【公演レポート】ガラリ刷新、ミュージカル『マリー・アントワネット』11年ぶりに日本上陸 東京公演絶賛上演中!

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【公演レポート】ガラリ刷新、ミュージカル『マリー・アントワネット』11年ぶりに日本上陸
 
 
ミュージカル『マリー・アントワネット』 が現在、東京・帝国劇場で上演中だ。遠藤周作の小説『王妃 マリー・アントワネット』を原作に、脚本・歌詞をミヒャエル・クンツェ、音楽・編曲をシルヴェスター・リーヴァイという『エリザベート』『モーツァルト!』で知られる巨匠コンビが手掛け、2006年に日本で世界初演された作品だ。この作品はその後世界各地での上演を経てブラッシュアップされたが、中でも好評を博したロバート・ヨハンソン演出版(2014年に韓国で初演)が日本初上陸。日本産の大作ミュージカルとしてファンの中で記憶が刻まれている作品が、大胆にリニューアルされ、11年ぶりに日本の観客の前に登場した。
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物語は18世紀フランスが舞台。豪華な生活で散財をしている王妃マリー・アントワネットが、やがて巻き起こる革命の嵐の中、王妃としての自分を自覚し断頭台の露と消えていくまでを、家族愛や恋人であるスウェーデン貴族フェルセン伯爵との許されざる愛を絡めながら描いていくもの。マリー像としては、『ベルサイユのばら』など数多の作品で描かれている姿と大きく乖離することはないが、このミュージカルでは王妃と同じイニシャルを持ち、革命に身を投じる貧しい娘マルグリット・アルノーの存在が肝。ふたりの "MA" の生き様が時に対となり、時に重なることで、物語全体に奥深さを出している。
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大幅リニューアルとなった今回の上演は "新演出版" と謳われているのだが、実際に観ると、想像以上に初演とは別の作品になっている。入り口と出口は一緒でも、途中の道(エピソード)がまったく違う。追加された曲は16曲、登場するキャラクターも初演時の重要キャラクター数名がカットされ、代わりに別の主要キャラクターが追加されていたり......と、これはもはや、"新版" と銘打った方がいいのではと思える刷新ぶりだ。0 HTA_1106.JPG

何が変わったか。初演版(栗山民也演出)では『マリー・アントワネット』をタイトルに冠してはいたものの、動乱の "時代" 自体を主役にしたような作りだった。贅沢三昧の貴族に対して、怒りを募らせていく庶民たち。もうひとりのヒロイン、マルグリット・アルノーのエピソードも多く、市民が革命へと突き進んでいく熱や狂気といったものが主軸となっていたし、マリー・アントワネットは滅びていく帝国の象徴としての存在だった。一方新演出版は、あくまでも王妃マリー・アントワネットが主役だ。フェルセンとの切ない恋がありつつも、国王ルイ16世や子どもたちと過ごす家族のシーンも増え、マリーの葛藤や哀しみ......人間としての内面も描かれている。

象徴的なシーンをひとつ上げよう。冒頭、マリーたちが楽しんでいる豪華な舞踏会にマルグリットが乱入し、ふたりのMAは初めて出会うのだが、このシーンの変更が興味深い。初演はここで、マリーがマルグリットにシャンパンを浴びせかけた。一方今回の再演では、マルグリットがマリーにシャンパンを浴びせる。初演時、涼風真世が扮したこのシーンでのマリーは軽薄な笑い声すらたてていたが、新演出版のマリーは自分にシャンパンを浴びせたマルグリットに「許します」という慈悲の言葉をかける。初演の辛らつなマリー像も味わい深いものがあったが、新演出版では観る側も、マリーの心情に寄り添いやすくなったと思う。ほかにも有名な<首飾り事件>の顛末をストーリーのメインに据えたことで物語にサスペンスフルな味も加わり、物語としてメリハリがついた。マリーが豪華なドレス選びを興じるシーンなどもミュージカル的で華やかだ。初演時のヒリヒリするような鋭さはなくなったかわりに、ミュージカルとしての安心感が増し、エンタテインメント作品として安定した印象がある。
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さて、その"新"『マリー・アントワネット』を作り上げているキャストだが、一部キャラクターはダブルキャストとなっている。まず主役のマリー・アントワネット花總まり笹本玲奈。これまでに様々な作品でマリーを演じ、当代きってのマリー役者と呼んでも過言ではなさそうな花總は、もはやマリーそのものではないかと思える存在感。王妃らしいワガママな顔すら上品で、またこの人が持つどこか悲しげな薄幸さも、今回の王妃像にピッタリだ。中でも後半革命政府に捕らえられ、次第にドレスや髪型が地味になっていくのに反比例し、品の良さが増していくのがさすが。これまで数々の高貴な女性を演じてきた花總の、女優としての経験値があってこそだろう。そして初演時にマルグリットを演じた笹本が、時を経て王妃に挑む姿も感慨深い。こちらは溌剌とした、素直な気質が伝わってくるマリー像。フェルセンに対してみせる表情なども可愛らしく、新鮮な魅力だ。ひと言で言えば気品の花總に対して、等身大の笹本といったところか。花總のマリーは、彼女の選択ミスが時代の流れを大きく変えてしまったかのように見えるのだが、笹本のマリーは大きな時代の流れに必死に抗おうとしているかのようにも見える。ふたりのマリー、柔らかく優しい歌声の花總、明るく透明な声質の笹本と声質もまったく違うのだが、どちらを観ても「これぞ王妃マリー・アントワネット」と思えるのが、面白い。

▽ 花總まり1 HTB_0070.JPG
▽ 笹本玲奈2 STA_0112.jpg

 
新版ではマリーの一代記のようになってしまい、多少割りをくった感のあるマルグリット・アルノーだが、そこを「ふたりのMAの物語」として成立させているのは、ソニン昆夏美、マルグリット役のふたりの熱演があってこそ。信念を持つ力強い女性を演じたら天下一品のソニンは、マルグリットの正義を、革命側の "狂気" までも織り込んで演じる。炎のようなマルグリットだ。一方の昆は、革命に身を投じるしかなかった、もともとは普通の少女といったタイプのマルグリット。彼女もまた、この時代に翻弄された犠牲者なのではと思わせられた。

▽ ソニン3 HTA_0444.JPG
▽ 昆夏美4 12A_0624.JPG

 
フェルセン伯爵
もまた、初演とずいぶん印象が変わった役どころだ。よくある王子さまタイプではなく、時代を読む先見性と、王妃を正しい道に導こうとする正義感のあるリアリストで、このフェルセン像が、マリーとの恋を単なる甘いロマンスにはせず、作品に奥深さを出している。演じるのは田代万里生古川雄大。田代は育ちのよさそうな外見とクラシカルな歌唱もあいまって、包容力のある貴公子像。古川のフェルセンは、正義感の強さにもマリーへの思いにも青年らしい熱さがほとばしる。このふたりもまったく違うタイプ、だが甲乙つけがたい。

▽ 左:田代万里生5 HTC_0229.jpg
▽ 古川雄大

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国王ルイ16世
を演じるのは佐藤隆紀原田優一のふたり。どちらももともと愛らしいキャラクターと歌唱力の高さを持つ俳優だが、朴訥とした温かさのある佐藤、悲しみを笑顔で隠すような原田、ともにチャーミングな国王像を作り上げている。気が弱いながらも愛情深く、家族と国民を思うルイがきちんと存在してこそ、この新演出版でのマリーの人間味が出るのだと思わせられるキーパーソンだ。1幕で描かれる国王一家の幸せな姿はことに印象深い。筆者は花總・佐藤コンビ、笹本・原田コンビで見たが、前者は長年連れ添った夫婦のような、後者はまるで兄弟のような、形は違うが"家族"としての愛と絆がしっかりと伝わってきた。

▽ 右:佐藤隆紀7 HTA_0700.JPG
▽ 右:原田優一8 STD_0232.jpg

 
王室の一員でありながら革命を先導するオルレアン公吉原光夫。存在感も、歌声も迫力十分。黒幕感たっぷりなこの人がシングルキャストで物語の枠組みを支える。駒田一が扮するヘアドレッサーのレオナール彩吹真央が演じる衣裳デザイナーのローズ・ベルタンは新演出版で大きく膨らんだ役どころ。王党派・革命派どちらにも属さず、時代を俯瞰して皮肉めいた歌を歌う。『レ・ミゼラブル』のテナルディエ夫妻のような存在で、演技巧者のふたりのさすがの芝居力もあり、物語のスパイスとなっている。

▽ 吉原光夫10 HTA_0743.JPG
▽ 駒田一と 彩吹真央9 HTA_0468.JPG

 
革命詩人のジャック・エベール坂元健児は相変わらずの力強い歌声で革命を先導。ランバル公爵夫人役の彩乃かなみの優しい存在感も印象深い。初演時に土居裕子扮した修道女アニエスは再演版では登場しないが、アニエスが歌った名曲『神は愛して下さる』をランバルの彩乃が美しく優しい歌声で聴かせていることも特筆したい。

▽ 中央:坂元健児11 STB_0618.jpg
▽ 左:彩乃かなみ12 HTA_0560.JPG

 
ガラリと変わった新演出版だが、初演時に心に残ったシルヴェスター・リーヴァイによる名曲の数々は、一部形を変えながらも健在。この大曲たちには、新演出版の華やかさの方がよりハマっているかもしれない。キャスト陣の熱演含め、王道の大作ミュージカルとして生まれ変わった『マリー・アントワネット』、初演の記憶がある方もない方も、ミュージカルファンは足を運んでみてほしい。HTC_0208.jpg12B_0493.JPG

 
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
写真提供:東宝演劇部


  
【公演情報】
・11月25日(日)まで上演中 帝国劇場(東京)
・12月10日(月)~21日(金) 御園座(愛知)
・1月1日(火)~15日(火) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)

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