【前編】主宰・中屋敷法仁が語る『柿フェス2017』「才能を疑える余裕が出てきた」

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劇団「柿喰う客」が、10月4日(水)から11月5日(日)まで、東京・赤坂RED/THEATERで「柿喰う客フェスティバル2017」を開催!

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「柿喰う客フェスティバル2017」上演作『無差別』の稽古場の様子


<「柿喰う客フェスティバル2017」とは?>
一日1~3演目、「柿喰う客」の演目が上演される、約1か月間のフェスティバル。今年は『流血サーカス』(11年初演)、『八百長デスマッチ』(10年初演)、『無差別』(12年初演)、新作『極楽地獄』の4作品がラインナップしています。チケット価格も手頃、さらに3名以上の同時観劇による割引制度「なかよし割」をはじめ、学生や高校生以下だとさらに手頃な価格!という、1か月間、気軽だけれど存分に「柿喰う客」を知って楽しめます!

そんな"柿フェス"について、劇団の主宰であり作・演出を手掛ける中屋敷法仁さんを直撃。『無差別』の通し稽古直後に、今回の企画のお話から劇団のお話までたっぷり聞かせていただきましたので、前・後編にわけてお届けします!

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中屋敷法仁さん


この記事の最後には、今回上演する4作品のポイントを語っていただいているので、ぜひチケット購入のヒントにしてください!(※当日券だと500円UPですのでお早めに!)

*****

◆できれば二作品くらい観てほしい理由

――『無差別』の稽古を見学させていただいたのですが、本番2週間以上前でこの完成度ということに驚きました。

 今年はメンバーが増えた(8月に9名加入)ので、こういう作品にしようという演出プランが明確に決まっていたからだと思います。

――メンバーが増えたので、というのは?

 作品ごとに戦略的な「キャスティング」ができるんですね。ベストキャストもできるし、ひねったキャスティングもできる。それは団体としてはすごく嬉しいことだと思います。『天邪鬼』(2015年9月)のときは7人で、去年の「柿喰う客フェスティバル」は12人だったんですけど、今は22人いるので。作品に応じていろんな人を配役できるようになりました。

――だからこそ早いということですか?

 僕はいろんな方から「4作品も同時に演出すると頭がこんがらがらないか」と言われるんですけど、そんなことはまったくなくて。圧倒的に頭がスッキリするんですよ。この4作品があるから、それぞれの作品の共通している部分と異なる部分、つまり守らなければいけないベーシックな部分や、それぞれの特長がよくわかる。一作品ばかり見ていると、なにが魅力でなにが短所なのかわからなくなるので。
でもこれは俳優たちもそうなのかなと思っていて。みんなが出る前提の本公演で「劇団の公演だから呼ばれる」のではなくて、今回だと「あの作品にも出られたけど敢えてこの作品にキャスティングした理由はあなたのこういう芝居が見たいからです」って言いやすいんですよね。今回はどのチームも毛色が全く異なりますし、「何故このチームでこの戯曲に挑むのか」ということを明確に捉えられるんじゃないかなと思います。...だからお客さんにはできれば二作品くらい観てほしいですね。

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「柿喰う客フェスティバル2017」上演作『無差別』の稽古場の様子


◆4作品を一挙上演するということ

――今回、この4作品を選んだのは?

 タイトルを見ての通り、割と不穏当な作品が多いんですけど(笑)。共通しているのは、とても血生臭い作品であること、そして、生命を感じられる作品であることだと思います。死を描くことと生を描くことは同義だと思うので。いずれも"生き生き"とした作品、さらに"死に死に"した作品をつくりたいということを考えました。

――再演作品も3作品ありますが、初演と変えようとか、逆に初演に近いものをつくろうとか、そういう方針は持つのでしょうか?

 まず新作(『極楽地獄』)があるんですけど。この作品は、僕が劇作家として「圧倒的なフィクション」を追求していくなかでの最高到達点...もう成れの果てみたいな(笑)。フィクションや演劇的なこと、ドラマチックなことを追求しすぎて危険な状態になっていて、「やばいな」って我ながら思うんですよね。こんなものを書くようになっちゃったんだっていう、そんな作品です。でもふり返ると、そういうことって今までもあって。それで、劇団はずっと"最新作"を求めてやっていたんだと改めて思いました。それも踏まえて今回の再演作3本は、その"最新作を求める緊張感"ではなく、改めて作品を噛み砕いてみて、「もっと深く伝わりやすく」ということを念頭に置いてつくっています。これまではある種、自分たちの才能を信じてやっていたところが、才能を疑える余裕が出てきたっていう。

――では初演とは違いそうですね。

 違いますね。やっぱり初演の頃はつくることばっかりで、戯曲を丁寧に読み込めてなかったので。改めて戯曲を読むことで考え直せるし。僕個人としてもいろんな現場での演出を経て、改めて自分のちょっと稚拙な台本を読むと「でもここの部分はすごいぞ」とか「だからこれ面白いんだ」とか、自分の戯曲や「柿喰う客」の魅力を俯瞰で見られるんですよ。これは今回、このフェスティバルをやってよかったなということです。作り続けてばかりいると、見えなくなるものもあるので。

――そもそも4作品上演するのはどうしてですか?

 我ながらなんですけど、この4作品が一番、劇作の方針がバラバラだなと思っています。でも同時に、これまであらゆる角度から「劇場の中におけるフィクション」を追求してきたんだということにも気づきました。「柿喰う客」という団体が、1作品ではとても語り尽くせない、こういう鵺(ぬえ/サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足、ヘビの尾など、さまざまな動物のからだがひとつになっている妖怪)のような団体であるということも、伝わってほしいなと思います。戯曲一本、演出一本、俳優一人が戦うんじゃなくて、よくわからない俳優集団と、バラエティに富んだ戯曲群と、それぞれに応じた演出の角度みたいなもの...このフェスティバル感が「柿喰う客」にあればいいな、なんてことを思っています。

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「柿喰う客フェスティバル2017」上演作『無差別』の稽古場の様子


◆中屋敷法仁の戯曲の魅力

――ご自身の劇団ということはもちろんありますが、いろんな場所で活躍されている中屋敷さんにとって、「柿喰う客」での作・演出というのはどういうものですか?

 "劇作家の中屋敷くん"っていうのは、時代を牽引するほど評価されていないのですが、やっぱり僕は"劇作家の中屋敷くん"のことをすごく尊敬している部分があって。それは本当に演劇的なことを書くんですね。演劇でしか許されない、または劇場で俳優が語ることでのみエネルギーを持つ、みたいな本を書ける人は、僕は現代劇作家では"中屋敷くん"一人しかいないと確信しています。彼が求める「圧倒的なフィクション」に付き合いたいっていうのがあります。ただすごくわかりづらいので、面白くしづらい。だから俳優さんとスタッフさんとうまくコミュニケーションができてないと、本だけが孤立してしまうんですよね。こういう危うさも相まって、それをどうしようかなといつも思っています。

――"劇作家の中屋敷くん"はご自身の中で別にあるのですか?

 書き終わってしまうと劇作家の僕はどこかに行ってしまうので。今はどこかで寝てると思います(笑)。

――完全に演出家の目線で読んでるわけですね。

 そうです。「これ、何を書いてるんだろう」とか、稽古場で俳優さんが台詞を喋ったときに「何を喋ってるんだろう」とかいつもビックリします。当時の彼(劇作家としての中屋敷)は気付いてなかったな、という言葉があったりもしますしね。あとは俳優さんかな。(「柿喰う客」の)俳優さんは今や、僕の演出を聞くことと同時に中屋敷の戯曲を上演することのプロフェッショナルで。「この台詞がどうなるか」ということをよくわかって身体に落とし込んでいる俳優さんたちなので。それはすごい集団だなって思います。

――そういう意味では今回入ったばかりのメンバーもいますが、どうですか?

 「柿喰う客」は11年続いているので(2006年1月1日結成)、長く付き合っている中でのキャスティングだったり、長く付き合っているからこそ生まれた戯曲なんてのもあったりするんですよ。今回、それより良くなるか良くならないかはわからないですが、初演とは違った要素を引き出してほしいという願いは、キャスティングする中でかなりありましたね。

☆お話は後篇へ続きます! この後は、中屋敷さんによる作品解説コーナー!

*****作品選びの参考にどうぞ!

■『流血サーカス』(2011年初演)
サーカス団に売り飛ばされた少年の波瀾万丈な冒険譚。
エンターテイメントを愛する全ての人に送る怪奇娯楽作品。
東日本大震災から一週間で創作&上演された問題作を新旧メンバーで再演。
出演:七味まゆ味 加藤ひろたか 守谷勇人 とよだ恭兵 北村まりこ 村松洸希 永田紗茅
中屋敷「タイトルに『サーカス』とついてるだけあって、サービス精神あふれた作品です。とにかくお客様に楽しんでほしい、お客様に演劇の魅力を伝えるというようなことで言うと、とてもとても、こっちが恥ずかしくなるくらいサービス精神にあふれた作品なので。それとこの作品は北村まりこさんをはじめサービス精神が溢れる俳優がたくさん出ているので。面白がらせるぞ!っていう意識がすごい高いと思います。これと『八百長デスマッチ』は、フェス期間中一番長い期間やってるので、ほかの作品観てからでも観れるし、リピートもしやすい作品だなと思ったりもしています」

■『八百長デスマッチ』(2010年初演)
「この戦いの結末は...入念に打ち合わせ済みだ!」
あらゆる反則技が許された男たちの、壮絶かつ予定調和な死闘。
俳優2人による意地とプライドを賭けた演劇勝負、ついに開幕。
出演:永島敬三 大村わたる
中屋敷「一番観やすい作品だと思っています。ふたりの俳優が舞台上で戦い合うという。まあ、『八百長デスマッチ』ですからね、予定調和な死闘を繰り広げるという作品なんですけど。これは俳優の魅力と、俳優という生き物がどのように共演するのかという、演劇の根幹的なところが楽しめる作品です。ある種コメディタッチではありますし、上演時間も短いんですよ(約30分)。かつチケット料金もお求めやすくなっている(他作品よりお手頃!)ので、スルッと観るにはオススメです。初めましての方も一番観やすいと思っております。内容もとてもわかりやすいと思います」

■『無差別』(2012年初演)
「神も、仏も、獣も、人も...」
戦後日本の思想転換を題材に描き出す、おぞましい因果の物語。
第57回岸田國士戯曲賞最終候補作品、7名の女優による魂のリバイバル。
出演:葉丸あすか 原田理央 長尾友里花 福井 夏 浅場万矢 今井由希 齋藤明里
中屋敷「第57回岸田國士戯曲賞最終候補作品まで残った、「柿喰う客」のマイルストーンな作品であるんですけども。女ばかり7人の生み出す因果の物語という。テーマは重いんですけど、それを女優たちの軽やかさとエネルギーと美しさでつくっています。そういう意味ではちょっとダークファンタジーであり、さらに女優たちの妖艶な美しさ、美しい衣裳、ダンスでみせていくような作品ですね」

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「柿喰う客フェスティバル2017」上演作『無差別』の稽古場の様子


■『極楽地獄』(新作)
「柿喰う客」が2017年に放つ最新作。
極上のサービスを提供するリゾートホテルで起きる珍事件を描く。
背筋が凍り、魂が燃える、阿鼻叫喚のナンセンス・サスペンス。
出演:永島敬三 田中穂先 宮田佳典
小林義典 高橋里帆 高畑亜実 鐵 祐貴 中﨑正人 中嶋 海央 中村ひより 永橋 洲 三国 悠 宮﨑悠理 脇領真央 渡邉素弘
中屋敷「先日仙台で先行上演した新作です。僕は本当に一番キャッチーでポップでキュートな作品だと信じてつくってたんですけど、仙台で上演したときは地獄の様相で(笑)。阿鼻叫喚というか、賛否両論ってこういうことなんだっていう。こんなに怒られるんだっていうことと、こんなに褒められるんだっていうこともあったので。この作品を嫌いな人がいることもよくわかりますが、でもこれは"成れの果て"なので。正直、僕は過去の作品よりも強い作品だな、そういう意味ではと思ったりしています。あとは「柿喰う客」以外のゲストキャストもたくさん出ますし、異様な空間が観れるんじゃないかな。完成されてない未完成である扇動があるのはこの作品だと思っています」


後編につづきます!ご期待ください!

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