■ミュージカル『マタ・ハリ』特別連載(3)■
作品の魅力を掘り下げていくミュージカル『マタ・ハリ』 連載、本日は「読み合わせ稽古」の模様をお届けします。
連載1回目でお伝えした「顔合わせ」に先立って行われた「読み合わせ」。
椅子に座リ、動きの付いていない状態ではありますが、台本をアタマから最後まで通して読む稽古です。
演出の石丸さち子さんによると「先日、台詞と歌詞で(歌ナシで)通しましたが、今日はワイルドホーンさんの音楽を入れてやります。全体の大きなうねりを感じて」。
芝居を大切に、繊細に作り上げている石丸版『マタ・ハリ』ですが、もちろんフランク・ワイルドホーンのドラマチックな音楽も見どころ(聴きどころ)。
俳優たちが掴んでいくキャラクターの心の揺れが、どう音楽に乗せられていくのか。そのあたりも注目です。
●「登場人物は皆、戦争の犠牲者であり、加害者でもある」
この日の「読み合わせ稽古」という作業の目的についても、石丸さんは次のように説明をしました。
「ドラマを支える様々な役の台詞はいま、仮に割り振っています。今日やってみたいのは、"ここに出てくる人たちはみんな、戦争の犠牲者だ" ということ。でも、マタ・ハリを二重スパイに仕立て上げたという意味では、"加害者" でもあります。登場人物たちは、大きく「第一次世界大戦」という枠組みの中で、同じ時間を生きた同胞。ひとりひとりの存在が、一個の人として見えると同時に、この時代の社会全体に見えてこないか、と考えています。
そのために、自分の役柄以外のキャラクターも演じてもらいます。この時代、誰がそこにいても(どの立場になっても)おかしくない、という作り方をしていきます。ひとりの人間の感情の流れを丁寧に演じることもあれば、10人くらいでパリ市民全体を表現することもあるということです」
さて、そんな石丸さんの説明から始まった稽古は、キャストの皆さんの熱演で、もうすでに日本版『マタ・ハリ』の世界がしっかり伝わってくるものでした!
音楽も、さすがワイルドホーン!という、多彩かつ大迫力のナンバー揃い。
なお、この時の稽古は、ラドゥー=佐藤さん、アルマン=東さん。
マタ・ハリ=柚希礼音さん
悲しい過去を抱えたマタ・ハリ。
"あの頃には戻らない" という悲壮な決意が溢れ、マタの感情が心にぐさぐさ突き刺さってきます。
物語が進むにつれ、彼女の必死さがどんどん募る。柚希さんのマタ・ハリは"必死に生きる"マタ・ハリだな......と感じました。
ちなみに読み合わせとはいえ、すでに稽古が進んでいる人は席から立ち上がっての熱演です。
ラドゥー=佐藤隆紀さん(加藤和樹さんとWキャスト)
ラドゥーはマタ・ハリを脅し、スパイへと仕立てあげていく人間。マタ目線で見れば悪人かもしれませんが、彼もまた、「この悲惨な戦争を終わらせる」という目的を持ち、誰よりも味方の命を大切に思っているのです。
佐藤さんは、マタを追い詰める冷酷さと、心を殺して非道なことを強いることへの葛藤という両極端な顔をすでに作り上げています。ラドゥーが、非常に奥行きのあるキャラクターになっています。
アルマン=東啓介さん(加藤和樹さんとWキャスト)
マタ・ハリと恋におちる青年、アルマン。
東さん、素直で力強い歌声がとっても良いですね!
しかし、マタとアルマンの恋は、ラドゥーがマタを陥れるために張った罠......。
そしてラドゥーもアルマンも、自分たちが仕掛けた罠なのに、マタ・ハリの魅力に囚われていきます。
マタをめぐり、そんな複雑な立場・感情に陥っているふたりの男が火花を散らすデュエットナンバー『二人の男』は劇中でも人気のナンバー。
佐藤さんと東さん、稽古初盤とは思えない大迫力でした!
(ただしこの顔合わせ、本番ではありません...)
ピエール役はこちらのふたり。
百名ヒロキさんと...
西川大貴さん
ピエールたち飛行機乗りが1幕で歌うナンバー『英雄であれ』は、いかにもワイルドホーン!これぞグランドミュージカル!な壮大な曲です。お楽しみに。
冒頭、石丸さんの言葉の中にも登場しましたが、この作品の時代背景は、第一次世界大戦。
ヨーロッパ中を巻き込んだ戦争ですが、パリが舞台であり、作中に登場するのはフランスとドイツの戦いが中心です。
そんな2国を背負って登場するのが、
パンルヴェ(フランス首相)=栗原英雄さんと...
ヴォン・ビッシング(ドイツ将軍)=福井晶一さん
この実力派のおふたりが、ビシっと締めることで、戦争という背景をきちんと描き出してくれるに違いありません...!!
そして、マタ・ハリの衣裳係であるアンナ=和音美桜さん
衣裳係といっても、マタとずっと一緒にいる親友のような存在です。
和音さん、この日の演技の印象では、クールで現実的なアンナのよう。ただし、だからこそマタを思っての言葉の数々が深く、響くようです。
活気もあり、皆さん気さくで気持ちの良い稽古場なのですが、
ひとたびスイッチが入ると、非常に張り詰めた、緊張感のある空気になります。
それがまた心地がよい。
良い作品にしようという皆さんの意気込みがひしひし感じる、エネルギッシュな稽古場でした。
さて、ラドゥー&アルマン役の加藤和樹さんが登場しませんでしたので、稽古合間のオフショットで加藤さんの横顔をお届けしておきましょう!
最後はラドゥー&アルマンの3ショット!
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:源賀津己
【公演情報】
・1月21日(日)~28日(日) 梅田芸術劇場メインホール(大阪)
・2月3日(土)~18日(日) 東京国際フォーラム ホールC