夢と現実と。『ソラオの世界』作・演出、西田シャトナー インタビュー

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90年代、小劇場界で人気を博した関西発の劇団惑星ピスタチオ
白血球といったミクロの世界から大群衆、果ては宇宙までを繊細かつパワフルに描く物語世界、そしてカメラワークを駆使された映像を見ているかのような独特の効果を俳優の肉体と観客の想像力で生み出す演出方法は、当時の演劇界に大きな衝撃を与えた。
その脚本・演出を担当していたのが西田シャトナーである。

シャトナーは2000年の劇団解散後も、舞台『弱虫ペダル』など人気作を数多く手掛けているが、彼の戯曲を上演するプロジェクトが「シャトナー of ワンダー」
これまでも自らの作品を新しく再構築してきたこのシリーズ第4弾は、2009年に初演されて以来、上演を繰り返している代表作『ソラオの世界』に挑む。

なぜ今この物語を上演するのか、2016年版『ソラオの世界』の見どころは、そして自身が求める「一生で一本の作品」とは......。
西田シャトナーに話を聞いた。
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●あらすじ(公式サイトより)

ある日昏睡状態に陥り、自分の夢の中に閉じ込められてしまったソラオ。
普通なら目覚めようと必死になるところだが、人一倍能天気なソラオは、どうせ目覚められないのならと、 夢の中を楽しんで過ごしはじめる。
現実の世界ではテキトーだったバンド活動もメジャーデビューを果たし、 現実の世界では片思いだった年上の女性ヨルダさんとも恋人同士になり、 夢の世界でのソラオの生活は光り輝いてゆく。
だがやがて、この世界の遠い果てから、夢の主を食い殺すほどに凶暴な魔物たちが近づいてくる。 それは所詮、夢の中の出来事にすぎないのか?
それとも夢の中では済まされないほど恐ろしい何かの 始まりなのか?
答えを知りたくないソラオは、最愛のヨルダを連れて、夢のもっと奥深く、誰も来ることのできない海の向こ うの孤島へと逃げようとするのだった。
果たしてソラオに目覚めの日はくるのか...?
我々の住んでいるこの世界も、誰かの見ている夢なのかもしれない――。
人類の永遠の疑問をめぐる、孤独なソラオの冒険譚。

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◆ 西田シャトナー INTERVIEW ◆



――『ソラオの世界』は2009年の初演から数えて、これで5回目の上演ですね。今ふたたびこのタイミングでやろう、と思ったのはどうしてですか?

「実は公演中止になった2008年版というものもありますので、それを入れると6回目ですね。確かに、かなりやっています。でも僕、あまり上演するタイミングを考えたことはなくて。そもそもどんな作品も、常に上演は終わっていないと思っています。もちろんみんなのスケジュールもありますし、劇場がとれている日程で公演は終わりますが、それはビジネス的側面でいったん休止を余儀なくされているだけ。もともとお芝居ってそういうものですよね。今日7時に公演が終わって、明日5時にまた幕が開く、その間休んでいるというのと同じだと思うんです。『ソラオの世界』も僕の中では上演は終わっておらず、上演できるのは第一にビジネス的にやらせてもらえる日が来た、というだけで、僕の心の中ではずっと続いていたんです


――ご自身の中では終わっていなかった。しかも常にどんな作品も、ですか?

「そうです。あらゆる表現形態の中でも芝居の面白いところは、料理と同じで、作り手がここにいる限り、今日も明日も新しいものを作って出すということ。そして作り手とお客さまがその時間、一緒に過ごす。『ソラオの世界』も料理と同じで、注文が来たからお出しできることになりましたし、いつでも出せるよう、磨いていました」
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――シャトナーさんの作品はたくさんありますが、それらがすべてシャトナーさんの中では続いているんですか?

「結果として並行になっています。でも本当は自分は「一生に一本、作れればいい」と思っているんです。一生に一本、これがあったらあとはいらない、という芝居を求めて、芝居を作っているようなものです。ただ、実力不足で現実にはなかなかそうはならず、「次は何の作品ですか」と言われて作ってしまうという中にいます(苦笑)。でも一本一本に関しては「今度こそ、この一本で終わりたい」と思って作っていますので、『ソラオの世界』もそう思って作った一本。だからとてもじゃないけど、その作品を頭の中で考えることをやめるわけにはいかないですね」


――究極的な話をすると、すごく満足がいく作品が出来たらそこで筆を折ってしまう?

「ただそれは、自分ひとりで満足かどうか決められるものではないんですよね。今まで作っていたものも、不満だったから別の物語を作ったということでもない。どの作品も、自分の実力からしたら500%の出来だったと思います。でもなぜかその一本で、人生の流れの中で終わりにすることが出来ず、次の作品に呼ばれてしまうんですよ。本当は成り行き上、「気がついたら俺、人生でこれ一本だったわ」ということになっていたらいいなって思うんですが...。僕にとって作品って、"主"のようなもの。最近だんだんと、新しい作品を作るより、一度「一生この人に仕える」と決めた"主"たちにもう一度呼んでもらえることが増えてきて(=再演の機会が増えて)。いずれその中から"最後の一本"が見つかっていくのかもしれない


――興味深い話をありがとうございます。そしてずっとシャトナーさんの中で続いていた『ソラオの世界』なのですが、初演から随分変わってきていますよね。

「そうですね、毎日、調味料はあれでベストだったのか、色々考えながら日々を過ごしているので」


――今回2016年版は、どのあたりが変わっていますか?

物語の骨格をかなりシンプルにしました。初期の『ソラオの世界』は、かなり自分の私小説に近いものがあって、現実の自分の体験を反映させすぎたな、と。もっと"作品自体がなりたい形"があるだろうと、少し心を落ち着けて向き合ったのが、2016年版になります。初演の頃は生活人としての自分も、住む町も落ち着けられず、仕事もなく...と、混乱しているところがありまして、その混乱した生活が作品に影響しすぎたところがあるんです。それは実は当時この作品をやらないかと持ちかけてくれたプロデューサーも指摘していたことなんですが、月日がたって、あの時言われていたことが腑に落ちた。今回はその、作品の周囲にいる人たちの思いや意見が、素直な形で吸収された作品になっています。たくさんの人の意見を吸収してみると、要素は多かったはずなのに、物語のプロットはたいへんシンプルになりました。「色々混ぜたらクリアな色になった」、そんな印象があります
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――物語のテーマは"夢"ですね。シャトナーさんが子どもの頃に観た夢がベースになっているとか?

「そうです、中学3年生の時に、50年間に及ぶ夢を観たことがあって。目が覚めた後、ちょっと現実になかなか戻れなかった。ただ、そこから発想して『ソラオの世界』を作ったのではなく、夢にまつわる『ソラオの世界』という物語を作ったときに、面白い題材だなと思って取り入れた形です。
でも夢と現実というものは、地続きなんじゃないかなと思っていて。そうじゃないとこの世界の説明がつかない。宇宙の果てがどうなっているのかわからないし、命というものがなぜ生まれたのかもわからない。実はそのセリフを最近、作品に取り入れたところなんですが。でも科学的に、理論的に、とてもじゃないけど成立しているとは思えないこの世界が、もし実在しているとしたら、それは夢の中だからじゃないのか、と誰もが思いつく仮説があり、マジメにそれに取り組んだ...そういう物語です


――実在と非実在の境界、というのはシャトナーさんの作品では色々なところに登場しますね。

「どうしても、どの作品を作っても、実在にまつわる話になってますね。といいますか、なぜ物語を書くときにみんながそれをテーマにしないのかが、むしろわからない(笑)。それ以外に問題はあるの!? って思います。なぜそのことを大問題に思わないのか、不安じゃないのか、って。僕、それを忘れてみんな生きているのだとしたら、この人たち全員夢の登場人物じゃないのかなって思ってしまうんですよ。夢の登場人物だからみんな不自然なまでに、そういうことを考えないんじゃないのかな。
でも本当に、現実と夢というのは入り混じっているものなんですよ。本当にそうなんです。我々の住んでいるこの世界も、我々自身が観測できうる至近距離では物理法則は一定しているけれど、どんどん遠くなっていくと物理法則も変わっていくでしょうし、その果てにはもう、夢としか言えないような領域もあるでしょう。その境目がどこまで、というのは言えない。ずーっと歩き続けて、だいぶ遠くまできたなと思ったらハッと目覚めて、どこまでが夢かわからない。そんなことが、この空間にはあるんじゃないでしょうか」


――お話を聞いていると、そこからどんどん新しい物語が生まれてきそうです...。そして、作品を拝見していていつも思うのは、SF的、科学的なものを軸にしながら、根っこはすごくロマンチストで、夢を見ている印象なんですが。

科学とロマンはほぼ同義語くらいに思っています。例えばある村に住んでいて、誰かが「月に行きたい」と言う。その村の大人たち全員から馬鹿げている、ロマンに過ぎない、と笑われる。でも本人はそのロマンを実現するために、非常に現実的な研究と発見を繰り返し、トライ&エラーを繰り返し、やがて実際の技術としてたどり着く。それが科学。僕の作品の動機も、まったく同じなんです」


――先ほどの"一生で一本のお芝居を"というお話も、ちょっと聞くだけだと、ものすごくロマンチックです。

「ロマンなくしては科学は発生しませんし、逆に本当にロマンチストでなければ、ファンタジーに逃げてしまう。でも実現しようと思うところにロマンの真髄がある。それは科学に限らず、どんなジャンルのスペシャリストもそうだと思うんです。鉄を使わず木だけで五重塔を組むというのもロマンであり、そのロマンが現実にその技術を生む。何世代かけて生み出すロマンもあります。だから科学的だと言われる感想は自分にとって嬉しいですし、それとロマンが関係ありそうに思っていただけるのも、嬉しいです」
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――どうしても一般人は科学=理系=現実的、と考えがちなんですが、確かにロマンが科学を...科学に限らず技術を進化させてるんですよね、シャトナーさんの不思議な世界観の根っこを少しだけですが理解できた気がします! さて少し話を戻して。すでに劇場入りされて、2016年『ソラオの世界』、初日目前です。手ごたえはいかがでしょう。

「僕としては手ごたえがあります! でも僕の感じるところ、ある意味、俳優たちは「えっ、この作品どうなってるの」というふわふわした状況で参加しているかもしれない。もちろん、汗はかいているけれど、この汗にどんな意味があるのかわからないまま参加しているかもしれない。それはつまり、参加している人間の能力を超えたところに行ける作品になっているんじゃないでしょうか。人間が頑張るといった形で行く場所でないところに、行っています。例えば我々は、眠るという手段で(夢の中で)遠くに行ったりするわけですよね。なんだかそういう...稽古場で眠る作業を続けてきたような気がします。...物語自体、夢を題材にしていますが」


――ソラオ役の多和田秀弥さんは、いかがでしょうか。

多和田君、面白いですよ。明るくてお茶目で、まっすぐな人。彼は、一回言ったら、もう出来ちゃうんです。普通では考えられない速度で吸収していく。でもそんなにガツガツしていないんですよ。稽古場で、それを驚きながら見ていました。あの速度で素直に吸収していく人、見たことないです。丁寧に慌てず落ち着いて吸収していくから、ガツガツやらなくていいんだってまわりににも思わせる。面白い人ですね」


――ほかに、シャトナーさん的に今回、発見したポイントがありましたら。

「ソラオ君とバンド活動しているメンバーが3人いるのですが、そのバンドメンバーがいいですよ。彼らのシーンについて、稽古場最終日の話し合いで、ついに発見したなというところなどもありまして。最終段階の脱皮で、より面白いものになりました。俳優たちも「なるほど!」という顔をしていましたし、その話をしている時の彼らの身体が光っていましたね」


――では2016年版『ソラオの世界』、楽しみにしています! でも先ほども、作品は常に終わっていない...というお話もありましたし、この『ソラオの世界』もずっと続いていくのでしょうね。

「続いていけばいいなと僕も思いますし、この作品が"その一本"なのかもしれないですね。たぶん『ソラオの世界』に関しては、6回目の今でも、まだ完成だといえるところの20%くらいのところにいるんだと思うんです。ずいぶん先の方に完成はあるのかもしれない。でも、どんな生き物にも子ども時代には子ども時代の美しさがあります。『ソラオの世界』という長いひとつの作品の人生にとってはまだ少年時代、あるいは幼児時代かもしれません。その今しか見れない美しさを、観に来ていただけると、嬉しいです
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取材・文:平野祥恵(ぴあ)
撮影:イシイノブミ

【公演情報】
7月28日(木)~31日(日) Zeppブルーシアター六本木

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