■『RENT』2017年 vol.2■
1996年オフ・ブロードウェイで初演、以降、世界中で熱烈に愛されているミュージカル『RENT』。
1996年オフ・ブロードウェイで初演、以降、世界中で熱烈に愛されているミュージカル『RENT』。
20世紀末のNYを舞台に、セクシャルマイノリティー、HIVポジティブ、貧困、麻薬中毒...様々な現代的な悩みを抱えながらも、夢に向かって生きている若者たちの姿を描いたビビッドな物語、
そして『Seasons of Love』などの珠玉のナンバーの数々も、愛されるポイントです。
日本でもたびたび上演されている作品ですが、この夏、2年ぶりに『RENT』がやってきます!
2015年公演で、初の翻訳ミュージカル出演ながら、主人公・マーク役に抜擢された村井良大さん。
その後、『キム・ジョンウク探し あなたの初恋探します』 『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』とミュージカル界でも着実にステップアップしている村井さんに、
2年ぶりに『RENT』の世界に挑む思いを伺ってきました。
◆ 村井良大 ロングインタビュー ◆
『RENT』は僕のベスト・オブ・ミュージカル
―― 『RENT』2回目の挑戦ですね。初出演が2015年公演でしたが、2年前の公演を振り返るとどんな思い出ですか?
「大変でしたね。大変でしたよ!」
―― なにが大変でしたか?
「楽しすぎて大変でした(笑)」
―― なるほど(笑)。村井さんはその後、様々なミュージカルの舞台を踏んでいますが、翻訳ミュージカルとしては、2015年版『RENT』が初挑戦でしたね。
「そうです。海外ミュージカルも初めてでしたし、海外の演出家さんの作品に出演するのも、初めての経験でした。毎日すごく刺激的でしたね。共演のみんなも、俳優をメインでやっている人はもちろん、音楽活動がメインだったり、さらにやっている音楽のジャンルも違っていたり、出身国も違ったり...バラバラなフィールドから集まっていた。そのみんなが、こんなにもバラバラなんだけどひとつになっていくというのが、すごく不思議な体験でした」
―― 『RENT』カンパニーって、独特ですよね。空気感が本当にファミリーのようで。
「独特ですよねー。でも僕は、本格的なミュージカル経験がここから始まったから、これが当たり前になってしまいました。もちろん、距離感の近さとかに驚きはしたんですが、特殊なところをいきなり知りすぎちゃった感じで、僕、もう『RENT』以外は(ミュージカルは)無理なんじゃないかなあ...って思ったくらいです(笑)。でも"特殊"からスタートしたというのは、僕の人生、やっぱりこういう流れなのかな(笑)」
―― 「やっぱり」なんですか(笑)?
「王道を歩まないというか(笑)」
―― ちなみに具体的に言うと、『RENT』のどこが特殊と?
「まず、基本的にお芝居に対してのダメ出しがないんです。そうではなく、人間性のダメ出しをされたり(笑)。演出のアンディ(・セニョール Jr.、日本版リ・ステージを担当)が、ひとりひとりと向き合って、それぞれに対応の仕方を変えているんです。だから無機質な冷たいダメ出しはないんです。「こうして欲しい」というようなことも、「君はどう思ってるの?」と聞いてくれて、人対人で対話している感じ。「美しく歌ってほしい」なんてひと言も言わない、むしろ歌が上手い人には「もっと下手に歌え」と言うほど。それがすごく...歌だけで見ているんじゃないんだなと感じて、僕は嬉しかったんです。ミュージカルって、やっぱり"お芝居"でいいんだ、と思えた。歌で聴かせるだけじゃなくもっと違う表現、違うパッションでやってほしいんだな、そういう作品なんだなというのが僕はすごく驚きました」
―― 素敵ですね。
「アンディは「僕はRENTを仕事と思っていない。ライフワークだ」と言っていた。ですから、ここをこうして作り上げるのが仕事だ、だから君たちはこうしてくれ、というようなことは言わないんですよね。もちろん、このセリフは強く言って欲しい、とかはありますけれど。それはおそらく、演技をして欲しいということではなく、もっと内側からくるものを大切にして欲しいということ。それを内側から出すために、どう君たちを理解すれば出来るんだろうということを、すごく考えてくれていた。その作り方が最初は不思議だったんですが、でも、心地よかったんです。言葉は通じなくとも面白いとわかりあえるものを作りたい気持ちが強かった。みんながみんな、柔軟にものごとを考えていて、笑顔が溢れる現場でしたし、素敵なミュージカルだったと思います」
―― 2015年公演、村井さんはオーディションでマーク役を獲得しました。その頃「今後、海外ミュージカルを初め、本格的にミュージカルをやっていこう」といったお気持ちがあったのでしょうか?
「いえ、特になかったです(笑)。なかったというか...、シンプルにミュージカルという存在が、僕の人生の選択肢として浮かび上がっていなかった。なので、オーディションも絶対に落ちると思って受けていましたし、緊張してずっと汗をかいていました。なんで俺、この場に呼ばれているんだろう? なんでここにいるんだろう? と」
―― 合格ですと聞いた時は。
「いやぁ、不思議でした! ミュージカルって、歌うまい人がやるんでしょ? 俺でいいの?って思いましたね。とにかく"困惑"です! 皆さんのご期待に添えるかどうかわかりませんけど...いいんですか? という(苦笑)。さきほど言った人生の選択肢に、"ポン!"とミュージカルという道が現れて、びっくりしていました」
―― そんな村井さんが、稽古を重ね、『RENT』の魅力にハマっていったわけですね。実は2年前の稽古中にもお話を伺っていて、その時に「僕にとっても、この作品がひとつのステップアップになる」というお話をされてました。
「僕、そんなこと言ってましたか(笑)。でも確かに、自分のターニングポイント...と言うと大げさかもしれませんが、人生の中で大切な作品のひとつになりました。アンディのように「RENTは人生」とまでは言えないけれど。『RENT』以外にやらなきゃいけないものもたくさんありますしね(笑)。でも人生の一部にはなってます。日々、色々な舞台や映画を観ますが、好きなものがあっても「人生の中で、これ!」というものは、そうはたくさんはない。その、数少ない中の1本ですし、僕のベスト・オブ・ミュージカルであることは間違いありません」
前回は100%闘えたかというと、
全然闘えていなかったと思う。
だから今回は"リベンジ"です
―― そして今回、2年ぶりの『RENT』です。どうして再挑戦しようと?
「それはもう、リベンジだからですよ! もちろん」
―― 何か悔しい思いでもあったのでしょうか。
「全部です、何もかも! たとえば僕、大千秋楽の時にマネージャーに「あなたを観て感動しなかった」って言われたんですよ(苦笑)。本当に悔しかったんですが、「そうか、そういう人もいたんだ」と。たしかに、自分としてはがむしゃらにやっていましたが、そもそもミュージカルについても、そして作品についても、スタート時点では知識もなかったから、100パーセント闘えたかというと、全然闘えてなかったと思います」
―― 村井さん、以前どこかのインタビューで、あまり自分の過去の出演作にこだわりがない、終わったものは終わったもの...と仰っていたのを読んだ記憶があります。それでも『RENT』はこだわってしまいますか。
「そうなんです、本来はあまり振り返らないんです。でも『RENT』は再挑戦したい。それはやっぱり"特別"だからなんだと思います。『RENT』のパワーというのは、あるんですよ。あと...単純に、この『RENT』の世界にまた入っていきたい、って思いました。『RENT』に出た人は、誰しもが思うんじゃないでしょうか、もう一回やりたい! って。『RENT』って人生の通過点じゃないんですよ。愛があるし、本当に好きな人しか出来ない。だからこそ僕は大好きなんです」
―― では、具体的にはどこを"リベンジ"したいですか?
「ふふふ。何が足りなかったのか、というところも含め、それすらも僕にとってリベンジなんです」
―― もっと知りたい、ということでしょうか。
「うーん、知りたい...のかな? 単純にもっと『RENT』の世界観の中に...キャストと、アンディたちが作る空気の中にいたいのかもしれません。前回の公演の時も、みんなで「もう1ヵ月くらいやりたいね」って話していたんですよ。『RENT』という作品を知り、その中に入ると、離れたくなくなっちゃうというのは、アンディたちと、作品の力だろうなと思います。本当に、ほかの作品と全然違うんですよね。僕も不思議です。あえて言葉にすれば、"個性が認められる作品"。たいていのお芝居は、(役に自分を合わせて)個性をつぶさないといけない。でも『RENT』は登場人物ひとりひとりの人生を描いている物語だから、演劇として向き合うんじゃなく、あなたの人生を出しなさい、と言われる。あなたの内側をさらけ出しなさい、と...」
―― それは、楽しいことというより、怖いことに感じます。
「怖いです。すごく大変だし、すごく疲れるんです。本当にキツイんですが、この作品の持つエネルギーと、まわりのみんなが支えてくれる。大変なことなんですが、そうして内側をさらけ出すのは、どこか童心に返ったような気持ちにもなるんです。だから楽しい」
『RENT』は特別。
表面的な美しさではないパワーがある
―― そして村井さんが演じるマークについて。ビデオ・アーティストで、仲間たちを撮影していているマーク。村井さんは彼をどういうキャラクターだと捉えていますか?
「みんなを俯瞰でみている人間で、物語の語り部でもあります。登場人物の中では一番"お客さん目線"かもしれません。ちょっと微妙な立ち位置ですよね。でも、彼は自分の生きがいを見つけたいと思っている。それがドキュメンタリー・フィルムを撮るということ。だから今度は、僕自身も、まわりのみんながどういう芝居をしているのかをすごく見たいと思っています。できたら撮りたいくらい。一瞬一瞬を切り取っていきたいし、みんなが普段どういう感情でいるのか、どういう表情でいるのか。微妙な動きを感じていたいなと思います。それが、マークのパッションに繋がっていくと思いますし、作品自体の"ドキュメンタリー"という側面にも繋がっていくと思っています。かつ、マークという人間をもっとエネルギッシュに...嘘いつわりのないものにしていきたいですね」
―― マークって、演じていて寂しくないですか? 仲間内にいても疎外感を感じるキャラクターだなと思うのですが。
「ぜったい寂しいですよ! あのですね、マークは必ず、下ハモ(ハーモニーで下のパート担当)なんです(笑)」
―― そこですか(笑)。
「だって、メインのメロディを歌うことがほぼ、ないんですよ! メインで歌うのって『ハロウィン』だけです。大ナンバーも、ずっと下ハモで支えています。歌稽古の時に「つらいポジションにいるね」ってみんなに言われました(笑)。でもそれこそがマークなのかな、と思います。前に出ず、ずっと後ろで支える、という...」
―― そんなマークは村井さんご自身と近いところ、ありますか?
「あると思います。例えば...怒るけど、怒らないところだったり(笑)。溜めこむんじゃないんです。怒っても自己消化しちゃうんです。そういうところは自分にもあるなって思う。空気を読む、というか」
―― ちょっとわかる気がします(笑)。村井さん、取材の時もすごく空気を読んでいらっしゃる。特に対談形式の時なんかに顕著に感じます。
「そうなんですよねー。僕、相対する人によって自分(のキャラクター)が変わるんです。だから僕、「自分らしく」っていうのがわからないんですよ...。ちょっと話がずれるんですが、去年、俳優生活10周年を迎えて、自分としてはこの10年、とりあえず"ちゃんと"やってきたなって思ったんです。だから、ここからは"ちゃんとしない"でいこう、って決めたんです」
―― 自由になってもいいんじゃないかと?
「そうそう、自由になったかんじで! それをやりたいなぁ、と思って。そう思ったら、来た作品が『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』だった。また"いい人"に逆もどりかぁ...、ってなりました(笑)。ハハハ!」
―― はたから見ますと、そんなところこそが"村井さんらしさ"なんじゃないかなと思いますよ。でも村井さんのマークは、非常にぴったりだと思いましたので、更なる覚悟で挑む2度目のマーク、とても楽しみです。
「そうですね、頑張ります!」
―― 最後に改めて、村井さんがそんなに思い入れを抱いている『RENT』の愛すべきポイントを教えてください。
「本当に言葉にするのが難しいんです。ほかの作品とどこが違うのか、というのも正直わからない。でも『RENT』は"特別"なんです。なんだろうなぁ...。表面的な美しさがなく、めちゃめちゃで、すべてが型破り。常識では考えられないパワーがあるから、ここでしか味わえないものがあります。それをまた体験したいし、挑戦したい。とにかく今は、また『RENT』の世界にいけることが、楽しみで仕方ありません」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:石阪大輔
ヘアメイク:森香織
スタイリスト:吉田ナオキ
衣装協力:wjk base、GARROT TOKYO
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