■見なきゃ損!話題の公演■
ブラックボックスのような舞台の上に、いくつもの箱が置かれています。それを4人のキャストが崩したり、動かしたりすることで、何もない空間がリビングにも、教室にも変わっていく。そこで繰り広げられるのは、サンタクロースを信じる男とその妻、息子の物語。ある日、大統領(川平慈英)が「巨大な惑星が地球に向かっている」と発表。同じ頃、天文学者のハワード(勝村政信)は夜空を駆け抜ける8頭のトナカイとサンタクロースを目撃します。以来「サンタクロースは存在する」と周囲を説き始めるハワード。9歳の息子スティーブン(風間俊介)と妻のモー(草刈民代)が困惑する一方で、息子が大人になる前に、地球に惑星が衝突するまでに、大事なことを伝えなければと、彼は思いがけない行動をとり出して......。
家族の物語ですが、たんなる家族モノとは違う。日常会話に思えるセリフの中に世界の現実、人類の歴史、宗教の真実、宇宙の神秘といった、人間にかかわるすべてが盛り込まれているのです。その事実に気づいたら、一瞬たりとも目が離せません。一体、ハワードは何を伝えようとしているのか?シンプルなセット、時折、奏でられる印象的で美しいピアノの旋律(作曲・演奏:前嶋康明)が、観る者のイマジネーションをぐいぐいとかきたてます。研ぎ澄まされた空間の中で、カラフルなのが4人のキャスト。父と息子の温かなつながりをみせる勝村さんと風間さん。草刈さんが演じる3人の女性には、面白い共通点がある気がします。物語のキーパーソン役を務める川平さんは、早替えをしつつ、個性的な10役以上を熱演。果たしてその正体とは......!?
作者のリー・カルチェイムが9.11の事件に影響を受けて描いたという本作。あの日以降、人々が抱えている喪失感が浮き彫りにされると同時に、ハワードの思いも明らかになっていきます。彼は何を信じればいいのかわからない現実の中で、未来を生きる息子のために、サンタクロースを"信じようと決めた"のだ、と。それがわかった時、熱いものが一気に込み上げてきて、胸がいっぱいになりました。
箱を動かしながら演じるキャストとともに、頭の中で積み木を重ねるように、愛すること、信じること......さまざまな考えをめぐらしていく。そんな感覚が味わえる演出(鈴木勝秀)は実に新鮮。ところでサンタクロースは本当に存在したのでしょうか。それはぜひ劇場で確かめてみてください。
(文・宇田夏苗)
『ビリーバー』のチケット情報はコチラから
【ニュース】 "信じる"ことの大切さを問いかけるハートフルで少しビターな物語
勝村政信、草刈民代が舞台で共演。米劇作家リー・カルチェイム最新作『ビリーバー』