ジョニー・デップが主演し、アカデミー賞7部門にノミネートした映画『ネバーランド』(2004年)を舞台化したブロードウェイミュージカル『ファインディング・ネバーランド』。
2015年にブロードウェイで開幕し、あらゆる世代が楽しめる演出で多くの観客を魅了してきた本作が、今秋に来日。主演のビリー・ハーリガン・タイさんに話を伺った。
――ブロードウェイミュージカル『ファインディング・ネバーランド』で最初に主演を務められたのが今年2月。劇作家J・M・バリーとして、どのくらいステージに立たれましたか?
「たくさんだね。それは数えきれないほどだよ」
――幾度となくバリーを演じていくなかで、この役柄のことをどう感じましたか?
「バリーのことを完全に理解できることは、きっとないと思った。作品によっては役柄がしっかりと確立されているけれど、バリーにはそういう感じがないんだ。彼は、劇作家であり、芸術家。だから、「バリーはどういう人なんだろう?」って考えれば考えるほど、「僕は芸術家としてどういう人間なんだろう?」って、結果的に自分を投影して考えるんだ」
(にっこり)
――同じアーティストとして、共感できるところはありますか?
「これまでありがたいことに役者として成功させてもらって、大きい作品に出れば出るほど、「もっと大きい作品に出てみたい」と考えてしまう"落とし穴"がある。物語の冒頭のバリーもそうなんだ。彼はすごく成功した劇作家で、でも、彼は芸術家としてのビジョンを失いつつあった。彼を演じるたびに、自分の心の中の芸術家としての声というか、キャリアの前にまず自分のパッションがどこにあるのか、というのを再認識させてくれるんだ」
――演じるたびに、その感じ方も変わっていますか?
「公演のたびに、バリーがどんどん具体的になっていると思う。お客さんは気づいてないと思うけど、自分の中では、自分の気持ちを加速させてくれる何かを感じているんだ」
――バリーとともに成長しているんですね。
「まさにそうだよ」
――9月の来日公演は、さらに洗練されたバリーになっていますね。
「この役も、この作品もすばらしいのは、エンドレスにその可能性があるところだと思うよ」
――いままでにこういう作品に出会ったことはありますか?
「ないと思う。これは芸術家が成長していく話だから、僕自身も芸術家として成長できる。自分自身を投影できる"鏡"のような作品なんだ」
――なるほど。それでは、作品の見どころを教えていただけますか。
「この作品で僕が一番好きなのは、それぞれの登場人物が、フック船長だったり、ウェンディだったり、『ピーター・パン』のキャラクターにもなること。バニーがインスピレーションを受ける瞬間を実際に目撃することができる。ここは本当に面白い。そして、このことによって、『ピーター・パン』が単なる物語ではなく、キャラクターのひとつひとつの奥深さを感じることができるんだ。『ピーター・パン』の物語とその役柄がバリーを取り巻く人たちに影響されて、そして作品のメッセージがヒートアップして湧き出てくる。そこが見どころだね」
――そういう演出が作品にはたくさん散りばめられているんですよね。
「演出のダイアン・パウルスが、この作品に参加できたことも、ホントにすばらしいことだと思う。彼女は視覚的に物語を伝えることに長けているんだ」
――ビリーさんは『ピピン』でご一緒されているんですよね。今回、ダイアンさんとどんなことを話されましたか?
「彼女とは稽古に入る前にたくさん話し合ったんだ。バリーのこと、そして彼が出会っていく他の役柄について。でも、その中でも特に大切だったのは、僕の中のバリーを探す時間を与えてくれたということ。すごく感謝している。彼女は僕に、誰か他の人が作ったバリーになる必要はないんだと言ってくれたんだ」
――制作発表では劇中歌を歌い上げて、その歌唱力もさることながら、その表現力に感動しました。歌うときはどんなことを心掛けていますか?
「作品の稽古で歌を覚えているときは、まだテクニカルの部分で、ここでは母音をしっかり歌うとか、ここではテンションを上げるとか。そうやってキレイなメロディの流れを作っていくことに集中するんだ。そういったテクニカルなものがすべて終わったら、一度すべて捨てて、物語に集中する。制作発表でも、本番の舞台でも同じで、この役柄が何を感じているかを意識するようにしているんだ」
――制作発表の舞台でも瞬時に役に入るわけですね。とてもすばらしかったです。ちなみに、劇中の曲の中で一番のお気に入りを教えてください。
「舞台上で一番楽しい気持ちになるのは、『Believe』だね。子どもたちとキャストが一緒になって、バニーと想像の冒険を始める。これはホントに楽しい。それから、一番美しいと思っている曲は、クリスティン(・ドワイヤー)が「今日をしっかり生きればきっと道はある」と力強く歌う『All That Matters』。これはとても難しい歌なのに、すごく簡単に歌っているように歌うんだ。この歌を歌える彼女を尊敬している」
――このシーンでビリーさんは、聴き手に回るんですね。
「そうだね。このとき僕は、楽屋にいるからね(笑)」
――(笑)。ところで、制作発表のときに応援サポーターの坂上忍さんが、「大人にはぜひ観てほしい」と力強くPRされていました。それはどういうことだと思われますか?
「もちろん子どもたちが楽しめるような、ピーター・パンや海賊たちの冒険もある。でもこの作品は、人間関係や人生、そして死。こういったテーマをメッセージとして伝えようとしているんだ。また、人生をこれからどう生きたいか迷っているとき、立ち止まって考えるように促してくれる。大切な人を亡くされた方や、仕事でつまづいてしまった方、いろんな苦労をされてきた方たちは、特に心に響くと思う。自分の人生に関わる人たちについて、考えさせられるんだ」
――2019年に日本版のバリーを演じる石丸幹二さんとは、役柄について話をされましたか?
「実はすごくたくさんの話をしたんだ(笑)。彼と知り合えて一番すばらしかったのは、何千マイルも遠い場所で暮らしているんだけれども、役どころを捉えるという意味で、僕と同じアプローチの仕方をされていること。この作品について、一番最初におっしゃったのが、「この作品はまるで鏡のようだね」と。だから、石丸さんのバリーはぜひ拝見したいと思う。同じようにアプローチしたとしても、お互いのバリーは違うものになると思うんだ。それに、僕は彼と共演もしてみたい。すごく楽しい方だから」
――誕生日(8月15日)もご一緒なんですよね。運命的な出会いなのかもしれないですね。
「今日もお会いできましたし(たまたま近くにきていた石丸さんが数分前にビリーに会いに訪れた)。もしかしたら、僕のバリーの役も取られちゃうんじゃないかな(笑)」
――(笑)。それでは最後に、日本のお客さんへメッセージをお願いします。
「お客さんには、本当にオープンな気持ちで観に来ていただきたいな」
――でも、事前に『ピーター・パン』は観たほうがいいですよね?
「それは助かるかもね(笑)。でも、『ピーター・パン』を観たことがなくても、どうやって作られたかの経緯が分かるわけだから、この後にまた『ピーター・パン』を観に行く理由になるよね(笑)」
――本日はありがとうございました。来日公演を楽しみにしています。