長塚京三、麻実れい らが出演する舞台『みんな我が子』。
『セールスマンの死』『橋からの眺め』など、日本でもたびたび上演される現代演劇の旗手アーサー・ミラーのトニー賞受賞作で、1947年のブロードウェイ初演以来、各国で上演されている作品です。
今回の日本上演は、重厚な出演陣の競演もさることながら、
演出を、33歳の若さながらあのハロルド・プリンス(『オペラ座の怪人』や『キャバレー』などの演出家!)の一番弟子と言われるダニエル・カトナーが手がけることも話題。
ニューヨークで活躍する彼は、これが日本デビューになります。
この稽古場に11月某日、伺ってきました。
物語は第二次世界大戦後のアメリカを舞台にした家族劇。
工場を経営し、大成功を掴んでいるように思える父・ジョー。
どっしりとした存在感はまさに"アメリカの父"。
これを長塚京三が演じます。
その妻・ケイトは麻実れい。
戦争から帰らぬ次男ラリーを待ち続けています。
ふたりの息子でラリーの兄、クリスは田島優成。
ラリーの恋人だったが、いつしかクリスと惹かれあうアンに朝海ひかる。
アンは、ジョーのビジネスパートナーの娘でもあります。
この日稽古していたのは、1幕の小返しと、2幕でアンの兄・ジョージがケラー家を訪れるシーン。
1幕のそのシーンでは、アンとクリスの恋が焦点。
ケイトにとっては、彼らを認めるということは、ラリーがすでにいないことを認めるということ。
人間関係が危うい緊張感でギリギリ釣り合っているようです。
細かく通しては「good!」「wonderful!」「lovely!」とまず褒めるダニエルの演出。
しかし「でもね...」と細かく、そして様々なパターンをトライアルしていきます。
特に田島さん演じるクリスには、アニーにまっすぐ向き合えない心の傷があり、その心情を吐露するシーンを丁寧に何度も繰り返すダニエル。
「このセリフは、本当はこういうキスをしたいのにできない、その理由をアニーにしているんだ」
「最終的にクリスが抱えているのは、自分は幸せになっちゃいけない人間なんだ、ということ。でも愛する人を目の前にして、能動的にこの問題に挑むんだ」
ハグを入れるか入れないか。歩きながらしゃべるか、止まって話すか。
クリスの抱える問題点を明確に表現するべく演出が飛びます。
何度か通したあと、good!の声とともに、「今のクリスはとても勇気があるように見えました」と満足げな一言が。
さて、1幕ではラリーの生死、真実に向き合わないケイト、という緊張感が前面に出ていますが、2幕では別の疑惑が主眼になります。
それが顕かになるきっかけを作るのが柄本佑扮するジョージ。アンの兄です。
彼の来訪は表面的には極めて社交的に、明るく受け入れられます。
上流のアメリカ人女性らしいフレンドリーさを麻実れいさんはさすがの巧みさで。
一方柄本さんのジョージは、あきらかに何かを抱えている風。
長塚さんのジョーは、いわゆる成功した父親像らしい構えながら、どんどん"言い訳"めいてくる言動で、彼の抱える問題、小心さが見えてきて...こちらもさすがベテラン。
何かを予感させる緊張感が漂います...。
アメリカ現代演劇らしい、深刻な社会問題をテーマにした作品ですが、ところどころにユーモアやキャラクターの愛らしさも入り、物語をテンポ良いものにしていきます。
作劇的にも、「どうなるんだろう!」と思わせるスリリングさがあり、それを支えるキャスト陣の確かな演技力があり。
充実した舞台になりそうで、期待です。
公演は12/2(金)から18(日)に東京・新国立劇場 小劇場、12/20(火)・21(水)に大阪・サンケイホールブリーゼにて。チケットはともに発売中です。