腹の底からジワジワと興奮が沸きあがる。この楽しさ、このカッコよさ!
岩松了作・演出最新作はチンピラ風情の男、森本が任侠界で成り上がる人気シリーズ。第三弾は港に近い場末のクラブが舞台だ。
男たちがドンパチ派手な銃撃戦を繰広げる一方で、ヤクザお抱えの女歌手が高みを目指し、蜃気楼のように現れては立ち消える儚い夢を物語る。誰も本心を語らない。
セリフの裏側に隠された真意を読み解くような岩松作品は、時に難解と評されるが、想像力を掻き立てるという意味で、演劇的醍醐味に満ち溢れている。注目すべきはその時々の関係性によって生まれる心のドラマにある。
今回も様々な人間たちの思惑が重層的に描かれるが、観客は立ち昇る紫煙とバンドの生演奏に惑わされ、筋を追うことを早々に放棄させられるだろう。観客はたまたまクラブに居合わせた客であり、物語の端役として作品世界に溶け込んでいく。見るよりもその場のムードに酔わされたい、白昼夢のような劇世界だ。さて、流れモノの森本はヨシエという女の手引きでとあるクラブに間借りする。そこで、クラブを仕切る都築組若頭・結城と組長の息子ノブらと関わり、やがて新興勢力の和田部組、互いの均衡を図る大庭組ら三つ巴の抗争に巻き込まれていく......。

これまで何者でもなかった森本がようやく意思を持ち主人公として物語を仕掛けていく。
シリーズのファンは、いよいよコマが出揃い、物語が動き始めるような手応えを感じるだろう。そんな主人公に血肉を通わせるのが、森本役の阿部サダヲだ。狂気をはらんだ眼差しが、刺し違えるか分からない任侠世界の危うさを映し出す。穏やかな笑みの裏側でナイフのような鋭さに驚かされる、後半の展開は見もの。都築組若頭・結城役の小林薫は、冷静沈着さの奥底に熱い義理人情のマグマを燃え上がらせる。ここぞ!できかせるドスの凄みは本物。組長の息子ノブ役の赤堀雅秋は、短髪髭面でジャージを着込んだ貫禄ある体躯に、二代目の余裕と油断が垣間見える。弱さを隠すように終始大声で怒鳴り散らす人間味溢れるキャラクターを演じる。また、目を惹くのが大庭組幹部・清水役の豊原功輔だ。表では和平を装いつつ裏で手を引く策士を、作り笑いが板についた軽めの演技で体現する。真意の見えぬ危うさに持ち前の色気が加わり、たらしな役柄にもピタリとはまる。策士といえば、最後まで仲間や観客を翻弄するのが、女歌手のマネージャー山室。「自分は裏がない人間だ」と言い切るあたり演技か本心か。裏社会に生きる男の胡散臭さを吹越満が軽快に演じてハマり役だ。そんな男たちの中にあって、ヒロインの女歌手を演じる小泉今日子は、まさに掃き溜めに鶴の美しさ。男たちの夢として輝き、その美貌と歌声で物語に鮮やかな彩りを加える。やがて、すべての夢が覚めるとき、物語は次の段階へと進み始める。愛と哀しみ、虚構とリアル、生と死......多くの矛盾をはらんだ劇世界は世の中の縮図のように汚くてキレイだ。岩松了の独自の美学に貫かれた人気シリーズ最新作。シビレるほどの余韻から、しばらく抜け出せそうにない。
(取材・文/石橋法子)

12月6日(金)から12月15日(日)まで大阪・シアターBRAVA!、12月21日(土)から12月23日(月・祝)まで福岡・北九州芸術劇場 大ホールにて。チケット絶賛発売中!