名作から珍品まで。空腹注意の"うまい"落語会

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9月14日に予定しております

「文春らくご噺で味わう江戸グルメ」。

屋台育ちの江戸前の四天王、"食"をテーマにした落語会です。
誰もが思いつきそうで実は過去にほとんど例がないこの企画。その理由は当日明らかに!
本公演を企画した演芸評論家・長井好弘さんよりコメントが届きました。

                      文・長井好弘(演芸評論家)

らくご.jpg

誰が名付けたか知らないが、「江戸前の四天王」という、心惹かれる言葉がある。 江戸の昔から庶民に愛された鰻、そば、寿司、天ぷらは、明治維新から大正、昭和、平成を生き延び、令和の現在も、我々日本人にとっての身近な「ごちそう」だ。

かつて、落語の世界に三遊亭天どんという気鋭の新作派が台頭してきた頃から、僕は「江戸前の四天王を集めた落語会」という企画を温めてきた。 会の中身はもちろん「四天王」が登場する演目を並べるわけだが、可能であれば演者も「食べ物」に関わりのある人を揃えたい。三遊亭天どんの他、柳家うなぎ、桂まぐろ、古今亭大もりなどを名乗る噺家がいれば、演目も演者も「四天王」という画期的な落語会ができるではないか。そう思って、彼らの出現を待ち侘びていたが、いつまでたっても出てこない。それなら演目優先で、鰻、そば、寿司、天ぷらに関わる落語を最もおいしそうに演じてくれる演者に出前、ではなく、出演をお願いしようと思った。これが本公演の出発点だった。


【「四天王」の中で一番の古株は鰻】

「江戸前の四天王」は、歴史的に言えば、鰻、寿司、そば、天ぷらの順で庶民の前に現れた。江戸っ子の食は安直であることを旨とする。 「一日三食」が定着したのは江戸中期以降のことで、それまで独身者や共働きの人々はもっぱら外食、つまり屋台メシだ。「四天王」も基本は屋台で提供された。江戸っ子連中は、すし屋台でにぎりをパクつき、隣の屋台で熱々の天ぷらを食べ、そのまた隣でデザートに団子を頬張る。これが屋台メシのフルコースである。   

「四天王」の中で一番の古株は鰻だろう。江戸前期までは、身を開かず、ぶつ切りで串に刺して粗塩を振って炙った。脂がキツく決して美味ではないが、労働者のスタミナ補給のための「薬食い」として重宝された。 それが江戸中期、隅田川河口で大量にとれる鰻を何とかしておいしく食べようと、現在の「蒲焼」が工夫された。当初は屋台の鰻丼だったが、たちまち人気を呼んで鰻専門店ができた。土用の丑の日に鰻を食べる習慣は、安永年間からあるという。


【トリは鰻の落語。そばネタにも注目】

今回企画した「文春らくご」では昼夜共、鰻の落語をトリに据えることにした。昭和戦後の落語黄金期を支えた大看板、桂文楽・古今亭志ん生ゆかりの演目を、志ん生のDNAを受け継ぐ古今亭・金原亭の精鋭二人(古今亭菊之丞、隅田川馬石)が演じる。


古今亭の菊之丞が文楽十八番の「素人鰻」に挑戦するのは楽しみだ。 kikunojyo1.jpeg


「鰻の幇間」に取り組む馬石は、文楽、志ん生両御大の良いところを取り入れた"馬石流"を披露してくれるだろう。 baseki2.jpg

そばも当初は「そばがき」が主流だったが、江戸中期に切ったそば=そばきりになったことで、あっという間に広まった。挽きたて、打ちたて、茹でたての「三たて」が身上。屋台のそばは一杯の量が少なく、現在の三分の一程度しかなかった。主食ではなく、虫押え=つなぎに食べるものなのだ。 そばを扱った落語といえば誰でも思いつくのが「時そば」「そば清」だが、美味しいそばはそれだけじゃない。昼の部には、浪曲の実力派・玉川奈々福に「俵星玄蕃」を唸ってもらおう。どこにそば屋が出てくるか、聞き逃さぬように。 夜は落語のそばネタだ。爆笑派・三遊亭萬橘が珍品「疝気の虫」。そばに秘められた驚くべき"効能"が明らかになる!


【短気な江戸っ子には寿司、天ぷらがうってつけ】

これで番組のメイン料理が「鰻」と「そば」に決まった。残りの「寿司」と「天ぷら」が、メイン料理を引き立てる「彩り」となる。 握り寿司ができたのは文政年間、マグロの寿司は天保年間だという。寿司は握ったその場ですぐ食べられるから、短気な江戸っ子にうってつけだった。つけ台に置かれたら間髪入れずに口へ運ぶ。ネタに仕事(ヅケにする、酢締め、煮る)がしてあるので、醤油はつけなかった。 江戸前(東京湾)でとれた魚をごま油で揚げた江戸前天ぷら。江戸中期には立ち食い屋台で串に刺した天ぷらをおやつがわりに食べる"庶民の味"だったが、幕末から明治にかけて高級化し、料亭の味にのしあがった。


【柳家喬太郎作の爆笑落語「寿司屋水滸伝」も】

落語好きならご存じだろう。実は、寿司と天ぷらが登場する落語はほとんどないのだ。「江戸前の四天王」の一つといわれながら、江戸落語に登場しないのはなぜか。 比較的長い歴史を持つ鰻や蕎麦と違い、江戸中期から後期にかけて屋台から専門店へと一気に高級化したため、庶民の味であった期間が短く、時間をかけてじっくり練り上げられていく落語にはうまく反映されなかったのかもしれない。

それでも寿司が出てくる落語がある。


昼の部で春風亭百栄が演じる「寿司屋水滸伝」は、柳家喬太郎の作品で「トロ切りのマサ」「イカ切りのテツ」など、個性あふれる寿司職人が登場する爆笑傑作だ。 百栄3.JPG 古典落語ではなかなか見つからない寿司ネタだが、新作にはこんなに面白い作品がある。寿司ネタなのだから、「新作」という、より新しい落語の方がうまそうに思えてくるではないか。


夜の部は桃月庵白酒の爆笑落語「新版・三十石」。 桃月庵4.jpg 「清水次郎長伝」のパロディで森の石松が主役とくれば、京の都と大坂を繋ぐ三十石船の船客となった石松が江戸っ子の旅人に「寿司食いねえ」と勧める、二代目広沢虎造の浪曲が浮かんでくる。年配の方々には懐かしく、若い観客には新鮮な名場面を名手・白酒師匠がどのように料理してくれるのか。考えるだけで涎が出る。


【若手の熱演に期待! 寄席の定番「新聞記事」】

残念ながら、天ぷらが主役の落語も見当たらない。だが、噺の中に「天ぷら」という言葉が印象的に使われる演目がある。「巌流島」では「宵越しの天ぷら~。揚げっぱなし~」というセリフがあるし、「船徳」にも、船頭が隣家に出前された天ぷらそばを食べてしまうというくだりがある。 今回は昼夜共に「新聞記事」を選んだ。演目名を聞いただけで「ああ、あそこに出てくる、あのセリフか」と気づいた方は落語上級者である。林家つる子(昼)、昔昔亭昇(夜)という上り調子の若い衆の熱演で、寄席の定番「新聞記事」の面白さを再発見していただきたい。  

今に伝わる「江戸前の四天王」も、笑いのスパイスを振りかければさらに美味さが際立つ。バツグンの鮮度で腕のたつ演者を揃えた「文春らくご」を、ぜひ食べ尽くしてほしい。



<information>

■2023年9月14日(木)
「文春らくご 噺で味わう江戸グルメ~鰻・そば・寿司・天ぷら~」
会場: 伝承ホール ※昼夜二公演(演者入替)

【昼】14時30分開演(開場14時)
オープニングトーク(MC・長井好弘)
林家つる子「新聞記事」
玉川奈々福「俵星玄蕃」(曲師・広沢美舟)
春風亭百栄「寿司屋水滸伝」(柳家喬太郎作)
隅田川馬石「鰻の幇間」

【夜】19時開演(開場18時30分)
オープニングトーク(MC・長井好弘)
昔昔亭 昇「新聞記事」
三遊亭萬橘「疝気の虫」
桃月庵白酒「新版・三十石」
古今亭菊之丞「素人鰻」

【お問合せ】文春落語事務局(メール)info@bunshunrakugo.com

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