これってホントに日本舞踊!?
驚きと楽しさに満ちた新シリーズ第1弾
************************************************************************
市川染五郎(松本錦升)が理事をつとめる日本舞踊協会の新シリーズ第1弾、日本舞踊 未来座『賽=SAI=』」が、今月15日より国立劇場小劇場で幕を開ける。伝統の継承と革新を目指して、新しい日本舞踊の創作に挑んだ本作、稽古場に伺うと、「これが日本舞踊?!」と、驚きの連続でした。
チャレンジに満ちた計4作品、今回はその中から、染五郎が演出を手がけた『擽-くすぐり-』をメインに、公演直前の熱気をお届けします!
約120流派・5000名の日本舞踊家が流派の枠を超えて集う日本舞踊協会、お固い日本舞踊のイメージを打破すべく立ちあげたのが、新シリーズ『未来座』だ。タイトルの「賽」には、転がる「賽子(サイコロ)」のように姿を変え、進化していくとの決意が込められている。
第1回の今回は、水にまつわる4作品を上演する。水は時間とともに姿を変え、過去、現在、未来へと流れていくもの。その姿に日本舞踊の未来を重ねて、4作品はそれぞれ、まったく違った顔を見せる。おとぎ話あり、ミュージカル風あり、自由で多彩! こんなイメージ、今までなかったかも!
その中でも『擽-くすぐり-』は、水の未来を描く作品だ。水の未来って何? そんな疑問を吹き飛ばすように、速いテンポ、太鼓と鼓の音に乗って足を踏み鳴らし、出演8人が漂う水になる。始まりは命の源流、羊水だ。たぷんたぷんと揺れる水、何だか気持ちいい。
音楽は、ドラマーでパーカッショニストの仙波清彦。仙波さんは、邦楽囃子方の家元に生まれ、歌舞伎界で活躍しながら、1982年に総勢40名の『はにわオールスターズ』を結成した生ける伝説だ。人数もすごいが、戸川純、デーモン小暮、奥田民生など参加メンバーもすごすぎる!
その自由な音楽に惚れ込んだ染五郎さん。5月に大好評を得た『氷艶 HYOEN 2017--破沙羅』ではオリジナル音楽を依頼したが、今回は既存の作品から気になるリズムを自らチョイスした。
「とにかく動く、踊るこの作品には、仙波さんの音楽しかない!と思って。約40曲の中から感覚で選んでつなぎ合わせました。」と言う通り、プリミティブあり、DJテイストあり、バラエティに富んだ音楽が次々登場する。
『擽-くすぐり-』というタイトルには、「おもしろかったら、ただ笑って」という気持ちを込めたのだとか。その言葉通り、コミカルな動きもたくさん。
水は、液体、個体(雪、氷)、気体(蒸気)へと、さまざまに形を変えていく。ざぶん、ざぶんと打ち付けるような大波は海? 8人がくっついては離れ、またくっつく。隊列と変えつつ動いていく群舞に心が躍る!
水の中をゆっくりと進む「すっぽんダンス」?!
踊り手のしなやかな動きで、不思議なことにゆらゆら揺れる水が見えるよう。まるでこちらも水中に入り込んだような気分に。
ときには水の重さも表現する。その重みで役割を果たす水車だ。
舞台では「セリ」があがり、観覧車のように高さも表現する。「盆(舞台中央の回転舞台)」を回すシーンもあり、舞台機構もフル活用される。
海のあとには、花街のようなシーンも。「"水"商売です(笑)。男女のシーンも描きたくて。好きになって、嫌いになって、また好きになる。雨がふれば、人が寄り添う。水ってそういう力もありますよね」(染五郎)。
えっ、もしやコレ、「ゲッツ!」?
「この人主役のコーナーです!って感じ。これ以上ない表現でしょ」と、染五郎さん。
一瞬、日本舞踊ってことを忘れるダンサブルな表現も、日本舞踊の型を飛躍させたものだとか。ビシッと決まる見得は凛々しく、カッコいい!
くっついては離れ、くすぐり合うことで起こる水の未来を、肉体で表現していく25分。
時に素早く、時にゆったり、緩急をつけながら、とにかく踊る、踊る、踊る! 胸をはずませ、ノンストップで動き続ける姿は、凛々しいアスリートのようだ。
こちらはファンタジックな『水ものがたり』。水の精が住むという小さな村で遊ぶ子どもたち、のどかな風景が見えるようで、心癒される。
今が盛りの女流舞踊家五人衆が、名舞台の1シーンをよみがえらせる『女人角田〜たゆたふ』。艶やかで、ビシビシ決まる型には日本舞踊の"粋"がつまっている。
『当世うき夜猫』は、都会の片隅で生きる野良猫たちの物語。猫たち、ニャンともかわいい。上妻宏光の三味線もドラマチックだ。
今回は4作品の通し稽古で、かなりの大人数。広い稽古場は熱気であふれる。
皆さん、ハードな踊りに汗はびっしょり、息はぜぇぜぇ。それでも、出番となると、きりりと顔が引き締まる。
カーテンコールのお稽古も。全員が揃うと圧巻だ。演出家の指示に、全員が即反応して形が決まる。さすがはプロ集団!
2時間30分の通し稽古は、あっという間に終了。
4作品とも違った楽しさで、日本舞踊ってとことん自由なのだと驚いた。気づけば指先でリズムを刻み、自然と体が揺れてくる。こんなに楽しいものだったなんて! 伝統をベースの進化する姿は、まさに未来座の象徴だ。
「水って無色透明、形はないのにすごく存在感がある。常に進んでいますよね。つくづくおもしろいテーマだと思います。日本舞踊は肉体で心情、情景を表現しますが、何を表しているかではなく、エネルギーそのものを自由に感じてもらえたら。出演者全員、ひたすら動いて、筋肉痛です(笑)。そりゃ痛くもなるでしょうよ、というものをお見せしますので、ぜひ、気持ちよく踊っている姿を観に来ていただければと思います」(染五郎)
取材・文:大西美貴
撮影:阿部章仁
公演情報
6月15日(木)〜6月18日(日) 会場:国立劇場小劇場