2018年4月4日(水)〜4月15(日)に東京芸術劇場シアターイーストで上演されるオフブロードウェイ・ミュージカル『In This House〜最後の夜、最初の朝〜』。
この作品はグラミー賞受賞作曲家であるマイク・リードが手掛けた現代ドラマ。
60歳を過ぎた老夫婦と30歳前後のカップルが大晦日の夜の偶然の出会いから、それぞれの人生を振り返ったり未来についての不安を打ち明けるというシンプルな構造でありながら、現代を生きるそれぞれの世代のリアルな心情を描いている。
開幕を1週間前に控え、佳境を迎えつつある稽古場で、岸祐二、入絵加奈子、綿引さやか、法月康平の4人の出演者に現在の稽古の様子や心情を聞いてみた。
全4回の稽古場レポート第2弾は、ルイーサ・アーデン役の入絵加奈子さんにお話を伺いました。
−最初に台本を読んだときの印象はどうでしたか?
ルイーサに選んで頂いたことをすごく嬉しいと思いました。台本を最初に読んだ段階で自分の中にすっと入ってくる役で、とても好きになったんです。きっと楽しんで演じられるだろうなと感じたし、この役を演じられることが今の私に大きな力になってくれる、そんな気がしました。
−今稽古の真最中ですが、その中で感じている変化や、もしくはフォーカスしていることはなんですか?
板垣さんの上演台本の素晴らしさに助けられています。翻訳台本の初稿を読んだときとは自分の中に入ってき方が全然違ってたんです。普通は新しい台本を頂くと必ずどこかで何箇所かノッキングを起こすんですね。これってどういう意味だろう?とか、これちょっとつじつまが・・・ということがあるんですけど、今回の上演台本ではそうならなかったです。
それから、割と板垣さんが自由に演じさせてくださるので、ほとんど自由にやらせていただきつつも、日々役が成長しているのを実感しています。でもそれは私だけの問題じゃなくて、舞台は総合芸術なので、やっているうちにいろんなものがどんどん積み重なっていって、その中で自分の役自体も底上げされていくものですから、だから今まさに前進している最中なんだと思います。
私が今お稽古の中で特に感じている変化は、若者二人の変化なんです。板垣さんが時間をかけて手取り足取り丁寧に教えてくださっているから、彼らは日々成長しています。それに板垣さんがあの二人に教えている事が自分にも当てはまったりすることがあって、すごく勉強になっていますね。お稽古、大好きです!
−皆さんの稽古を見てて楽しいですよ。
本当ですか?それは台本と作品がいいんですよ。
−不思議ですよね、アメリカの田舎が背景の話なのに。
自分にも必ず照らしあわせることができるというか、人生を振り返って思い起こされるセリフがあったり、ふと「あ、そういうことだったんだ」って気付かされることがある、そういうストーリーだと思うんです。「観客は自分の物語を観にくる」と、いつも板垣さんが仰っています。自分の物語を見せられるとつらすぎるので、私たちが紡ぐ物語の中に自分を見つけて癒されたいのだと。最近本当にそう思うようになってきました。私たちの仕事って、そんな責任を担っているのかも知れないと。
−入絵さんが演じるルイーサという人物の好きなところと嫌いなところがあるとしたらなんでしょう?
好きなところは、愛情深くて優しいところですね。人を責めるのではなくて自分が悪いんだって全部自分のせいにしてしまう優しさ。でも、その優しさ故に自らつらい生き方を選んでしまった可哀想な人でもあります。そういうところが、ルイーサのすごく好きなところです。
−嫌いなところはないですか?
嫌いなところはキーが高いところです。急にそんな高い音で歌わんでもいいやんって!それだけ(笑)
−歌っていて一番気持ちが入ってしまう曲はどんな曲ですか?
「毎日祈った、心が傷んだ」のところです("時はゆく")。この歌詞が入ってるM11("この家で")からM12("時はゆく")への流れがとてもよくできていて、この二曲の間にエミーの物語(ヘンリー夫妻の娘)をセリフで語ってから歌に入るのですが、その流れが本当に完成されているんです。あのシーンだけでも完璧にミュージカルになっていると思います。M1("時間")もそうです。一曲でミュージカルとして完成しているんですよ。M1であるにも関わらず歌い上げて終わるという。この3曲が大好きです。
−この作品の登場人物は過去か現在に何かしらに没頭していた時期があるんですけど、入絵さんはこれまで思わず没頭してしまったことって何かありますか?
考えたたのですが答えがないです。多分この仕事かなって思います。物心ついた頃から舞台に立ちたいと思っていたんです。4歳の時にバレエを始めて、年に2〜3回は舞台に立っていましたし。
−バレエから自然と舞台を目指すようになったんですか?
でも実はアイドル志望だったんです(笑)。15歳くらいのときは。それでアイドルオーディションをいっぱい受けて、いつも最終審査まで残るんですけど、私が通ってたのがカトリック系の厳しい学校だったのでマスコミの仕事をすると退学になってしまうという状況で、それで諦めるしかなかったですね。だからとにかく東京に出よう、東京に出ようと、ずっとそれしか考えていなかったです。
−幼い時から夢がはっきりしてたということですか?
はっきりしてました。それ以外ないと思ってました。他のことを考えたことがないですね。没頭と言ったらそれしかないです。それだけは全然ぶれてないんです。女優になるということは。
−この作品でほとんどの登場人物が、過去に何かの夢を諦めていますが、今の仕事じゃなかったら、こんな事をしてみたかったっていうのはありますか?
専業主婦です。10代で結婚して子供をたくさん産んで育てる。肝っ玉母ちゃんと呼ばれたい。4人とか5人とか育ててもいいかもですね。この歳になると母親の役が多くなってくるのですが、どんなに愛情をかけようと思っても子供を育てたことがないから、本当の母親の気持ちは分からないんです。子供は好きですけど、でも自分の子供への愛情を、肌で、細胞レベルでは分からないですから。お腹を痛めて産んだ子供って言うじゃないですか。それを経験してみたかった。私たちって人間という仕事をしてるから、この歳になってみると子供を育てるという経験はしておきたかったと思えてきちゃうんですけど、そうはなってないから、きっと今の自分には神様が違うミッションを与えてくださってるんだなと考えるようにしてます。
−最後に、この作品のタイトルは『In This House』ですが、入絵さんにとって家(house)ってなんでしょう?
一言では言えなくて・・・。いい意味でも悪い意味でも、甘えられる安全基地だと思います。いい意味では同居人に対して普通に甘えられるということだけど、例えば、喧嘩をしたり反抗をしたりというのは相手に対して心を許して甘えてるからこそできることなので、悪い意味ではそういうことです。それが私にとっての家です。
例え一人だったとしても、自分を甘えさせられる場所、本当の自分自身に戻る場所って絶対必要じゃないですか。家がそうあるべきだと思ってるから、だからいい意味でも悪い意味でも甘えられるということがとても大事な気がします。
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「In This House ~最後の夜、最初の朝~」
公演日:2018/4/4(水) ~ 2018/4/15(日)
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
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