『エリザベート』東京公演終了。

チケット情報はこちら

■『エリザベート』への道 2012 第34回■

5月9日に開幕したミュージカル『エリザベート』東京公演が6月27日、大盛況の中終了した。
2000年の初演(東宝版)から数えて12年目の『エリザベート』。
すでに円熟の域に達している演目で、今回のツアー公演中に上演回数1000回を数える(8月・中日劇場公演にて)ほどの人気だが、今回も単なる再演に落ち着いてしまわない、熱いステージが繰り広げられた。elisabeth2012_34_a.JPGelisabeth2012_34_b.JPGelisabeth2012_34_c.JPGelisabeth2012_34_d.JPG

物語は19世紀後半、落日のオーストリア・ハプスブルク家の皇妃エリザベートの人生を、彼女を愛するトート(死)との愛憎を軸に描き出していくもの。窮屈な宮廷生活で自らの妨げとなる周囲の環境と闘い、葛藤し、自由を求めていくエリザベートの姿に、"自立する女性"の物語を見ることもできるし、それまで脈々と続いたしきたりを破る彼女の行動によりハプスブルク家という帝国が滅びていく"傾国の美女"の物語と捉えることもできる。単純に、生を求めた美貌の皇后と、死=黄泉の帝王との禁断の恋、というロマンチックな見方もできよう。観る人によって、または観る時によって様々な顔を見せてくれるのも、この物語の魅力のひとつだ。もちろん、音楽の都・ウィーン産らしい、華麗でメロディアスな音楽の存在も忘れてはならない。

8度目の上演となった今回は、演出面での大きな変更はないものの(といっても処々にマイナーチェンジはある。ことに今回は幼いルドルフとトートが初めて会う『ママ、何処なの?』のシーンの小道具の変更が、後の伏線としての役目を果たし、物語に厚みを加えたのは特筆したい)、メインキャストの約半数が替わり、新しい風が吹いた。

ヒロイン・エリザベート役は春野寿美礼と瀬奈じゅん。
瀬奈は2010年に引き続きの出演、春野は今回がエリザベート初挑戦だ。
春野扮するエリザベートは、彼女自身の持つおっとりとしたキャラクターも相まってか、伸び伸びとした少女時代からすでにどこか高貴さを感じさせた。役柄ともまっすぐに向き合っているようで、その素直さがそのままエリザベートのくったくのなさに結びつく。その結果、気品と無邪気さが無理なく同居し、バイエルンで大切に育てられた貴族の娘...というバックボーンが感じ取れる、立体感あるエリザベートになった。加えて、もともと歌唱力に定評のある女優。序盤は緊張からか多少の硬さが見てとれたが、回を重ねるつれ、歌声もどんどん伸びやかになり、特に1幕終盤から2幕序盤の絶頂期のエリザベートの煌きには目を奪われた。

elisabeth2012_34_f.JPG
一方の瀬奈は、シーンひとつひとつの役づくりが丁寧で、非常に説得力あるエリザベート像を創り出した。少女時代のキュートさも抜群、さらに自らの美貌に自覚を持ち、ひとつひとつ着実に望みを手中に入れていく姿、そしてふとした瞬間に顔をのぞかせる虚しさ、脆さ...。"皇后"という、一般人とはほど遠い存在のエリザベートの感情に観客を寄り添わせることを可能にし、生き生きと魅力あるエリザベートを生み出していた。

elisabeth2012_34_e.JPG
トート役も三者三様。東宝版初演から出演している山口祐一郎は圧倒的な存在感で、トートが生きとし生けるすべてのものに超越する"死"であることを、その存在感でもって主張する。様々な見方ができるこの物語であるが、山口トートの場合は、ハプスブルク家崩壊のすべての黒幕はトートであった...そういう解釈がすっとなじむ、そんな舞台が出来上がる。

elisabeth2012_34_g.JPG
石丸幹二は前回に続き2度目のトート役。この公演直前に演じていた『ジキル&ハイド』で見せた正反対のふたつの顔の経験がトート役にも良い影響を与えたか、美しさと妖しさが同居する立ち居振る舞い、囁き声とシャウトの緩急などの巧みさが前回より格段に増し、捉えどころのない"死"を表現。時に愛し時に突き放す石丸トートは、"死"の誘惑そのもので、トートはエリザベートが生み出した"死"への欲望の具現である...という物語性を強く際立たせた。

elisabeth2012_34_h.JPG
そして東宝版は初登板ながら、ハンガリー、ウィーンでもトート役を演じているマテ・カマラス。まずは彼の日本語での舞台挑戦に拍手を。それでも多少は出てしまう微妙なアクセントも、トートという"異物"感を生み出す面白い効果になった。また、日本版『エリザベート』の特徴として、オリジナルであるウィーン版やその他の各国版に比べて強くフォーカスされているのが"恋するトート"という側面。もちろんこれは、日本版(宝塚雪組での初演)で初めて登場したナンバー『愛と死の輪舞』の存在に因るところが大きいのだが、その"恋するトート"という面を、ヨーロッパの俳優であるマテがもっとも色濃く出していたのも、面白かった。

elisabeth2012_34i.JPG
3人全員ニューフェイスとなった皇太子ルドルフ役の大野拓朗、平方元基、古川雄大。それぞれがそれぞれに悩みこの役に挑んでいるであろう彼らは、大役にぶつかる俳優としてのひたむきさと、帝国の崩壊を食い止めようとするルドルフの懸命さがシンクロして、それぞれがリアルで切なく、愛しいルドルフを生み出していた。フランツも、歴戦の石川禅が隙のない完璧な皇帝を演じれば、今回初登板の岡田浩暉は責務に熱意を傾ける激しさを持つ皇帝を演じる...と、まったく違う個性が生まれて面白い。ほかにも初演より狂言回しとして舞台を支え続けるルイジ・ルキーニ役の高嶋政宏の安定感、寿ひずる&杜けあきの両皇太后ゾフィー、久々のキャストチェンジとなったマックス役の今井清隆...とそれぞれの魅力をあげていけばきりがないのでこのあたりで。

elisabeth2012_34j.JPGelisabeth2012_34k.JPG
また、それぞれの役がダブルキャスト、トリプルキャストとなっているこの公演は、組み合わせによってもその顔を変える。ひとつひとつ上げていくとこちらもきりがないが、例えば瀬奈エリザベートを例にとると、死の妖しさを体現する石丸トートと対峙する時は、時に挫け、翻弄されるエリザベート像が生まれ、破滅に向かって波打つ物語や時代感が現れる。またエリザベートへの思いをストレートに出すマテトートと対する時は、エリザベートの感情に強くスポットが当たり、生き生きとした彼女の人生が際立つようだった。まさに舞台は生き物。そう実感する2012年の『エリザベート』だった。

elisabeth2012_34l.JPGelisabeth2012_34m.JPG
中毒性の高いこの作品は、公演期間後半になるにつれリピーターが増えるのも毎年の恒例。今回も、前半はまだチケットに余裕があったものの、6月上旬頃からどんどん売り切れ公演が続出した。地方公演もまだまだ余裕があると油断せず、早めのチケット確保をおすすめする。


写真提供/東宝演劇部

 



『エリザベート』、このあとは7月5日(木)から26日(木)に福岡・博多座、
8月3日(金)から26日(日)に愛知・中日劇場、
9月1日(土)から28日(金)に大阪・梅田芸術劇場 メインホールで上演されます。

まもなく開幕する博多座公演では下記イベントも決定!

【アフタートークショー】
7月12日(木)...春野寿美礼、石丸幹二、石川禅
7月19日(木)...瀬奈じゅん、高嶋政宏、平方元基
詳細はこちら

【3大プレゼント企画】
その1:抽選で出演者サイン入りプログラムプレゼント!
その2:抽選で出演者サイン入りポスタープレゼント!
その3:公演プログラムご購入の方全員にブロマイドプレゼント!

チケット情報はこちら

前の記事「デス電所「神様のいないシフト」  制作部T vol.08」へ

次の記事「表現・さわやか『ロイヤルをストレートでフラッシュ!!』 vol.13  from 村上航」へ

カテゴリー

ジャンル

カレンダー

アーカイブ

劇団別ブログ記事

猫のホテル

文学座

モナカ興業

谷賢一(DULL-COLORED POP)

劇団青年座

劇団鹿殺し

 はえぎわ

柿喰う客

ONEOR8

M&Oplaysプロデュース

クロムモリブデン

演劇集団 円

劇団チャリT企画

 表現・さわやか

MONO

パラドックス定数

石原正一ショー

モダンスイマーズ

ベッド&メイキングス

ペンギンプルペイルパイルズ

動物電気

藤田記子(カムカムミニキーナ)

FUKAIPRODUCE羽衣

松居大悟

ろりえ

ハイバイ

ブルドッキングヘッドロック

山の手事情社

江本純子

庭劇団ペニノ

劇団四季

演劇チケットぴあ
劇場別スケジュール
ステージぴあ
劇団 石塚朱莉