1994年にアメリカで公開されてから20年近く経ついまでも、多くの映画ファンに愛されている映画『ショーシャンクの空に』。人気作家スティーヴン・キングの中編小説「刑務所のリタ・ヘイワース」を基に映画化された本作が、今秋日本で初めて舞台化される。
演出を担当するのは『時計じかけのオレンジ』や『八犬伝』などの話題作でその手腕を発揮し、幅広いジャンルで活躍中の河原雅彦。脚本は第36回日本アカデミー賞で最優秀作品賞を受賞した映画『桐島、部活やめるってよ』(2012年8月公開)を手掛けた喜安浩平が担う。
キャストは元銀行員のアンディー役を成河、彼の友人で調達屋の老囚レッド役を益岡徹が演じる。
現在、プロデューサーらを交え日々打ち合わせを重ねている中、演出の河原雅彦に話を訊いた。
河原雅彦インタビュー
――「ショーシャンクの空に」の舞台化の話はいつごろからあったのですか?
最初にお話をいただいたのが一年半くらい前ですかね。
――映画はご覧になっていた?
スティーヴン・キングはもともと好きだったので、20代のころDVDで観てると思います。小説はこのお仕事をいただいてから読みました。それで感じたのは、映画は効果的な脚色がなされているなと。映画を知っている人からみた、あのセリフが好き、ここが印象深いといった場面は、映画でドラマチックに脚色されているところがほとんど。と言うのも、小説はレッドの視点で語られているからアンディーの心の動きは詳しく書かれていないんです。そこを映画はドラマにして面白く膨らませている。今回の舞台は小説を原作にするので、そこをどうするかという難しさはすごくありますね。
――映画とは違う見せ方になるのでしょうか?
演劇ならではのアイディアはいっぱい散りばめますよ。映画は映画の膨らませ方がありますが、舞台には違う膨らませ方があるので、そこにチャレンジしようと思ってます。
例えば今回女性キャストに3人出てもらうんですけど、これは原作にも映画にも無い要素なんです。舞台版でオリジナリティを出そうと考えたとき、ひとつのフックとしてピンナップガールを実際に登場させようと思って。レッドの一人称で書かれている原作のままやってしまうと、ただのモノローグになってしまうし、それじゃあ単調だし見ていて退屈でしょう。それに長い時間をかけている物語をどう見せるかというのもある。そこで、その時代の旬だったピンナップガールに物語を運ぶ役目を担ってもらおうと考えています。
――数十年という時間が流れる物語で、場所も基本的に刑務所の中だけ。演出する上ではどの辺りがポイントになりそうですか?
刑務所という特殊な空間を現すには、舞台上はずっと閉鎖感で覆われていないといけないと思うんです。刑務所を舞台にした演劇が成功し辛いのは、「すぐ脱獄できそうじゃん」「意外と自由きいちゃいそうじゃん」みたいな、そこがおざなりになってる気がするんですよ。絶対にここから出られない、この中でしか生きられないという空気は強固にあったほうがいい。娯楽がない世界だし、音楽ひとつかかっただけでも、ドラマティクなハイライトになるくらいの閉鎖感は必要だと思います。そこにピンナップガールが出てきて、ひとつ息がつけるポイントを作っていく。そうすると閉鎖感が一層際立つし、この3人が出てくることで演劇的な自由度もあがるだろうとか、いまいろいろ考えてるところです。
――脚本を担当される喜安さんとは初タッグですね。彼が脚本を手がけた映画『桐島、部活やめるってよ』は日本アカデミー賞を獲りました。いいタイミングだったのでは?
そうなんですけど、お願いしたのはアカデミーを獲る前です。誰に脚本をお願いしようかなって考えてたとき、自分より若い人でいい人いないかなって探していて。喜安くんはKERA(=ケラリーノ・サンドロヴィッチ/ナイロン100℃主宰)さんのところにずっといて、KERAさんに信用されている時点で演劇の面白さをわかってる人だろうなと思ってました。
原作ものを舞台用の台本に書くのは絶対的に確かな技術がいることだと思うんですよ。物語をたんに2時間にまとめる作業だけではなく、演劇でどう面白く見せるかという柔軟さが必要ですから。喜安くんはそういう脳みそを持っている人です。僕自身は打ち合わせの中で"こういうことをしたい"という感覚的な話を上手く言葉にできないんだけれど、喜安くんはそれを汲んで全部言葉にしてくれるし、喜安くんが考えていることもわかる。そういうところは一緒にやっていて楽ですね。
――現時点での脚本では、小説と同じようにレッドの視点として描かれているのですか?
その部分は大きいですね。だからレッドの知らないことは出てこない。レッドの想像でこうだったんじゃないかという部分で掘ってはありますが、アンディー目線では書かれてないです。
――そこが映画と大きく違う?
違いますね。アンディーのドラマとして引っ張ってる映画とは違うところです。小説の方がおとぎ話みたいなんですよ。アンディーという人が次々と奇跡を起こしていく、そういう面白さがある話です。
――小説を読んでいる人はより共感しやすいのでしょうか?
でもそれだけじゃないところもあるから......。小説をベースにしたときの難しさは、どういうアプローチでやろうかな、見せる時にどう立ち上げようかなっていうところ。舞台版なりのオリジナリティは模索できると思うけど、想像してなかったところや、想像が足りてなかった部分も出てくるだろうし、そこの難しさってのはありますね。映画では、みんなが感動して印象に残っているところって、アンディーが感じて、アンディーの気持ちでみて感動しているんです。今回そこが封じられている。アンディーのドラマをどうやって見せるか。映画の権利を持ってる人に怒られずに「これありだね~、うまく考えたね~」って言われたい(笑)。
――そこでピンナップガールズが登場するわけですね。
大きな役割です。ピンナップガールズなら、アンディーが本当に思っていることを語れたり、表現できるシーンが作れますよね、あの子たちはイメージだから。レッドの視点でしか語れないルールを、この人たちは別の視点で見たり感じたりできるポジションに置けるんです。喜安くんが上手に洒落っ気を出して、面白く書いてくれてるなと思うところもいっぱいありますし。
――舞台でしか味わえない作品になりそうですね。
お客さんに与えるカタルシスは映画と同じように演劇でもあるべきだから。(映画の印象的なシーンが)どうしたら効果的に伝わるかっていうことをこれから考えていきます。
<プロフィール>
かわはら・まさひこ
1969年7月7日 生まれ。福井県出身。演出家・脚本家・俳優。
1992年にパフォーマンス集団「HIGHLEG JESUS」を結成、2002年の解散まで作・演出を担当。近年はプロデュース公演の演出を手がけることが多い。主な作品に『八犬伝』、『テキサス-TEXAS-』、『その妹』、『ぼっちゃま』など。
公演は11月2日(土)より東京・サンシャイン劇場を皮切りに、大阪・サンケイホールブリーゼ、福岡・キャナルシティ劇場、名古屋・名鉄ホール、長野・まつもと芸術館と各地を巡演。なお、公演の最新情報は公式サイトにて順次発表します。
お楽しみに♪♪♪
舞台『ショーシャンクの空に』公式サイト
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