ペンギンプルペイルパイルズの主宰にして、劇団外でも数々の舞台にひっぱりだこの作・演出家、倉持裕。
(近年だけでも『鎌塚氏』シリーズ、シアターコクーン『上を下へのジレッタ』、世田谷パブリックシアター『お勢登場』、ミュージカル『HEADS UP!』等々、手がけた舞台作品は本当にたくさん!)
『誰か席に着いて』 は、その倉持裕による新作オリジナルコメディ。
芸術家支援財団の、来年の助成対象者の選定に集まったふた組の夫婦。芸術の発展という崇高な目的のために集まっているはずが、実はそれぞれ自分勝手な、個人的な問題でそれどころじゃなくて......。
......つまり、「どの芸術団体にカネを出すか」を話し合うために集まった、インテリぶりたいけれど実は芸術のことをよくわかっていない人たちがああでもないこうでもないと話し合いながら、なんだか人間のどうしようもなさを露呈しつつ、ひるがえって人間の愛おしさを描き出す物語です。
キャストも、田辺誠一、木村佳乃、片桐仁、倉科カナといった豪華メンバーが揃いました!
10月末の某日、その稽古場を取材しました。
稽古場にはすでに、ちゃんとしたセットが建てこまれています。
まさかの日本家屋。しかも庭。
(いえ、勝手に、会議室的なものを想像していたので...)
ふた組の夫婦が中心の物語ですが、木村佳乃さんと倉科カナさん演じる妻ふたりが姉妹です。
そして、この姉妹の父が資産家で、もともと芸術支援団体を立ち上げた人。
父の死後も、血を引く彼女らが、どの団体に助成金を出すかという選定に関っているのです。
姉夫妻の夫が、田辺誠一さん扮する哲朗。映画プロデューサー。
少し、うだつの上がらない感じでしょうか?
自分(つまり身内の作品)も助成金の応募をして良いかどうか、という話題でプチ議論に。
ほかにも「自分たちの仕事は、"ああそうですか"とうなずくだけ(=承認するだけ)」という、それを言っちゃあ...な発言をしてしまったり、ちょっとこの仕事を舐めてる?的なところも。
あと、どうやら潔癖症な模様...!?
田辺さんの、どこか掴めない独特のたたずまいが、あいまいな空気を醸しだす哲朗に似合っています。
その妻・木村佳乃さん演じる織江は、スランプ中の売れっ子脚本家とのことですが、取材に伺ったシーンあたりではその脚本家の顔はまだ出てきておらず、"しっかり者の長女" という感じ。あまり本腰を入れていなさそうな、言ってしまえば"しかたなくこの場に参加しています" 風な男性陣の尻を叩き、チャキチャキと会議の舵を取っている...風。
一方で、妹夫婦はこちらのおふたりが演じます。
片桐仁さんは夫・泰平役。
「いやぁ、難しいなあ」「大変だなぁ」と他人事めいた発言が多く、ちょっと"お客さん" 感があります。
実際、妹夫婦は、この選定に加わるのは初の様子。
倉科カナさん扮する妻の珠子は、いかにも何かワケあり風。
しかもちょっと、空気がトゲっとしています。
姉妹も仲が良いのか、悪いのか。
姉の発言の言葉尻を捉えて突っ掛かったと思ったら、次の瞬間には姉妹がタッグを組んで別の人を攻撃してたり。
一筋縄ではいかない感じが、面白い!
取材した冒頭付近のシーンでは、まだ議論は本題には入っておらず(というよりこの物語、タイトルからして、議論の本題に入るのかどうかわかりませんが...笑)、
実際は「実行委員」が決めたものを「承認」するだけの自分たちの仕事に意義があるのか疑問を持つ者、その態度に怒る者、全く議論に集中していない者と、まさに「みんな席に着いて!議論進めて!」と言いたくなる状態。
財団創設者の娘であり、長女である織江がなんとか進めようとします。
「その前に確認しておきましょう。この話し合いの重要性について」と織江さん。
しかし、さらにこの場を乱す(?)要因が!
柳工務店の、柳和臣=福田転球さん。
家の不具合を修理に来たようです。
どうやら織江・珠子とは昔馴染のようで、親しげに話しています。
で、柳さんはちょっと、ガサツな感じ。
そして、家政婦?の、奈良みのり=富山えり子さん。
家政婦のように、哲朗と織江の夫婦の家の面倒を見ているようですが...家政婦ではない、のかもしれません...。
手にしているのは、ソックス。
...ソックス??
物陰から黙って様子を伺っている、珠子さん。ちょっと怖い。
ということで、この4人で、話し合っている。いや、話し合いを始めようとしているところ。
なのですが、柳さんがドタバタと動き回っていたり。
その柳さんの「あること」が気になって気になって、それどころではない哲朗さん。
ああ、議論は進まない...。
シーンを少し進めては、演出の倉持さんがストップをかけ、細かく動きを調整していきます。
「転球さん、このセリフのあたりから出てきてもらって、長く歩いてもらえますか?そうすると、田辺さんの動きも大きくなるので...」
「テーブルのこちら側から回って...」
「...はい、いいですね、その動きでやりましょう!」
落ち着いた丁寧なトーンで、俳優さんたちに動きを伝えていく倉持さん。そして自ら動く、フットワークの軽い演出家さんです。
倉持さんの演出も落ち着いた、大人っぽいトーンですが、俳優さんたちも、なんというか「大人の現場」です。
お互い敬語で丁寧に話していて、尊重しあっている感じ。
しかし、よく笑う現場でもあります!
あるシーンでは、木村さんのセリフの前に長い間があいてしまい...。
「すみません、音楽(BGM)待ちしちゃいました...。そうですよね、ミュージカルじゃないんだから、音楽待ちってないですよね...」と照れ笑いな木村さん。
そしてこちらは、富山さんの肩にポンと手を乗せる田辺さん...というシーンなのですが、間合いが狂ったか、見事に空振りする田辺さんの手!
いじけている珠子さん。
こちら、倉科さんこだわりの場所(?)で、演出部さんと相談しながら、スポっとハマれるように、足元の草の調整をしていました。
このあと、単なる姉夫婦と妹夫婦の親戚同士だけではない、4人の隠された関係性も明らかになっていき、さて、彼らの議論は進むのでしょうか...!
知的さとコミカルさ、そしてシニカルさがある独特の倉持テイストを、テンポの良い会話に、絶妙な間合いで反射神経良く芝居を進めていくキャスト陣。
これは、本番の舞台が楽しみです!!
取材・文・撮影:平野祥恵
【公演情報】
11月10日(金)~12日(日) THEATRE1010(東京)
11月15日(水) 北陸電力会館 本多の森ホール(石川)
11月18日(土)・19日(日) サンケイホールブリーゼ(大阪)
11月21日(火) 浜松市浜北文化センター 大ホール(静岡)
11月23日(木・祝) 久留米シティプラザ ザ・グランドホール(福岡)
11月25日(土) はつかいち文化ホール さくらぴあ 大ホール(広島)
11月28日(火)~12月11日(月) シアタークリエ(東京)
12月15日(金) やまぎんホール(山形)
12月17日(日) とうほう・みんなの文化センター 大ホール(福島)