iaku横山拓也が『粛々と運針』2018年の再演ツアー最終地、相模原公演について語る

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思わず苦笑いを誘ったり、チクリと胸を突いたり。軽快かつ繊細な会話の応酬で、深層に潜む心情をすくい上げ、観る人の心にさざ波をもたらす作風が注目されている大阪出身の劇作家・横山拓也さん。横山さんが主宰する演劇ユニット、iakuの人気作『粛々と運針』が、9月8日、相模女子大学グリーンホール・多目的ホールにて上演されます。「消耗しにくい演劇作品」を掲げて日本各地を回り、自作の再演を精力的に行っている横山さんに、「自信を持って発表できる」と自負する本作を中心に、劇作スタイルや演劇に対する姿勢など、幅広くお話を伺ってきました。

 


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横山拓也

 

◆◆◆ 横山拓也インタビュー ◆◆◆

 

十年経っても色褪せない作品を目指して

 

――横山さんは2012年にiakuを立ち上げ、活動を開始。昨年発表されたこの『粛々と運針』はiakuの9作目のオリジナル作品で、今年はまず5月のこまばアゴラ劇場にて、「iaku演劇作品集」と題して4作品上演されたうちの一本として再演されました。その後、6月は愛知県知立市から始まって仙台、福岡、札幌と再演ツアーを実施。この9月の相模原公演が、今年のツアー千秋楽となります。それ以前までの横山作品とは雰囲気が大きく異なる、転機となった作品だとか。 

 

「そうなんです。この『粛々と運針』以前の作品はすべてワン・シチュエーションの物語で、具象の舞台美術で......、たとえば家のリビング・ルームだったり、駅のホームだったり、喫茶店だったり、といった形で上演していました。決められたシチュエーションの中で、しかも、ひと連なりの時間の中での、暗転を挟まないお芝居が多かったんですけど、もう少しチャレンジできないかなと思ったんですね。それまでは、"場所を動かさないこと"、"時間を飛ばさないこと"を、自分に課したルールとして楽しんで書いてきたんですが、もしかしてそうしたルールを定めてしまうのは、演劇の豊かさを一つ、放棄していることになるんじゃないか...って思いに至りまして。じゃあ新たなことをやるとしたら、何だろう? それぞれ、まったく関係のない場所で交わされていた二組の会話が、突然ひとつの場で合わさって、「はじめまして」「誰ですか、あなたは?」みたいなやりとりもないままに、議論がそのまま進行して、深まっていく......、そういったことをやってみようかな、と思いついたのが、初演時でのチャレンジでした」

 

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――登場する一組は、独身で自由に暮らす兄と、結婚して堅実に働いている弟。癌を患い病床にいる母親のことで、熱く議論を交わします。横山さんご自身と弟さんをモデルにされていると伺いましたが...。

 

「はい、まさにこの兄弟は自分の体験に近いと言いますか(笑)。親はまだ健在ですけど、僕が演劇の仕事をしているものだから、弟はずっと僕に反発していたんですね。自分自身は堅実な仕事を、ちゃんとお金を稼げる道を選びたいと宣言して、演劇の仕事をしている僕のことをちょっとだけバカにしている感じだったんですよ(笑)。そんな兄弟関係と、両親が住んでいる大阪の家をどっちが継ぐの?といった実際に起きた話を念頭に、物語を深めていったという感じですね」

 

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――そしてもう一組は、一軒家を購入して長期ローンを払い始めたばかりの、共働き夫婦。「妊娠したかもしれない」という妻の告白から、こちらの会話も熱を帯びていきます。

 

「この話もとくに取材したわけではなく、僕の身近で増えてきている話題を取り上げました。僕は今41歳ですが、世代的に一緒に演劇をやってきた仲間には、結婚はしたけど子供を産むことに悩んでいるとか、結婚そのものに悩んでいる女性も多いんですね。話を聞いているうちに、これはいろんな問題を孕んでいるなと思いまして。僕自身も子供がいますが、結婚して5年くらいは子供をもうけなかったんです。そのへんは妻のほうにもいろいろと葛藤があったり。劇作スタイルとしては、自分の体験をもとにしたり、近しい人からエピソードを集めたりして作品を作っていく傾向はあると思います」

 

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――その二組の物語がいつしか交錯して......という展開だけでも興味深いし、成立させられるように思います。でもそこに、さらに"運針する二人"が加わる構成にうならされます。その巧妙な関係性については、げきぴあ読者の皆さんにはぜひ舞台で直接確かめていただきたいですね。

 

「ああいった、いわゆるファンタジックな人物設定はこれまでやったことがなかったので、あれもチャレンジというか、むしろ怖いな、ホントにこれは大丈夫なんだろうか!?と思いながら稽古していました(笑)。時間が止まらずに進んでいくことを象徴する人物が欲しいなと思って、この二人を置いたんですが...。僕は別に「実はこういう人でした」みたいなミステリーっぽい運びにするつもりはまったくなかったんですけど(笑)、まあ一種のエンターテインメント性はそこに発生したかなと。僕としてはかなりイレギュラーな人物設定で、今後はやらないだろうなと思っていますね」

 

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――タイトルにあるように、「運針」が重要なキーワードですね。どこか懐かしさを感じる素敵な単語です。

 

「タイトルは内容よりも先行してつけました。とくに運針という言葉は、どう使うかも決めないままにちょっとメモしていたんですね。当初は、単に裁縫の"並縫い"の意味しか持たない言葉だと思っていたんですけど、時計の秒針が進むことも運針ということをあらためて知りまして。それで、議論を二つ闘わせる中で、時間だけは誰にも平等に進んでいくところを表現してみたいと、この二人を配置したわけです」

 

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――こまばアゴラで上演された「iaku演劇作品集」の中に、岸田國士の『葉桜』を原案とした『あたしら葉桜』という作品がありましたが、岸田國士の時代の作品を好んで、影響を受けていたりもするのでしょうか。

 

「そういうことはとくにないんですが...、ただ、大正、昭和の初期あたりで岸田國士作品が評価されていった、その理由は何だろうと考えた時に、やっぱり僕は台詞の力だったんじゃないかと思うんですよ。で、僕自身も、自分の作品のどこが推せるかといったら、台詞のような気がしていて。僕は、言葉の裏にあるもの、芯の深さといった、表層だけでは語りきれないことを描いて、戯曲にしていきたいんですね。だから、一読しただけではさらっと読めてしまうと思うんです。でも稽古をつけていくうちに、俳優が考えなければいけないサブテキストがいくつも出てくる、そこに面白味を感じていて。そんな、言葉の厚みといったものを表出していけたらなと。もしかしたらそこに岸田國士作品に通じるものがあるかもしれないな......なんて、自分で勝手に思っていますね」

 

――厚みのある言葉を大切にして、再演を重ねていらっしゃると。

 

「そうですね。言葉もそうですし、作品自体ができるだけ古くならないように...といったことは意識して書いています。十年経っても、上演できるものを、と。自分の戯曲が何年経っても図書館に置いてあったら、すごく素敵だなと思うんですよ。それが一つの目標でもありますし、活字で残ることを意識した作品づくりはしていますね」

 

――また、人と人との直接的な言葉のやりとりを大事に考えているところもあるのでしょうね

 

「それは昔からそうなんだと思います。対話の中で、誰もが上手に嘘をついていると思うんですね。別に嘘をついていると意識していなくても、たとえば初対面で相手によく思われようとすること自体を嘘だとすれば、そうだし。登場人物を立ち上げて会話をさせる時に、どういう仮面を被っているのかな? どういうことを知ろうとしているのかな?と探っていきます。その仮面が徐々に剥がれていくと、議論になっていったり、深い会話ができるようになっていく。その様子自体をエンターテインメントとして描けるのではないかな...とは、役を立ち上げた時点から思っていますね」

 


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"命との距離感"を見つめた作品づくり

 

――横山さんはiakuを始める以前から、演劇活動をされていたんですか?

 

「はい、1996年から2011年まで、大阪芸術大学のメンバーで劇団をやっていて、そこで作・演出を担当していました。大阪芸大といったら劇団☆新感線を始めとするエンターテインメントの流れがありましたし、古田新太さんとか、芸大じゃないですけど生瀬勝久さんとか、我々90年代から演劇を始めた人間からすると、目標にする人たちがいた時代で、やっぱり俳優の目立つ舞台が、関西では望まれることが多かったんです。でも僕自身はどうもコメディに寄り切れないというか、ダークサイドで書きたい欲求があって(笑)、劇団が求めることとはアンバランスな作品を作っていたんですね。十何年も先輩や関係者に「お前が本当にやりたいことは何なんだ」と言われながらやっていて(笑)。それでようやく踏ん切りをつけて、僕自身が2011年に「劇団を休止したい」と申し出ました。その後退団して、もう言い訳しないで済む作品を作ろうと思って、2012年にiakuを立ち上げたんです」

 

――2011年は東日本大震災の起きた年ですが、その影響もあったのでしょうか。

 

「それは実際にありました。2011年の4月に劇団の東京公演があったんですが、僕は「中止したい」と散々言っていたんですね。震災直後は大阪にいたんですけど、ちょっとノイローゼ気味になっちゃって。でもやることになり、とにかくこれが終わったら休止させてくれ、ということになって。それで一年休んでみて、自分の中で整理してみた流れがあったんです。確かに、直接的ではないけれど、震災はかなり自分の中では影響があったと思いますね。

 

――『粛々と運針』やそのほかの作品においても、死生観のようなものが根底にあるように感じます。そういった意識はされていますか?

 

「その点については自分でもまだ言語化されていないんですけど、震災を契機にiakuを立ち上げて、"命との距離感"といったものを考えながら作品を書いているな、とはだんだんに気づき始めていましたね。阪神淡路大震災の時は、僕は高校生で、やはり大阪にいて隣の県、兵庫県で起こったことを眺めていたんですが、その時に感じていた距離よりも、東日本大震災について感じた距離のほうが、大阪から東北のほうが離れているはずなのに、自分に刺さってきたものが大きかった。まあ、年齢的なものもあるのでしょうけど、物理的な距離と、心理的な距離の違いは何なんだろうか...とか考えても、どうも自分の中で説明ができなくて。で、いろいろと作品を書いていくと、自然と命に向き合って、そのことを深く捕まえようとしているんだな...と、いつも書き上がってから感じるんですね」

 

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――ひとつひとつの作品が、ご自身の考えを整理してくれているようですね。

 

「そういうことも、あるかもしれないですね。かつ、僕がいつも思うのは、自分の中での重大な問題、きちんと取り組まなければいけない問題と、いわゆる人間の弱い部分、邪念などは、つねに並行してあるということです。たとえば、どんなに人の死を悼んでいてもお腹はすくし...とか、生理的なことも含めてそういったことがあらわになる瞬間も、すごく人間味があって、劇として立ち上げたら面白味があるなと思っているんですね。隣り合わせにある相反する感情や状態は、客観的に見るとユーモアになったりする。そういった人間の可笑し味を、つねに作品の中で立ち上げていきたいんです。あんなに真剣に話しているのに、なんか滑稽で痛々しい。その痛々しさが笑えるのに、胸が苦しくなってしまう...、そういう複雑な心の動きを観客に体感させるのは、演劇ならではだと思いますし。こうした会話劇を作っていると、「この作品、映像にしてもいいんじゃないか」とよく言われますけど、僕はやっぱり、もっと対話のやりとりを慎重に作って、ライブでしか感じられない、思考がどんどん渦巻いていく瞬間を描いていきたいと思っています」

 

――今年5月に劇団俳優座に書き下ろした『首のないカマキリ』も好評を博して、今後は外部への作品提供の機会も増えそうですね。

 

「はい。ただ、僕はそんなに新作を多発できるタイプではないので、きちんと自分が準備をできて、書けるスケジュールでやりたいと思っているんですね。で、またさっきの話に戻ってしまいますけど、ただ消費されていくだけじゃなく、きちんと繰り返し上演に耐えるものを作りたいと思っていますので。俳優座さんにも、ぜひ再演できるようにとお願いしています」

 

――年末にはiakuの新作公演も予定されています。『粛々と運針』はこの相模原での公演が今年の最終公演になりますが、今後も再演は期待できますでしょうか。

 

「そうですね。この作品で提示している問題はまだまだ世の中で語られるでしょうし、時代で解消される話でもないので、当面は、ある種の古さみたいなものは感じずにできるんじゃないかなと思っていますね。演出を変えたり、出演者を変えたり、もしくは自分の手元を離れたところで上演されたり...ということも含めて、戯曲が一人歩きしてくれることが一番、劇作家としてはありがたいです。もちろん自分自身でも、どこかのタイミングでまた機会があればやりたいと思っています」

 

 

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――ひとまず、横山さんの作品に関心を持たれた方には、ぜひとも相模女子大学グリーンホールでの最終公演に足を運んでいただきたいです。

 

「あ~そうですね! じゃあ『粛々と運針』の上演はココを逃したら当分ないですよ、と言っておきます(笑)」

 

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<取材・文>上野紀子

 

<撮影>

山本祐之(横山拓也インタビュー)

堀川高志(舞台写真/2017年「粛々と運針」)

 

 

【公演情報】

 
iaku 『粛々と運針』 

2018年9月8日(土) 18:00開演 
相模女子大学グリーンホール 多目的ホール 

全席自由席 一般2,800円(当日3,000円) / 学生(25歳以下)1,000円(当日同額)

[作・演出]横山拓也

[出演]尾方宣久 / 近藤フク / 市原文太郎 / 伊藤えりこ / 佐藤幸子 / 橋爪未萠里

 

問合せ: 相模女子大学グリーンホール:042-749-2200

 


 

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