【マタ・ハリ通信(5)】ラドゥー/アルマンの2役に挑む! 加藤和樹インタビュー

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■ミュージカル『マタ・ハリ』特別連載(5)■


稽古場レポートを通し、創作の過程をお伝えしている日本初演のミュージカル『マタ・ハリ』 ですが、メインキャストのインタビューもお届けしていきます!

今回は、ヒロインであるマタ・ハリと深く関るふたりの男性、ジョルジュ・ラドゥーアルマン・ジロー2役を回替わりで演じる加藤和樹さんが登場。

マタ・ハリをスパイとして利用しようと彼女を追い込んでいく、フランス諜報部の大佐であるラドゥー。
ラドゥーの部下でありながら、マタ・ハリと愛し合う青年アルマン。

ともにマタ・ハリと深く関りながら、その関り方は正反対という対照的なふたりの男性に、加藤さんが挑みます。

加藤さんに、作品について、役柄について、現在の心境について、伺ってきました。

● 加藤和樹 INTERVIEW ●

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―― 戦時下のシリアスなドラマですし、ただでさえ大変な作品。その中でさらに加藤さんは2役を演じます。......なぜこんな大変なお仕事を受けたんですか?

「(笑)! なぜかと言われると、そうですね...。やっぱりこういうお話を頂いたら、挑戦してみたいと思いますよ。同じ作品の中でふたつの役をやるというのは、なかなか出来ることではない。以前、『ロミオ&ジュリエット』で僕がティボルトをやっていたときに(2013年)、城田(優)がロミオとティボルトの2役をやっていたのを近くで見ていて、大変そうだけど、やれたら面白いだろうなってなって思っていました。今回このお話を頂いて、挑戦してみたい、という気持ちしかなかったですね」


―― 稽古場では、台本を2冊お持ちになっていましたね。

「そうです。ラドゥー用、アルマン用と、台本を分けています。一冊にまとめて(それぞれの役についてのメモなどを書き込んで)も良かったんですが、台本自体を分けた方が、自分の中で住み分けが出来るんじゃないかなって思って。そうしています」

―― お稽古はどんな感じで進んでいるんですか? 今日は一日こっちの役で......とやっているんでしょうか。

「最初は、今仰ったように、アルマンだとしたらアルマンを先に全部作っていこう、と演出の石丸さち子さんともお話をしていたのですが、僕が稽古を見ていたら、やりたくなっちゃって......」


―― 確かにアルマンとして立っていても、対峙してるラドゥーの佐藤隆紀さんに石丸さんが何か言っていたら、一緒に聞きたくなっちゃいますもんね。

「そうそう、そうなんですよ。だからさち子さんにも同時進行でやらせてくれとお願いし、ダブルキャストのふたりにも、一緒に作っていきたいと話をして、今は同時進行でやっています。思っていたより混乱もせず、逆に2役をやることで気持ちの切り替えも出来るし、集中してやれています」

▽ 稽古場でアルマンを演じる加藤さんmata06_DSC5632.JPG


―― 現時点で思うそれぞれの役、どんな人物と捉えていますか。まずアルマンについて。

「アルマンは、マタ・ハリに任務として近付いていくのですが、その中で彼女に本当に惹かれていってしまいます。やはりそこには何か(同じ匂いを)感じたから惹かれるんです。特務として(マタ・ハリに近付くという)大役を任されたのですが、彼自身、壮絶な幼少期を過ごした青年。いざ彼女と知り合ってみたら、彼女も自分と同じような境遇にいたということがわかる。だから本当に惹かれていってしまう。そして彼女を守っていきたい、普通の幸せを追い求めていきたいと願う。とてもピュアな青年だと思います。まともな育ち方をしていたら、好青年だったんだろうなと思うのですが、でも(過去があり)心のゆがみを抱えている。そこが今回のメインの3キャラクター、マタ・ハリ、アルマン、ラドゥーに共通している部分だと思いますし、その "共感覚" を大切にしたいです


―― ラドゥーについてはいかがでしょう。

「とてつもなく、ひん曲がっています。彼は頭も良く、容姿も良い。でも何不自由なく諜報局の大佐まで上りつめたのではなく、のし上がっていった人。成り上がり精神があり、やっぱりどこか歪んでいる部分があるんです。そして今まさに戦争をしているという状況で、『一万の命』という曲もありますが、自分の采配ひとつで一万の命が奪われてしまうというプレッシャーや、上からの重圧もある。そんな中で屈折した心を持ってしまった。ある意味では、戦争が生み出してしまった、とても可哀想な人間......という印象です」


―― ラドゥーは実在の人物ですよね。

「ただ、今お話したものは、石丸さんと作り上げた(今回の物語上の)ラドゥー像です。彼はパンルヴェ首相(栗原英雄さん)の娘と結婚して、娘婿としていい地位につかせてもらった......これも台本では描かれていない、今回やっていく中で作り上げた部分ですが。彼自身も、色々な顔を使い分ける。そういう意味ではマタ・ハリと同じですよね。だからこそ、唯一、心惹かれる存在がマタ・ハリで、そこに対し執着して、醜く歪んだ愛情になってしまう。純粋な欲求だけのはずなのに、それが任務や戦争といったものが重なり、なんとしても手に入れたいものになってしまったんです」

▽ 稽古場でラドゥーを演じる加藤さんmata06_DSC5653.JPG


―― 現時点では、ラドゥーとアルマン、どちらが共感しやすいですか?

「難しいですね......。ストレートに見るとアルマンだと思うのですが、実はラドゥーの方が、人間的に共感できるところがあるかもしれません。すごく歪んでいて、すごく狂っているんですが、すごく可哀想な人なんですよ。ラドゥーというキャラクターには、この戦時下という状況で "人間とは" というものが一番表現されている気がします。生きる象徴としてマタ・ハリがいて、ラドゥーは死と生の狭間でもがき苦しむ人の象徴。それに "上からの重圧" などは今の時代にも通じる。普遍的な人間の姿の象徴じゃないかと思うんです」


―― 先ほど仰った "共感覚" という言葉も興味深いです。作り上げる上で重要になってきそうですし、加藤さんが2役を演じることが、活きてきそうです。

「本当にそうです。心の奥底に共通するものがあるからこそ、一方ではわかりあえるし、一方では毛嫌いし反発するんだと思います。あと今回、僕の中でテーマになっているのは "普通ということの大切さと難しさ"。マタ・ハリとアルマンは、普通の暮らしをしたい、普通の幸せを求めるんですが、それはラドゥーにも言えること。こんな戦争がなければ、自分はいい大学を出て、いい会社に就職して、落ち着いた暮らしをしていたはずだったのに...! という。第一次世界大戦下だからこそ人々が求めることは、"普通"、"平穏"。いま自分の普通がどれだけ幸せかということを忘れず、普通の大切さを心の中で持ちながら、このお芝居を作っていきたいと思っています」


―― 話は少し変わって。加藤さん、ワイルドホーン作品は初挑戦ですね。

「はい、初めてです! 難しいんですよ。曲自体、歌い上げるものが多くて、どうしても "歌いたく" なっちゃう。そこをいかに、歌わずに "芝居" で出来るか......というところに、苦戦しています」


―― 石丸さんの演出も、芝居を大切にしているものですし。

「はい。それを音楽に乗せるのが大変。譜割りもありますしね。それをどう嵌めるか......でも、言葉を音楽に "嵌める" ものじゃないよな、って思ったり。(言葉を)"乗せる" のと "嵌める" のは全然違いますから。でも時にはテクニカルに嵌めなきゃいけないこともある。そのバランスをどう取るか、探っているところです」


―― 石丸さんの演出を受けるのも初ですね。

「毎日刺激になります。やっぱり誰よりも作品、役、言葉の大切さ、深みを理解していらっしゃるので、僕らをよりよい方向に導いてくれる。時には「そういう見方もあるのか」と、自分の読みが浅いことも痛感させられます。石丸さんの指し示す方向に、自分の思いをプラスアルファしていけばもっといいものになると思います」


―― 今回の挑戦は、加藤さんの俳優人生のターニングポイントになりそうですね。

「自分にとっても忘れられない作品になるだろうなと思います。『フランケンシュタイン』もそうでしたが、ミュージカルでこれだけ熱量のある芝居って、ありそうで、ない。感情が思いっきり歌に乗る感覚は、自分でやっていても「この感覚は何だ!?」と思います。芝居と歌の融合、それが本来、ミュージカルの目指すところだと思います」


―― 石丸さんが、加藤さんが例えばラドゥーひと役だけにキャスティングされて演じるラドゥーより、2役に挑戦することで、もっと違うラドゥー像に到達するに違いない......という期待を語っていらっしゃいました。

「例えばアルマンの時には「こうしたらもっとラドゥーの気持ちを煽れるな」とか、ラドゥーを演じる時には「どうやったらアルマンがもっと嫌な気持ちになるかな」とか、そういうことを、より深く考えられます。まだまだ見えていない部分もありますが、両方演じるから両方の気持ちがわかるので、「じゃあもっとここをこうしよう」と考えながらやれています。ただ、僕よりちえちゃん(柚希礼音さん)が混乱しているんじゃないかな(笑)。稽古場では僕がアルマンをやって、ラドゥーをやって......という入れ替わりがすぐ来るから。「さっきまで愛していた人が、自分に向かってひどいことを言ってくる!」みたいな。それは可哀想だなと思いながら、心を鬼にしてやっています(笑)」


―― 最後に、これだけ言っておきたいということがありましたら、お願いします。

ぜひ2役とも、観て欲しいです! ダブルキャストの、シュガー(佐藤隆紀さん・ラドゥー役)ととんちゃん(東啓介さん・アルマン役)も、素晴らしく僕と全然違っています。このふたりと相対する僕の芝居というのも、観ていただきたいです」

取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源 賀津己

【公演情報】
・1月21日(日)~28日(日) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
・2月3日(土)~18日(日) 東京国際フォーラム ホールC

 

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