昨年、ストリートダンスや、ジャズダンス、コンテンポラリーなど、さまざまなジャンルを横断して気鋭のアーチストたちが集い、奇跡の舞台を作り上げた。
「ASTERISK」というその作品をご存じの方も多かろう。大成功のうちに終わったプロジェクトの中心にいたのが、DAZZLEというグループだ。
演出と主演を兼ねた長谷川達也と、脚本・出演の飯塚浩一郎。彼らこそ、鉄壁のコンビ。
その確かな手腕と才気を、DAZLLEの本公演で体験しよう。最新作のダンス作品「二重ノ裁ク者」の稽古場で、ふたりに話を訊いた。
QDAZZLEの結成はいつですか。
長谷川「結成は1996年、明星大学にあるダンスサークルが母体です。サークル加入時、僕はヒップホップをやりたかったのですが「ジャズ(ダンス)も必須」というのがそのサークルの決まりでした。当初気乗りしなかったジャズも、経験するうち次第にその魅力を理解できるようになり、特にヒップホップにはない表現の幅、動きの質を取り入れて、自分自身にとってのダンスを作ろうと思ったんです」
Q2年目からは振り付けも、というお話でしたが、それまでダンス経験は?
長谷川「初めてダンスに憧れたのは、中3のときにTVで観た「ダンス甲子園」。すごくやりたかったけど、機会に恵まれなかった。時を経て大学に入学したときにダンスサークルに出会い、当時の思いが再燃したんです。ダンスしかないと。ですから本格的に始めたのは入学した18歳のときですね」
Qめちゃくちゃ早いですね(笑)、2年目から振付というのは。
長谷川「人と同じことをやるということに価値を感じられなかったので、早くから自分で作品を作るようになりました。僕はダンスに、個人の技術力と同じくらい、作品を作る力に魅力を感じていたんです。そして表現者として最も重要なのは独自性だと思いました。でないとたくさんいるダンサーの中で抜きん出ることはできないと思ったんです」
Q現在の作品スタイルになったのはいつからですか?
長谷川「振付としては早くから現在のスタイルでしたが、舞台での公演をスタートさせたのは2007年です。それまでは、コンテストに出場したり、他の団体の舞台に参加しているだけでした」
飯塚「僕がDAZZLEに入って、公演をやることになったんです。長谷川さんの3学年下ですが、当時既にDAZZLEはダンス界のスーパースターでした。TVにも出演していて、ダンサーの中では知らない人はいなかった。DAZZLEに後から加入したメンバーは、みんなDAZZLEに憧れていた人間です。僕は別の大学でダンスをやっていて、就職した後コピーライターになりました。その頃、DAZZLEはコンテンポラリーへも足を踏み入れ始めた時期。ダンスで舞台公演をやりたいと考えていたタイミングでした。広告での経験を活かして、「物語仕立てにしよう、映像も入れよう...」と話し合っているうちに、DAZZLEに入ることになって」
Q作品の物語性にこだわっていますね。ナレーションや字幕で物語を伝えていくダンス。
長谷川「僕は映画やゲーム、コミックやアニメといった文化にも興味を持っているので、それらに共通する物語性をダンスに反映できないだろうか、と思いました。ダンスを知らないと分からないような内容であるのは嫌だったから、そのための方法としてダンスをダンスにだけ止めない、様々な要素を作品に含めるようにしています。あくまでダンスを中心としてはいますが、表現として何か一つに固執する必要はないと思っています」
Q作品はどいういうステップで作っていくんでしょう。飯塚さんと長谷川さんのキャッチボールの方法論に興味があります。
長谷川「まず僕から、作りたいテーマを彼(飯塚)に伝えます。例えば今回だったら「独裁者(テーマ)がいい」というような。そこから、思いつくまま、断片的な設定とか、物語のピースとか、ダンスとしてやりたいヴィジョンなどを、どんどん作品のパーツを作ります。ダンスと物語、空間や衣装、音楽などの様々な場面を同時に捉えて行きたいから。彼(飯塚)は言葉のプロなので、それらをひとつにまとめてくれる」
飯塚「今回は、ほぼ物語が出来ている状態で各パーツを渡されました。僕の仕事は、メタファーやストーリーの流れを調整することでしたね。今回は「親と子」「教師と生徒」という、ふたつの関係性が重要なモチーフになっています」
Q今回の物語の主人公は、銃殺される寸前に、逃亡を許された男。その男は教師でした。彼が教えていた生徒とは、とある国の独裁者の息子だった。
飯塚「DAZZLEでイランに行ったとき、自分たちがいかにアメリカ的な価値観に支配されているか、ということを感じました。我々とは全く違う教育・環境・生き方がそこにあった。今回の物語で言えば、独裁者の父は、息子に、二世統治者としての教育を施そうとします。一方で、その息子を受け持った主人公の教師は、独裁者の父とは違う教えを、生徒=息子に授けようとしていました。「親と子」「教師と生徒」という、ふたつの関係性がここにあります。教育と洗脳って、紙一重の関係であったりもしますよね」
長谷川「ルーマニアやイランで公演を行ったとき、抑圧された社会の痕跡を間違いなく感じましたからね。この世の誰も、悪をなそうとはしていない。でも、現実に、対立し合う思想というものはある。それらの思想は、通じ合うことができるのか、それとも、いつまでも相容れないままなのか」
飯塚「イランでは、DAZZLEの公演の直前に同じホールで大統領の演説がありました。その日はイランの独立記念日。独立を記念する演劇祭に招かれていたんです。朝から、ネットがつながらなかった。もちろん、ツイッターもフェイスブックもだめ。統制された社会とはこういうものなんだ、ということを実感しました」
QこれまでのDAZZLEの公演サイズよりも、今回はちょっと大きいサイズの空間に挑戦します。
長谷川「広くなっている分、稽古は大変だな(笑)、という実感はありますが、空間が広いということ自体は「ASTERISK」で経験済みなので、広すぎるということは感じません。今回は、DAZZLEでは始めて空間に変化を持たせたことと、音響に奥行きを持たせています。」
Q本番まで3週間強。現在の稽古の進み具合は?
長谷川「決して順調とは言えませんが、同時に納得がいったときは最高の作品になるような手応えも感じているんです。僕らの舞台は、照明、音楽、映像、ナレーション、そしてダンス、それぞれがシンクロしないとだめ。システマチックに組み上げて、シーンごと緻密に計算をしなければならないんです。そしてそれぞれの要素をこだわればこだわるほどに進行は難しくなってきます」
Q今回の出演者の数は。
長谷川「DAZZLEのフルメンバー9名と客演3名、合計12名、いつも通り男性のみです」
Q稽古や作品を拝見して、また、こうやってお話を訊いていると、ストリートダンスというよりは、コンテンポラリーダンスにも思えてきます。
長谷川「自分たちの基礎はあくまでストリートダンスにあります。リズムや身体の使い方はストリートダンスで培ったもの。「ストリートには見えない」とは、これまでも多々言われていてきましたが、確かにそれを無視した解釈で身体を動かすところもあります。一つ言えるのは僕にとってジャンルは何でもいいんです、観ている人の心が動けば」
Q稽古を拝見していて、3拍子の曲が多かった。例えばそういう部分に、ストリート的ではない何かを抱いたのかもしれません。
長谷川「確かに3拍子の曲は今回特に多いですね。音楽に対してもジャンルに固執せず、シーンを考えたときにふさわしいと思えるものを選んでいます。例えば映画のサウンドトラックを参考にすることが多いのですが、今回のセレクトは自然とそうなりました。重厚なテーマの作品なので、音楽の担う役割もまた非常に重要だと思っています」