劇団四季『ミュージカル南十字星』主演、阿久津陽一郎インタビュー

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■劇団四季創立60周年 特別連載■


劇団四季が大切に上演し続けている"昭和の歴史三部作"
日本人として生まれ、歌う中国人女優として絶大な人気を博した歌姫の半生を描いた『ミュージカル李香蘭』
戦中、和平工作に身を投じ、戦後11年間シベリアに抑留され帰国直前に命を落とした首相令息の生き様を描く『ミュージカル異国の丘』
そして京大に学び、理想に燃え南方へ出征、敗戦後BC級戦犯として裁かれた青年の悲劇を描いた『ミュージカル南十字星』
一貫して戦争の悲劇と向き合い、昭和の歴史の真実を描いているこの三部作が、創立60周年を迎えている今年、続けて登場します。

最初に登場するのは、三部作の完結編として2004年に初演された『ミュージカル南十字星』
主人公・保科勲を演じる阿久津陽一郎さんにお話を訊いてきました。

★ニュースサイトに掲載したインタビュー記事はこちら

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阿久津陽一郎 interview

 

――主人公・保科勲は、初演から阿久津さんが演じ続けています

「こんなに長くひとつの役を演じるのは、『アイーダ』のラダメスと、保科くらいです。でも年とともに変化していく自分と、役との向き合い方は毎回違う。そこを演出とどうアジャストしていくか。毎回、そこが課題です」


――主人公の保科は、三部作の主人公の中ではひとりだけ市井の人ですし、実在した歌姫やプリンスといった有名なモデルもいません。初演時は、作り上げるのにご苦労があったのでは?

「そもそも、『異国の丘』でシベリア抑留の方々のことを取り上げたんですが、それと同じ状況が南方でも起こっていたというのがあまり伝わっていない、というところからこの作品が生まれたんです。シベリアでは10年単位で抑留された方がいっぱいいらっしゃった半面、南方ではそこまで長く拘留されてはいなかったということもあると思うのですが、でも自分たちがどう取り組み、どこに作品として焦点を絞っていこうかとなったときに、資料がものすごくいっぱいあったんですよ。南方ではこういう事実もあった、こういう真実もあった。様々な悲劇があった。それを葡萄の房のようにまとめたものが、この『南十字星』という総合体になっているんです。もちろん保科勲という人物にはモデルがいて、その方の歩いた人生が僕の道を照らしていますが、そこだけではなく、まわりにつけた"葡萄の房"の部分も見えるように、場面が変わるごとに保科勲の色をかえて、自分の立つポジションを考えています」


――保科勲というのはどういう人物ですか?

「彼は、理不尽な裁判を受けて死んでいきます。でも、報復感情の連鎖を治めるという自分の役割、日本における自分の立場というものを納得...本当の意味で納得しているとは思わないんですが、明日の日本を支える人たちの礎となるために死を受け入れる。自分の肉体は終わるけれど、日本の国にいる若い人たちに思いを託すことで、自分の中の夢や価値観は生き続ける、というところに納得したんじゃないかと思って演じています。でも僕は、保科勲を博愛主義者だったとは思っていません。当時の日本人というのはみんな、あれだけ優しかったはずなんです。戦争に対する一生懸命さが前面に出すぎてエスカレートしていきますが、自分と関わる人たちと普通に接していけば、あの当時の人たちはみんな優しい。ふつうに人と接することができる人だったんだろうなと思いながら演じています」
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――今回は、カンパニーのリーダー的役割も担っていると伺いました

「『南十字星』の成り立ちから知ってるものですから...老婆心ながらやらせていただいています(笑)。それに僕、この当時の首相が誰で、こういう政策で...とか、そういう説明をするのが苦じゃないんですよ。でも、僕ができることってそれくらいなんです。役者としてこの作品にどう賭けられるかは、その人次第なので。投げかけるものはどんどん投げかけて、皆を刺激していきたいです。それに再演ってすごく難しいんですよ。どうしても前回の再現になっちゃう。でも再現じゃだめなんです、"再生"じゃないと。前回の再現まではすぐいくんですけど、そこから"再び生きる"ことが大切なんです。そう思って今、頑張っています」


――劇団創立60周年記念公演の中にこの三部作が入ってきたその意義は、どう捉えていますか

「自分たちの国を、自分たちの親以上の大先輩たちが、どう考えて、守って、平和をもたらせてくれたのかというのは、僕たち自身も興味があること。それに、演劇関係の人たちというのは戦争中にすごく弾圧されたんです。なので、きっとどの劇団の人にとっても、自分たちのスタンスから見た戦争への思いというのはあると思うんです。僕たちは、その思いを発表するチャンスがこの三部作としてありますので、大切にしようという気持ちも、続けていく気持ちもすごくある。あの当時起こった戦争というものを、ひとりひとりがどう考えますか、という投げかけを劇団四季はずっとしていこうと思っているから、この三部作を創立60周年の節目の年にやるんだと思うんです。あの当時の頑張っていた人たちのことを忘れないでほしいということ、そしてもし自分が同じ状況だったらどう考えるか。そういうことを観に来てくれた人が感じて、自分の中で答えを見つけてもらえれば、それに越したことはありません。それにミュージカルですから、とっつきやすいですよ。演出家(浅利慶太氏)は、特に若い世代に戦争のことについて考えてもらいたいと思って、この手法を取ったんだと思います」


――物語の中心にラブロマンスもありますし、そういった意味でも若い人にも親しみやすいですよね

「はい。でも僕、相手役の女優さんと、ラブロマンスの面を強くするとメロドラマになっちゃうので、そこは気を付けようねといつも話しています。この時代というのは、自分たちの恋愛云々で話が進んでいく世の中ではなかったですし、学生はもう子どもじゃないという時代。ただ、恋人のリナはインドネシア人で国が違いますから、恋愛感情を前面にだしても大丈夫。僕の方は日本人で、当時の風潮もありますから、自分の方から手を差し出して手を握ったりはしないだろうと。そういったことも細かく考えてやっています」


――この作品で、阿久津さんが一番伝えたいことは何でしょう?

「この『南十字星』という作品は、昭和の歴史三部作の完結編、締めくくりの作品です。『李香蘭』では中国で起こった日本人としての戦争の悲劇。『異国の丘』はシベリア抑留の中で起こった日本人の悲劇を描きました。『南十字星』は南方の悲劇を描いています。これは一般の方々が戦地に赴き、散っていったものの総合体です。全部ひっくるめて、これが第二次世界大戦と呼ばれるあの当時の戦争だった。保科は絞首刑で亡くなりますが、いろんな亡くなりかたをした人がいます。死体は海に投げ捨てられ、骨は戻ってこなかったという人がほとんど。そういう方へのレクイエムとしてこの作品があればいいなと思います。保科は日本にいる今の若い人たちによろしく頼むと言って死んでいく。そのメッセージをきちんと受け取ってほしいし、僕もきちんと消化したい。それに加え、この作品は三木たかし先生が最後に劇団四季に書き下ろしてくださった曲で綴られていますので、四季にとっては三木先生の最新作であり遺作でもある。大切に演じたいです」
Shiki_60th0903.JPG撮影:榎本靖史(阿久津陽一郎)



公演は5月19日(日)から6月1日(土)まで、東京・四季劇場[秋]にて。チケットは発売中。

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Shiki_60th0904.JPGShiki_60th0905.JPG撮影:荒井健(舞台写真・上)/山之上雅信(舞台写真・下)

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