7月某日、キャラメルボックス『アルジャーノンに花束を』の稽古場に伺ってきました。
『アルジャーノンに花束を』はダニエル・キイスが書いたSF小説。
学生時代に読んだ、読書感想文で書いた、という人も多いのでは。
幼児並みの知能しか持たない青年が、脳の外科手術で人並み以上の知能を得ます。
その結果、彼の身に起こったこととは...。
全世界で900万部を売り上げているという名作中の名作を、オリジナル脚本により、キャラメルボックスが舞台化します。
今回は、主人公チャーリイ・ゴードンと、彼の教師であるアリス・キニアンがダブルキャスト。
この日はチャーリイ=多田直人、アリス=渡邊安理の〈アクア〉チームの「通し稽古」でした。
小説ではチャーリイが記す「経過報告」の形で、物語が紡がれていきます。
手記だけで綴られた話を、どう立体化するのか。
そのあたり、これまでも様々な小説を舞台化してきたキャラメルボックスの手腕はさすがのひと言。
小説の世界観を崩さない、原作へのリスペクトが感じられる舞台に仕上がっていました。
物語にとっても、幸せな舞台化だなあ...と思います。
原作ファンが観ても感心することうけあいですよ!
チャーリイ・ゴードン役の多田直人さん。
手術を受ける前のチャーリイは「あったかい、心からの笑顔」を持っていた、と小説には描かれています。
多田さん、そんな笑顔がとても自然で、イイです!
ものを覚える動作に、おそらく多田さんオリジナル要素を入れてみたり(微妙に、日本的かも!?)、お茶目な部分もありました。
アリス・キニアンは渡邊安理さん。
チャーリイを導く優しい教師から、次第に恋愛関係になっていく、という難しく、切ない役どころなのですが、渡邊さん自身が持つポジティブな個性からか、爽やかなアリスになっていました。
タイトルの「アルジャーノン」は、チャーリイと同じ手術を受け、賢くなったハツカネズミの名前です。
外科手術に成功したチャーリイのIQは、どんどん向上していきます。
人並みに、そしてそのラインを飛び越え、「天才」に...。
次第に顔つきも変わっていく多田チャーリイ。
「劇的に」ではなく「徐々に」変わっていくなめらかさに注目。
「天才」になったチャーリイは、自分の知識に劣るまわるの人たちを見下します。
最も彼が冷たく当たったのは、チャーリイの手術(実験)を行ったニーマー教授と、ストラウス博士。
このあたりの、ヒリヒリとした感情も見もの。
チャーリイに見下されプライドを保とうとするニーマー教授、ベテランの大内厚雄さんはさすがの巧みさ。
チャーリイはしかし、天才のままではいられません。
このあと、物語はなんともやるせない結末へ向かっていきます。
チャーリイを取り巻く人々、それぞれがそれぞれに人間の愚かさと優しさを持っていて、とても切なく、また身近に感じられるのですが、特に私の涙腺崩壊ポイントは、チャーリイが働くパン屋の人々と...。チャーリイの家族、特に林貴子さん演じる妹のノーマ、でした。
0が100になり、また0に戻ったチャーリイ。
二度目の「0」は、「一度、手に入れた」からこそ喪失は悲しく、マイナス100にも、マイナス1000にも感じたでしょう。
でもパン屋の人々やノーマの姿に、一度目の「0」の時にはなかった「救い」が感じられるのです。
シリアスでシビアな話ですが、ファンタジックな温かさもあり、そしてキャラメルボックスが常に追求している「人が人を思う気持ち」に溢れた素敵なステージになりそうです!
ちなみにもうひとりのチャーリイ=阿部丈二さん、もうひとりのアリス=岡内美喜子さん(〈イグニス〉チーム)も、〈アクア〉チームに別の役で出演しています!
阿部さん、なんかちょっと胡散臭い...?
岡内さんの役は、後半、何気に涙腺を持っていかれてしまいました...。うーん、阿部さんのチャーリイも気になります...。
公演は7/21(土)から8/12(日)に東京・サンシャイン劇場、8/16(木)から24(金)に新神戸オリエンタル劇場にて。
チケットは発売中です。