青春音楽活劇『詭弁・走れメロス』稽古場レポート&松村武×武田航平×市川しんぺーインタビュー

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●ヒラノの演劇徒然草●


年末から年明けにかけて上演される舞台『青春音楽活劇「詭弁・走れメロス」』
原作は、文学史に残るかの太宰治「走れメロス」...ではなく、これを人気作家・森見登美彦が現代に大胆に置き換えた「新釈・走れメロス」です。

置き換えた、といってもそこは森見登美彦。
一筋縄ではいきません。
メロスにあたる主人公、芽野史郎は、自分の所属する「詭弁論部」の部室奪回をかけ、大学内で絶大な権力を持つ図書館警察長官とある約束を交わします。その約束の期日までに必ず戻ると親友・芹名を人質として長官のもとに置いていきますが、詭弁を弄するひねくれ者の巣「詭弁論部」。友情を成立させたい人々の妨害をかいくぐり、約束を守ってたまるか!とばかりに、芽野の逃走劇が始まります...!
太宰の「メロス」とは、むしろ正反対!?
なのですが、これこそが芽野にとっての友情の証、という部分もあるような...
いやいや、やはりくだらない!?
でも、くだらないことを大真面目にやる姿から、「青春」の2文字が浮かび上がってくる、とても愛らしく爽やかな物語です。
そして、森見作品といえば!もちろん舞台は京都です。
逃げまくる芽野にあわせ、スピーディに流れて行く京都の光景を、舞台でどう表現するのかも注目。

12月某日、この作品の稽古場に伺い、スタッフ&キャストにインタビューをしてきました。melos00.JPGmelos30.JPG

脚本・演出:松村武
芽野史郎役:武田航平
図書館警察長官役:市川しんぺー
インタビュー

 

――まず作品の魅力を教えてください。

松村
「『走れメロス』をパロディにした森見先生の小説が原作なんですが、小説がすごく面白くて、でも演劇にするには難しいところがあるんです。たとえば会話があまり出てこない、とか。普通小説を劇化していく時は会話を作っていきますが、会話だけにしていくと、森見節がなくなっちゃう。ですので、なるべくその森見節...小説の面白さを演劇の中で消さないように苦労しています。地の文を全部セリフで言っちゃったり、いろんな視点に飛んだりね。小説とは別物というより、森見先生のファンの人が観ても納得してもらえることを目標に、小説の面白さ自体を芝居の面白さにうまく嵌めていければと思っているところで。その結果、演劇的にいろいろなことをやらなきゃいけなくなって(笑)、それが逆に面白い、って感じの作品になっていると思います。あとは森見先生の作品ってすごく動き回るでしょ。一ヵ所に留まっていない、移動していくというのを制限のある舞台の中でどう表すか。限られた人数のキャストがいろんな役になったり、急に黒子になったり、棒(1?)になったりを激しく繰り返します。地の文に書いてある京都の光景がお客さんの脳裏に見えるように、錯覚をおこさせたいと思っています」

melosb.jpg武田「本当にそのとおりなんです。舞台の上で「京都を走り回る」って無理でしょ、って思われると思うんですが、このインタビューを読んだ方がお芝居を観にきたら、そういうことか、と納得していただけると思います! 見事に京都を表現しています。想像を超えるものになっています。普段僕を応援してくださる方、こういう作品に出会うことってなかなかないと思うんですが、衝撃を受けると思います!」

市川「いやいや、演劇慣れしていない人だけじゃなくて、普段から演劇を観ているお客さんもびっくりするんじゃないか(一同笑)。あまりにもめまぐるしくて、「凄すぎてくだらない」というのが褒め言葉なパターンですよ(笑)。演劇を知らない方にはもちろん衝撃的でしょうけど、演劇知ってる人には「そこまでやるか!」というびっくり感があると思います」


――なんだか凄そうですね!

松村
「身体の酷使っぷりはすごいですよ。休みなく走り続けてる感じで、ステージングに小野寺修二さんが入っていますから、その中で「小野寺動き」あり、普通のダンスあり、歌あり、セリフあり、セット移動あり。セットはブロックをどんどんみんなで動かしていきます」

武田「みなさん、ひとりひとりがいろんな役を演じているんですが、このあいだ小林至さんが、「役じゃなくて作業員だ...」って言ってました(笑)。作業員役、じゃなくて」

市川「役者とスタッフを兼ねている感じだよね(笑)」

武田「至さん、小手(伸也)さん、(西村)直人さんたちは、一度も(舞台袖に)はけないんじゃないですかね。これ以上言うともったいないくらい、見ていて面白いです」

市川「一回、はけている時があったんだけど、ほんのちょっとの時間なのに「ヒマで何していいかわからない」って!」

武田「小手さんも、ほんの数秒、何もやることがなくなっちゃうと、手持ち無沙汰でそわそわして、「僕、ここなんかできます!」みたいな(笑)。自ら忙しくさせていってましたよ」

松村「1秒で3つのことをやるくらいのスピード感です。セット運びながらハモってる、とか。だいたい普通ね、物事って削っていくものなんですよ。削って洗練させていく。...今回はどんどん足してどんどん過剰にしていってます(笑)」melosd.jpg

――武田さん、稽古をしていていかがですか?

武田「松村さんって、すごくいい意味でぽーんと発想がぶっとんでるんですが、何せすごく頭がいいんですよ!松村さんが表現したいものがわかるんですが、そこにいくのが大変なんです。それが表現できたらすごく面白くなるんですが、それができないから今すごくプレッシャーになっている...」

melosa.jpg松村「でも、大変なハードルだと思うんですよ。結構ハイレベルだし、あまりお手本がないような芝居ですし、どう取り組んでいいかわからないものを彼に要求しています。でも彼はできると信じています。武田君は、すごく芯があって、「下町のワル」なんですよ。平成の寅さん的な。線が太い。揺るがないものがあるので、どんどん詰め込んでいっても適応していくし、存在が死なない。普通、このキャストの中、こういう感じで作っていったら、主役が埋没しちゃいますよ。でもぜんぜん死んでない。将来有望だと思いますよ!」


――市川さんは図書館警察長官という役ですね。原作には「小太りで肌がツヤツヤしている」とありますが...

市川「オファーを頂いたときに原作を呼んで、「肌がツヤツヤしている」...ああ俺か、って思いました(笑)。美肌の秘訣はよく訊かれるんですが、手入れをしないことですね。あと人生の苦労を自分がしないで周りの人に渡す(笑)。...長官は、大学を牛耳っている人ですが、トラウマがあって、愛だの友情だの信頼だのをなにひとつ信用していない。でも芽野君が芹名という友人のために走って戻ってくるっていうから、芽野が信じさせてくれるのかも、と。彼は友情を信じられないからこそ信じたいんですよね。芽野に比べたらそうとう素直な人間です。それをことごとく裏切られるという構造になっているんです。だから悪役のように描かれつつ、たぶん一番切なくピュアなんじゃないかな」

melosc.jpg松村「しんぺーさんは、同じ時代に劇団やってきて、ノリをわかってくれてる人がトメの位置にいる。トメに育ちが違う大ベテランの人ととかがいると、特殊なことをやるときに説得していかなきゃならないこともありますが、しんぺーさんは完全にわかってくれるし、むしろ推進してくれます。芝居の技術に関してはなんの心配もないし。しんぺーさん以外のキャストも小劇場界を支えている力のある人たちですので、僕がこうやるんだ!って言わなくても、次々面白いアイデアも出てくるし、集団で作っていける感じがあります。その空気の中で航平なんかも物怖じせずいろいろ言ってきたりしてますし、みんなで動いて作っている感じがいいですね」

市川「わりと同世代の劇団の方たちは、止められなければ台本が終わってても続けるみたいな人たちだと思うんで。演出家の顔色をちょこちょこ伺いながら(笑)」

武田「でもこないだしんぺーさん、松村さんに何も言われないの、これでいいのかな...って心配してました(笑)」

松村「いろいろ違うことがやれる人たちだから。いろいろやってほしかったんです。泳がしてます。ガチガチなところと、なんかちょっと緩んでいて「どうなるかわからないぞ」という空気が混ざった感じにしたいんですよね」


――最後にお客さまへのアピールをお願いします

武田「僕は今本当に、皆さんについていくのが必死で、毎日家に帰って「ああ...まずいぞ...」と思ったりしているんですが。でも11年間仕事して初めてこんなに、ただやりたい、挑戦したい、これを必ず届けたいと思えるくらい情熱と愛情をもっています。そういう作品に自分が出会えていることが本当に幸せで、毎日を過ごすのが嬉しい。日本の片隅にいる26歳の男が必死になって何かを伝えたいと思っているものを、同世代の方には共感していただきたいですし、下の世代の方には憧れてもらえたり、上の世代の方にはこいつら頑張ってるなと思っていただきたい。思いっきり笑えるふざけた話なんですが、なぜか心ぐっときます。芽野の必死さと自分の必死さがリンクして、松村さんの世界観にひきこまれていってもらえれば嬉しいです」

市川「青春音楽活劇なんで、楽しくて、僕らの内なる「青春」と「音楽」と「活劇」を出して行く話なんですけど。中心にいる人間が詭弁論部という一筋縄でいかない人たちなので、青春なのか活劇なのかわからない感じで進んでいきますが、観終わったら「青春音楽活劇」だったんじゃないのかな?って思ってもらえると思う。「そうじゃないものが展開しているはずなのにそう思ってしまった」、みたいな不思議な芝居になると思うのでぜひ来てください」

松村「森見先生の話は、本当に馬鹿馬鹿しいんですが、結果的に爽やかなんですよね。それを「青春」という言葉なんですが、今回もそこを目指しています。太宰の『走れメロス』のいいところは残しつつも、文芸大作ではなくバカな感じになっていますが、落ち着きどころは非常に爽やかな友情。それを成立させるために、演劇的にはアングラな感じになっています。「そんな演劇的なことはやらないだろう」ということを逆にやっている。キャストも技術ということに関してはトップレベルの人たちが集まって、その中に若くてイキのいい人たちが混ざっているのが、演劇としてとても魅力だと思います。たぶん1時間半くらいでサクっと終わりますし(笑)...そのうち1時間以上走ってますけどね」

市川「1時間半くらいの芝居で、情報量3時間分くらいですよね。でもちっちゃい話が壮大に見える。「なんだかすごいこと言ってるな」ってセリフが、よく聞くとたいした事ない(笑)」

武田「ぐっときているのに「何言ってるんだろう?」と思うと、ぐっときてるのが馬鹿馬鹿しくなる(笑)」

市川「でもそうだとしたら、どうでもいいことで人生は楽しめるっていうことですよね!」

melose.jpg 



続けて稽古場も拝見してきました!

稽古場レポート


上記のとおり、内容としては、もともとの太宰の『走れメロス』とは真逆の話になっているのですが、原作がそこをパロディとして成立させている最大の要因はその文章。
文豪・太宰の文体と、スピード感ある森見節がミックスされているのです。
小説ならではというべきその特徴が、冒頭から見事に舞台化されていました。すごい!

芽野史郎役、武田航平さん。
無駄にシリアス、劇画チックな表情がバシっと決まっています。森見節!melos01.JPG

芽野とかたい友情で結ばれた(?)親友、芹名雄一役は山下翔央さん。
山下さんは芹名としてのセリフ以外に、インタビューで松村さんが話していた「地の文をセリフに」した部分を語るシーンも多いのですが、淡々としながらも盛り上げていくようなセリフまわしが上手い!
melos31.JPGこちらは芽野と芹名が所属する、詭弁論部の面々。
彼らがこたつにあたっているかと思えば...melos03.jpg
図書館警察の説明が入ったり...melos04.JPG
ヒロイン・須磨さんが登場したり...melos05.jpg
ぽんぽんスピーディに視点が変わっていきます。
須磨さん役は紅一点、新垣里沙さん。
詭弁論部のほぼ全員の男を悩殺した女性、という須磨さん役を新垣さん、小悪魔チックに好演。


こちらが「肌がツヤツヤしている」図書館警察長官の、市川しんぺーさん。melos06.JPG
これは何をしているんでしょう...melos07.JPG
上の写真で長官の取り巻き(?)だった西村直人さんは、あっという間に今度は黒子に。melos09.JPG
長官、何かを思いついた風です。
市川さんのうさんくさい表情も、イイなあ~。melos10.JPGある約束を芽野に迫る長官。
オリジナルの「走れメロス」の要素を取り入れつつ、とんでもない展開になっていきます...。melos08.JPG
そして芹名が運ばれてきました。
この連れて来られ方も、いちいち大げさで面白い。
そしてこんなありえないポーズなのに、どシリアスな山下さんの表情!melos11.JPG
友情の握手を固く交わす、芽野と芹名ですが...。melos12.JPG
そして突如始まる歌!
そうです、「音楽劇」なんです。melos13.JPGmelos14.JPGmelos15.jpg♪詭弁、詭弁♪というコーラスがぐるぐる頭の中にまわる、いい具合にくだらなくてキャッチーな曲です。
めちゃくちゃ面白いことをやってるのですが、これを、大真面目な表情でやっていくキャスト陣。
マジメにやればやるほど面白くなっていきます。
これ、写真で伝わるかしら...。


続けて「須磨のテーマ」のシーン。
新垣さん扮するヒロイン須磨さんは、生湯葉とコーラをこよなす愛するヘビースモーカー。
可愛い顔でタバコをふかす新垣さん、意外なほど似合います!melos20.JPGmelos21.JPGmelos22.JPGさすがアイドル、パッと目が惹きつけられる華やかさもあって、担当、無駄にシャッターを切りまくってしまいました。melos23.JPGmelos24.JPGこちらも♪生湯葉、生湯葉♪というコーラスが...頭の中でリフレイン。
新垣さんもドマジメな顔で、くだらないことを全力でやってくれています。
今まで見たことのない新垣さんの新しい顔が見れるかも!?
ファンの方も要チェック!


キャストの方々はキリリとした顔で大真面目にやっているのですが、稽古場を拝見しながら、こちらは大笑いしてしまいました。
みなさん、くだらないことを真剣に全力でやっています。
でもそれって、まさにここで描かれている「青春」の姿でもあるのかもしれません。
ものすごい大傑作が生まれる、かも!
そんな予感がする稽古場でした。



公演は12月27日(木)・28日(金)にKAAT 神奈川芸術劇場 大スタジオ、1月4日(金)から17日(木)に東京・博品館劇場、2月2日(土)に大阪・サンケイホールブリーゼにて上演。
チケットはいずれも発売中です。

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