十八世中村勘三郎と演出家・串田和美がタッグを組み、若い人たちにも歌舞伎を身近に感じて欲しいと始めた「コクーン歌舞伎」。
2年ぶりとなる第十五弾「コクーン歌舞伎」が、渋谷・Bunkamuraシアターコクーンで上演中だ。
演目は1994年の記念すべき第一弾と2006年の第七弾でも上演した『四谷怪談』。
第七弾では[南番]と[北番]、二つのバージョンを上演し話題となったが、今年はその[北番]をベースに、新たな構成・演出でみせる。
出演は、民谷伊右衛門を中村獅童、直助権兵衛を中村勘九郎、お袖を中村七之助、お岩と佐藤与茂七を中村扇雀が勤めるほか、コクーン歌舞伎を支えてきた片岡亀蔵と笹野高史も参加。
注目は歌舞伎に初挑戦するバレエダンサーの首藤康之。演出の串田は「歌舞伎や演劇の俳優とは違う存在感がある人」と起用の理由を語った。
新演出の見どころの一つとして、スーツ姿のサラリーマンが歌舞伎の舞台に登場する。
コクーン歌舞伎ではこれまでも、現代劇の俳優を起用したり、椎名林檎や石野卓球の楽曲を使用するなど、"現代"との接点を感じさせる要素が取り込まれていたが、この演出により、武士階級が没落した時代に生きる武士の姿と現代のサラリーマンが重なってみえる。
串田は「武士の権限がなくなり、商人が栄えてきて、武士の立場が危なくなっている。それを(作者の鶴屋南北は)面白がって、意地悪や皮肉を利かせて書いている。そういう面白いところが『四谷怪談』には沢山あるんです」と語る。
さらに、伊右衛門の脳内をイメージしたような"誰も見たことのない"空間を、斬新な美術や音楽、俳優の動きで創造していく。
串田は自身が根底に思う事をこう話す。
「伊右衛門が罪を犯したことから(お岩に)呪われて、回想なのか幻想なのか...その中で彷徨っているというニュアンスです。怪談って人間そのものですよね。いい人と悪い人という区別ではなく、生きている以上は人間誰もがその両面を持っている。お芝居の中では刀で斬った方が悪い人に見えるけれども、実は自分たちも見えない刀で沢山の人を斬っているかもしれないし、いろんな人に呪われているかもしれない。伊右衛門の脳内にある"迷い"だとか"怖れ"とか、それでも生きようとする思いがそこ(人間の業)に繋がっていくように思います」
串田にとって、今回の『四谷怪談』は「批判を覚悟で色々実験している」という。
「提灯抜けなどの名前が付いている仕掛けは一切やりません。見てくださった方は驚かれると思います。"ここまで来ちゃった"のかと」
初日直前、出演者による会見が行われ、それぞれ以下のようにコメントした。
扇雀:「今回は休憩入れても3時間ちょっとというコンパクトな『四谷怪談』ですので、わかりやすくなっていると思います。伊右衛門の頭の中を見ていくような、夢の場面ではいろんなモノが出てきて、彼が何を考え、何を悩んでいるのか、目の前にビジュアルとして出てくるから皆さんビックリされると思います」
獅童:「民谷伊右衛門を初役で勤めさせていただきます。新演出ですので全体を楽しんでいただければと思います」
勘九郎:「今回、串田監督がテーマにしているのは"記憶"。伊右衛門の脳内の迷宮に迷い込んでいただけたらいいなと思います。うちの父(十八世勘三郎)は『四谷怪談』が大好きでした。思い出は色々あります」
七之助:「10年前は父が直助をやりまして、初めて父と恋人関係(のちに女房)になる役をやらせていただいて、こてんぱんにされた思い出があります。懐かしく思う反面、これは10年前のリベンジだなと」
笹野:「10年前よりもわかりやすく、かつアートになって、かつ分かりにくくなっています(笑)。感性の鋭い方は面白いと言ってくださると思いますので、私は自信を持ってやらせていただきます。一つ秘密をお話ししますと、今まで見たこともないキャラクターが出てきます」
亀蔵:「笹野さんが仰ったように、自分の中ではとっても分かりにくくなっています(苦笑)。迷いながらですが、千秋楽までには何とか到達したいという気持ちでおります」
首藤:(自身が演じる足腰の病気で一歩も動けない小汐田又之丞役について)「新鮮です」
公演は6月29日(水)まで。Bunkamuraシアターコクーンにて上演。
当日券情報は公式サイト等で確認を。