●よこやまのステージ千一夜●
いよいよ6月、衣替えの時期になり、
関東も先週より梅雨に入りました。
今日はこんな季節にピッタリなお芝居、
新国立劇場演劇「雨」(6月9日開幕)をご紹介します。
冒頭、豪雨のシーンから始まる本作、
先日、ニュースでも公開稽古の様子をご紹介いたしましたが、
ここではニュースでは書ききれなかったこぼれ話をお届けします。
この作品は、昨年4月に急逝した井上ひさしさんが1976年、オーストラリア滞在中に一気に書き上げ、同年に初演。
今回は『太鼓たたいて笛ふいて』『私はだれでしょう』『きらめく星座』『花よりタンゴ』『國語元年』『組曲虐殺』など、
数多くの井上作品を手がけてきた栗山民也さんが本作を初めて演出します。
色(=妻・おたかの美貌)と欲(=大金)に目がくらみ、
行方不明となっている東北・平畠の紅花問屋の旦那・喜左衛門になりすます屑拾いの徳を演じるのは、
市川亀治郎さん。
彼の運命を握る喜左衛門の美しい妻・おたかには、永作博美さん。
市川亀治郎さんは先週の5月27日(金)まで、
明治座で五月花形歌舞伎の昼の部(『義経千本桜』より『川連法眼館』の段)に出演しながらの稽古。
また永作さんも出産後、撮影に挑んだ映画『八月の蝉』が、興行収入10億円(!)を突破し、現在公開6週目に突入。
様々なメディアに引っ張りだこのおふたりが井上作品に挑みます。
内容をかいつまんで説明しますと...
江戸・両国。大雨の日に雨宿りに入った橋の下で、
金物拾いの徳(市川亀治郎)はある浮浪者から「喜左衛門さまでは......?」と声をかけられる。
喜左衛門とは東北・平畠にある紅花問屋の美人娘・おたか(永作博美)に婿入りした男で、
現在行方不明だという。
浮浪者には人違いと取り合わなかった徳だが、やがて北へと進み、平畠に到着する。
方言の難しさに臆して江戸へ帰ろうとすると村人に見つけられ、
徳は記憶を失った喜左衛門を演じることに。
方言もマスターして、その場に居続ける徳は......?
公開稽古の日には二幕七場「雨乞い」の場面を。
稽古の冒頭にはキャスト大勢で歌われる力強い"雨乞い唄"が披露されました。
会見で亀治郎さん、永作さんは...
永作 「本読みのときに(キャストの)皆さんが"雨乞い唄"を歌われたとき、
うっすら涙が浮かんできてね」
亀治郎「(場面の)パワーがね」
永作 「唄だけでそれだけ力強さがあります。(この場面のみならず)どの場面も観ていただきたい」
ちなみに、この写真は、ちょうど"雨乞い唄"が終わったところで、
宮司役の山本龍二さんが神様へお願いをしているところですね。
ここに出ているキャストが歌う"雨乞い唄"の迫力、伝わりますでしょうか。
そしてこの戯曲のすごいのは全編、方言だということ。
「雨」の戯曲を実際手に取って見てみると
東京に住む者の個人的な感想を言わせていただければ
"意味の通じる外国語......!?"といった体でして。
......タフな戯曲です。
例えば徳のセリフ
おら方(ほ)ごそ不調法(ぶぢょほ)してすまねがったす。
おたかのセリフ
白石様(さ)に最上屋様(さ)、あんまりおらどごの御亭主(ごて)ば苛(しえ)めねでおごやえ。
全編方言のセリフについて訊かれて亀治郎さんと永作さんは...
永作「井上ひさしさんが(かつて)観に来られたときは
『一字一句、間違えないように喋って下さい』と仰っていたようで、
それが(実際に)喋ってみてよくわかる。
(セリフは)方言なんですが、方言がメロディのようになっていて、
これは完璧などこかの方言というよりも"井上さん語録"だと、
方言指導の方もおっしゃっていたので......」
亀治郎「これが普通の言葉ならどんなに楽か、と。
役者泣かせですね、井上さんは!」
永作「(そしてセリフの語尾が)ホント、ちょっとずつ......」
亀治郎「ちょっとずつ、語尾が違う!」
永作「これは(セリフを)言ってみて初めてわかる。
(自信のない)後半部分はちょっとゴニョゴニョしてしまう...」
とまあ、手ごたえはありすぎるよう。
永作さんが「(戯曲に)ここまでいろんなものがギュッと詰まっていたんだ。
やってみて初めて分かった」と話す新国立劇場演劇「雨」は、
6月9日(木)から29日(水)まで、新国立劇場 中劇場で上演されます。
チケットは現在発売中です。
せっかくなので、稽古のショットも。
↓ウチの旦那(亀治郎)を怪しい(偽者)だなんて言わないでください!と、おたか(永作)がとりなしますが...
↓やっぱりお前は偽者じゃないのか?と、背を向けている金七(植本潤)に責められて......
↓おたかがその都度機転を利かせて喜左衛門(亀治郎)の窮地を救い......
↓すると雷鳴が轟き...
↓土砂降りとなり皆が散ったあと、夫婦ふたりに。紅花栽培の細かいことまで貴方の記憶が戻れば、昔のママに戻るのに、と喜左衛門はおたかに言われてしまい......
どうぞお楽しみに。