今月末に幕を開けるミュージカル『Romale ~ロマを生き抜いた女 カルメン~』。
カルメンといえばビゼーのオペラでも有名ですが、今回はメリメの小説『カルメン』を原作に、演出・振付の謝珠栄が彼女ならではの視点で描き出す、魔性の女と呼ばれたひとりの女性の物語。
主役のカルメンを、元宝塚歌劇団トップ娘役であり、宝塚時代にもカルメン役(1999年『激情-ホセとカルメン-』)を好演した花總まりが扮することも話題です。
稽古が本格スタートしたばかりの2月中旬某日、ともにカルメンに翻弄される男性を演じるホセ役の松下優也さんと、ローレンス役の太田基裕さんにお話を伺いました。
◆ 松下優也 & 太田基裕 インタビュー ◆
● 原作小説やオペラの知識がなくても、楽しめます!
―― 今回のミュージカル『Romale』は、有名なカルメンの物語を下敷きにしています。オペラなどでカルメンはとても有名ですが、今回はオリジナル要素も強い、新しいカルメンの物語ですね。
太田「僕、もともとのカルメンの物語、あんまり知らなかったんですよ。お話をいただいて調べたのですが、僕の演じるローレンスは、色々検索しても出てこないから、今回のオリジナルのキャラクターなんだろうな、って思いました」
松下「俺もそんなに知らなかったです。名前を知ってるくらい。有名なのってなんなんだろう、やっぱり『闘牛士の歌』とか? ......けっこう、イメージはあるけれど詳しくは知らない、って人が多いんじゃないかな」
太田「でも、台本はすごく読みやすかった」
松下「うん、すごく読みやすいし、わかりやすい」
太田「だからお客さんも原作小説や、有名なオペラの知識がなくても、楽しめると思います」
松下「そうだね。まぁ、原作とは少し違うお話になっているのかもしれないけれど、これだけ長いあいだ(メリメが小説として発表したのは1845年)、世界で愛され続けている理由はあるんだろうな、って思いました。ストーリーとしては意外とシンプルですし......」
太田「今回のミュージカル版は、展開も「どうなるんだろう」と思わせつつ、最後はきれいに着地していますよ」
―― おふたりが演じる役柄について、教えてください。松下さんが演じるのが、ホセですね。
松下「僕が演じるホセは、あることがきっかけで自分が生まれ育った故郷から離れなければいけなくなってしまいます。その後軍隊に入り、そこで出会ったロマ族のカルメンに恋をします。それまでは真面目に軍人としてやってきたのですが、カルメンと出会ってから、どんどん堕ちていってしまう......。そんな男です。ホセ自身は貴族なのですが、そんなに上の階級ではなく、さらにバスク地方出身。謝先生によると、バスク地方というのは今も民族性が強く、だから結構、(スペインの社会の中ではマイノリティであり)みんなと違う部分もあるというのが重要な部分かな」
―― そして太田さんが、ローレンス。
太田「イギリスの貴族です。たぶん身分的には相当上の方。カルメンに翻弄される男のひとりです。彼も、カルメンには何かある(自分を単純に愛しているとは思っていない)、とわかっているんですが、"恋は盲目" ではありませんが、彼女を愛してしまう。そういう、嫉妬の感情が面白いですね」
―― おふたりは、以前にも共演があるんですよね?
松下「そうです、『黒執事-地に燃えるリコリス-』(2014年)という作品で一緒でした。でもその時は、そんなにたくさん喋ったりはしなかったですよね」
太田「絡むシーンもあまりなかったですし......」
松下「そうそう。でも今回、なんだか一番距離が近い気がします。だって共演の皆さん、ミュージカルをガッツリやっている方たちだし、キャリア的にも経験豊富でしょう......」
―― お互い、なんと呼んでいるんですか?
松下「俺はもっくんです」
太田「俺は...... 優也くん、かな?」
松下「もっくんって、"もっくん" 以外、呼ばれることあるんですか?」
太田「......ないね」
松下「(笑)!ですよね。」
太田「だってもう、自分で「もっくんって呼んでください」って言っちゃってるもん(笑)」
● 稽古場は、パワフル!
―― お稽古に臨んでいる現在の心境をお伺いしたいです。
松下「大変ですね......。難しいとかキツイというより、なんというか、その場に慣れるのが大変といいますか」
太田「稽古がスピーディですよね。演出の謝先生の勢いに、まだ慣れていない(笑)」
松下「そうそう、その表現がわかりやすいです(笑)」
―― おふたりとも謝先生の作品に出演するのは初めてですよね。
松下・太田「初めてです」
松下「パワフルですよね~」
太田「どんどん畳み掛けるように演出がついていきます。それにいま、慣れようと頑張っている最中です」
松下「昨日はダンスシーンの振付があって、ちょっとだけ踊りました。僕らはそんなにたくさん踊るワケではなく、ダンサーの皆さんがすごく踊っているんですが。でも多少は踊りがあって......」
太田「ちょっとだけですが、それでも大変だったよね。僕はいま、身体がバキバキです(笑)」
松下「ダンサーの皆さん、すごいよね。謝先生のノリに慣れてる感じが!」
太田「テンションがね。謝先生のウェーブに乗っている」
松下「すごく積極的に動いていて、俺、見ていて「すごいな」と思いながら、「ヤバイヤバイ、俺も乗っていかなきゃ!」って思った」
太田「無理に乗っかったら事故っちゃうから、乗れるようになってから、乗っていこう」
―― 謝先生が仰ったことで印象的なものがあれば、教えてください。
太田「うーん。具体的な言葉というより、謝先生のテンションが印象的。とにかくずっと熱量を持ってやっている」
松下「でも僕、謝先生が全然作品と関係ないところでもどんどん話しかけてくださるのが、すごく嬉しい! 「冷蔵庫に栗おにぎりが入ってるから、持って帰り~」とか(笑)」
太田「確かに! 笑顔でね」
松下「僕、稽古場で先生の隣の席に座ってるんですが、休憩中に「おかきいる?」って(笑)」
太田「横からおかきの袋を持った手が(笑)」
松下「あとは「優也は結構ダンスやるもんな? ちょっと今やってよ」とか」
太田「無茶ぶりだ(笑)」
松下「そう無茶ぶり。やらんやらん!って返しました(笑)」
▽ 松下優也
● ヒロイン=カルメンは、花總まりさんです
―― カルメン役の花總さんは、おふたりから見てどんな方ですか?
松下「まだ、花總さんがどういう方なのか、しっかり掴んでいないのですが......ちょっと "不思議さん" っぽいところがありますね。謎めいている」
太田「もう、カルメンそのままじゃん」
松下「カルメンのような肉食的な感じはしないんですが、実際、不思議な雰囲気の方ですよね」
太田「僕、まだ本当に自分が手探りすぎて、まわりの方のことを語れる余裕がないのですが......、実は花總さん、おしゃべりだったりするのかな?」
松下「そうなんだよね、"実は..." が隠されているのかもしれないけれど、そこがまだわからない(笑)。でも、男性ばかりの空間が面白いです。だって、女性は花總さんだけですよ!」
―― そして共演の男性陣も伊礼彼方さん、KENTAROさん、福井晶一さん......と、名だたる大作ミュージカルに様々出ていらっしゃる方々です。以前松下さんが、「いわゆる "2.5次元ミュージカル" への出演が多かったので、こういった作品から声がかかって驚いた」というようなお話をされていました。実際お稽古が始まって、今までの出演作品との違いは感じますか?
松下「基本の発声の仕方は変わらないんですが、歌い方は結構変わる部分が多いかもしれません。まぁ、役柄によっても変わってくるところでもありますが......その違いはすごく感じます」
太田「僕も新鮮です。今まで出たことがあまりないタイプの作品です。どういうアプローチで演じていこうか、ちょっと探りながらやっているところではありますが。作品としても、こういうスパニッシュ系の音楽を使ったミュージカルってあまりないですよね」
松下「僕、以前出演した『イン・ザ・ハイツ』が、アメリカが舞台なのですがプエルトリコとかの移民の話だったので、ラテン・ミュージック系でした。だからそういう雰囲気の作品は味わっているんですが......でも、この作品とは時代が違うので、やっぱり受ける印象は全然違いますね」
太田「僕はいまこの段階ですでに「難しいな」って思っています......」
▽太田基裕
● 「シンドくなったら、ご飯に一緒にいこう!」
―― 最後にお互いに言っておきたいことがあればどうぞ。
松下「でも本当に「これからどうなっていくんだろうこの稽古場は」という状況で、謝先生もその時その時で「こうやろう」「ここはこうしよう」って、バババっと変えていく。音楽も、尺が伸びたり短くなったりしていますし、歌い方も昨日は「力強く」って言われたものが、次の日には「やっぱりなし」となったりしています」
太田「稽古の序盤でこれだから、本当にどんどん変わっていくんだろうね」
松下「そうそう。だからまず全体を通してみたい!という思いです。その上でもきっと「もっとこうした方が良くない?」っていうのが出てくるかもしれない」
太田「本当に手探り状態なんです」
松下「だから......どこかでシンドくなったら、ご飯行ったりしようね。もうすでに稽古が結構ハードで、1日の稽古が終わったら結構みんな疲れちゃって、まだ、ぜんぜん行けていないんですが......どこかで発散の場が必要になるかもしれません(笑)」
太田「そうなったら、そういった時間がとれたらいいですね(笑)!」
松下「でも本当に年齢的にも近いし、もっくんがいることで僕は安心する。感覚的にも、もっくんと色々なことが共有できるんじゃないかな、と思ってます」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源賀津己
【公演情報】
3月23日(金)~4月8日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
4月11日(水)~21日(土) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ(東京)