ダンス界のカリスマ、新上裕也。
ダイナミックさと繊細さを併せ持ち、独特の世界を創造するそのダンスは日本だけでなく海外でも高い評価を集めている。
その活躍はダンス界のみならず、ミュージカル界でもよく知られており、人気ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』では初演よりヴァンパイア・ダンサー(伯爵の化身)として出演し続けるなど、小池修一郎、山田和也、荻田浩一など人気演出家の作品にも多数出演。
また振付家としては昨年の話題作『王家の紋章』を担当、彼が手がけた戦闘シーンのダンスは、作曲家のシルヴェスター・リーヴァイ氏が絶賛したという。
その彼が吉本真悟(ヴァルナ世界国際バレエコンクール金賞受賞)、蔡暁強(元劇団四季、脅威の身体能力を誇るダンサー)、大野幸人(マシュー・ボーン作品や『CHESS THE MUSICAL』など数々の人気作に出演)、横関雄一郎(ローザンヌ世界国際バレエコンクール一位)というハイレベルなスキルを持つ男性ダンサーとともに、待望のオリジナル作品を上演する。
タイトルは CRAZY DANCE SHOW「WEDNESDAY」。
新庄を中心に公演にかける思い、また共演の4人のダンサーにも意気込みを訊いた。
★ 新上裕也 × 吉本真悟、蔡暁強、大野幸人、横関雄一郎 INTERVIEW★
△ 左から横関雄一郎、吉本真悟、大野幸人、蔡暁強、新上裕也
●区切りの年に、"再生"をしたい(新上)
―― 昨年はミュージカル『王家の紋章』の振付やKバレエ・カンパニーの振付など、大作続きで大忙しだった新上さんですが、構成からご自身で手がける新作は少し久しぶりですね。なぜこのタイミングで新作をやろうと思ったのでしょう。
新上「もともと僕はダンス人生の中で、色々な時に、色々なことをやりたいと思っていたんです。その中でたまたま2017年は僕の個人的なことでキリの良い、節目になる年。ここから先、今まで積み重ねてきたものをなくすことはできないけれど、ひとつ生まれ変わりたい、"再生"したいな、思いました。なので、テーマも『2030年』という、もうさほど未来でもない、次に行く時代、というような設定にしています。「次の時代に進んでいく」という気持ちですね。舞台は2030年12月25日の水曜日なんです」
――タイトルがなぜ『Wednesday』なのか、と一番最初に思いました。
新上「水曜日..."(週の)真ん中"というのと、あと"水の日"、"大いなる水"というイメージがあります。大いなる水がすべてを洗い流してくれる...これも、先ほどの"再生"という意味にも繋がります。「空、風、水、火、土」という5つのエレメントの中で、水だけが大陸と海とか、何かと何かを"繋げる"ものだと思っています。伝えていく、繋げていく、ということも含めて、水の日である『Wednesday』です」
――なんでクリスマスなんですか?
新上「クリスマスってサンタクロースがプレゼントを贈る日じゃないですか。僕らもそういった意味でプレゼントをしたいな、と(笑)」
――チラシには天使もいて。2030年、サンタクロース、天使...なんだか、終末的なイメージが伝わってくるのですが。
新上「どうでしょう(笑)。詳しくは見ていただいてのお楽しみで。でもダンス公演ですから、「昔々あるところに...」といったようなちゃんとしたストーリーではないです。といっても踊りという肉体言語でどこまでもっていけるか、観るお客さんがどういう風に思ってもらいたいか、ダンサー含め作り手側は、それ(ストーリー)がないと作れないので、骨子はありますが。ビジョンの積み重ね、シチュエーションの中の構成、という形で作っています」
――なるほど...。そういう風に作るんですね。いつも、ダンサーや振付家の頭の中はどうなってるんだろうと思っていまして。
新上「プロデューサー曰く、僕は絵、ビジュアルから入る"右脳タイプ"らしいです。こんなストーリーで、こんな題材でやりましょう、というのは実はそんなになくて。今回は、タイトルが『CRAZY DANCE SHOW』ということで、ショーシーンの羅列のようなものになるのですが、その1シーン1シーンがとても面白いです。このメンバーの個性があるから面白い、2017年の今、この人たちがやるからこそ面白いと思えるシーンを、今この場で作り上げています。頭の中で固めたものを皆に振り移す...というものではなく、みんなと時間を共有して作り上げています」
――そうなんですね。その場でひらめいたそれを、身体で伝えていくんですか?
新上「いやぁ...口だよね(笑)」
大野「口ですね。その表現がたまによくわからなくて。「ここに光が出たいよね」とか(笑)」
新上「その瞬間、4人みんなが「......?」って顔して、下を向くんです。ダンサーだから通じ合えるわけではなかった(笑)」
●いつもの大野くんや吉本くん、横関先生、シャオチャンじゃない彼らを見せないとダメだと思っています(新上)
――(笑)。そんな共演の4人のメンバーについて、新上さんから見てその個性や素敵なところを、教えてください。
新上「根本的にみんな本当に、純粋に踊りが好き。今回は「壊れちゃうのかもしれない」くらいのハードな踊りをやってもらっていますが、それでも手を抜かずにまっすぐついてきてくれるし、表現してくれることが、凄い。僕の思い描いたものを具体化してくれる、心強いメンバーです。今回も「この子だったら...」と、それぞれに違う振付をしています。
まずは大野幸人くん。純粋な"踊り馬鹿"ですね(笑)。彼は"スタイリッシュでラインがきれい"といったことをよく言われていますが、本当にそうだと思います。それはつまり、彼の人間性から来ているんだと思う。その中で、彼のカッコいいところを引き出したい。彼の人間性が伝わるように出していった中で身体を動かしたら、どれだけ凄いんだろう、どれだけカッコよくなるだろうと思います。そしてその"行き着く先"が必ずあることを信頼させてくれるダンサーだというところが、素晴らしいことだと思います」
――吉本真悟さんは。
新上「彼は"踊り馬鹿2"(笑)。大野くんと同レベルの踊り馬鹿なんですけど、吉本くんは"宇宙人"。僕の想像を超えちゃって、お手上げ状態になることもあるくらい。僕が想像する以上のことをやってくれたりするので、そこは作っていて楽しい。ダンスって、僕が考えたものをそのまま出しても面白くないと思うんです。描いたとおりのものを表現してくれるより、それを踏まえて作り上げて、思っていたものとは違ったものが出てきたとしても、それは一番凄いことだと思う」
――次に横関雄一さんは?
新上「横関先生は...先生って呼んでるんですが。怖い(笑)。ローザンヌ金賞ってかんじですよ。針の穴をついてくる!みたいな怖さ。振付けていて、一番緊張するんです。下手なことは出来ないし、すぐ出来ちゃうので、本当に厳しい。作り上げる過程は和気藹々というのはあまり良くなくて、振付師とダンサーの間でバトルができる距離感があるのが良い。その距離感を知っている方。色々な人が色々な風に僕の振付けを...思い描いた形を共有してくれていますが、怖い人というのは、僕が描いた形を一回、その通りに出す。出しちゃう。なかなかいないんです、そういうダンサーって。そこから玉手箱をあけるように「こっちに行っちゃうんだ!」という方向に進化するんです」
――蔡暁強さんについては、いかがでしょう。
新上「この4人って、僕が振付するようになってからの付き合いが一番長く、振付した回数も一番多いメンバーなんですが、その中でもシャオチャンは、彼が追求して学んだその量が尋常じゃないと思います。踊りという表現力ツールの中に「全身を使った表現」が彼にはあって。身体だけでなく顔の表情も、なんでこんなに引き出しがいっぱいあるんだろうと思います。リハーサルの段階で見ていても、怖くなったり笑えたり幸せになったりする。その表現力は一番ですね。あと、この人は一番、人として優しい(笑)。中国から日本にきて、背負っているものがたくさんあるから、精神的に強い。だから優しくなれるんでしょうね」
――付き合いが長いと仰っていましたが、新上さんにとって4人は身近なダンサーだと思いますが、だからこそやりやすいですか?それとも怖い?
新上「怖い。4人とも怖いですね。妥協できないです。僕は今年、そして今回、自分をリセットしたい。なのでみんなにもリセットしてもらいたいと思っています。一緒にやっている時間が長いだけに、それぞれのやりたいことや得意なものもよくわかっている。でもその武器を見せられてもいつもと同じ舞台になってしまう。それは僕のやりたい『CRAZY DANCE SHOW』ではありません。だからみんなも道連れにリセットして、新しいものを出して欲しい。いつもの大野くんや吉本くん、横関先生、シャオチャンじゃない彼らを見せないとダメだと思っています」
――どうですか皆さん、新しい自分自身に出会ってますか?
吉本「いやー...、戦っている最中ですね。そんなに簡単にはいかないです。いつもの公演とは全然違います」
大野「まず、日本語の解読から始まって(笑)、そこから肉体的に無理だろう、って動きを要求され......なんと言いますか、大変です(笑)」
蔡「うん、大変ですね。大変ですけど、毎年裕也さんの振付を踊ることができて、それにまず感謝しています。『GQ』(2008年)からの長い付き合いですので、裕也さんは僕らがどれくらいできるか、どういうことができるのか完全にわかった上で、前回と同じ振付でも、今回はそれじゃダメとか、成長させてくれる。自分が思っている自分と、他人から見えている自分がちょっと違ったりしますよね。そこも新しい自分に出会うために、裕也さんが色々な鍵をくれて、そのとおりにとりあえずやってみると、自分がそういう表現が出来ることがその瞬間にわかったりします。本番までの時間で、もっと新しい自分を発見して、リセットできたらと思います」
横関「新しい自分に出会うんだと思ってやっています。本番までに出会えるよう、頑張っている最中です(笑)。でも新しい自分に出会わせてくれる振付家ってそう多くはいない。裕也さんは貴重なそのひとりです。やっていく中で、自分じゃない自分を引き出してくれるので、110%くらいゆだねられる自分で臨むようにしています」
吉本「裕也さんの振付はいつも肉体的にすごくハードで、「そんなふうにくるか...」と極限まで追いつめられるんですけど、今回は"肉体的に大変"という以上に、自分が表現者として何を出さなければいけないかが問われている。出来ていなかったらその場で「出来ていない」「何がしたいのか」と言われて、答えられなかったり、自分の考えが浅かったりといったことを痛感させられています。でもその場で嘘なく教えてもらえるので、ありがたいのですが......「出来ない」と思う毎日です。自分の殻を破ろうと頑張ってる最中です」
大野「出来たって思う瞬間の方が少ないですよね。葛藤しながら、考えながらずーっとやっています」
●吉本、蔡、大野、横関から見た新上の魅力
――さきほど、新上さんからの素敵な"皆さん評"を話していただきましたが、逆に皆さんから見た、新上さんの魅力はどんなところでしょう?
大野「いつも思うのですが、頭の中が超越しちゃてて、理解できないんです。裕也さんの思い描いているビジョンが出てきたときに、完全に置いていかれる時があって、その時に「やっぱすごいな」と思います。言うことも難しいし、振付けるスピードも速いし、追いつかないんです...」
蔡「振付自体も、「この振りの次にこれを入れるんですか!?」という発想にまずびっくりします。僕たちが想像もできない振付なんです」
吉本「僕は若い頃ずっとアメリカにいたんですが、20歳の時に『ジャン・コクトー 堕天使の恋』(2001年/演出・小池修一郎)で初めて(バレエ以外の作品に)出て。そこで裕也さんとご一緒して、衝撃を受けたんです。自分はずっとバレエをやってきたけど、こんな風に踊る人がいるんだって。その時は同じシーンに立つことはあまりなく、ただ「すげぇな~!」って思っていたのですが、その後『スターダスト in 上海』(2002年)でたまたま裕也さんが僕のソロを振付してくれて。その時も衝撃的で、アメリカに戻ってからも「日本に帰ったらまた一緒に裕也さんの振付で踊りたい」って思っていました。そういう出会いでした。その後、帰国してからは裕也さんの振付は一番踊らせてもらってるんじゃないかな。尊敬と信頼は絶対的な揺るぎないものをもっていて、僕の中では"絶対的な人"です」
新上「うそぉ~(笑)」
吉本「本当です。頭が上がりません。そもそもが、ダンスに対する愛がすごい深いし、それだけでなく、人に対する愛も深い。そこが裕也さんの根本的な強さなんだというのはわかります。それを僕らにもわかってよ、と教えてくれようとしている人です」
蔡「あと、裕也さんは僕たちの中で年もダンス経験も一番上ですけど、僕たちに対する敬意、みんなを大事にしているところも伝わってきます」
横関「ダンス目線で話すと、自分が育ってきたバレエとジャズダンスでやり方が違うことも多いのですが、ちょっとしたポジション、やり方、「ここからここに足を持っていったらいいよ」とか、本当に小さいところに意外性があって凄いです。メソッドが完全に身についている上に、奇想天外なことを融合させて技術に結び付けて、表現になっている。あと空間認識が異常に優れているんだと思います」
一同(うなずく)
大野「振付でも、その人の一歩の距離感を完全に認識しているから、複雑な振付でも絶対に当たらないんですよ。前にどれくらいの空間があって、椅子の高さはどれくらいで、とか。全体が瞬時に把握できるんだと思います」
――へぇ! 新上さんはそれは、無意識ですか?
新上「そうですね、自分では言葉には出来なかったですね。言われてみればそうかもって思いました」
蔡「裕也さんが作品を作ると、みんながバラバラに動くし、動線も違うし、振りも「こんなことやって大丈夫なの?」ってたまに思ったりもするんですけど、全員が一斉に動くとスゴい絵になる。このビジョン、裕也さんの頭の中で想像した絵が、ちょっとクレイジーですね(笑)」
●観た方に、ダンスを好きになって帰ってもらいたい(新上)
――お話のなかに「クレイジー」というキーワードも出てきましたが、そもそもなぜ『CRAZY DANCE SHOW』なんですか?
新上「『CRAZY FOR YOU』みたいな意味合いです。ダンスに首ったけ、ダンスに夢中という感じで、このタイトルがストンと。でもダンス表現を突き詰めるというより、たとえばミュージカルが好きな方が観ても楽しいものになるはずです。「ダンスショー」ですから。芸術ではなくエンタテインメント。ダンスに詳しくない方が観ても楽しいものにしないと、ただの自己満足になってしまうので」
――自己満足にならないように気をつけているところは。
新上「最大限にわかりやすくしたいとは常に思っています。ダンス、身体で表現というのは、観てくださった方、様々に捉えてもらっていいのですが、やはりキーとなる部分はわかってもらえないと、最後までわからないままいってしまう危険がありますので。そこは、みんなとも話し合って、作り上げる中で一番大事にしています」
――最終的に、観て、どんな気持ちになる作品になりそうですか?
新上「観た方に「この作品、好きだな」と思って帰ってもらいたい。それが一番です。ダンス好きな方に楽しんでもらうのも、もちろんです。ダンサーがダンサーを感動させないのはダメだと思っていますし。でもそれだけでなく、観終わったあと、色々な方にダンスを好きになってもらえていたらいいな、と思いますし、そういう作品にしたいと思っていまみんなで作っていますので、ぜひ劇場に足を運んで欲しいです」
取材・文:平野祥恵(ぴあ)
【公演情報】
2月15日(水)~19日(日) スパイラルホール(東京)