【マタ・ハリ通信(15)】柚希礼音演じるマタ・ハリの"生"が輝く!ミュージカル『マタ・ハリ』東京公演開幕

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■ミュージカル『マタ・ハリ』特別連載(15)■

【東京公演開幕レポート】

1月の大阪公演を経て2月3日、ミュージカル『マタ・ハリ』東京公演が開幕した。『ジキル&ハイド』などを手がけるフランク・ワイルドホーンが音楽を担当し、2015年に韓国で初演されたミュージカル。日本初演となる今回は、主人公のマタ・ハリを柚希礼音、彼女の運命に深く関るふたりの男性、ラドゥーとアルマンの2役を回替わりで加藤和樹が演じる(初日は加藤がアルマンを演じ、Wキャストの佐藤隆紀がラドゥーを演じた)。演出は石丸さち子4IMG_8576.JPG


物語は、1917年のパリが舞台。ヨーロッパ全土を巻き込む第一次世界大戦は3年目に突入し市民は疲弊、上層部にも焦りが見えている。そんな中、オリエンタルで官能的なダンスで人々を虜にしているダンサーがいた。名はマタ・ハリ。フランス諜報局のラドゥー大佐は、ヨーロッパをまたにかけ活躍しているマタに目をつけ、スパイになるよう圧力をかける。同じ頃、マタは戦闘機パイロットの青年アルマンと出会い恋に落ちるのだが、実はそれもラドゥーが仕掛けた罠で......。


オープニングが秀逸だ。舞台には、水墨画にも似た、煙のような雲のような背景。モノトーンのシンプルなセットの中、こちらも黒を基調にしたシックな衣裳に身を包んだキャストが、民衆として、兵士として、戦争に苦しむ市井の人々の嘆きを叫ぶ。それぞれがワンポイントで赤い何かを手にしているのは、彼らが願う生への渇望か、命そのものか。そして「生きろ」と叫ぶ彼らの中に、誰よりも鮮やかな朱色の衣裳で、マタ・ハリが舞い立つ。マタ・ハリの代名詞であるエキゾチックな"寺院の踊り"を踊る柚希は、しなやかかつダイナミックなダンスが美しいだけでなく、女性らしい腰まわり、筋肉、すべてが美しくまさに劇中で「男性だけでなく女性も魅了する」と語られる妖艶さ。何よりも"生"のエネルギーに溢れている。まさに、この閉塞した時代に舞い降りた女神といったインパクトだ。10IMG_8366.JPG1IMG_8479.JPG

演出の石丸と柚希はしかし、マタ・ハリをただ"謎めいたカッコいい女スパイ"とは描かない。凄絶な過去を抱え、それでも人生に立ち向かうけなげな女性、必死に生きる普通の女性として、誰もが共感し得る感情を繊細に掬い上げる。マタ・ハリの、アルマンに恋し、普通の暮らしを望むと語る笑顔が柔らかく、可愛らしい。宝塚のトップスターとして凛々しい姿を見せてきた柚希だが、今回は女性の弱さも強さもとても自然に演じている。生来彼女が持つ素直さで、丁寧にマタ・ハリという役と向き合い作り上げたのだろうことが伝わってくる役作りは、観る者の共感を呼ぶ。柚希だからこそのマタ・ハリを生み出したと同時に、彼女にとって本作が女優としてのターニングポイントになるに違いないと確信した。9IMG_8981.JPG


一方でその恋の相手であるアルマンを演じる加藤も、マタと同じく心に抱えた孤独と傷を丁寧に描く。だからこそ、彼女と自然に心を寄り添わせつつ、最初は策略で彼女に近付いた事実に苦しむのだ。色気と少年の純粋さを同居させた加藤のアルマンは、マタが恋に落ちる説得力が十分だったが、それゆえにもうひと役、マタにスパイ活動を強いるラドゥーを加藤がどう演じるのかも気になるところ。そのラドゥーを初日で演じたのは佐藤隆紀。マタを利用しつつ彼女に溺れていく男という難しい役柄を、その深みのある歌声も上手く使い、好演していた。2IMG_8814.JPG3IMG_9094.JPG


物語の縦軸はマタ・ハリとアルマン、ラドゥーの三角関係だが、時のフランス首相・パンルヴェ役の栗原英雄、ドイツ将校であるヴォン・ビッシング役の福井晶一というベテランふたりが、横軸である戦争という時代背景をきっちりと描き出し、物語に太い筋を通したのも特筆したい。戦争に翻弄されたマタ・ハリだが、彼女を利用したパンルヴェ、ビッシングをはじめとする軍部の人間たちの姿も丁寧に描くことで、石丸は単に利用する側/利用された側という関係性だけでなく、戦争という状況のやるせない歪みも描く。アルマンは上官であるラドゥーに、ラドゥーは首相であるパンルヴェに、そしてパンルヴェは国民感情といったものに圧迫される。その連鎖は、誰もが苦しげで、誰も幸せではない。また1幕では戦場から逃亡しようとした若きパイロットであるピエール(西川大貴 ※百名ヒロキとWキャスト)が、2幕ではラドゥーの部下になっている姿はまさに"第2のアルマン"となっていくことを予感させ、終わりの見えない戦争が生み出す不幸な連鎖を思わせる。そしてそんな状況下だからこそ、生の象徴であるかのようなマタ・ハリに、誰もが魅了されていくのだとも思った。上演に際し、石丸は「戦争の残酷さの中で、いかにして優しさが生きる希望として生まれれるか、そして彼らの中にどのような愛と裏切りが生じるか、それでも人はどう生き抜こうとするか、ということを描きたい」とコメントをした。その演出家の狙いどおり、間違いなく、このステージの上では"愛"と"生"が輝いている。ぜひ、その目で確かめてほしい。5IMG_8627.JPG6IMG_8840.JPG7IMG_8467.JPG8IMG_8671.JPG


2月18日(日)まで、東京国際フォーラム ホールCにて上演。チケットは発売中。なお、加藤がラドゥーを演じる日は、アルマンを東啓介が演じる。

取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
  

【公演情報】
・2月18日(日)まで 東京国際フォーラム ホールC にて上演中

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