11月、四代目市川猿之助さんが"猿之助"を襲名後、明治座に初登場します。
三代目"猿之助"の精神を受け継ぎ、若手の澤瀉屋を牽引する市川右近さんをはじめとした花形役者を中心に、時代物、舞踊、そして通し狂言と、歌舞伎の魅力をたっぷり楽しめる演目を上演します。
9月22日、この興行の取材会が行われ、意気込みを語った猿之助さん。
げきぴあでは、この時のお話しを余すところ無くご紹介します!
--6月7月に行われた襲名披露公演の手応えと猿之助となって心境の変化はありましたか?
今回は多くのお客様にお越しいただきまして、それが一番何よりです。無事に千秋楽を迎えられました。心境の変化というより、周りの扱いが変わりましたよ。今までは載らなかったのに、テレビ欄に名前が載ったりするようになりました。自分はこの名前には慣れましたけど、気をつかっていただいたり周りの人の方が慣れていないかもしれないです。
--「亀治郎」という名前を大きくしたことと、襲名前にいつかまた「亀治郎」という名前に戻るとおっしゃっていましたが。
テレビなどで僕を知っていただいた人が、「歌舞伎をやっている人なんだ」と思って見に来ていただけたら嬉しいです。明治座さんもほかの歌舞伎公演に比べると値段を安くしていただいたし、2幕構成になっているので、若い方でも見やすくなっていると思います。
もう「亀治郎」という名前のポスターなどを見ると、違和感を感じるようにはなりました。いつか「亀治郎」ではなく「亀翁」になりたい。僕は古美術が好きなんですが、古美術でも○○翁という名前が多いし、猿翁さんはいらっしゃるから・・・「亀翁」になりたいです。
--明治座に「猿之助歌舞伎」を根付かせたいという意識はありますか?
あまりそういう意識はないですが、まずはこの1か月やってみて、もし好評で、毎年やろうと言ってもらえたらありがたいですね。まずは第1回を成功させたいです。
--明治座で先代猿之助さんをご覧になっていた昔からのお客様を意識されますか?
昔の方というよりは、今見に来てくださる方を意識したいです。
--明治座という場所への思い入れは?
個人的な思い入れはすごくあります。子供のころ一番楽屋で遊んでいた劇場なので、歌舞伎座と明治座は僕のなかですごく印象に残っています。「御贔屓繋馬」の時には楽屋で蜘蛛の糸を撒いて遊んでいました。(三代目の)猿之助さんから蜘蛛の糸をもらった覚えがあります。浜町会館という稽古場が裏にありまして、先の門之助さんが向かいに住んでいらした。「猿之助歌舞伎」のなかでも子供心におもしろくて覚えている演目は、全て明治座で復活したものでした。そこで公演を行うのはすごく思い入れ深いし、嬉しいです。
--明治座の設備についてはどんな印象ですか?
前回公演は「四ノ切」だったので少ししか劇場にいなかったけど、楽屋も広くて設備も新しいので安心です。明治座は宙乗りのワイヤーが見えないようになっているんです。鳥屋も天井から降りてきてまた収納される。猿之助の宙乗りの為に造ってくれたようなものだったんですけど、新装になってから猿之助は出演していないんです。
--襲名後、初の東京公演で「天竺徳兵衛新噺」(以下「徳兵衛」)を選ばれましたね。
博多座で2月にやらせていただき、非常にうまくまとまったのと、明治座は今は歌舞伎があまり浸透していないので、定着させる為にもコンパクトなものが良いという意味で選びました。猿翁さんの時よりすごく短くしましたよ。最後の踊りをなくし、1時間ぐらい短くなりました。初演は5時30分以上かかっています。短くしても重要な所、蝦蟇や小平次など、お約束のところは全部入っています。でももっと短くしたいくらい。個人的には「お芝居みてご飯を食べて」というのが一番良いと思っているので。明治座は劇場の中では一番お弁当が美味しいですよ。「亀博」でも展示した巨大なガマはお気に入りです。もっと大きくしたいくらいです。
--「徳兵衛」について。
「三代猿之助四十八撰」の中で、早替りはあっても「徳兵衛」は比較級で言えば楽な方。徳兵衛と小平次がそれぞれまとめて出てきて、こまめに早替りをする訳ではないので。「加賀見山再岩藤」のように役が互い違いになっているものは大変ですけど。怪談ものは楽しいですね、(怖がって)お客様の反応もあって。やっていて楽しいのは女の幽霊だけど、男のおばけは珍しいです。
--過去に「徳兵衛」の公演で事故があったと聞きますが、お祓いはしますか?
回向院でおがんでおきます。(「徳兵衛」を上演した、2月の)博多座公演の時もおがみました。「縁起担ぎ」というよりも、「礼儀」を大切にします。小平次も徳兵衛も実在した方ですので。
--「蜘蛛絲梓弦」(以下「蜘蛛絲」)は五度目の上演ですが、今までとの違いはありますか。
セリに飛び込むなど色々工夫をしてやりつくした結果、工夫しすぎない方がいいと思ったので、今回はシンプルに還ってやります。
--「紅葉狩」などの、こういった雰囲気の舞踊はぴったりですね。
妖怪変化が似合いますし、割と好きです。夜は妖術使いですし。魑魅魍魎にひかれているんですかね。
逆に「三姫」なんかはニンではないんです。「葛の葉」とか「玉手御前」とか・・・この世ならざるものが良い。それだけ普通のお姫様は難しいということですね。
--最初に浅草公会堂で「蜘蛛絲」を演じたきっかけは?
「お染の七役」などと迷ったんですが、澤瀉屋の精神として、物語があって起承転結があるものが良いのではということで選びました。博多座公演から四天王が揃って登場して、ここから派手になりました。
--「三代猿之助四十八撰」を今後どのように行っていくのでしょうか。
「御贔屓繋馬」などもおもしろいし、顔ぶれと準備期間を見てやれそうなものはやりたいですが、何でもやるのではなく、再検討が必要なものもあります。これを決めたのも随分前ですからね。僕は女形から入りましたけど、いずれ関兵衛もやるかもしれないですよ。
--共演者についてお聞かせください。
今歌舞伎界には女形が少なくなってきているので、中村米吉くんには本当に期待しています。僕等の世代でも女形が減っている。歌舞伎から女形がいなくなったら問題だし、本当に頑張ってほしいと思っています。身体も細身で女形に合う、大事な人材です。ゆくゆくは「神霊矢口渡」や「合邦」、「しゃべり山姥」などやって欲しいです。合邦なんかは僕も古い小屋とかでやりたいですね。
【公演情報】
公演期間:11月3日(土)初日~27日(火)千穐楽
会場:明治座(東京都中央区日本橋浜町2-31-1)
開演時間:昼の部 11時/夜の部 16時30分
観劇料(税込):一等席(1階席/2階正面)12,000円
二等席(2階左右1・2列)8,000円
三等A席(2階席左右3・4列/3階正面)5,000円
三等B席(3階左右)3,000円