11月16日、宝塚歌劇団花組公演『ポーの一族』 の制作発表会が開催されました。
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【ニュース】宝塚で『ポーの一族』。その美しさに萩尾望都も「言葉にならない」
『ポーの一族』は、萩尾望都が1972年に「別冊少女コミック」に第1作目を発表以来、幅広い世代から支持を集めている、少女漫画史上屈指の傑作漫画。
永遠に年をとらず、哀しみをたたえつつ時空を超え旅を続けるバンパネラ "ポーの一族" の姿を、主人公エドガーや、のちに彼らの仲間になるアランらを軸に描き出していく物語です。
演出を手がけるのは、『エリザベート』など大ヒット作を数々手がけている、ミュージカル界のトップランナー・小池修一郎。
小池さんは、この作品をミュージカル化したいと宝塚歌劇団に入団、萩尾氏には1985年に「いつか劇化させて欲しい」と申し出ていたとのことで、そのあたりのエピソードも会見では詳しく語られていました。
この日の会見は、エドガー・ポーツネル役の明日海りお、シーラ・ポーツネル男爵夫人役の仙名彩世、アラン・トワイライト役の柚香光によるパフォーマンスからスタートしました。
▽ エドガー・ポーツネル役の明日海りお
もはやまわりの空気が発光して見える...!
▽ シーラ・ポーツネル男爵夫人役の仙名彩世
▽ アラン・トワイライト役の柚香光
▽ 少女漫画から抜け出してきたようです
▽ トップコンビがいわゆる相手役ではない作りになりますが、トップ娘役の仙名さんがメリーベル(エドガーの妹)ではなくシーラを演じることについても、脚本・演出の小池さんから詳しい説明がありました。
▽ 柚香さん曰く、今回の舞台では、アランは一族に入る前・人間である時間が長いとのこと。会見のパフォーマンスでもそのような印象を受ける作り。アランがエドガーに絡め取られていくような...。
▽ 永遠の時を生きるさだめを背負う悲しみが伝わってきます...!
▽ しかし、美しいですね。
会見には原作の萩尾望都さんも出席。
「この世のものとも思えぬものを見て、ちょっと頭がどこかに行ってしまいました。なんか...ありがとうございます。感激で何と言ってるのかわかりません...。(隣にエドガーがいて)ちょっと心臓がバクバクいっています。
イメージ以上にイメージが美しくて、小池先生のこだわりがものすごくよくわかります。本当にこだわっていただいてありがとうございます。
私のイメージどおり......イメージを超えた美しい世界が目の前に広がるというのが予感でき、いまからドキドキワクワクしています」
と、これはもう"大絶賛"と言ってしまっていい感想!
会見は、トークショー形式で行われました。
●まずは気になる、「小池さんはとにかくこの作品を舞台化したいという気持ちで宝塚歌劇団に入った」という逸話について。
小池修一郎さんは次のように真相(?)を明かしました。
「私が宝塚を目指したときは『ベルサイユのばら』ブーム。少女マンガと宝塚のコンビネーションは、ひとつのブームでした。その頃、同級生に勧められて読んだのが『ポーの一族』です。私はSF漫画が好きだったのですが、ほとんど少女漫画を読んだことがなかった。『ポーの一族』は"過去へのタイムスリップ" といった感じのもので、こんな作品があるのかと思い、さらにバンパイア伝説、そして大変美しい絵があいまって、ものすごい衝撃を受けました。それで、宝塚歌劇団に入団させていただくことになって、さてどういうものをやりたいか...となった時に、『ポーの一族』とか出来たらいいだろうな......と、具体的なところまで考えず、漠然たるイメージとして思い描いていました。
その後、宝塚のスターたちは、原作の年齢設定よりも当然大人ですから、これは難しいかなとはっと気付き、(上演まで)ちょっと時間が経ってしまいました」
●会見冒頭のパフォーマンスで報道陣を魅了した、エドガー・ポーツネル役の明日海りおさんは、次のように感想と意気込みを。
「実際にエドガーとして人の前で動くということが初めてで、しかもそれが萩尾先生の前。漫画を、キャラクターを立体にしてしまうことのことの重大さを感じ、たいへん緊張しました。
私も原作を読み進めていくうちにどんどん『ポーの一族』の世界に入り込んでしまいました。普段わたしたちが役柄を演じるときは、自分の役の感情を追っていくのですが、先生の漫画はエドガーの気持ち、アランの気持ち、色々な人の気持ちが押し寄せてきて、途中から狂ってしまいそうなほど。胸が凄く苦しくて、でもその時間が楽しくてしょうがなくて...という、ときめきの詰まった物語だと思いました」
エドガーという役については
「エドガーの存在すべてが魅力的に感じています。先生の描かれる絵の表情、目の寂しさ、結んだ口の薄そうなところ、後頭部に感じるオーラ...わかります(笑)!? そして立っているときの背骨のライン、そういうところが少年なのにセクシーでもあり、すごく惹き付けられるものがあります。それをどう佇まいで表現したらいいのかといま困っているところです。
やはり何年も時を経ていくわけですから、見た目が同じくらいの子たちとはまったく全然違う感情が流れていると思いますし、バンパネラになったことによって、彼が失ってしまったものへの思いをずっと彼は抱えながら生きていかなければならない。パフォーマンスの歌でも "悲しみを抱いて生きる 僕はバンパネラ" という詞がありましたが、独特の葛藤を表現できたらと思います。
難しいのは、今まで男役をやってきて、声は年々深みがあればあるほどいいと思っていましたし、仕草もなるべく男らしく見えるように研究してきましたので、いざ(少年である)エドガーを演じるとなったときに、声をどう出すか考え直さねばいけないなと思いました。時を経てきたゆえの深くてまろやかな声でありながら少年の声、というのを作れたらいいなと思います」
と話していました。
▽ 明日海エドガー、アップで見ても、美しいんです!!
●シーラ・ポーツネル男爵夫人役の仙名彩世さんの意気込みは...。
「シーラは愛に生きている女性。駆け落ちしてまで男爵と一緒になり、そして一族に加わる。加わってからも一族や男爵を愛する気持ちは変わらず、バンパネラにも愛があるという思いがとても強くて、そこがとても素敵だなと思いました」
シーラという役柄については仙名さん、
「漫画の中のシーラはとても美しい貴婦人だなとまず思いました。でも中にたぎっているものが情熱的。小池先生からも情熱的で妖艶な女性だと言われました。佇まいなどをこれから研究していかねばと思いますし、愛に生きようとする強さも表現できればと思います。また男爵とエドガーがよく衝突するのですが、そんな彼らを、そして人間とバンパイアの間で葛藤するエドガーの姿も、母性で包み込む力もある優しい女性。色々な要素を含めた上で、女性として魅力的にみえるようにいかに作っていけるか、たくさん研究していきたい」とのことでした。
●アラン・トワイライト役、柚香光さんが感じる原作の魅力、役柄の魅力
「私も最初に読んだ時、漫画でこんなにも想像力を刺激させられるのかと、本当に今までにない体験をさせていただきました。読んでいくと、役の感情や関係性はもちろんのこと、音楽や香りさえも想像させられるよう。その世界観にとても魅力を感じています。
パフォーマンスは私も緊張したのですが、袖からエドガーを演じる明日海さんが舞台に立たれて、照明を浴びているのを本日初めて観て、ゾクっとしました。この世のものではない感じで、バンパネラを見たときにもしかしたらこのように身の毛がよだつのかなと感じました。アランは今回の舞台では人間の状態、まだ一族に入る前の状態が長く描かれています。初めて明日海さん演じるエドガーを見たときのゾクっとした感情を新鮮に覚えていたいな、それを舞台の上でも表現していきたいなと感じました」
柚香さんは、演じるアランについて次のように語りました。
「漫画を読んだ第一印象は、とても人間らしい人。感情をまっすぐに受け取り、まっすぐに返すことのできる、とても純粋な人なんじゃないかなと思いました。その中に彼の生い立ちから、孤独であり、愛を求めているところがあり、でもそれを人に見せたくないので意地を張ってしまうのも彼の魅力。そういった部分も素直に表現できれば。色々な角度から彼のことを見ていきたいと思います」
▽ 柚香アランもまた、アップで見ても、美しいんです...!
●萩尾望都さんの"宝塚体験"、そしてなぜ今、舞台化をOKしたのか?
「宝塚自体は中学・高校と大阪吹田市に住んでいて、中学校の時に「霧深きエルベのほとり」を観にいったのが最初です。別世界に来たみたいでした。本当に主演の男の方が美しくて...。スポーツ選手とかで "カッコいい" という男の方はたくさんいますが、"美しい" という男の方が初めてでした。男性でも美しい人がいるんだと衝撃を受けた覚えがあります。...いや女の人なんですが(笑)。その美しさをもう一回観ようと思って、のちのち、宝塚に通うようになりました。今は一年に2・3本観ています」
「小池先生の作品を初めてみたのは『蒼いくちづけ』(1987年上演)、そして『華麗なるギャツビー』(1991年)と観て、どちらもすごく私ごのみの作品で、特に驚いたのは、そのセンスでした。観客を高いところに連れていってくれそうな。いつか『ポーの一族』をやりたいといわれていたのですが、小池先生ならいつでもOKですよと言っていたのに、こんなに待たされたんです(笑)」
...と、今まで上演を断っていたのではなく「待たされていた」と告白!
そして小池さんへの注文は「ないです」とキッパリ。信頼関係が見てとれます。
●そんな萩尾望都さんと小池修一郎さんの交友関係は、遡ること...
小池「初めてお会いしたのは、1985年に『哀しみのコルドバ』という宝塚のヒット作がありまして、この新人公演を私はやってた時。その新公が終わったあと、帝国ホテル内で知人と会う約束をして、そこにいったら隣の席で萩尾先生が打ち合わせをしていらしたんです。先生の方が先に打ち合わせを終えられて、そのお仕事相手の方が帰られて、マネージャーの方とふたりとまだお茶を飲んでいらしたので、こんな機会は一生ないかもと思い「すみません、萩尾先生ですよね」と声をかけました。単純に「ファンなんです」みたいなことを言ったと思います(笑)。その時たしか名刺をお渡ししたんですよね。それから2ヶ月もしないうちに、先生はその時たまたまミュージカルの脚本を書いていらして、それについての意見を求められて、(お付き合いは)それからですね」
萩尾「そのお席で、小池先生はお花をいっぱい持っていらっしゃったんですよ。こちらのスタッフと、きっと劇場関係の方よねとお話してたんです。そしたら立ち上がってご挨拶なされた。あんまり男の方から「ファンです」と言われることがないので、ちょっとびっくりしました。演出家の方だというのであまり考えなしでずうずうしく脚本を送ってご意見を伺ってしまいました」
小池「当時の宝塚はお花の差し入れがいっぱいあって(現在は花の差し入れはNG)、スターの子たちが持って帰れないものを頂くんですよ。いっぱいもらって抱えていったものですから、先生にも赤いバラを差し上げたと思います。おすそ分けのおすそ分けで、恐縮なんですが」
萩尾「はい。何かいただきました(笑)」
●こだわりのポスター撮影
明日海「楽しくやらせて頂きましたが、小池先生から「メイクはもうすこしこうした方がいいのでは」といったアドバイスは頂きましたし、撮影に入る前から、お衣裳の生地感なども、すごく先生がこだわって選んでくださったとお聞きしました。ありがとうございます」
小池「私は漠然とした考えではありましたが、『ポーの一族』をやってみたいと思っていて、萩尾先生にお会いした時(1985年)に「いつかやらせてください」と、一応言ったんですね。なんですが、ポスター撮影のときに、明日海の扮装した姿を見てスタッフの方たちが「これは何十年も待った甲斐がありましたね」と言ってくれて。それは私もすごく思いました。この日のために、彼女がやる時のために、今まで運命の神みたいなものは、それまでやれない状況を作られたのかなと思ったくらいです」
●今回の舞台化はどうなる?
小池「原作でいいますと『ポーの村』『メリーベルと銀のばら』『ポーの一族』という流れがあります。ただ『ポーの村』は非常に初期のエピソード。最初はこれをかいつまんでやろうとしたら、それでも15分はかかかり、全然お話が収まらないので、プロローグの中に圧縮しています。
『ポーの一族』ほどの作品になると、それぞれの方の『ポーの一族』がある。すべての方の期待どおりとはなかなかならないかもしれない。ただ、私たちが出来るベスト......花組で作るベストを尽くします。
『ポーの一族』というと当然妹のメリーベルという存在が(大きく)あります。もちろんメリーベルも意味を持って登場しますが、僕は『メリーベルと銀のばら』『ポーの一族』という(今回舞台化する)エピソードだと、やぱりシーラという女性がとても大きな存在であり、これは宝塚の娘役としてやりがいがある役になると思う。必ずしもメリーベルがヒロインであるという形でなくても成立すると思った。もしかして、下級生で小柄な子が明日海の相手役だったら、あるいはその人がメリーベルをやったかもしれませんが、(今、花組で上演する以上)やはり仙名彩世という役者の魅力を出していくことの方が大事。それぞれの組・メンバーと合わせていくというのが、宝塚と作品の接点だと思う。また、1972年から連載された作品で、改めて向き合うと、勝手に思い込んでいたエピソードの流れとよく読んだら違うんだなということもいっぱいある。2018年今の視点でもういちど観て成立させるということを主眼として取り組んでいます」
ちなみに、質疑応答では「『ポーの一族』といえば「ジンチョウゲ ジンチョウゲ...」という名シーンがありますが(あるんです!)、このシーンは登場するか」というマニアックな質問も。
「ないです。すみません(笑)。ごめんなさい」と言う小池さんですが、その後萩尾望都さんが
「沈丁花が大きな樹にならないということを描いた後に気がつきました。本当は、何か別の植物にすればよかったですね(笑)」と制作秘話を暴露!?
明日海さんは、最後に
「まずは萩尾先生と小池先生と、原作のファンの皆さまにご納得いただけるようなものを作りたいと思っています。漫画というのは音声がない。エドガーってどんな声をしているんだろうといったところから作っていかなければならない、やることはたくさんあるのですが、自分のイマジネーションをフル活用し、先生と話し合いながら作っていきたい。稽古場でエドガーと呼ばれて「はい」と返事することすら恐れ多いくらい、本当に特別な作品だと思います。しっかりと自覚を持って、しかし作品作りは組子とともに力をあわせて楽しく作っていけたら」と意気込みを。
パフォーマンスにも、語られた言葉にも、ひたすら期待感を煽られる会見でした!
取材・文・撮影:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
・1月1日(月・祝)~2月5日(月) 宝塚大劇場(兵庫)
・2月16日(金)~3月25日(日) 東京宝塚劇場