『マイ・フェア・レディ』観劇レポート

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■『マイ・フェア・レディ』vol.9■


日本初演50周年にして、キャスト・演出を一新した新生『マイ・フェア・レディ』が現在、東京・日生劇場で上演中だ。今回はヒロイン・イライザは霧矢大夢と真飛聖のダブルキャストになっているが、霧矢版を観劇したレポートをお送りする。

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イライザ:霧矢大夢

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イライザ:真飛聖

 

物語は、下町の花売り娘・イライザが、言語学者のヒギンズ教授に正しい言葉と淑女としての礼儀作法を教わり、レディとして生まれ変わる過程と、その中で生まれていくイライザとヒギンズの淡い感情を温かなまなざしで綴っていくもの。劇場に足を踏み入れると、これもまた一新された可愛らしい舞台セットが観客を迎える。立体感があり、繊細に作りこまれた美しいセットながら、ドールハウスのようなファンタジックさもあり、まさに新生『マイ・フェア・レディ』を象徴するかのよう。そしてオープニングシーンがなんとも秀逸。ひとりの花売り娘(美鳳あや)が踊りながら誘うように舞台の奥へ奥へと進み、同時にセットがひとつずつ開いていく。自然と観客は、現実世界から物語の中へ入り込む感覚を味わえる。

さて、幕が開くとそこはコベントガーデン。オペラが終演したあとの街は、上流階級の紳士淑女と下層階級の人々が入り混じっている。この物語、身分の差が差別にはなっていないのが良い。どちらの階層の人々も、幸せそうだ。そこへ転がり出てくる花売り娘・イライザは、ひときわイキイキとしている。突き飛ばされた彼女はべらんめぇ調で文句をまくし立てる中で、言語学者のヒギンズ教授と出会う。霧矢イライザは元気でけなげ。ヒギンズを警官と勘違いし泣きそうになる顔も、お金を手に入れて夢ををうっとりと歌う(「だったらいいな(Wouldn't It Be Lovely)」)顔もキュートだ。この冒頭のシーンだけで、イライザが人生を精一杯生きていることが伝わってくる。一方でヒギンズ教授役の寺脇康文も、変わり者感満載で、楽しい。ふたりのテンポの良いかけあいもいい。

myfairlady0903.JPGイライザ:霧矢大夢


myfairlady0904.JPGヒギンズ:寺脇康文

 

そののち、イライザは言葉を学ぶためヒギンズ邸の扉を叩き、言語レッスンが始まる。物語のキモとなるシーンだが、ここは演出とともに翻訳も手がけたG2の手腕が光る。「スペインの雨」として50年間親しまれたナンバー、フレーズを、「日向のひなげし」と改変。イライザの下町言葉を、"ひ"と"し"がごっちゃになる江戸っ子言葉的に日本語化した。イライザが上手く発音できない理由が、これなら日本人の観客にも理解できる。といっても作品の世界観を崩さない上品さをきちんと残しているのがさすが。さらに、このシーンで必死に訓練をする霧矢イライザもまた魅力的だ。ランプの炎の前で、ヒギンズに「"ひ"と言えば炎が揺れる。揺れないならお前は"ひ"と言えてない証拠」と言われ、泣きそうになりながら訓練したのち「消えた!」と言う得意げな表情がなんとも可愛かった。

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ヒギンズ:寺脇康文、イライザ:真飛聖、ピッカリング:田山涼成

 

イライザの奮闘が実を結び、彼女が外見だけでなく内面も成長すると、物語は今度はヒギンズの内面にフォーカスが当たっていく。あなたはいつも自分を花売り娘としてしか扱ってくれなかったとなじるイライザに、何がいけない、自分は淑女にも花売り娘に対するように接する、と返す不器用さ。姿を消したイライザを必死で探し回り、調子が狂っている自分にイライラする。寺脇はそのあたりの女性心を解さない子どもっぽさや戸惑いをリアルに見せ、微笑ましさすら感じさせるヒギンズ像を創った。大々的にラブロマンスを押し出す物語ではないが、イライザとヒギンズ、ともに不器用なふたりのほのかな恋心がそっと垣間見えるところが愛らしい。

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イライザ:真飛聖

 

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ヒギンズ:寺脇康文、イライザ:真飛聖

 

ほかのキャストについても触れておこう。まず、これがミュージカル初出演である松尾貴史演じるドゥーリトルがとても良い。常に飲んだくれている男ながら、卓越した論理思考を持ち、さらにはひょんなことから一変してしまう自分の人生を皮肉な視線で眺める男が、松尾自身が持つパブリックイメージとも合致して非常に魅力的。歌も踊りもキャラクターにマッチしていて、アンサンブルと歌い踊る、古き良きミュージカルを体現するようなシーンもうまく盛り上げる芸達者ぶりも見せ付けた。上品な上流階級のご婦人だがイライザのユニークさを可愛がるキュートなヒギンズ夫人役の江波杏子、懐が広くユーモアのあるピッカリング大佐役の田山涼成らベテラン勢も、しっかりと物語を支えるとともに、ところどころにお茶目な顔を覗かせている。また、フレディ役の平方元基は、イライザへの恋心をまっすぐに爽やかに表現するとともに、名曲「君が住む街(On The Street Where You Live)」をしっかりと聴かせ、次世代ミュージカルスターらしい煌きで作品に華を添えていた。

myfairlady0908.jpg中央 ドゥーリトル:松尾貴史

myfairlady0909.jpgヒギンズ:寺脇康文、ヒギンズ夫人:江波杏子、イライザ:霧矢大夢

myfairlady0910.JPGイライザ:霧矢大夢、フレディ:平方元基

 

もともと、シンデレラ・ストーリー的展開の中に、女性の自立などをテーマとして内包する物語であるが、現在においてそこはすでに強調する必要はないのだろう。G2の演出は細やかな感情のひだを丁寧に描き出すことで登場人物の日々の生活の営みや喜びといったものを際立たせ、結果、優しい、愛らしい物語となった。生き生きとした登場人物たちが織り成す楽しいやりとりに身を委ねているうちに、幸福感に包まれる。劇場では夢を見たい、そう思う人には強くお勧めしたい作品だ。

東京公演は5月28日(火)まで。チケットは発売中。その後、石川、福岡、愛知、大阪でも公演あり。

写真提供:東宝演劇部

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