戦時下に光る、母の強さ。「アドルフに告ぐ」朝海ひかるインタビュー

マンガの神様と言われる手塚治虫の代表作「アドルフに告ぐ」。

「ヒトラーにはユダヤ人の血が流れている」-アドルフ・ヒトラーの出生の秘密が記された秘密文書を巡り、歴史の大きな流れに飲み込まれていく3人の「アドルフ」の名を持つ男の名作マンガを、過去に「火の鳥」「ブッダ」などの手塚作品を手がける演出家、栗山民也が舞台化する。

日本人とドイツ人のハーフである主人公アドルフ・カウフマン(成河)と、幼馴染であり親友で、後に命を賭けて戦う相手であるアドルフ・カミル(松下洸平)、そして独裁者アドルフ・ヒトラー(高橋洋)。今戦争を考え、表現すること。ドイツで繰り広げられる惨劇の歴史。重厚なテーマの作品だ。

男性主体の物語の中に咲く花のように凛とした佇まいが印象的な、主人公アドルフ・カウフマンの母親・由季江を演じる元宝塚トップスター・朝海ひかるに、今作への意気込みを聞いた。

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63日~14日まで、KAAT神奈川芸術劇場にて「アドルフに告ぐ」の幕が上がりました。神奈川公演を終えて、客席の反応はいかがでしたか?

お客様の集中力がすごかったです。戦争・歴史ものということで、難しいストーリー展開ですが、客席からの吸い付くような集中力を感じました。自分たちでは客観的に演技を見られない所もありますので、やはりお客様からの感想というのは参考になりますね。そんなに深い所まで見て下さったのか!、というような感想もお見かけしました。

――由季江という役についてご紹介をお願いします。

成河さん演じるアドルフ・カウフマンの母親役です。夫は日本にあるドイツ領事館に勤めています。後に息子のアドルフ・カウフマンはナチス親衛隊の養成学校に入ってしまうんですけれども、彼女は一人神戸で息子を待ち続けるという役ですね。彼女も戦争に巻き込まれていくのですが、決して戦争に流されない強い女性です。手塚さんの描かれる女性像というのが、手塚さんの理想を反映しているのか、とてもたおやかで美しいんです。その理想のキャラクターに近づけるように、演出の栗山さんの要求されるところを大事にしながら作りこみました。また、メイクや衣装も原作を研究して、手塚作品のキャラクターらしく拘りましたね。


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――栗山さんから、どのような演技面での演出がありましたか?

由季江の台詞ひとつひとつは何気ない日常の言葉なのですが、その台詞の裏に重要な意味が込められているんです。戦時中ドイツ料理のレストランを開きますが、何故わざわざ贅沢禁止令が出ている最中に開くのか。栗山さん曰く、「禁止されているからこそ、食事をする、音楽を聴く、ダンスを踊る等の日常がいかに大事であるか、人間にとって切っても切れないものである」と仰っていて。レストランを開くことは、由季江にとって反戦のメッセージなんですね。人間にとって当たり前の風景を奪っていく戦争というものに逆行したい...それが彼女の想いなんです。栗山さんの言葉を聞いたとき、目から鱗が落ちたような思いがして(笑)台詞の裏の全てに想いが込められている。大切に演じなければと思いました。

――物語の主軸は3名のアドルフという名の男性で進みます。戦争は男性主体で進んでいくもので、女性はそれに従うしかない中、由季江は自分の意志を貫く女性ですね。

戦時下の母親ってそういうものだったと思うんですよ。ご飯を家族に食べさせる為に、どんな苦労でもする。母の想いというか、リアルな強さが由季江には込められていると思います。男性メインのお話ですが、物語に出てくる女性の立場で考えるとより深く楽しめるのではないでしょうか。

―息子役の成河さんについてはいかがですか。

成河さんはずっと前から素晴らしい役者さんだなと思って尊敬していたので、その方の母親役を演じるにあたりプレッシャーがありました。とてもフランクで素敵な方で、私の演技を何でも受け止めてくれるんです。引っ張っていただきつつ、負けないように頑張りたいと思います(笑) 息子のアドルフとは、作りこまれていないリアルな母子としての会話があります。アドルフはナチス親衛隊の学校に入ってから、どんどんナチズムに染まっていくのですが、彼の「ハイルヒトラー!」という台詞に対して、「はいはい」と流してしまう場面があって。ナチス親衛隊であったとしても、息子は母には勝てない(笑)。このシーンはとても印象的です。

――重厚なテーマの作品ですね。他に気付かされたことはありますか?

イスラエルやパレスチナの問題について、身近なものとして捉えられる作品だと思います。どこか遠い国の出来事だと思っていたことが、この作品を通じ、日本人の血を引く人物達が関わっていく姿を見て、ようやく腑に落ちました。他人事ではないよ、という手塚さんのメッセージですよね。今日本も戦争についての話題が頻繁にニュースに上がっていますが、そういうことを考えたい時期で、潜在的なニーズがあるからこそ、この「アドルフに告ぐ」が上演されるのだなと思っています。戦争を身近に感じられない、若い世代の方にも是非見ていただきたいです。

 過去があるから、現在がある。戦争という苦い歴史もまた、現在に繋がる大事な要素だ。

「アドルフに告ぐ」には、母の想い、男達の想い、異民族同士の想いなど多種多様な価値観が交錯する。アドルフや由季江達の生きた時代を知ることで、現代の私達のいる世界を改めて見つめなおすきっかけになるかもしれない。

京都公演は6月27日(土)~28日(日)まで、京都芸術劇場 春秋座、愛知公演は7月3日(金)~4日(土)まで、刈谷市総合文化センター 大ホールにて。チケットは販売中。

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