■新しい『RENT』がやってくる! 第32回■
東京・シアタークリエにて連日アツいステージが繰り広げられています、ミュージカル『RENT』。
去る11月3日の公演後に、日本版リステージの演出を担当しているアンディ・セニョール Jr.とオフ・ブロードウェイの『RENT』オリジナルキャストでロジャー役を演じたマット・シングルデッカーによるトークショーが行われました。
アンディはオフ・ブロードウェイでも演出補として関わっています。
NYのRENTファンも、このふたりのトークショーが遥か日本の地で行われるとは思わなかったでしょう、そんなプレミアムなイベントでした。
アンディは自分が5つのRENTカンパニーに関わってきたこと(最初の出演は1997年、スティーブ役だったそうです。RENTのブロードウェイ開幕は1996年ですから、かなり初期から関わっていらっしゃいます)を話し、「RENTのことなら"ちょっとは"知ってます」と茶目っ気たっぷりに自己紹介。
マットは、今年オフ・ブロードウェイで上演されたリバイバル版に出演。
「裏に衣裳があるから着ましょうか?...もう金髪じゃないから、無理です(笑)」とこちらもジョークを織り交ぜつつご挨拶。
彼は、ブロードウェイで最初に大きな作品に関わったのは『春のめざめ』で、その後『ウェスト・サイド・ストーリー』のトニーなどを演じたそうです。
『RENT』については「本当にすごい経験でした。『RENT』というのは役者としてのみならず、人間としても大きく変化をさせる作品。このリバイバル版もそうでした。もともと『RENT』がブロードウェイにかけられたときは、エイズという話題がとても取り上げられていた。もちろん今現在でもエイズという病はあるんですが、その当時のNYであったほどの大変さ、ひどさではなくなってきています。当時を知らない僕としては当時の人たちのことをリサーチする中で、本当に大変な局面に面している彼らのことを知ることというのは本当に大きな経験になりました。そして彼らが本当に手にしていたわずかなものというのは、お互いであったり、まわりにある人間関係だったり、その人たちから得ることができた愛情であったと思います。そして明日があるかわからないという中での本当に「今日しかない-No day but today」というものであったんじゃないかなということを感じました」と話していました。
また、アンディはリバイバル版が"新演出"となったあたりのお話も。
「(演出の)マイケル・グライフやクリエイティブチームと一緒に、我々が知り尽くしている『RENT』というものを新しく作り直すというのは、とてもチャレンジだったし、難しい作業でした。あまりにもオリジナル『RENT』が素晴らしかったというのもあったのですが。マイケルはこの新しいオフ・ブロードウェイのリバイバルバージョンで新しいチャレンジをしてみようと考えた。(初演では作者の)ジョナサン・ラーソンが亡くなってからすぐにオフ・ブロードウェイからブロードウェイに移動したものですから(※RENTはわずか2ヵ月でオフからオンに移っています)、いろいろとマイケルが膨らませたりという時間が十分になくて、そのまま変更なしでブロードウェイでもずっと上演されていました。今回、同じ『RENT』のストーリーなんですが、また違った角度から見えたというのは本当に素晴らしいことでした」とのこと。
また「日本でもそうだったんですが、オフ・ブロードウェイでも、若い世代の役者たちが『RENT』を経験することによっていろんな発見をしていったというのは本当に素晴らしかった」とも。
...ところでアンディ、椅子の座り方が可愛い。
その後は、アンディとマットの「お客さまと交流したい」という要望で、客席から質問を受けました。
まず最初に出たのは「自分はバイセクシュアルなのですが、『RENT』を通して同性愛者に対する認識は変わりましたか?」という質問。
『RENT』には、セクシュアル・マイノリティと呼ばれる人たちが多く登場します。
『RENT』ならではの質問ですね。
まずアンディが
「1997年に初めてRENTを観たのですが、当時のアメリカでは、メディアも同性愛やバイ・セクシュアルについて取り上げることはあまりなかったし、当時のメディアでは、ゲイと呼ばれるキャラクターはいわゆる典型的な"ゲイっぽい"ものしか見なかった。私は初めて『RENT』を見た時に、初めて男性同士がキスをしているのを見て、しかもお互いを愛して支えあっている、というのを感じられて深く深く感銘を受けました。その時、母と一緒に観ていたのですが、彼女は引いてしまっていて"この役はあなたは演じちゃだめよ"と言ったんです。でももう決まったし僕は演じるよ、と言ったのですが。その後、この『RENT』が私の家族全員の心を開きました。それは同性愛者に対してだけではなく、人種に対してや、世界に対してもです。今も『RENT』は観る人々の心を開き続けています。ですので、質問に対する答えはYES。同性愛やバイ・セクシュアルについての捉え方は変わりました」
日本ではなかなかタブー視されがちなことですが、作品の本質を真摯に話すアンディに、客席も真剣に聞き入っていました。
さらにマットも
「この作品の素敵なところは、すべてのキャラクターがレッテルを貼られていないというところ。たとえばモーリーンはバイですが、それをあえて明言していない。そしてこの作品にはただ受け止めるだけ...愛情を受け止める、受け入れるというキャラクターもたくさんでてきます。あえて話をしない、ただただそこにあるだけということも描くこの作品は、我々の国の文化にも大きく影響したんじゃないかなと思います」。
RENTが世界に与えた影響は大きい、ということですね。
また、俳優として舞台に立っていたアンディが、演出家として『RENT』に関わることになった経緯についても質問が。
アンディは「演出家はずっとやりたいと思っていたことなんですが、まだ自分には早いなと常々思っていました。ブロードウェイ・ツアーが終わった時に、そのツアーがあまりに素晴らしかったし、豊かな体験だったので、自分が演じるということに関してはこれでいいのかなと思ってツアーを去りました。その時に友人に次は演出をやりたい、と言ったんです。そうしたら翌日マイケル・グライフから連絡があって、『RENT』の演出をやってみないかと言われました。なので、声に出して言ってみたら翌日実現したというかんじです(笑)」だそうです。
すごい!
また『RENT』の客席が、他の作品のそれとは明らかに違っている、ということについては、アンディは
「それがまさに理由で、パフォーマーとして演じ続けるのが難しくなった。『RENT』の経験は人生観を変えるくらい素晴らしいものだったし、ほかのワークショップとかをNYで体験しても、退屈でつまらないと感じてしまいます(笑)」とアンディ。
「『RENT』を観ればみるほどより深く『RENT』のことを理解できると思いますし、繰り返して観るたびに新しい発見、新しいマジカルなところを発見することができる。たとえば手が誰かの肩に触れる瞬間だったり、すごく小さくて具体的なことかもしれないんですが、そういった新しい発見がある。だから皆さんもたぶん何度もリピートして足を運んでくださるんじゃないかなと思います。特に日本のファンの皆様とは素晴らしいギブ&テイクの関係ができている」とも言ってましたよ。
こちらは「『RENT』は何回観ましたか?」と客席にインタビューするアンディ。
最後にアンディから
「本当に皆さまに何回も劇場に足を運んでいただいてありがとうと申し上げたいです。日本に来るたびに素晴らしい経験をさせていただきますが、このような形で自分が学んだ事や愛を皆さんとシェアできることが本当に嬉しいです。アメリカの私の友達はみんな、日本に行けていいなと嫉妬しています。(オリジナルのロジャー役の)アダム・パスカルは僕のフェイスブックに「日本で元気にやっているかい?自分が一番好きな国にいけていいな」とコメントを書いていましたよ」、
マットからは
「僕もサンキューと言いたいです。僕、この舞台を観るためだけに来たんですよ。日本に来るのは初めてなんですが、日々感銘をうけています。みなさん親切ですし丁寧ですし優しいですし、すごく僕の事を受け入れてくれています。自分の国では必ずしもそうでないことが多いので、日本は本当に素敵だなと思います。ずーっといたいなと思っています」
と、それぞれ感謝のメッセージが伝えられて、充実のトークショーは終了しました。
公演は12月2日(日)まで東京・シアタークリエにて上演中。
12月6日(木)から9日(日)に兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールにて行われます。
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