大竹まこと、きたろう、斉木しげるの3人で1979年に結成されたベテラン・コントユニット、シティボーイズ。
それぞれ映像ジャンルでの活動も多いが、ゴールデンウィーク周辺に行う舞台公演は、例年チケット完売御礼の人気ステージ。
昨年は公演がなかったため2年ぶり、そしてさらに、シティボーイズを中心とした伝説のユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」に参加をしていた宮沢章夫が24年ぶりに参戦するとあって、ファンの期待度はMax!
タイトルも『西瓜割の棒、あなたたちの春に、桜の下ではじめる準備を』と、なんだか思わせぶり!?
一体どんなステージになるのか気になるところ。
3月某日、げきぴあはその稽古場に伺ってきました。
シティボーイズ(大竹まこと、きたろう、斉木しげる)
&
宮沢章夫(作・演出)
インタビュー
――24年ぶりに宮沢さんが作・演出を手がけることになった、その経緯から教えてください。
宮沢「それはきたろうさんが酔っぱらった勢いで(笑)」
きたろう「いやいや、僕ら3人の中で『そろそろ宮沢、笑い溜まってんじゃないか?』っていうのがあったんですよ。それで"何が今面白いのか?"、宮沢に教えを請おうと飲み屋に呼び出して」
宮沢「僕は別の予定があったので、ちょっと遅れて行ったんです。そうしたらすでにきたろうさんは酔っ払っていて(笑)、着くなり『やらないか?』って。まったく予想していませんでしたね」
きたろう「"機が熟してる"って感じはあったけどね」
宮沢「別に機が熟してはいなかったと思いますけど(笑)、タイミングがよかったんですよ。もし大学(※宮沢は今春まで早稲田大学の教授を務めていた)を続けていたら、出来なかったことですから」
斉木「僕はやってくれないと思っていたからね」
宮沢「でもそんな断れる雰囲気じゃなかったんですよ。その場で指切りまでさせられて(苦笑)」
斉木「(笑)。その話をきたろうさんから聞いた時、改めて宮沢さんの本を買って読んだんだよね。そうしたら『なんだ、全部ギャグじゃないか』って」
きたろう「そう。やっぱり宮沢の根底は、全部ギャグなんだよね」
宮沢「横光利一の短編小説『機械』を11年かけて読み解いた、『時間のかかる読書』という本も、言ってみれば冗談ですからね。でもそれが人には冗談だと理解されず、伊藤整文学賞の評論部門までとってしまって...(笑)。まさか!と思いましたよ」
大竹「まぁともかく、宮沢が引き受けてくれて嬉しいよね」
宮沢「頼まれた時に、『俺たちはもう死ぬから』って言われて...(笑)」
大竹「でもそのつもりだよ。とにかく俺たちは、『最後までとんがって死ぬんだ』って思ってる。それは俺たちにとってとても大事なことであり、俺たちらしい感じがするんだよね」
――久々にシティボーイズの脚本を書いてみていかがでしたか?
宮沢「楽しかったですよ。思考の方向が、"笑わせる"っていう一点ですからね。しかも若い人では出来ないこと、すごく実験的なことでも、どんどん先に進めることが出来る。それはシティボーイズと、いとうせいこうくん、中村有志くんという、技術のある人たちだからこそ実現出来ることなので。例えばスマートフォンで調べ物をするシーンなんて、この3人じゃないと面白くならない気がするんですよ」
大竹「情けない、特殊性を買われてるわけだ(笑)。でも『どうだ!』って感じはあるよな。あそこで『客笑ってるか?』って言いたくてしょうがない(笑)」
宮沢「あのネタは最初に思いついたんですよ」
大竹「脚本を読んでても、スリリングだなぁって思うよね。ただ観ている側にとっては、これだけスリリングだと話の筋の方が際立ってきちゃう気もするんだ。それが宮沢の脚本の力なんだけど。そのスリリングなことに、観客が負けてしまう可能性があるというか」
きたろう「今回のタイトルだって、深読みする人はいっぱいいるだろうね。なんでそんな無駄なことをするんだろう?」
大竹「だから『バカでいいですよ』っていう提示を、もっとちゃんとした方がいいのかもね。演劇の客って、大体ちょっと頭でっかちだから。それをやめて欲しい手立てを考えないと」
斉木「でもそのお客さんの想像力を、どれだけ演者が裏切っていくか、みたいなところもあると思うよ。どんどんいろんなことが積み重ねられていく分、『お客さんがついていけるかな?』って不安もあるけど、『それ自体、楽しんでもらえるんじゃないかな?』って思いもあるから」
宮沢「かつては走り回ったりとか、ジェットコースター的な見せ方もあったと思うんですよ。でも今それはちょっと違うし、そもそもみんな、昔ほど動けないので(笑)。それと同じことを、何か、違う方法でやる、というか...」
大竹「『別の力を使って』って言えよ!」
宮沢「別の力をね、圧倒的な別の力を使ってやる(笑)。さっきのスマートフォンのシーンにしても、座ってはいるけどすごくスピーディですからね。だから僕としては、すごく実験的なことを書ける場を与えてもらったなって。このメンバーだから出来ることがいくつもあるし、みんなどんどん意見も言ってくれる。つまりいとうくん、中村くんも含め、演出家が6人いるような感じ」
きたろう「もううるさくてしょうがないね(笑)。でも最終的な判断は、全部宮沢に任せてるから」
斉木「そういう意味じゃ、まだまだこれからだよね」
宮沢「えっ!?」
――(取材日から)初日まであと2週間ほどですが...。
斉木「いや、やっぱり慣れてこないとギャグは出て来ないから」
宮沢「斉木さん、今日、急に生き生きしましたよね?(笑) 何かスイッチが入った感じ」
斉木「まぁ自分を解放しないと、なかなかスイッチは入らないよね」
宮沢「スマートフォンのシーンの、あれですよね?」
斉木「まぁね(笑)」
――それは本番のお楽しみ...ということで。では演出される上で、特に心がけていることは何ですか?
宮沢「僕はとにかく、俳優をカッコよく見せたいんですよね」
きたろう「でも宮沢も出たいのか、すぐ立って、見本を見せようとするよね」
宮沢「僕もやりたいんですよ(笑)。あとこれは、稽古場ならではのリスクのなさ(笑)。俳優は客前に出ないといけないというリスクを背負っていますけど、演出家にそのリスクはないですから」
きたろう「結局、やりたくてしょうがないんだよな」
斉木「でもうまいよ、実際に」
宮沢「いや、シティボーイズが自然と見せる、あの"あうんの呼吸"はやっぱりすごいなと思いますよ」
きたろう「生理だよね。コントって、すごく"生々しい"ものだから。生々しさって本当に難しくて、ハマるとすごく面白いけど、ハマらないとただ醜いだけ。コントはその綱渡りなんだよね」
大竹「いつもそんな難しいこと考えてんの?」
きたろう「考えてはいないけど(笑)、一応取材用に」
大竹「『コントは生々しい』なんて、お前の口から初めて聞いたよ」
きたろう「でも本当に生々しいんだよ。コントを作る時って、はなからセリフのないところから始めて、それを台本に起こしていくわけだから。そこが演劇との違いであり、コントが評価されない部分でもあるのかもね」
宮沢「でも今、僕が選考をしている岸田戯曲賞って、ほとんど上演台本を対象にしているんですよ。つまり叩き台の本はあっても稽古場で変更したり、役者が動いて作ったものを改めて書き起こして、それが候補として挙がってくる。つまり演劇も、コントの作り方とあまり変わらないんですよね。そこは演劇自体が変わったのかなって」
きたろう「確かにそうかもね」
大竹「で、そういうことを越えて、きたろうさんが魅力的だってことを言いたいわけ?」
きたろう「いやいや、その違いを言ってるだけでさ」
宮沢「まぁよければいいんですよ、どっちでも。さっきの斉木さんのスマートフォンのシーンでも、脚本を書いた時は、あんなふうになるなんて想像もしてなかったわけですから」
大竹「宮沢、首かしげてたもんな(笑)。宮沢の顔が、もうしょうがないって顔になってた」
宮沢「でもそれが面白いじゃないですか。俳優が生き生きしてる瞬間が。生き生きしちゃったなぁって(笑)」
大竹「普通、生き生きした年寄りは醜いものだけどね(笑)」
宮沢「それを演出するってことの面白さですよ。大変さはまったく感じないですし、やればやるだけどんどん出来ていく。だから大丈夫だと信じてやっています」
大竹「よし!」
(その瞬間全員がイスから立ち上がって、取材は終了)
稽古場レポート
稽古場に足を踏み入れた瞬間、その光景を見て感激せずにはいられませんでした。だってあの伝説的パフォーマンスユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」のメンバーが、一挙集結しているのですから。しかもそこで繰り出されているのは、ナンセンス色の強い、くだらなさ全開のネタのオンパレード! 往年のファンはもちろん、ラジカルを知らない世代にとっても、新鮮かつ、カッコいい笑いが、そこには溢れていました。
作・演出を手がけるのは、なんと24年ぶりにシティボーイズに参加する宮沢章夫さん。演出家としての鋭い視点から、的確な指示を出されるのですが、キャスト陣の演技に笑いが止まらないといったようす。24年ぶりとは思えないほど、宮沢さんが演出する姿は稽古場に馴染んでいます。
ラジカルメンバーにして、近年のシティボーイズ作品にも欠かせないのが中村有志さん。シティボーイズの3人に振り回されるキャラクターを担うことが多いですが、今回も冷静な大竹まことさんの前で、かなり苦しそうな表情。中村さんにいったい何が!?
こちらもラジカルメンバーで、シティボーイズへの参加は久々となるいとうせいこうさん。いとうさんが手にしているのは、杖のようにも見えますね。でもこれ、どうやら杖ではなさそうです。ちなみにその隣にいる戌井昭人さんも、今回かなりいい味出してます。
そしてシティボーイズのきたろうさん、斉木しげるさん、大竹まことさん。この3人がそろっただけで、不思議と笑いがこみ上げてきます。大竹さんも「この3人の風景はすごいな」と苦笑い。そんな3人のやり取りは、すでにセリフなのか、アドリブなのかがまったくわからないほど絶妙。この中からシティボーイズの笑いは生み出されていきます。
マイペースなお2人、きたろうさんと斉木さんは駐車監視員に扮しているよう。もちろん取り締まるのは駐車違反ではなく、ある意外なものなのですが...。
チラシにも登場しているキャリーバッグ。こちらも笑いのための重要なアイテムです。そして宮沢さんの提案をきっかけに、元ラジカルメンバーが意見を出し合い、どんどん笑いが増幅されていきます。
真摯に笑いに取り組むおじさんたちの姿は、
やっぱりカッコいいですね。インタビュー時に宮沢さんから語られていましたが、やはり"年齢を重ねたからこその笑い"がここにはあります。
仕事で来ているとは思えないほど、お客さん状態で笑ってしまった取材陣。帰り際にそのことを大竹さんに詫びると、「いいんだよ、そのためにこっちはやってるんだから」と笑っていらっしゃいました。結成から34年、今なお進化し続けるシティボーイズ。その過程を垣間見て、やはりこれは劇場で、生で観なければ!と再確認したのでした。
取材・文:野上瑠美子
公演は、4月2日(火)~13日(土)に東京・世田谷パブリックシアター、
4月19日(金)~21日(日)に大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ、
4月23日(火)・24日(水)に愛知・名古屋市青少年文化センター アートピアホール、
5月4日(土・祝)・5日(日・祝)に福岡・北九州芸術劇場 中劇場にて。
チケットはいずれも発売中です。