真剣に愛し合う小学生の男女、真鈴(高畑充希)と悟(門脇麦)が大人によって引き裂かれようとした時、奇跡がおこる。二人の遊び相手だった産業用ロボットが意識を持ち、真悟(成河)と名乗り人知を超えた進化を始める──。楳図かずおの名作漫画を原作とするミュージカル、『わたしは真悟』がプレビュー、浜松、富山公演を終え、まもなく京都公演、そして年明けには東京公演を迎える。フランスの鬼才フィリップ・ドゥクフレ(演出・振付)、谷賢一(脚本)、トクマルシューゴ・阿部海太郎(音楽)、青葉市子(歌詞)といった、異ジャンルの才能が起こす化学反応に期待が高まる大作だ。稽古場を覗くと、その化学反応の効果を最大限にまで高めるべく、エネルギッシュに取り組むカンパニーの姿があった。
稽古が公開されたのは、対照的な二つのシーン。一つは1幕半ば、真鈴と彼女を偏執的に愛するイギリス人の青年ロビン(小関裕太)だけの静かなシーンで、演出協力の白井晃がじっくりと芝居の稽古をつけていた。視線や声色を自在に操って真鈴の不安と意志の強さを的確に表現する高畑と、テレビなどで見る爽やかなイメージとは打って変わった、狂気を宿した目つきで不気味に動き回る小関。それぞれの役の心情について問いかけるだけでなく、時には自ら動いて見せる白井の熱のこもった演技指導を受け、二人の芝居は次第に鮮明になっていく。このシーンの前に何があったのかなど、台本には描かれていない部分も含めて意見を交わす、三人の建設的なディスカッションが印象的だ。
そしてもう一つは、「漫画だから表現できるあのSF世界を一体どう立体化するのか?」という誰もが抱くであろう疑問の、答えの片鱗が見える大掛かりなシーン。ロボットの真悟がタンカー船の上で意識を拡大させていく様子が、アーティスティックなセットや群舞、そして何より、成河の圧倒的な演技力によってダイナミックに表現されていく。この日は振付の確認とブラッシュアップが中心で、演出席からの指示も、ダンサー陣に向けられたものがほとんど。そんな中で成河は、シーンが返される度に台詞の言い方を変えて試していたのだが、どんな時でも彼が「真悟」であることの説得力が揺らぐことはなかった。
成河が試していたのは台詞の言い方だけでなく、タンカー船のセットを効果的に使うための動き方も。てっぺんにある箱のような装置の、周りを歩き回ったり中に座り込んだり上でうつ伏せになったりしていたのだが、最終的にはなんと、頭から中に入って両足を上で広げるポーズをとっていた。白井が「しばらくそのままで(笑)。みんな見てあげてください」と声をかけると、成河の下で真剣に踊っていたダンサー陣、そして集中力を絶やさずに待機していた高畑や小関の顔にも思わず笑みが。稽古場に一体感が生まれたところで、カンパニーは束の間の休憩へと突入していったのだった。
取材・文:町田麻子 撮影:中川有紀子
ミュージカル「わたしは真悟」
【東京公演】
公演期間:2017/1/8(日)~26(木)
会場:新国立劇場 中劇場
[原案・原作]楳図かずお
[劇作・脚本]谷賢一
[演出・振付]フィリップ・ドゥクフレ
[演出]白井晃 [出演]高畑充希 / 門脇麦 / 小関裕太 / 大原櫻子 / 成河 / 他
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