── 今回はコロナ禍をふまえて急遽、奇跡的に実現した企画だと伺っています。
もともと私、今年の後半に演出の仕事を入れていなかったんですね。でもコロナによって春に準備していた作品がなくなってしまい、さらにお休みが延びてしまったように実感して。自粛の期間、休んでいる場合ではないなという気分になったり、自分は何の役にも立てていないとイライラすることもありました。そんな中、埼玉の制作の方から「ネクスト・シアターの俳優たちと、朗読劇をやってほしい」というお話をいただいたんです。自分に出来ることは何だろう、何かの役に立つ機会をいただけるならやりたい! とお受けしたのが正直な気持ちでした。
── ネクスト・シアターにはどんな印象を持っていますか?
やっぱり、蜷川さんのもとで学んだ人々というイメージはありますね。公共劇場にネクスト・シアターとゴールド・シアター、その両方があるのは素敵だな、大事なことだなと思っていました。蜷川さんの作品は結構観ていまして、これは私の勝手な分析ですけど、蜷川さんは商業の中にちゃんと芸術を持ち込む、その流れを作った方だと思っています。大衆性と芸術性、その両方を備えた舞台を開拓してくださった方という印象です。ネクストの皆さんとはこれからお会いして、ワークショップをやらせていただきながら稽古を進めていければと。若い人たちがどんどん自由に挑戦していくこと、それが大事なので、一緒にチャレンジさせてもらえるのは嬉しいですね。
── 挑むは、イタリアの劇作家ルイージ・ピランデッロが1921年に発表した『作者を探す六人の登場人物』です。この戯曲を選んだ理由は?
ピランデッロの作品が好きで、いつかやってみたいと思っていた戯曲でした。これ、役者さんたちのほとんどが出ずっぱり、台詞があってもなくてもつねに舞台にいなくちゃいけないという作品なんですね。私、そういう一度出たら最後まで!(笑)っていう、『十二人の怒れる男』みたいな作品が好きなんですよ。今回は、私が普段どのように台本にアプローチしているかをネクストの皆さんにお伝えできる機会だと理解しているので、そうなるとあんまりポエティックな、非常に感性豊かに書かれているホンだと、私が持っている論理では太刀打ちできないところがあって。やはりリアリズムをベースとする戯曲で、自分がきちんとその趣旨に応えられるものを探さなきゃと思い、いろいろ精査したうえでこの戯曲に決めました。決め手はまず面白いホンだということ、登場人物が多くて今回の参加者全員が出られること。そして、現代演劇の原点みたいな作品なんですよね。演劇論、芝居とは何ぞやといった話であるところがいい。で、芸術がどうこう〜と言いつつ、それだけじゃないぞ、とも語っていて。理想と、本当に生々しいものがぶつかり合うところが面白いんです。ただ、何せ難しいホンなので、まだ自分の中で引き寄せきれていない点はあります。ラストに向かって「あ〜これ、私の苦手な"演出の主張"が入ってくる! どうしよう〜」みたいなところもあるので(笑)、なんとか自分の中で落としどころを掴んでいかねばと思っています。
── 小川さんが感じているピランデッロの魅力を教えてください。
シアトリカル(演劇的)で、絶対に普遍的なことしか書かない人ですね。この『作者を探す〜』にしても、実はすごく地に足の着いた話なんですよ。そこがいいなと。どんなにシアトリカルに、キャッチーに書いていても、根底がしっかりしている。『花を口にした男』(1923年)とか、短編にもいい作品がたくさんありますよ。人間の心理、人と人との関わりについて書くことが多いので、100年前に書かれたものであっても、文化や時代を越えて非常に共感しやすいと感じています。
── 朗読劇としてどう立ち上がるのか楽しみです。世の中はまだ落ち着いてはいませんが、多くの方が小川演出とネクストとの化学反応に期待し、劇場にいらしてくださるのでは。
今までも劇場に足を運んでくださることに感謝していましたが......、これは(芸術監督を務める)新国立劇場の話で申し訳ないのですが、自粛期間の後、最初に開けた公演にお客様が来てくださった時は、感動しましたね。本当に嬉しかったし、勇気をいただきました。今回の機会を作ってくださったこと、関わってくださる人たちに感謝して、いい意味でフラットにやれたらいいなと思っています。戯曲の面白さも、役者さんの素敵さも伝えられるよう、精一杯やるつもりです。人間同士、その関係の面白さを感じていただけたら嬉しいです。
取材・文:上野紀子(演劇ライター)
Photo:宮川舞子