『レディ・ベス』の世界~衣裳・生澤美子さんインタビュー

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■『レディ・ベス』世界初演への道 vol.9■


ついに開幕した『レディ・ベス』、大作ミュージカルらしく、見どころがいっぱいの作品になっていますね!
この作品を多角的に追っている当連載ですが、"世界初演"を作り上げるスタッフワークについてもお届けしたく、美術・二村周作さんに続き、本日は衣裳・生澤美子さんのインタビューをお送りします。


●プロフィール●
コスチュームデザイナー。1973年、東京都出身。文化服装学院を卒業後、チャコット(株)に7年間勤務。在職中に、テーマパークのパレードコスチュームや、有名アーティストのコンサートの衣装等から、国体やイベント、バレエ、ミュージカルの衣装のデザイン・制作、鴨川シーワールドのユニフォームのデザイン・制作などを担当する。2003年渡米後、独立。Shigeru Yaji 氏に師事し、主にカルフォルニアで活動。(オフィシャルHP


●生澤美子氏 インタビュー●


――まずは生澤さんご自身のことを伺わせてください。チャコットにお勤めでいらして、そのあとアメリカに留学されたんですね。

「はい。チャコット時代はデザインから製作から、何でもやっていました。お店にも立っていましたよ(笑)。その中で、日本で有名な某テーマパークのパレードの衣裳製作に関わりまして、パークの立ち上げのタイミングでしたので、デザイナーさんがたくさんアメリカからいらっしゃったんです。そこであまりに素晴らしい衣裳と素晴らしいデザイン画と素晴らしいスタッフに会ってしまって、アメリカに行こうと決めました。その来日したスタッフの中に、ブロードウェイミュージカル『ピーターパン』の立ち上げの際のデザインをすべてやっていらしたShigeru Yajiさんがいらして、その後カリフォルニアで彼のプロジェクトに色々と参加させていただきました」
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――その後ご自身でデザインして...と、活躍されていくきっかけになったのは...?

「アメリカにいた頃、世界的に有名な特殊衣裳コンテスト、「World of Wearable Award」というものがニュージーランドであるのを知り、語学勉強の一貫で概要を訳してみようと思ったんです。そうしたら、まだそれがノミネートに間に合う期間だったんです。それで衣裳を作って、送って、入選した...というのが、会社を辞めてから自分でデザインした一歩だったかもしれません」


――特殊衣裳、というのは?

「プロップス(装飾物)をつけたり、衣裳が変化したり、材質自体も金属だったり植物だったり...。"服"というより、造形的なひとつの"アート"としての洋服です。「Wearable Award」は、服のコンテストというより、"造形物を纏う"といった意味のコンテスト。自分としては好きな分野で、どちらかというと普通のお洋服を作る...となると、フリーズしちゃいます(笑)。カリフォルニアでは"時代物"の衣裳を学んでいまして、これも作りが特殊。締め付けたり、デコラティブだったり。大きく見せたいとか、高貴に見せたい、という意図で、その時の富を纏う。今回の『レディ・ベス』も時代物ですが、時代衣裳もウェアブルアートと通じるものがあります」


――さらに生澤さんの経歴で私が一番気になったところが、小林幸子さんの衣裳をご担当されていらした!というところです。紅白歌合戦の衣裳も6着手掛けていらして、あの「メガ幸子」も!!

「そうなんです。幸子さんのお仕事は最初は製作でヘッドドレスに携わったんです。デザイン画はあるけど、それをどう表現していいかわからないから作ってくれと言われ、自分も年末の風物詩ですので、がんばろう!と、炎を全部ビーズで作って...そうしたら大変重いものになってしまいました(笑)。あまりに重くて没になると思ったら、ご本人がかぶってみたいと仰ってくださった。あたまから否定せず、まだ若手である私の話もきちんと聞いてくださって、アイディアもくれる。作り手として、ファンになってしまいました。その後、そこでお仕事が終わるかと思ったら次の年、「美子ちゃん、デザイン画も描けるでしょ、じゃあ全部やってみなさいよ」と声をかけてくださって。そこから6作品ほど作らせていただきました」


――そして、今回の『レディ・ベス』です。演出の小池修一郎さんが、生澤さんと一緒にやってみたいと仰ったとお伺いしました。

「2010年、真琴つばささんと黄豆豆さんが主演した『木蘭ムーラン』という舞台の衣裳を担当しまして、それをたまたま小池先生が観にいらしていた。それは水墨画のようにしたいけれど時代劇にはしたくない、という演出の上田遥先生の意向と、さらに舞踏家たちが着るので踊れなくてはいけないので、衣裳の一部に鎧がついているというような形のものを作りました。後から教えていただいたのですが、小池先生は、そこが渋くてよかったと。それで、3年ほど前に一度ご連絡いただいたのですが、その時ちょうど私が第一子がお腹にいて仕事をセーブをしている時期でお断りして、残念なことをしたなと思っていたら、昨年「そろそろお子さんも大きいでしょ」とまたお電話いただいて。覚えてくださったことが嬉しくて「どんな舞台でもやります!」と即、OKさせていただいたら、こんなに大きな舞台で...。びっくりしています(笑)」


――『レディ・ベス』の衣裳を作るにあたり、小池先生とはどんなお話を?

「エリザベス1世もメアリーもフェリペもアスカムも、実際にいた人物。書類も肖像画も残っています。最初にすべての資料を調べ、一度自分の中で消化してデザイン画を描いたのですが、そこ(実在したもの)から出られなかった。その時に先生から「肖像画の色違いを見たいわけではない。これは『レディ・ベス』という舞台であって、あなたの手形が見たい」と言われたんです。それで一度すべての資料を飲み込んで、そこからすり合わせていきました。ベスの世界を舞台としてお客さまに楽しんでいただくということに注意して、時代から離れないように、でも暗くならないように、時代背景どおりにならないようにというのを念頭において製作しています。エンターテインメントとして出そう、と」


――ベスが生きたこの時代をどう衣裳で表現されているのでしょう。また16世紀のファッションの流行はどういうものだったのでしょうか。

「この時代の仕立て方、リボン、流行した帽子の形などを取り入れています。細かく言うと女性が被っている"チューダー・アーチ"のヘッドドレスですとか。あとはこの時代はスラッシュ...衣裳に切り込みを入れてアンダーの服を見せる、というものが流行ったんですね。流行りすぎて、表地が見えないほどだったんですよ(笑)。ですので男性陣はすべて、女性陣も含め、スラッシュは入れています。また、のちのちイギリスもスペインからの流行を取り入れてだんだん派手になっていきますが、この頃はまだ芸術全体が、男性主流。服の柄も柔らかいというよりは、力強く男性っぽいラインですので、そのあたりも心がけています」


――それぞれのキャラクターについても少し伺わせてください。

●ベス
「最初に登場するベスはピンクの衣裳です。もちろん2歳半で母親が処刑され、辛いこともあったと思いますが、まだこの時期のベスはメアリーからそこまで恨まれているとは気付いていない頃。穏やかさのある純粋なベスであり、お客さまが初めて見るベスですので、綺麗なピンクで登場します。そしてどんどん色味が地味になっていき、終盤ある決断をする、凛としたベスはブルー。色味は心境を表しています」
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●ロビン・ブレイク
「この時代は本当に男性がオシャレなんです。こういう左右が違うアシンメトリーのデザインだったり。詩人も兵士もみんなオシャレ。そんなオシャレさを、この時代の資料を参考にして取り入れています」
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●メアリー
「メアリーは女王なので、どの衣裳をとっても、この中で一番豪華です。布も装飾もラインも。その中でも飾りこみのラインなどはこの時代のデザインを参考にしています。模様を全部パールで手付けで描いたり、ティアラも型から作った特注ですし、とにかく豪華ですよ」

●フェリペ
「この頃はドイツ、スペイン、イングランドと流行が流れてきていたので、イギリスよりスペインの方が派手だったんですね。ですので、フェリペ含め、廷臣も愛人もスペインの人たちはすごく派手にしています。そのあたりは時代に沿っています」

●アン・ブーリン
「彼女はベスが2歳半の時に亡くなっていますので、この時代より若干昔のライン。アン・ブーリンは彼女が王妃になりベスが誕生するまでの間、かなり女性たちの間でブームを生んだ人なんです。色々なラインの服をデザインしたり、それを流行らせたりした方だったので、一番きれいでいてほしいなと思ったんです。実は最初はまるで亡霊のようなデザイン画を提案したのですが、小池先生もアンは一番きれいだった頃の姿で娘の前に出したいと仰ったので。ヘッドドレスもこの時代に流行ったラインで、総ビーズ、総刺繍。舞台でたぶんキラキラ光ると思います。それに加え、亡くなった存在として登場しますので、血を想像させる暗い赤をイメージして作りました」

●ガーディナー
「司教なので、衣裳の前面に教会のステンドグラスをデザインしました。でもベスの暗殺を企て、影で指揮をとる、ダークな面を持っているので、あえてそこに黒いペイントをかけて、ステンドグラスがきれいに映えるのではなく、ダークに映るようにしています」
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●シモン・ルナール
「この方も頭脳派。台本を読んで、たぶんご自分のことを大事にされている方だろうなと思いました。もちろんスペインの大使なので誰よりもお洒落にスマートに、そして冷たいカッコ良さがでるようデザインしました。狐をそのままあしらったのは、ルナールは"狐"の意味であるということに加え、きっとこの冷たいルナールなら自分が狩をした狐の姿を自慢げにそのまま着けるのではないかと(笑)」

●ロジャー・アスカム
「本当は学者の先生なのでもっと地味な格好で、黒いシックな服を着ていたと思うのですが、あえてモスグリーンとパープルという色を入れさせていただきました。それは、小さい頃から両親がいないベスにとって、アスカムとキャットが心の父母なんじゃないかなという解釈です。ほっとする色を入れたいと思いました」

●キャット・アシュリー
「アスカムと共通して、地球や自然を思わせる色、ナチュラルなほっとする色を入れました。キャットはベスのことを見守り、いつも彼女が幸せになるようにと願っている人。その優しさを表現したかったんです」


――衣裳ひとつとっても、それぞれこだわりと意味があるのですね。間近で見たくなりました。最後に、お客さまにここを楽しんで欲しいというポイントがありましたら教えてください。

「今回私がやってみたかったのは、肖像画や風景画、昔の絵画が動き出した、という世界観を作ること。ですので舞台の全体を見ていただいて、そのシーンに対してベスがどう映るか、背景と一緒になってロビンがどう見えるかを楽しんで欲しいです。それに加え、ここまで重厚感・本質感を求められる作品もあまりありませんし、本当に腕のいい職人さんたちが作ってくださっているので、オペラグラスで細部まで見ていただきたいです。作ってからも生地のままの色味ではなくすべてタッチを入れたりペイントを加えたりしています。できれば1回目は全体を、2回目は細部を見ていただけると嬉しいです!」




全部で何着デザインしたのか伺ったところ、「数え切れません」とのお返事でした...。
実際に製作されたのでも200着くらいはあるそうで、さらに、例えばベスの戴冠式のお衣裳などはこの1着のためにデザインとしては15着くらい描いたとのこと...!

ちなみにコチラは生澤さんもお気に入り、「この人たち可愛いの、私、大好き!」と仰っていた、ロビンのお仲間の3人組のデザイン画。
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「いろんな素材を使っています。生地感も楽しんでいただけると嬉しいです。(デザイン画に貼り付けてある)これらの生地、全部使っています」とのこと。
担当、触らせていただきましたが、質感も様々で立体感があり、面白いものでした。


『レディ・ベス』の世界、そんな細部にわたる生澤さんの衣裳のこだわりからも、深みを増しているのだと思います。
ぜひ「1回目は全体を、2回目は細部を」で、作品世界を堪能しましょう!

取材・文・撮影:平野祥恵

●公演情報●
5月24日(土)まで上演中 帝国劇場(東京)
7月19日(土)~8月3日(日) 梅田芸術劇場 メインホール(大阪)
8月10日(日)~9月7日(日) 博多座(福岡)
9月13日(土)~24日(水) 中日劇場(愛知)


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