5月6日(日)、東京日本橋浜町の明治座にて、舞台「仮縫」の幕があがった。原作は昭和を代表する作家・有吉佐和子による『仮縫』(集英社文庫)で、今回が本作初めての舞台化となる。
予想を裏切るストーリー展開がとても楽しい。執筆から50年経った作品だが、きっと現代の働く女性には共感いただける内容ではないだろうか。
舞台は、現代に生きる『老女』が、デザイナーの卵である"清家隆子"(檀れい)や、オートクチュールデザイナーの女王"松平ユキ"(高橋惠子)等、女たちが華麗なる闘いを繰り広げた店・"オートクチュールパルファン"を追憶するところから始まる。
『老女』を演じるのは、山本陽子。大女優の貫禄を包み隠さず舞台上に発っする、黒くて禍々しいオーラが凄い。この老女が、舞台の随所に登場するので、客席からは「何が起きるんだろう?」と、始終ものがたりの先行きに不安感がつきまとう。
『老女』が去ると、舞台は一転、華やかな在りし日の「オートクチュールパルファン」へ。
赤い壁に囲まれた部屋の中央には、モーツァルトをバックミュージックに、たくさんのお針子に囲まれてドレスを誂えるマダム。「ざぁます」言葉で繰り広げられる、昭和の上流階級の世界。
その世界を手のひらで転がすように支配しているのが、高橋惠子演じる「松平ユキ」。こちらもさすがの大女優っぷりで、この世界に君臨するに足る、隙のない成熟したキャリアウーマンを体現している。
松平ユキの弟、松平信彦を演じるのは、葛山信吾。整った顔立ちに、口跡の心地よい甘い声、次から次へと発せられる巧みな言葉に、スマートな立ち居振る舞い。完璧であるが故に、心の底が見えない危うい空気を醸し出す。
そして、老女、松平姉妹、熟練の先輩お針子たち、お客様であるマダムたち。
このような世間から隔絶された、選ばれし者だけの一流の世界に飛び込んでくるのが、檀れい演じる「清家隆子」である。花道から登場する檀は、ファッション界に飛び込んだばかりの、明るくて無垢、一生懸命さが全面に出て、見た目も仕草もとにかく可愛い。
これが、二幕・三幕と場が進むに連れて、新たな一面を次々と見せてくれるのだが・・。その変貌っぷりは、この舞台の眼目のひとつであるので、ぜひ実際の舞台をご覧になって楽しんでいただきたい。
そして、主要登場人物として忘れてはならないのが、古谷一行。
その物語での存在自体が、謎に包まれているマイペースな大人の男。その振る舞いと、たっぷりな色気によって、松平ユキと清家隆子の人生に大きく関わってゆく。
登場人物は多くはないが、演じる俳優たちの裏打ちされた演技によって、舞台上には非常に濃厚な空気が溢れている。
クラシック音楽、パリの街角がよく似合うミュゼット、そしてなぜか東京音頭など、時代を彩った音楽もまた舞台によく合う。
最後に、タイトル『仮縫』とは。
どんな優秀な洋裁師でも、「仮縫」なしに洋服を仕上げることはできないし、「仮縫」があると思うから、自由に挑戦ができる。「仮縫」の間なら、何回も補正が出来るから。
「仮縫」から「本縫」の過程を人生に見立てて進む話は、ラストシーンにハッとさせられる。非日常の世界だが、自分にも置き換えながら観ることができる、ぜひオススメしたい作品である。