「未婚の女」公演レポート

チケット情報はこちら

『未婚の女』1撮影阿部章仁.jpg

能舞台でドイツ劇を上演すると聞いて、一体どんな感じになるのだろう?日本に翻案したりするのかな?と思っていたが、良い意味で裏切られた。

能舞台の正面奥に3つの椅子とナチスヒトラーの軍服が置かれ、真ん中には電球が吊るされている。正面の鏡板には能舞台ならではの松の木。橋掛かりからするすると登場する女たち。暗闇、呼吸音、電球の灯り......厳かな雰囲気のなか、祖母マリアの語りから芝居は始まるが、現代を生きる孫娘ウルリケが登場すると様子は一転。無防備な男の裸をスマホで撮るのが癖(?)という、今時な女子だ。ある日、母イングリッドはマリアが部屋で倒れているのを見つける。入院したマリアをウルリケが見舞うと、マリアは自分の秘密を書いたノートがあることを告げる。ウルリケはそのノートを読み、96歳の祖母の辛い過去を知ることになる......。

『未婚の女』3撮影阿部章仁.jpg

物語は現代と過去を行き来しながら何層にも展開し、時には祖母、母、娘が重なるところが面白い。三世代のつながりと愛憎、そんな彼女らの生き方に実は影を落としている祖母の事件......。祖母マリアと孫娘ウルリケは普通に仲が良さそうだが、母イングリッドとはどちらもギクシャクしている感がとてもリアル。コロス4人は能舞台の四隅にいて、様々な役を演じる。上はタキシードで、下はボリューミーなチュールのドレス。おしゃれでエッジが効いた衣裳だが、この役が「四姉妹」と呼ばれると後から知ってほう!となった(性別云々言うのは野暮だが、男優が演じていた)。

終戦直前の19454月、ある若い兵士が密告によって射殺された事件があったという(実話だとか)。ただ素直に規則に従っただけなのに、戦争が終わり立場が逆転したために、政治犯となってしまう不条理。個人的には最近、アウシュビッツで働いていた人の後悔はしていないという話を聞いて、考えるところも多かった。表と裏、正義と悪、加害者と被害者がいともたやすくひっくり返る戦争の恐ろしさ。ドイツには今なお、戦争時に親ナチスだったかどうか(そして今も)、そんな見極めが燻っていると言われる。日本だって、決して人ごとではないのだろう、とも。

夏川椎菜がウルリケをいきいきと、説得力たっぷりに好演。イングリッド役の宮村優子は緩急自在な演技で観客を惹きつける。山村美智がマリアとして芝居をビシッと締めた。そして西川裕一の音楽が物語をより濃く彩っている。

マリアの心の拠り所として、松の木が効果的に使われているのが印象的だ。能舞台での松の木は神仏が現れる際の形代、そう考えるとこの物語が能舞台で上演された意味がわかる気がした。

 

取材・文:三浦真紀

写真  :阿部章仁

~~公演概要~~
【京都公演】2023年10月18日(水)~10月22日(日) 銕仙会能楽研修所
【原案・原作】エーヴァルト・パルメツホーファー【翻訳】大川珠季

【出演】夏川椎菜 / サヘル・ローズ / 山村美智 / 有川マコト / 宮地大介 / 小田龍哉 / 神農直隆

チケット情報はこちら

前の記事「名作から珍品まで。空腹注意の"うまい"落語会」へ

次の記事「『庭の木と四つの物語』 綾凰華・富本惣昭・白樹栞(演出)インタビュー」へ

カテゴリー

ジャンル

カレンダー

アーカイブ

劇団別ブログ記事

猫のホテル

文学座

モナカ興業

谷賢一(DULL-COLORED POP)

劇団青年座

劇団鹿殺し

 はえぎわ

柿喰う客

ONEOR8

M&Oplaysプロデュース

クロムモリブデン

演劇集団 円

劇団チャリT企画

 表現・さわやか

MONO

パラドックス定数

石原正一ショー

モダンスイマーズ

ベッド&メイキングス

ペンギンプルペイルパイルズ

動物電気

藤田記子(カムカムミニキーナ)

FUKAIPRODUCE羽衣

松居大悟

ろりえ

ハイバイ

ブルドッキングヘッドロック

山の手事情社

江本純子

庭劇団ペニノ

劇団四季

演劇チケットぴあ
劇場別スケジュール
ステージぴあ
劇団 石塚朱莉