなと」

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鈴木 「不思議な話ですし、面白いですよね。ブラックユーモアともいえるし、人間の深い真理のようなものを感じられる作品だと思います」

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――藤井さん、鈴木さんは井上ひさし作品に臨むのは初めてだそうですが井上さんに対する印象はどんなものでしたか?

鈴木「僕は岩手県出身なんですが、祖父が小学校の校長先生だったんです。学校から帰るとじいちゃんに本を渡されて言われるんです。『これを読んで、毎日15行くらいずつ書き写せ』と。その中に井上さんの作品があった記憶があります」

鵜山 「へー!」

鈴木「当時は正直めんどくさいなと思ってたんですけど(笑)、そんなこともあって馴染みはありました。お芝居を観ても思うのが、登場人物の感情の豊かさ。怒ったり笑ったり泣いたりがいっぺんに来るような。そのスピードが速い。だから僕も、どうやってその豊かさを表現しようかと試行錯誤しているところです」

藤井 「僕は何本かお芝居を拝見したり、作品を読んだりしていて、おこがましいですが、救いがあったりチャーミングな部分をいつも感じるんです。『悲しくなる』『苦しい』じゃなく『悲しくなっちゃう』『苦しくなっちゃう』のように、『ちゃう』という部分があるような気がして、そこにいつも救われますね。人やモノに対する愛らしい目線を感じます」

――現時点での手応えは?

鵜山 「みんな遊んでくれるからありがたいですね。我々の仕事は、音のサービス業みたいなものだから。鈴木くんも藤井さんも地方出身ということで実はそれが強みだぞと思っているに違いない。標準語というスタンダードな音だけじゃなくて、"地"の音が身体の中にある。井上さんもそういう音がほしくて方言で書かれてると思う。音の幅、それはもちろん気持ちの幅だったり人間の幅だったり、宇宙とひびきあうもっと大きな広がりだったり。そういう交信を心がけている感じです」

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――鵜山さんから観た藤井さん、鈴木さんの魅力は?

鵜山 「ふたりとも声がいいですよね。ストレートに届く。それから陰と陽、裏表の身替りがあんまりヌメッとしてない」

藤井鈴木 「(笑)」

鵜山 「どっちかというと僕自身はヌメーッとしてる方なんですよ。藤井さんも鈴木くんも、かなり直線的。俳優さんってそういうところありますよね。裏と表と、観てるお客さんの気持ちと、やってるパフォーマンスの爆発力との間をいったりきたりする仕事だから。ふたりとも役者らしい役者だと思います」

――逆に役者のおふたりから観て、演出家鵜山さんはどんな方ですか?

藤井 「初めてご一緒したときの本読みで、一行一行ごとに『このセリフはどう思われますか?』というのを最初に聞いてくださったんです。その頃はひとつのセリフを掘り下げることをしていない時期だったので、最初はどうしようかと思って。その時の『イロアセル』という作品はすごく抽象的というか、夢のようなお話だったから、その夢のような物語をする時にこそ、自分がこう思っているとか、こんな関係性とか、そういう想像力を膨らましてクリアにしておかないと突飛なところにいけないということを教えていただいた気がするんです。本当に全然考えてなかったから、大慌てで『これは後半に出てくる血の色をイメージした赤です』とか言ってたんです」

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鵜山鈴木 「(笑)」

鈴木 「すごい方だと思いました。あの......、鵜山さんのおっしゃることが、失礼ですけど一回聞いただけではあんまりちゃんとわからないんですよ」

鵜山藤井 「アハハハハ!」

鈴木 「でも『こういう感じでやってみて』と言われてやってみると、なるほど! と腑に落ちる」

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――セリフの意味を役者の皆さんに問うというやり方はいつもですか?

鵜山 「作品にもよるけれど、要するに僕自身がわかんないから、どうしましょうかって話になっちゃう。僕のもってる答えはそのままだと面白くない。正解というよりも何でもいいから面白い答えが見つかればいい。だいたい舞台の上でやりとりを重ねて生まれることって、一人ひとりが元々持ってるんだけど意識していない、宝物みたいに埋まってるものを、むしろ相手が掘り出してくれるものだと思うんですよ。出てくるも出てこないも相手役次第。台本も相手役だし、照明ももちろんお客さんも。そうやって相手役に触発されて出てくる音でないと、わざわざ劇場で観たって満足度が少ないですもんね」

――稽古場の雰囲気はどうですか?

藤井 「休憩があまりないんですよね」

鵜山 (ハッとしたように両手で口をおさえる)

藤井鈴木 「(笑)」

藤井 「でも小林勝也さんが本当にパワフル、といったらありきたりですけど」

鈴木 (深くうなづく)

藤井 「小林さんがすごくエンジンをかけてくださるし、田代隆秀さんの真摯な向き合い方にも教わることは多いし、福田沙紀さんが最初からセリフが頭に入ってて焦るし(笑)。福田さん演じるちかの娘・れい役を担当する、Wキャストの阿部夏実さんと松浦妃杏さんがかわいらしくて」

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鈴木 「劇中に歌があるんですけど、昨日はふたりで仲良くそれを歌いながら入ってきて、それがすっごいかわいかったんですよ」

藤井 「しっかりしている一方で『靴はけない!』とか言って転がって笑ったりしてる子どもらしさもあるし」

――れい役のおふたりが稽古場の空気を温めているわけですね。

藤井 「と、鵜山さんですね。鵜山さんが昨日も立ち上がって七転八倒されてるのをみたら、身が引き締まります」

鵜山 「気の毒で(笑)?」

藤井 「違いますよ(笑)。前日に『信じられないような形になってみましょう』と言われたのに、僕ができてなかったんです。そしたら七転八倒を実演してくださって、改めて申し訳ないと思ったんです」

鈴木 「そう、実演してくださる」

鵜山 「ちょうど今やっている『根っこ』という芝居で渡辺えりさんと一緒で。えりさんは演劇学校で僕の二年先輩なんです。演出中に実演してみるとえりさんの目線が気になるんでね、『ヘタですか?』って聞くと『うん、ヘタ』って」

一同 「(笑)」

鵜山 「だからまあ、うまくやる自信は全然ないですよ。でも、やっぱり言葉だけじゃ伝わんないことってあるし。とくに僕の場合は(笑)」

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――それで時には七転八倒も辞さず。

鵜山「きれいに行くようだったら僕が役者をやってますよ」

一同 「(笑)」

藤井 「振り返ったら稽古初日にやってたことなんやったかな?って思うくらい変わってる場面もある。その変化が面白いです」

鈴木 「僕はやっぱりまだ頭で考えながらやっている部分があるから、そこをスコンと抜いて、自由に面白いことができたらなと思っています」

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鵜山 「稽古初日に言ったんですが、この作品は『芝居がどのくらい人の役に立つか』という芝居だと思うんです。だいたい井上さんはそういう芝居が多いですけど。これで役に立たなかったらごめんなさいというぐらいの作品ですから、皆さんそのつもりでご覧になってください。この芝居がダメだったら演劇の未来はない。とはいえ堅苦しいものではないので、演劇の楽しさを満喫してもらえれば」


■プロフィール
【演出】
鵜山 仁
1953年、奈良県生まれ。文学座演出部所属。主な演出作品に、『グリークス』『女たちの十二夜』『リア王』『ロンサム・ウェスト』『ゆれる車の音』『舞台は夢―イリュージョン・コミック』『くにこ』など。こまつ座では『雪やこんこん』『人間合格』『マンザナ、わが町』『連鎖街のひとびと』『紙屋町さくらホテル』『円生と志ん生』『化粧』『芭蕉通夜舟』。『父と暮せば』などで読売演劇大賞優秀賞演出家賞、『おばかさんの夕食会』などで毎日芸術賞千田是也賞、『コペンハーゲン』などで紀伊國屋演劇賞、『兄おとうと』などで読売演劇大賞グランプリと最優秀演出家賞、『ヘンリー六世』で読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞している。1987年の『雪やこんこん』以来、こまつ座の公演を1700ステージ以上手がけている、井上ひさしが絶対的な信頼をおいていた演出家のひとりである。

【出演】
藤井 隆
よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。主な出演作品[舞台]『スペリング・ビー』(演出:寺崎秀臣)『ザ・キャラクター』(作・演出:野田秀樹)『イロアセル』(演出:鵜山仁)『エッグ』(作・演出:野田秀樹)[テレビ]『ザ・狩人』『土曜日はダメよ!』 [映画]『模倣犯』他。第37回ゴールデン・アロー賞芸能賞、第15回日本映画批評家大賞新人賞他、受賞。今回、こまつ座への初出演となる。

鈴木裕樹
ワタナベエンターテインメント所属。2004年ミュージカル『テニスの王子様』でデビュー。主な出演作品[舞台]『ラストゲーム』(演出:茅野イサム)『アメリカ』(作・演出:赤堀雅秋)『ヴェニスの商人』(演出:青木豪)『LOVE LETTERS』(演出:青井陽治)『クールの誕生』(演出:山田和也)[テレビ]『ゲゲゲの女房』『その男、副署長シーズン3』『チーム・バチスタの栄光』[映画]『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』『ひまわり』『百年の時計』他。今回、こまつ座への初出演。


【稽古場レポート】


 
稽古場に入ると、昨日と変わったらしい小道具の違いを話しながら、リラックスした様子の藤井さん、鈴木さん。和やかな空気の中、稽古が始まりました。

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「ここは『なんでこんなことを言うんだろう? 信じられない』と呆れる気持ちを入れてみて」と具体的な指示をする鵜山さん。時にはインタビューの中で語られていたような実演も。

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鈴木さん演じる権ず(ごんず)が病に伏しているシーン。福田沙紀さん演じる妻のちかに支えられ起き上がろうとする、そのタイミングを鵜山さんをはじめとするスタッフ、共演者にも相談しながら繰り返し繰り返し試していました。

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小林勝也さんが登場し演技をはじめると、稽古場のそこかしこから笑い声が。稽古場の空気が一段とやわらかくなります。

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小林勝也さんの言動に時々素の表情で笑いながらも、真摯に稽古に取り組む藤井さん。東北弁がすっかり板について、のんびりとやさしい、でも物悲しいとのさまの空気ができあがっていました。

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鵜山さんの一言で、大掛かりな変更が。スタッフがものの数分で仮のセットを組み、藤井さん、小林さんもその変化に対応して稽古を続行。

やわらかな口調で時折冗談を交えつつも次々とリクエストを出す鵜山さん。それにすぐに応えていく俳優陣。自分の出ていないシーンでもアドバイスをしあったり、小林さんの演技に思わず笑ってしまったりと、厳しさを和やかさが同居した稽古場でした。本番ではこの作品がどう変化を遂げるのか、楽しみです!

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取材・文:釣木文恵


【公演情報】
こまつ座 『うかうか三十、ちょろちょろ四十』
5/8(水) ~ 6/2(日) 紀伊國屋サザンシアター(東京都)
6/9(日) 川西町フレンドリープラザ(山形県)
6/13(木) サンケイホールブリーゼ(大阪府)

問い合わせ:こまつ座 03-3862-5941
http://www.komatsuza.co.jp/

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