■2016年版『ミス・サイゴン』 vol.2■
ベトナム戦争を背景に、ベトナム人少女キム、アメリカ兵クリスの悲恋をはじめ様々な愛の形と、戦争の虚しさを描いたミュージカル『ミス・サイゴン』。
公演の本格的な稽古に先立ち行われる稽古の場、"ミス・サイゴン・スクール"の取材レポート後編です!
この日は、前日にみんなで観たという映画『7月4日に生まれて』(1989年制作/トム・クルーズ主演)の感想を言い合う場も。
「アメリカの負けた言い訳のように感じた。あの若い人たちは、何のために必死に戦っていたんだろう」
「英雄に憧れていた、英雄になりたい、そういう風潮があったんだと思う」
「単純に、家族に喜んでほしかった、家族に自分を認めてほしかったんじゃないかな」
等々、皆さん活発に意見を口に出していきます。
それぞれの言葉に、なるほどなーと頷きつつも、こういう意見を戦わせる場が作品への理解を深めると同時に、カンパニーの絆を強めていくのだなぁ、とも思ったり...。
個人的には大塚俊さんが仰っていた、
「あくまでも映画だから、あれがすべて真実だと思うのは危険。"家族のために"ということ(キレイごと)は、フィクションかもしれない。大義名分は上の方の人たちの言い分で、個人レベルではそんなものは何もないに等しく、目の前に敵がいるから倒す、やるしかない、ということだと僕は思う。特にベトナム戦争は15年も続いて本来の目的すら見失っている」
「『7月4日に生まれて』はひとつ(ひとり)にフォーカスしているから狂気に陥った理由とかは納得しやすいが、『ミス・サイゴン』は映画ほど個人のディテールを追っていないので、その語りきれていない部分がどこか腑に落ちないことになりかねない。見方によってはジョンは偽善的であると捉えられてしまったりもする可能性もある。でもやっている我々はそこを自分のこととして置き換えてやらなければ」
という言葉が印象的でした。
また藤岡正明さんから「(クリスたち)海兵隊は、ほかの兵士たちと違い自ら志願していった面もあるということは忘れてはいけないと思う」という指摘から、パク・ソンファンさんに「当時のアメリカには徴兵制があった。今も徴兵制のある韓国の人たちはどういう気持ちで軍に入るのか」と心境を尋ねたりも...。
パクさんの「基本的にすべての男性が軍に入らなければいけない。軍隊に行くことは地獄に行くことだ、と思っている人もいます」というようなお話は、やはり日本に暮らす我々が感じるより軍隊や戦争が身近にあるようで具体的であり、皆さん興味深げに聞いていました。
ちなみに『7月4日に生まれて』を観る、というのは例年はやっていないそうですが、今回は演出補のJP(Jean-Pierre Van der Spuy)氏のリクエストで見ることになったとか...。
そして最後にみんなで『ハーツ&マインズ ベトナム戦争の真実』(これは毎年、見ることになっているようです)を観て、この日のスクールは終了となりました。
『ミス・サイゴン』という作品が、単なるエンタテインメントを超えた深い時代背景への理解と、カンパニーの情熱の上に成り立っているのが感じ取れる時間でした。
皆さんひとりひとりから、"役を演じる"ということをひとつ超えた、"使命"のようなものが伝わってきました。
なお、映像鑑賞では、ほかにも『The Fall of Saigon (サイゴン陥落)』などが、このスクールではオリジナル演出版の頃からの慣例となっているようです。なかなか現在は手に入らないものもありますが、ご興味がある方は探してみてはいかがでしょうか。
最後に、キャストの皆さんの真剣な横顔をご紹介。
▽ エンジニア役:駒田一さん
▽ エンジニア役:ダイアモンド☆ユカイさん
▽ キム役:笹本玲奈さん
▽ キム役:昆夏美さん
▽ キム役:キム・スハさん
▽ クリス役:上野哲也さん
▽ クリス役:小野田龍之介さん
▽ ジョン役:上原理生さん
▽ ジョン役:パク・ソンファンさん
▽ エレン役:知念里奈さん
▽ エレン役:三森千愛さん
▽ トゥイ役:藤岡正明さん
▽ トゥイ役:神田恭平さん
▽ ジジ役:池谷祐子さん、中野加奈子さん