【ぴあ×パルコステージ特別企画『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』尾上右近密着取材vol.2】尾上右近×G2対談

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『ウォーター・バイ・ザ・スプーンフル』で、現代劇に初挑戦する歌舞伎界の新鋭・尾上右近さんに密着するこの企画。第2回目は、翻訳・演出を手がけるG2さんとの初顔合わせの場に伺った。

2012年にピューリッツァー賞戯曲部門を受賞し、これが日本初上演となる今作を、自ら演出したいと手を挙げたG2さん。薬物中毒から、苦しみつつも同じ境遇の人々とつながり、立ち直っていこうともがく人々の姿を、どう描こうとしているのか。

第1回のインタビューでは、G2さんが作・演出した新作歌舞伎に感銘を受けたと語っていた右近さん。初対面とあって少々緊張気味だったものの、G2さんの意図するところを貪欲に吸収しようとする姿が印象的だった。歌舞伎役者の右近さんが、イラク戦争帰りの青年エリオットをどう演じることになるのか。ふたりの対話をぜひ楽しんでいただきたい。

また、今回は、エリオットの従姉ヤズミン・オルティスに注目しながら、簡単なストーリーを紹介する。第1回目のエリオットのストーリーも参照しながら、この作品の奥深さの一旦に触れてほしい。

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■STORY■

プエルトリコ出身で現在はフィラデルフィアで暮らしているヤズミン・オルティス(南沢奈央)。音楽の非常勤教授として大学に勤めて1年目で、私生活では離婚問題を抱えていた。従弟のエリオット(尾上右近)には離婚を反対されているが、夫との関係はもう修復しようがないと感じている。そんな人生の岐路にあるとき、ヤズミンとエリオットの伯母であり、エリオットにとっては育ての母でもあるジニーが亡くなった。ふたりは葬儀の準備をし、遺灰を撒くためにプエルトリコに行く約束をする。その頃、エリオットの実の母親でドラッグ中毒者のサイトを運営しているオデッサ(篠井英介)の周りでも、ネットでつながっていた人間たちが動き始めていた。人々はやがて、ヤズミンやエリオットとも交錯していくことに。そして他者とのつながりが、それぞれの葛藤に光を差していく。

  

◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

■尾上右近×G2対談■

G2 それにしても(現代劇初出演で)大変なものに出ることになりましたね。

右近 その大変さもあまり把握できていないぐらい、何もわからない状態です(笑)。これまで本当に歌舞伎ばかりだったので、とにかくいろいろ教えていただきながら、ぶつかっていきたいと思っているんですけど。G2さんを信じて。

G2 ありがとうございます。ほかのキャストの方々も、最近は同じ人とばかりやることにならないようにと自分でリクエストしないようにしてるんですけど、結果、僕のやり方をよくわかっている人たちが揃ってしまったので(笑)。安心してやっていただけるんじゃないかと思います。

右近 はい。楽しみです。

G2 最初にプロデューサーから右近さんはどうかという提案を聞いたときに、和の右近さんが翻訳ものを演じるのは逆に面白いかもしれないと思ったんです。海外の作品をやるとき、僕はそれをそのまま再現するっていうやり方が好きではなくて、外国人にならなくていいよと言うことが多いんですけど。歌舞伎役者としての感覚を持ち込んで、右近さんがいつも通りにやったらどうなるのかっていうのも、面白いんじゃないかと思うんですね。しかも今回は、歌舞伎の外で女方をやり続けている篠井英介さんに、右近さんのお母さん役をやってもらうので。そのへんの関係も面白いし、日本のプロジェクトでないとできない空気感が作れそうな気がしているんですね。

右近 今のお話を聞いて、自分が経験してきたことを楽しみにしてくださっているというのは、ちょっと救われました。

G2 ただ、イラク戦争に行ってトラウマを持って帰ってきているという状況は、勉強することも必要になると思いますけど。でも、登場人物たちの迷いや悩みは、日本人が心に抱えていることとあまり変わりない気がしますし。作品が根本的に持っているエッセンスみたいなものは、今の日本人が見ても共感できるんじゃないかと思うんです。セリフのセンスもすごくいいですしね。日本人が見てもグッとくるものにしようと思っています。

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(G2)

右近 現に、登場人物のなかに日本人がいるので、ホッとする感じもありますよね。

G2 日本人のことを書いてくれてありがとうっていう気持ちになっちゃうんですよね(笑)。

右近 作品のなかでも、プエルトリコ人や日本人がいて、環境とか背景は違っても、インターネットを通じてそれぞれが共感したり、思いやりを持ったりすることができるっていうことが描かれているので。それがドラッグっていう問題を介して描かれてはいますけど、どこの国でも誰にでも共通する普遍的なテーマの話だなと思います。ただ、登場人物がそれぞれいろんな場所にいて、それぞれの場面にどんどん飛んでいくじゃないですか。それを舞台ではどう再現していくのか、すごく気になっています。

G2 場面が飛ぶのは、僕はわりと得意だし好きなんです(笑)。そのほうがお客さんの想像力を引き出しやすいというか。さっきまでアメリカでの話だったのが、違う人がひとりそこに立つだけで北海道に思えてくるようになると(劇中に北海道も登場します!)、表現の方法が面白くなるので。でも、今回難しいなと思っていることもあるんです。ひとつは、インターネット上で文字で会話している世界をどう表現するかということ。それから、この戯曲は、大きな起承転結の流れがないんです。それでいて不思議と最後には気持ちが浄化されていくようなカタルシスがある。それを今までの型を使わないで実現しているのが面白いなと思っているんですけど、その分演出は難しいだろうなと思っているんですね。そして、有色人種と白人と日本人がいて、人種の不協和音があるっていうことが、アメリカで上演するときはビジュアルだけでパッとわかるんだけど、日本人が演じる場合には人種と言われても......っていう感じがある。この3つをどうするか、稽古までに答えは出てないと思うので、そこはみんなで考えていきましょう(笑)。たぶん稽古場でいろいろ見つかると思うんです。

右近 現代劇の稽古はどう進めていくのかっていうのも、気になっていました。

G2 歌舞伎の世界って、ある意味、今の日本の一般演劇よりも、役者の責任が大きいですよね。衣裳とか鬘といった自分にまつわることは自分でやるし、古典だともともとのやり方を自分で学ばなきゃいけないし。新作歌舞伎でも、数人で掛け合う芝居に勝手に三味線が入ってきたりする(笑)。

右近 あ、そうだ。勝手にやってますね(笑)。

G2 だから、そうやって培ってきたものものは、全部出してもらっていいんじゃないかと思ってるんです。

尾上右近.jpg(尾上右近)

右近 歌舞伎では、自分の感覚とか表現っていうものをそのまま舞台に持ち出せるものではないので、今回初めて、自分の考えをぶつけてもいいっていう環境に行けるのが楽しみではあるんですけど。でも確かに、何かアイデアを出すにしても、結局、歌舞伎のあの感じを現代的にすると......っていうふうに考えてしまいそうです(笑)。

G2 だから、「ちょっとそれはどうだろう」ってびっくりする瞬間が何度かあると面白いかもしれませんね(笑)。そこから何か生まれるっていうことが絶対あると思うので。でも、稽古が始まるまでに考えすぎないでほしいなとは思います。セリフも自分の解釈を入れて覚えてしまうと、相手の芝居によって変えられなくなっちゃいますし。だいたい腹七分とか八分くらい準備して、稽古場でみんなが集まったときにひらめくものを集積していくことで、できあがっていく。だから1ヶ月稽古する意味があるんですよね。

右近 さっきG2さんが起承転結のない戯曲だという話をされましたけど、僕がこの台本を読んだときの第一印象もまさに同じで、あまり劇的じゃないというか、日常のなかにある些細な起承転結をそのまま舞台にするような作品だなと思ったんです。だからこそ、相手のセリフをちゃんと聞きながら、微妙な心の動きを表現することがより大切になるだろうなと思いますし。僕もそこを大事にして演じたいなと思います。

G2 今回の東京公演の劇場は、ちょっとしたニュアンスもちゃんと伝わるサイズで、僕はそういう劇場が好きなんですけど。逆に言うとニュアンスが欠如すると味わいのない空間になってしまうので、やっぱりすごく繊細に演じていかなきゃいけないんですよね。ある人が言ったひと言ひと言が、ほかの登場人物にどういう影響を与えて、どういう波紋が起き、広がっていくか。チラシのデザインもまさに波紋がイメージされてていいなと思ってるんですけど、一人ひとりが作り出す波紋をほかの人が受け取るっていうリレーションを意識して作っていくと、すごく面白い芝居になっていくと思います。

右近 だったらなおのこと、相手の芝居を受けることを大事にしなきゃいけないですね。歌舞伎もセリフを聞きなさいと言われるんですけど、歌舞伎の場合は、聞いても動いちゃいけないので(笑)、どう受け取ってどう反応するのか、現代劇でそこにチャレンジできるのも楽しみなんです。なんだか今日は、僕のほうがお聞きするばかりになって申し訳なかったですけど、どういう心づもりでお稽古に臨んだらいいか見えてきて助かりました。

G2 いえいえ、とんでもない。

右近 本当にとにかくぶつかっていきたいと思っていますので、どうか受け止めていただいて、教えていただきたいと思います。

G2 一緒に何か考えていきましょうよ。

右近 よろしくお願いします!

 取材・文:大内弓子

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