ミュージカル『アルジャーノンに花束を』浦井健治インタビュー

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ダニエル・キイスによるSF小説を原作に、2006年に上演されたミュージカル『アルジャーノンに花束を』
32歳になってもなお、幼児なみの知能しか持たない青年チャーリィ・ゴードンが、白ネズミのアルジャーノンとともに臨床試験の被験者として脳の手術を受け、天才へと変貌していくが......という物語。

原作は日本だけでも300万部を超える販売部数を誇る名作で、世界さまざまな国で映画化もされています。
日本の演劇界でも昨年、キャラメルボックスが舞台化していますね。

2006年、荻田浩一 脚本・作詞・演出、浦井健治主演で上演されたこのミュージカルは大評判となりました。特にこれが初主演だった浦井さんはこの成果を受け2005年度菊田一夫演劇賞を受賞するなど、様々な評価も残しています。

その伝説のミュージカルが、8年の時を経て、待望の再演決定!
劇中のチャーリィと同じ32歳となった浦井健治さんが、何を今、思うのか。
話を伺ってきました。



●浦井健治 INTERVIEW●


――8年ぶりの再演です。再演に際し、いまどんな気持ちですか?

「ずっとみんな...僕たち出演者だけでなく制作、プロデューサー、演出の荻田浩一さん含めみんな、やりたいねと言っていました。だから、再演が決まった時は嬉しかったですね。同時に、あのときの自分を超えなければいけないし、プレッシャーも感じました。ただ、安寿(ミラ)さんや(森)新吾、宮川(浩)さん、それにスタッフも、初演のチームがまた集まってくれた。そしてそこに新たな風を吹き込んでくれる面々が参加してくださる。大船に乗った気持ちで(笑)、またこの作品に向き合えるという幸せを感じています」


――この作品は、浦井さんにとってどんな作品なのでしょうか。

「今でも8年前、初主演で座長というプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも、荻田さんの演出のもとカンパニーが一丸となって『アルジャーノンに花束を』を作っていく、その過程ひとつひとつを鮮明に覚えています。自分にとっては宝物のような作品。もともとこの作品は、オリジナルミュージカルを作ろうということがひとつ、みんなの大きな夢だったんですよ。そんな中、劇中歌『ぼくわかしこくなりたい』という曲が出来たと聞いて、(作曲の)斉藤恒芳さんの作業場まで荻田さんとふたりで足を運んだんです。まだミュージカルの台本もない状態でその曲を聴いて、「これは、いけるんじゃないか!?」と漠然と3人で感じたのを覚えています。そんな、ゼロからみんなで作っていったという作品であり、自分の中で思い入れのある作品です。それにチャーリィ・ゴードンは32歳なんですが、僕自身32歳という実年齢で今回演じられるということに運命的なものを感じています」
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――荻田さんや共演者の皆さんとは何か話しましたか?

「初演の時、『ぼくわかしこくなりたい』ってサブタイトルについていたんですよ。「これ、浦井健治にピッタリじゃん」って言っていた荻田さんですが(笑)、「来ちゃったねえ...でも嬉しいよ」って言ってくださいました。ただ当時の自分たちがライバルだし、同時に記憶は美化されるものだから、その危機感は持って今の自分たちが出来る『アルジャーノンに花束を』を目指そう、とも仰っていました。...新吾とはこのあいだ、「『アルジャーノン~』決まったね、イェーイ!」ってハイタッチしました。この作品で僕は芝居で、彼はダンスで表現していくんです。目でお芝居をし合う中で、言葉のいらない、表現者同士の信頼関係が築けたと思います。安寿さんも変わらず素敵で、尊敬する女優さんです。宮川さんも昨年『二都物語』で共演しましたが相変わらずの兄貴肌。この『アルジャーノン』で初演と変わらず安寿さんのキニアン先生、宮川さんのドナーさん、新吾のアルジャーノンが一緒だということはとても大きなこと。空気感を保ったまま再演できる、これは本当に感謝です」


――初演時、浦井さんはチャーリィとどう向き合っていったのでしょうか。

「当時、原作を自分の中で大切に読んでみて、チャーリィ・ゴードンが何を思っていたのかという根本の部分をちゃんと知らなければいけない、失礼だ、と感じたので、ある施設に自分ひとりで足を運んだんです。そこでいつもやっているオリエンテーションや遊びに参加させていただいたら、本当にみんな笑顔で。そこで作ったものが売り物になったりもしているんですよね。その作品がめっぽう上手かったり。ある女の子は、すごく僕の事を気に入ってくれて...というのも、ある種、外部の人になかなか会う機会のない空間で過ごしているので、新しい人が来たのが嬉しかったんでしょうね。その人が、あなたのことを気に入ったから、わたしの得意なドラマをやってあげる、って言って、一話全部、全役を演りだしたんです。僕には彼らが天才にも見えましたし、何よりも輝いている笑顔が印象的でした。そこで僕は大きな勘違いをしていた、と気付いたんです。ただ、チャーリィ・ゴードンというのは友達がほしかったんだ、人と共に生きたかったんだ。人間的根本をそこで学んで、あぁ、ひとりの人間を演じればいいんだ、と学ばせてもらったんです」


――それまで「勘違いしていた」というのは...?

「チャーリィは脳手術の臨床試験の被験者になります。実験の材料となったアルジャーノンとチャーリィは、手術によって知能が上がっていき、そしてまた退化していく。そのことに頭がいっぱいになってしまって、その過程をどう演じ分けようかと考えてしまっていたんです。それで悶々としていたのを、「そんなものはいらない」と一喝された気分でした。ただチャーリィ・ゴードンは人と共に生きたかった、人の中で生きる上で一番大切なものは何かを無意識にわかっていた人だって思えたんです。そのチャーリィを通して、まわりにいる大人たち...キニアン先生や実験をしていた人たちが色んなことを学び、人生において一番大切なモノは何かというのを改めて考え、気付く。そういう話なんだと思ったときに、タイトルがなぜ『花束を』なのかということも自分の中では腑に落ちた。登場人物それぞれが、心の中にひとつの花束をチャーリィ・ゴードンからもらうという作品なんだな、人間にとって一番大切なものは人と共に生きることで、ギフトしあうことなんだな、と。...僕の解釈ですが。そういったことをその施設で学ばせていただいたことが、初演ですごく印象的なことでした」
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――とはいえ、それを表現として舞台に乗せるのは、やはり大変なことではないかと思います。

「難しいですね。でも、稽古場にチャーリィ・ゴードンがもうひとりいたんです。それが演出の荻田浩一さん(笑)。なんかもう僕じゃなくて荻田さんやればいいんじゃないの、ってくらい渾身の演出でした」


――荻田さんって、どんな演出家ですか?

「愛のある人だと思います。ただ、頭の回転がとても速い方なので、たまに理解できない部分もあるんですが(笑)。役者にもスタッフさんにも愛があって、オーケストラで言えば指揮者。自分を上に持っていかない。謙虚だということではなく、それが演出家なんだよというカッコよさがある。僕も自分が思ったことは素直に何でも言いますし、何を言ってるんだと怒られもします(笑)。絶大な信頼を持っています。僕の演技のクセもすべてご存知なので、僕が綱を引き忘れた時に「ちょっと暴走しているよ」「もうちょっと俯瞰した目を持っていなきゃ、芝居にもお客さまにも失礼だから」って、すぐ言ってくれる。本番もほぼ毎公演、観てくださっていますし、それがみんなの信頼に繋がっているんだとも思います」


――浦井さんの演技的クセとはどういう部分なんでしょう。

「役に入り込みすぎてしまうんです。感情に流されすぎている時に起こりがち。今はだいぶ減ってきていますが、8年前はもう、たびたび起こっていました。ちょっとちょっと、セット壊すんじゃないの? ケガしちゃうんじゃないの?...みたいな。例えば泣きすぎる、とか。お客さまは、あの役の人が泣いている、ということで感情移入ができるのに、役者が泣いていたら引いてしまいますよね。作品に失礼だし、それは戯曲を大切にしていないということでもあると思えるようになってきましたので...最近はあまり言われなくなりました」


――この再演が決まって、どんなアクションをされていますか?

「それはもう、すぐに原作と、初演の台本と、台本が出来る前に仮の台本があってそちらで稽古をしていたので、それも全部見直しました。書き込みでぐっちゃぐちゃなんですけど(笑)。実は製本された台本は、初日の前日くらいに出来て。でもそれもすぐに真っ黒になっていきました。初日が開けても毎日、荻田さんはダメ出しをしてくださったし、歌唱指導の先生も振付の先生も常にいてくれたので。そういう思い出を振り返りながら、今一番大事なモノは何かな...と考えています」
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――先ほど少しお話に出ましたが、今回、浦井さんはチャーリィと同じ32歳で作品に挑みます。今だから気づくことなどありますか。

「初演は体当たりで演じていて、演劇的なプランをそのまま体現するのでいっぱいいっぱいでした。今回はそれをふまえて、今の自分でやれる限りのところを目指すには何が必要かというと、やっぱり読み込むことかなと感じています。だからずっと、原作や台本を読んでいます」


――浦井さんも8年の間に俳優として様々な役を演じ、経験を積んで、力をつけていらっしゃいます。

「...どうでしょうねぇ! ただ、あまり変わっていないねって、荻田さんやプロデューサーには言われているので、そこはいい意味に捉えて、"ピュアなチャーリィ・ゴードン"というものを核にしたいとは思います。人への愛というものを大切にしていたチャーリィでいたいというのは今も変わらずに思っているので。でも自分を俯瞰して見たいという部分が出てきていますので、例えば知能が上がっていくに比例してどう歌唱法を変えていくかとか、どういう身体の使い方をするかとか、そういうことをちゃんと計算したい。そうすることで、お客さまに伝えられるこの作品のメッセージを、ひとつでも増やしていきたいんです。今まで経験させていただいたこと、出会った演出家の方や共演者の方、先輩方から学んだこと、肌で感じたものを大切に、自然に身体から出して今回は演じたいですね」


――最後に、浦井さんのお気に入りのシーンなどがあれば教えてください。

「(少し悩んで)...ラストシーンでしょうか。色々な解釈が出来ると思いますが、幻想なのか理想郷なのかわかりませんがチャーリィが夢に描いていたものが描かれているんだと僕は解釈しているんです。彼が一番大切にしていた、人と共に生きたいという思いとか、愛とか、そういうものの具現化のシーン。チャーリィが教えてくれたそのことで、各役が心に花束を持てたのかなって僕は思う。ほんの一握りの光なんですが、それが最後、ちょっとした希望になっているというのがミュージカルならではで、原作と少しだけ違う部分。「友だちを作りたい」というチャーリィの最初の思いが実は一番大切なことで、人間はひとりじゃ生きていけないというメッセージだった。それが、登場人物たちに伝染して人生が豊かになった、かもしれない。"かもしれない"が最後に描かれているってところが、僕はすごく好きです」




【公演情報】
9/18(木)~28(日) 天王洲 銀河劇場(東京)
10/18(土) サンケイホールブリーゼ(大阪)
一般発売:6/28(土)10:00~


★東京公演 先行販売決定!★

●インターネット先着先行「プリセール」
受付:6/18(水)11:00~6/27(金)23:59


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